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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、仲間に自分の良くない点を告白する

 馬車は三十分遅れでやってきた。乗合馬車の中でレイクが言った。


「考えてみればさ、ラナもルリカも美少女コンテストに参加して、ラナが一位でルリカが二位でしょ。いままでナンパされなかったほうがおかしいよね」

「ほんとうにそうだね」


 ユーリは自分たちがはたからどのように見えているのかと改めて考えた。この前、誰かに言われたように、学生旅行をしている最中のように見えているのだろうか。

 それぞれ年齢が違うし、背負っている責任も違う。


 そんな自分たちが一緒に旅していることに、不思議な縁を感じた。

 「縁」といえば、ユーリが捜索隊のメンバーになった理由の一つは、盗人と「縁」ができたからだった。

 その話を聞いたときには、そんな「占」を出した星読みの占術師を恨んだものだが、今となっては、感謝している。

 盗人はラナだったのだから、ラナと縁ができたというのは二人の関係の幸先は良い気がするのだ。

 ユーリはラナを見つめた。「祈りだけじゃ救われない」と叫んだあの盗人が、ラナだったんだなぁと改めて思う。

 燃えんばかりのふわふわの赤い髪に、時には金色に見える琥珀色の瞳の少女。剣の腕はすこぶるよくて、強い信念を持っている。


 ラナはすごいなぁとユーリは思う。自分にないものをたくさん持っている。

 ラナの存在に引き付けられる。ラナに少しでも近づきたいと思う。


「なに?」


 ラナが話しかけてきた。気づかないうちに、ユーリはラナをじっと見つめていたのだ。ユーリはうろたえた。

 うろたえながらも、ユーリは説明した。


「ラナと最初に会ったときは、こんなふうに一緒に旅をすることになるなんて、思ってもいなかったから不思議だなと思っていたんだよ」


 ラナは微笑んだ。


「それはあたしにも言える言葉ね」


 言って、どこか遠くを見るようなまなざしになる。

 ユーリはラナが何を考えているのか分からなくなって不安になり、ラナの名を呼んだ。

「ラナ」

「なに?」

「ううん、なんでもない」

「おかしなユーリ」


 ラナは親し気に笑った。こんな笑顔を自分にみせてくれるなんて、最初にラナと出会ったころ、敵意に満ちた瞳で見つめられたときには思ってもいなかった。

 ユーリは嬉しく思った。そして、これからももっとラナと一緒にいろんな思い出を作っていきたいと思った。


 アレットの村に着いた。早めに宿を見つけて、腰を落ち着かせる。

 この宿では四人とも共同部屋に泊まることになった。


 レイクが懐かしそうに言った。


「この村に泊まったときに、シグルスさんから戦いのアドバイスをもらったんだよね」

「そうだったね」


 ラナが質問した。


「おじちゃんはどんなアドバイスをしたの?」


 レイクが回答する。


「俺は『周りの状況を考えずに、自分の思いだけで突き進むところがある』なんて言われてさ。内心、素直に頷けなかったんだ。けれど、シグルスさんのアドバイスは的確だったんだなぁと今なら思うよ。この腕は、まさに自分の思いだけで突き進んだ結果だからね」


 リリーが腕の陰から姿を現して気づかわし気な表情を浮かべた。


「レイク……」


 リリーを安心させるようにリリーに微笑みかける。


「そのおかげでリリーと出会えたんだし、地の魔法が使えるようになったんだから、怪我の功名だけどね」

「なるほど、そのとおりね。ユーリは何かアドバイスをもらえたの?」

「それが……」


 ユーリはそのときのことを思い出して、不服そうな表情を浮かべた。


「『いろいろ悩むのは若者の特権だ』なんて言われて、アドバイスをもらえなかったんだよ。

 ほんとうにあの時はすっごく悩んでいて、どんな些細なことでもいいからアドバイスが欲しかったのに」

「どんなことで悩んでいたの?」

「うーん……」


 ユーリは話すことを躊躇した。


「言いたくなかったら無理していわなくてもいいですからね」


 ルリカがユーリの心境を慮って逃げ道を作ってくれた。


 ユーリはしばし考え、みんなの前で告白することにした。自分の弱い部分や見にくい部分をさらしだすことになるが、ここにいるみんなになら、そういう部分を知ってもらってもかまわないと思えたのだ。

 

「いろいろあるけれど、最初に言えるのは、自分の意思ではなく、強制的に捜索隊のメンバーになったことだよ。

 それから中央をでなければ、気づかなかったいろんな嫌なことに気づいて、気持ちがしずんだし、ふてくされてもいた」


 ユーリはここで言葉を切った。三人とも真剣な表情を浮かべて自分の話に耳を傾けてくれている。

 ユーリは言葉を続けた。


「気づいた嫌なことというのは、自分がなまけもので時間を浪費してきたこととか、魔物を目の前にして身がすくんで動けくなったこととか、窮地に陥ったとき、自分だけ助かりたいと思ってしまったこととか。ほんとうにいろんなことだよ」


 ラナはにこりと微笑んだ。


「気づいたのだから、よかったじゃない」


 レイクもうんうんと頷く。


「どんな経験をしたって、気づかない人は気づかないものさ」

「捜索隊のメンバーになって、ユーリは良い経験をしたんですねぇ」


 ルリカもしみじみと言う。

 ユーリは頷いた。


「そうだね。今だから言えるけれど、あのとき、シグルスさんに何かアドバイスをもらえていたとしても、素直に受け止められなかったと思う。

 そしてもし、素直に受け取ったとしても、あのときの僕だったら、何かうまくいかなかったときに、シグルスさんの言う通りにしたのにって逆恨みしていたと思うよ」


 そうなることを分かっていたからこそ、あの時、シグルスは言ったのだ。『俺の言葉で納得したとしても、それはただ納得したつもりになるだけかもしれない。本質的に悩んでいることは実は違うことだったかもしれない。そのことに気づかずにずっと生きることになるかもしれない。そんな大役はごめんだ』と。


 そのことをみんなに話すと、みんなは一同感心した。


「大人の意見だなぁ。見習わなくちゃ」


 レイクが言えばルリカも、


「ちょっと惚れてしまいそうですぅ」


 と、頬をほんのり染めた。ルリカの隣でレイクが「え゛?」という表情になった。


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