ユーリ、サクライチゴ味のアイスを食べる
「朝からラブラブですねぇ」
うししとルリカは二人に笑いかけた。ユーリは恥ずかしさをごまかすために別の質問をした。
「ごめん。時間は大丈夫なの?」
「まあ、十時出発の乗合馬車ですから、ゆっくり歩いても余裕ですよ」
「それはよかった」
「どういうわけで朝っぱらから大衆が往来する道端で抱き合っていたのさ?」
「な、なんていうか……。ひとことでは言い表せないんだけど……」
「時間はたっぷりあるから聞いてあげられるよ」
「青の宝珠の力で命を救った子供が、楽しそうに友達と遊んでいるのを見かけたの」
「それで気持ちが高ぶったのか」
ルリカがほうっとため息をついた。
「若いっていいですねぇ」
すかさずレイクがルリカに言う。
「ルリカも充分若いよ」
「わたしの歳を知っているくせに、そういうのは逆に嫌味ですよぅ」
「そういうつもりじゃないさ。ほんとにルリカは若く見えるし、最初は俺より年下かと思っていたし」
「ふーん」
「若くみられたほうが女の子ってうれしいもんだろ? あのエルダさんだって、十歳は若返るという桃をたくさん食べていたし」
「エルダ様は大人の魅力があって素敵ですよね。わたしもエルダ様みたいな女性になりたいのに、現実は思うようにいきません」
「俺はルリカのほうがいいと思うけどな」
言葉の流れに任せて、レイクはルリカを褒めた。
「どういうところがですか?」
「え? それは……」
無意識にルリカの胸に目線がいった。
「その女の子らしい、ところとか」
「ふーん、へー」
「なんだよ、そのおざなりな返答は」
「べつにぃ」
「べつにぃ、じゃないよね。絶対何か含みがあるよね?」
「あったとしても教えません」
「教えてよ。気になるだろ」
「教えないったら教えません」
そんな会話をしながら、ユーリたちは停留所にたどり着いた。
停留所の目の前に人だかりができている店があった。
「アイスクリーム屋さんですけど、朝からすごい行列ですね。季節限定サクライチゴ味ですって」
「ケイトさんが南の地方から運んでいた産物の中にサクライチゴがあったわ。あのアイスクリームに入っているサクライチゴは、ケイトさんが運んだものかもしれない」
ルリカとラナは目を輝かせた。女子たちとはうらはらに、興味なさそうに行列を見つめるのは、レイクとユーリである。
「よく並んでまでして買うよなぁ」
「そうだよね」
ルリカがユーリたちを振り向いた。
「せっかくだから食べませんか? あんなに行列ができているのだから、きっとおいしいんですよぅ」
「いいね。食べよう」
今さっき言った言葉とは別にルリカの言葉に乗るレイク。ユーリがルリカに質問した。
「時間は大丈夫なの?」
「ここの馬車もきっと遅れます。だから大丈夫です」
ルリカは自信をもって言った。
ユーリはラナのほうを見た。ラナは目を興味深々な表情で、アイスクリーム店を見つめている。
「ラナも食べたい?」
「ええ。アイスクリームなんて食べるのも久しぶりだもの」
ラナは素直にこくりと頷いた。
レイクが言った。
「買いに行ってくるよ。ルリカたちはここで待っていて。ユーリ、行こう」
「うん」
店の前には、五、六人の客が並んでいたが、順番はすぐに回ってきた。
ユーリとレイクは両手に一個ずつ、合計四個のアイスクリームを持って停留所に戻った。
そこでは、ラナとルリカが二人の男に話しかけられていた。歳はユーリよりも少し年上くらいだ。
「君たち、この村では見かけない顔だよね。中央に向かうんだったら、俺たちの馬車に乗せていってあげるよ。中央の教会って今おもしろいことになっているみたいだからさ」
状況を察したレイクが駈け出した。ユーリもその後に続いた。