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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、メルレの村でレイクの提案を聞く

 翌朝、フルレの村を出たユーリたちは、乗合馬車の中で、同乗者の一人に話しかけられた。


「あんたたち、学生さん? 卒業旅行か何か?」


 四人は顔を見合わせてにこりと笑った。周りからはそんなふうに見えるのかとそれぞれ思いを巡らせる。

 ユーリが「まあ、そんなところです」と答える横で、「こういうの、楽しいかもしれない」ラナがぽつりとつぶやく。


「もうラナはかわいいですねぇ」


 ルリカがたまらないというようにラナを胸元でだきしめた。


「ル、ルリカ、くるしい」


 レイクが押し殺した声でつぶやいた。


「う、うらやましいぞ、ラナ」


 途中、休憩をはさみながら夕方、メルレの村にたどり着いた。宿を取り、食事は宿屋に併設されている食堂で食べることになった。


「ここで提案があるんだ」


 食事が終わったころレイクが言った。


「部屋についてなんだ。いつも同じ組み合わせだよね。たまには気分転換に違う組み合わせにしてみない?」


 ユーリは昨日の夜うなされたレイクのことを思い出して、気づかわし気にレイクを見つめた。レイクは大丈夫だ! というように親指を突き立てた。

 そんなレイクをルリカが胡散臭そうに見つめる。


「違う組み合わせって?」

「たとえば裏表とかさ。エルダさんと行動していたときも、それで部屋を決めていたりしたんだ」


 ルリカがユーリを見る。


「ユーリもそれでいいんですかぁ?」

「た、たまにはいいかなと思う」


 ユーリの言葉は、前もって打ち合わせをしていたが、なぜか棒読みになってしまった。


「ラナは?」


 ラナは即答した。


「かまわないわよ」

「まあ、みんながそう言うならいいけど」

「よっしゃー、じゃあ、いくぞ、ウ・ラ・オ・モ・テ」


 前もって打ち合わせをしていたとおり、ユーリは裏を、レイクは威勢よく表を出した。女性陣はというと。自然とユーリの目線がラナのほうにいく。レイクはルリカの手を凝視。女性陣はどちらも表をだしていた。

 そんなことを繰り返して、部屋割りはユーリとルリカ、レイクとラナということになった。


「な、なんで……」


 呆然とつぶやくレイク。

 部屋割りも決まり、部屋に向かう。部屋は通り同士だ。


「よろしくです、ユーリ、変なことをしたら許しませんよぅ」


 ぱちりとユーリにウインクをするルリカ。


「……変なことなんてしないよ、よろしくルリカ。ルリカと同じ部屋にになるの初めてだね」

「ほんとですねえ。まったく違和感ありませ~ん」

「あはは。そう言ってもらえるとうれしいよ……」


 男とみなされていない気がするが、妙に警戒されるよりはいい。

 和むユーリたちとは違い、隣の部屋ではレイクがベッドのふちに腰かけ落ち込んでいた。ラナと二人部屋というのは確率としてはありえたはずなのにまったく想定していなかったのだ。


「ラナ、ごめんな。俺と一緒の部屋で」

「あたしは気にしないわよ」

「それならいいんだけど」


 言ってラナのほうを見てレイクは声をはりあげた。


「おい、何やってるんだよ?」

「寝間着に着替えようと思って」

「先に言ってくれよ」


 あわてたようにラナに背を向ける。


「レイクは普段はともかく、いざとなると紳士的なのね」

「普段はともかくってなんだよ……」


 うなだれるレイク。


「着替え終わったわ」

「そうか」


 言われてラナのほうを振り向くと綿のラフな格好に着替えていた。女の子らしい体の線がよく見える。

 はやくも変な気が起きそうになり、レイクはあわてて目線をそらす。ラナはレイクをしみじみ見つめた。


「ルリカのことが好きなら、ルリカの胸ばっかりみないことよ」

「はい……」


 心当たりがあるレイクはしゅんとした返事をした。

 隣の部屋では、ユーリとユルカが各々のベッドで横になりくつろいでいた。


「毎日移動しっぱなしで疲れたね。今日は早く寝よう」

「そうね」


 と、ミラーフォンが小刻みに振動した。ミラーフォンを操作すると、鏡の中にエルダの顔が映し出され、同時に鏡の振動が止まった。


「はい、ユーリです」


 いつもユーリのほうから報告のために連絡するのに、エルダのほうからとは珍しい。


「ユーリ、今大丈夫?」

「うん、ルリカと部屋にいるところ」

「え? ルリカと? ラナじゃないの?」


 かくかくしかじかと説明する。


「まあ、いいわ。間違いを起こさないようにね」


 横からルリカが口を挟む。


「大丈夫ですよ。ユーリはラナ一筋ですからぁ」

「そうね」

「なっ……」


 慌てたような声をあげるユーリ。

 エルダは含み笑いをしてから言葉を続ける。


「わたしたちは中央に着いたわ」

「無事にたどり着いたんだね。よかった。どんなやつが襲ってきたの? やっぱり魔物とか?」


「魔物のほかに、魔族や精霊、それから人間もいたわ。死傷者もなしで、いい稽古になったわよ」

「それはよかった。精霊も、水の宝珠を狙ったの?」

「なんか水の宝珠の力を借りて守りたいものがあったみたいよ。それはともかく、こっちは明日からまた事務処理や外部に流されたさまざまなうわさをモミ消すのに忙しくなるから、ユーリたちはゆっくり帰ってきていいからね」

