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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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寄り道話、アルベルトの恋愛経験

この物語は本編とは関係ありません。


アルベルトが「女に不自由していない」ということから

わいてきた物語です。


ちょっと卑猥な文面があるので、それが苦手な方はスルーして

いただいてかまいません。


 俺が初めてを体験したのは十三歳のときだ。十三歳という歳がそういうことを知る歳として、早いのか遅いのかは、正直いまだに分からないが、結局のところ、そういうのは、人それぞれだと思っている。


 相手は屋敷に勤める女官だった。その女官、ルイーザは俺が十歳の時、屋敷にやってきた。ルイーザには俺と同じ歳くらいの弟がいるそうで、俺のことも弟のようにかまってくれた。


「まあまあ、アルベルト、たくさん青あざを作って。また喧嘩でもしたの?」

「喧嘩じゃねぇ。兄貴たちの稽古でつけられたんだ」


 十歳の俺は悪ぶって汚い言葉をよく使っていた。もちろん、規律の厳しい親の前ではそんな言葉は絶対に使わないようにしていたが。


「まあ、そうなの。ラインハルト様かしら、それともハルベルト様かしら」


 ルイーザは二人の兄の名をあげた。


「どっちもだ」

「まあ!」


 ルイーザは驚いたように目を見開いた。


「お二人は怪我はなかったの?」

「兄様たちは……」


 言いかけて、「兄貴たちは」と言い直す。


「親父に呼ばれてどこかに行った」

「そうなの」


 おそらく仕事の話だろうと俺は思った。

 屋敷の敷地内には稽古場があり、俺たちはよく武術の稽古をしていた。

 この日は、二人の兄に稽古をつけてもらっていたが、その兄たちが父に呼ばれていなくなってしまい、稽古相手がいなくなってつまらなくなったため、屋敷の中に戻ってきたのだ。

 そこをルイーザに見つかった。


 俺の家系は古くから騎士の家系だ。世襲制ではないため、それぞれが自分の実力で騎士になっていく。

 とはいえ、裏で大人たちが何か取引をしているらしく、デントル家の者は騎士の職についているものが多い。

 俺には兄弟が多くいる。三人の兄、二人の姉、俺、二人の弟、一人の妹。合計九人。父が認知しているだけでこれだけいるのだから、地方の兄弟を入れたらどれだけだろうと思う。

 この国は一夫一妻制を取り入れているが、実情はそれほど厳しくない。特に父のように地位があり財力がある男は、いたるところに妾をもっているのが普通た。

 この屋敷では、三人の妻がいた。兄弟は多いが、そのほとんどは別腹なのだ。俺と母親を同じくするのは、八歳年上のハルベルトだけだ。

 十歳の俺は、そこまでの大人の事情は知らなかった。父が屋敷で三人の妻と暮らしていることは、初めからそうだったので違和感はなかった。

 それどころか、当時の俺にとっては、父は騎士の中でも聖騎士で実力があり、部下からの信頼もある。自慢の父親だった。

 兄たちは、みんな剣術に長けている。俺も自分も将来はそうなりたいと思っていた。

 実兄のハルベルトはこの年、騎士見習いとして就職していた。ハルベルトより三才年上のラインハルトは地方の職務からようやく中央に戻ってきていて、兄弟に稽古をつけていたところだった。そこに十歳の俺が加わっていたのだ。


