ユーリ、ラナが男二人と戦う現場に立ち合う
「女一人で俺たちと戦うつもりか? やめたほうがいいぜ。そのかわいい顔に傷がつく」
「それは余計な心配というものよ。ここで引き下がったほうが身のためよ。あたし、強いから」
ユーリは口の中でつぶやいた。
「でた……」
男の手がラナに伸びた。その手がラナの襟首をつかむ直前にラナは自分の手を相手の手首にからめると、胸に固定し、そのまま背負い投げの要領で、背中から男を地面にたたき落とした。もちろん、怪我をさせないように、地面にたたきつけられるまえに、空いている手を相手の背中に回し、衝撃が直接行かないように吸収する。
男は痛みというよりも、自分に起きたことが理解できない様子で地面に転がったまま目を白黒させた。
「きさまっ!」
ラナが立ち上がって、振り向くよりさ気に、ラナに蹴りをくらわした。ラナは振り向きざまその蹴りをかわし、片手の手のひらでで蹴りを出してきた相手のかかとを包み込むと、そのまま救い上げ、一本足で支えている男の膝裏に軽く蹴りをくらわす。テコの原理で、男は地面に転んだ。
「まだ、やるかしら」
起き上がった男たちを見つめて、ラナは言った。その口元には笑みが浮かんでいる。
男たちはラナの実力を体感して空恐ろしいものを感じた。
「お、おぼえてろよー」
男たちは泡を食って、自家用馬車に乗り込み、逃げるように去っていった。
「強いなぁ!」
誰かが言い、いたるところから拍手が沸き起こった。
停留所で乗合馬車を待っていた人たちや、アイスクリーム屋で並んでいた人たち、通りすがりの人たちまで、ラナの戦いぶりを褒めたたえた。
ラナと同じくらいの女の子がラナに話しかけてきた。
「あなた、とっても強いのね。あの子たち、この村で一番の嫌われ者なのよ。そんなやつらが無様にやられるのを見られて、胸がすいたわ」
そんな中、遠くでこちらを見る目に気づいて、ユーリはそちらのほうを見た。以前、この村を訪れたときに、泊まった宿の奥さんだった。
目が合ったとたん、奥さんも思い出したらしく、笑顔を浮かべて、こちらにやってきた。
「あらあら、あなたたち、聖騎士様たちと一緒にいた方々じゃない。服装が違うからすぐには分からなかったわ」
ユーリは慌てて頭を下げた。
「先日はお世話になりました」
「こちらこそ、泊まってくれてありがとうね。今日は聖騎士様はいらっしゃらないの?」
レイクが口を開いた。
「彼女はほかの任務にあたっていまして、俺たちは任務を現地解散になって、こうして乗合馬車で中央に向かっているところなんです」
「そうなのそうなの。任務ってどんな任務だったの? あらやだわ、あたしったら。そんなこと、簡単に聞くものじゃないわね。あらそれ、サクライチゴアイスね。あたしも昨日食べたのよ。とってもおいしいかったわ。まさに春の味ね。あらあら、溶けかけているじゃない。早く食べなさいな」
「はい」
「それじゃあ、良い旅をね」
「おばさんもいつまでもお元気で」
「あらあら、いやねぇ。あたしはまだまだ元気でいるつもりよ」
宿屋の奥さんが去って、ようやくユーリたちはアイスクリームを食べることができた。アイスクリームは半分溶けていたが、とても冷たくて、軽い運動をしたあとということもあり、とてもおいしく感じられた。
気持ちが落ち着いてからレイクは言った。
「さっきは騒ぎを起こしてしまってごめん。もっとうまくできたはずなのに。俺が頭に血がのぼったばっかりに、面目ない」
「丸く収まったからいいんじゃないかな」
「気にすることはないわ」
「いつものレイクらしくなかったですねぇ」
「ルリカの胸のことを言ったからつい、かっとなっちゃって」
「レイク、わたしのために怒ってくれたんですかぁ?」
「うん、まあ」
ルリカはにこりと微笑んだ。
「うれしいです。ありがとう」
真正面から心からの感謝を受けて、レイクはどきりとする。
「女の子を守るのは、騎士の務めだからさ」
ルリカはその言葉に、少し複雑な表情を浮かべた。。
かつて騎士を目指していたルリカは、レイクの言葉で少しだけ落ち込んだのだ。
けれど少しの時間だけだった。次の瞬間には目の前のおいしい食べ物を味わうことに夢中になることにして、嫌な気持ちを遠ざけた。