「うん。今日はメルレの村にいるから、三日後ぐらいには着くと思うよ。姉さんも体に気をつけて」

「お互いにね」


 通話を切る。


「エルダさんって、ブラコンですねぇ」

「ブラコンって?」

「弟をすごく大切にしているお姉さんのことをブラコンっていうんですよ」

「ふうん。姉さんが僕のことを気にかけているのはわかるよ。姉さんは僕が六歳のころに母親を亡くしてから母親がわりでもあったんだから」

「責任感が強いですよねぇ。聖騎士、やっぱりいいなぁ」


 ルリカは憧れとそしてほんの少しの嫉妬をまぜて言った。


「レイクたちにも知らせてくるよ」

「うん、いってらっしゃい」


 ベットの上でひらひらと手をふるルリカをあとにして隣の部屋に向かう。

 ドアをノックすると、すぐにレイクが出迎えた。エルダたちが無事中央にたどり着いたことを伝える。


「よかった。アルベルトやミスティも無事なんだね」


 その日の夜はレイクだけもんもんとして眠れず、次の日の朝、「ひどい顔してますよぅ?」とルリカに笑われた。

 乗合馬車が出発するまで時間があるため、この村で消耗品を購入することにした。


「あそこなんてどうですか? いろんなものを売ってそうですよ」


 ルリカが一つの店を指さす。レイクが顔をしかめた。


「あそこはやめたほうがいい。店主が商売根性丸出しでこの前立ち寄ったときに、情報交換で破格の値段で消費期限切れのスタミナドリンクを買わされたんだ」


 ラナも言う。


「ケントさんが言うには、この町一番の道具屋だからできるだけ良好な取引をつづけるように努力しているっていうことだったわ。けれど実際のところケントさんもよく思っていないみたいだったわ」

「ケントさんがそういうならよっぽどだな」


 事情を知らないルリカが聞いてきた。


「ケントさんって誰ですか?」

「ケントさんはキャラバン隊の隊長で、ラナを護衛に雇っていたんだ」

「そんなことがあったんですねぇ」


 こじんまりとした道具屋を見つけて中に入って必要なものを購入した。

 乗合馬車の停留所に向かう途中、元気よくかけていく子供たちを見かけた。


「あの子……」


 ラナがその中で、一人の少年に焦点を当てる。

「どうしたの?」

「元気になってよかった」


 ラナは顔をほころばせた。よくみればユーリも見かけたことのある少年だった。医者も匙を投げた病気にかかっていたのに、フードをかぶった人に病気を治してもらったといっていた少年だ。


「あの子がああやって友達と一緒にかけっこができるのは、ラナのおかげなんだね」

「あたしじゃない。青の宝珠のおかげ。

 あたしは村を救うために青の宝珠を盗んだ。それは罪だと知っているし理解している。だからこそ、あたしは罪を償うために、中央に向かっている。

 それでも、あたしが罪を犯したことによって、救われた人がいるのを目の当たりにすると……」


 ラナは少し間を置いた。


「改めて、罪を負ったことに、後悔はないと感じるわ」


 ゆるぎない思いとともにラナは言葉を紡いだ。


「ラナ……」


 ユーリはラナを抱きしめた。


「もし僕が神様だったら、ラナの罪を許すのに……。ラナは悪くないよ」

「ユーリがそう言ってくれるだけで、あたしは救われるわ」


 ラナもユーリの背中に自分の手をまわした。

 お互いの鼓動を感じる。ユーリはこのまま自分もラナとともに罪を償いたいと思った。自分が肩代わりしたら、ラナの罪の重さも半分になる。


 二人がいないことに気づいたレイクが振り返り、だいぶ遠くで抱き合っているユーリたちを目にとめて、大声で呼びかけた。


「おーい、ユーリ、ラナ。朝から熱いぞ」


 二人の世界に入っていたユーリとラナは、あわててお互いから離れた。近くを通った人たちがそんな若い二人にあたたかなまなざしを向けていた。


「今、行くよ」


 二人は、そそくさとその場を後にして、レイクの後を追った。

 お互い、判を押したように顔が真っ赤だった。


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