「大の大人が子供に怪我を負わせるだなんて」

「俺が稽古をつけて欲しいっていったんだ。だから兄様たちは悪くない」


 自然と「兄様」と言っていたが、俺はそのことに気づかなかった。


「子供でも騎士の子は騎士なのねぇ」


 ルイーザは感心したように俺を見つめた。


「俺は父様のような立派な騎士になるんだ」

「立派な、騎士ね……」


 少しルイーザの顔色が曇ったが、すぐに笑顔を浮かべた。


「稽古するにしても、怪我には気をつけなさいね」


 言って、ルイーザは俺の頭をやさしくなでてくれた。そのとき、少し胸の中がくすぐったくなったことを今でも覚えている。

 それから月日が流れ、三年経ち十三歳となった。俺の身体は子供から大人に急激に変化しようとしていた。


 ルイーザは俺のことを子供扱いしなくなった。どころか少しよそよそしくなった気がした。屋敷の中でルイーザの姿をみると、ついルイーザのほうを見つめていた。スカートのすそから見える細い足首や、ふとした拍子に髪をかきあげるしぐさにどきりとした。


 この頃の俺は、黙っていても気持ちがざわつき、常にいらだっていた。

 剣術の稽古で身体を動かし、そんな感情をなだめてみるものの、すぐに身体の奥から得体のしれえない熱い感情が頭をもたげてくるのだ。

 そんなある日、中等部一年の俺は同じクラスの男子が一つ年上の先輩たちに囲まれてリンチを受けている現場を目撃した。

 やっかいものをみたなと思った。そのまま知らないふりをして通り過ぎるという手もあった。

 しかし、身体を無性に動かしたかった俺は、自分から喧嘩に飛び込んだ。

 結果として、先輩たちをのし、同級生を助けたかたちになった。


「ありがとう、アルベルトだっけ。君、強いね」

「まあな」

「僕はエリックという。よろしく」


 後日、先輩たちが徒党を組んで報復にきた。十人ぐらいいたと思う。またもや彼らをのした。

 屋敷に帰ると、ルイーザが俺の格好に気づいて目を丸くした。


「どうしたの? 制服がよごれているじゃない? また喧嘩でもしたの?」

「うるせぇ」


 俺は久しぶりにルイーザに話しかけられたのに、思わず目を伏せ、ぞんざいな態度を取った。


「アルベルトぼっちゃん、制服のボタンが取れかけていますよ。繕ってあげますから、こちらに来なさい。ついでに怪我の手当もしてあげます」


 ルイーザは自分の部屋に俺を引っ張る勢いで連れて行った。

 ルイーザはこのときには、一介の女官から昇格して、共同部屋ではなく、個人の部屋を割り当てられていた。


「また喧嘩したことが旦那様に知られたら、怒られてしまうでしょう?」


 いけない話をするように小さな声でルイーザは言った。まったくその通りだった。この前の喧嘩もどうしたわけか親にばれて説教をくらったのだ。ルイーザはそのことを覚えていてくれたのだ。


「さあ、上着を脱いで」


 上着を脱ぐと、ルイーザはすぐに手を差し出して俺の手から上着を受け取った。

 シャツだけの上半身をルイーザはまぶしいものでもみるように目をほそめて見つめた。


「いつのまにこんなに成長したのかしら。昔はこんなに小さかったのにね」


 ルイーザは上着を片方の腕に掛け、もう片方の手のひらをで俺の腰あたりに広げてみせた。


「それがこんなに逞しくなって」


 その手のひらを俺の胸元にあてる。


「もう立派な大人の身体だわ。男の子の成長は早いのね」


 せつなげなため息をつくと、ルイーザは裁縫道具を取り出して、小さな机に設置された椅子に座った。


「ずっと立っていてもなんだから、座っててください。すぐに繕いますから」

「座る場所がないぞ」

「そこに腰かけてもいいですよ」


 ルイーザはベッドを指さした。言わるままにベッドに腰掛けると、すでにルイーザはボタンを繕い始めていた。

 このベッドでルイーザは毎日寝ているのだ。そう考えると、頭の中をいろんな妄想がよぎった。ルイーザは真剣な表情でぼたんをつくろっている。

 そのうち、ひとふさ髪が肩から流れて、ルイーザの横顔にかかった。ルイーザは無意識にその髪を払う。形のいい耳があらわになり、その耳を目にしただけで俺は胸の中がぐちゃぐちゃになって、どうしていいかわからなくなった。


「さあ、できたわ」


 ルイーザが顔をあげた。目が合い、俺は目をそらした。

そして気づいたんだ。ルイーザが俺の制服のボタンを繕っている間中、ずっとルイーザを見つめていたことに。そのことにルイーザが気づいていなければいいと俺は願った。


 椅子から立ち上がり、俺のところにルイーザがやってきた。

 ふわりとルイーザの匂いが鼻腔をくすぐった。


「――っ」


 気づいたとき、俺はルイーザをベッドに押し倒していた。ルイーザが持ってきてくれた制服はベッドの上に放り出され、するすると床に落ちた。


 どうしてこんな行為をとったのか自分で自分が分からなくなった。


「……」


 俺は泣きそうな表情を浮かべていたと思う。ルイーザと再び目があった。

 ルイーザはどこか悲しげな眼で俺を見つめ、目をそらした。その途端、俺はルイーザから離れようとした。それを止めたのはルイーザだ。離れようした俺の背中に手を回してきた。

「ルイーザ……?」


 ルイーザは何も言わず微笑んだ。その微笑みは俺の頭を真っ白にした。

 ことを終えたとき、今まで感じたことのない充足感に満たされ、心の中に巣くっていたむしゃくしゃした気持ちが洗い流されたように落ち着いていた。


 幾日かして、廊下でルイーザと会った。ルイーザは後輩の女官を後ろに引き連れていた。俺はどきりとしてどう反応していいか慌てたが、ルイーザは澄まして廊下の横に避けると、軽く頭を垂れた。

 その態度は、あの時、二人で過ごした時間が幻だったかのように、平然としたものだった。

 俺は平常心を保つのに苦労しながら、ルイーザの横を通り過ぎた。

 このとき俺は、女とは怖い生き物だなと思った。


 時を同じくして、、クラスの女子に告白され、付き合うようになった。

 同級生と付き合いながらも、ルイーザとの関係は続いた。


 ある日、二人きりでいるときにルイーザは言った。


「もうあなたには会えないわ。わたし、お嫁さんになるの」


 『お嫁さんになるの』という言葉が俺の頭の中で何度もこだました。


 ルイーザは屋敷から去って行った。

 あんなに濃密な時間を過ごしたのに、別れは実にあっさりしたものだった。


 俺は、女とは怖い生き物だと再び思った。


 高等部に上がり、レイクというクラスメイトと出会った。

 最初彼を見たときは、女子かと思ったものだ。そこらにいる女子よりもきれいな顔立ちをしていた。

 天真爛漫で負けず嫌い。将来は騎士になりたいというレイクは、粗削りながら素質はあるようだった。

 体育の時間に剣術の手合せをしたときにそのことは気づいたが、何度か手合せをしていくとそれは顕著になった。

 幼い頃から屋敷で稽古をつけてきた俺に、いままで同級生ではかなうものはいなかったが、レイクと手合せすると、ときどき不意打ちのように技が俺にはいることがあった。

 それは持って生まれた素質なのだろう。

 俺は内心悔しく思ったが、レイクの腕は認めた。

 レイクとやんちゃをやりながら、二人無事に騎士として就職することができた。


 捜索隊で久しぶりにレイクと一緒に任務にあたることになった。

 この任務でも、レイクは俺を楽しませてくれそうだ。

 レイクは憧れの聖騎士エルダ様と一緒に任務に携わることができることがよっぽどうれしいらしい。

 俺がみるかぎりは、エルダ様はレイクのことを男としていないようだ。

 しかし、男と女の関係なんて、いつ変わるか分からない。


 俺は俺の人生を楽しみながら、同期のレイクの恋愛事情を端から見学するとしよう。


保険とはいえ、R15指定にしておいてよかったです。


次回は本編に戻ります。

ようやく魔物が登場し、バトルシーンが始まります。

うまく書けるかどうか心配ですが、頑張ります!


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