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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、中央に戻る準備をする

 翌日、屋敷にやってきたガッシュに、ルリカがガッシュに空飛ぶじゅうたんを売ることを打診した。

 ガッシュは快く請け合った。


「あんな大きなもの、あっても邪魔になるだけだからな。アルデイルの町に全部おんぶにだっこじゃ、寝覚めが悪いからな。じゅうたんを売った金で、住むところの確保だけでもできれば気持ちも落ち着く。まあ、ほかのみんなにも聞いてみるさ。


 今の俺たちには使わない貴重アイテムよりも使える金が必要だ。みんな承諾すると思うぜ」


 ルリカが話し合いに参加している間に、ユーリとラナとレイクは、中央に戻る準備にとりかかった。

 この町からは中央まで乗合馬車がでている。それを利用するために停留所の受付で切符を座席の買うため、まずは街に出た。

 受付の案内係の説明で乗合馬車を乗り継いで順調に移動できれば、七日目には中央に着くことができるそうだ。ただ、乗る人数が多すぎた場合、次の馬車に乗ってもらうこともあったり、道路の状況や、天気の影響で移動が遅れることもある。だから、順調に行くことはめったにないということも案内係は付け加えた。


「特別乗車券というものがありましてね。これは通常の切符の五倍のお値段なんですが、特別待遇で乗合馬車に乗車できるんです。特別待遇というのは、具体的には、停留所に、長蛇の列が並んでいたとしても、彼らより先に乗車できるとうものです。これで旅の遅れの心配はなくなります。

 もっと快適な旅をお求めなら、馬車そのものを借りるという手もございます。これは馬車と馬の手入れが必要です。しかし自分のペースで移動できるので優雅な旅ができますよ。宿屋での駐車場や馬の餌台はお客様持ちです」

「馬車を借りるのはどれくらいの金額になりますか?」

「一日、二万エルから。お客さんたちは中央に行きたいんでしたね。中央までなら、貸し切り馬車なら五日間で移動できますよ。五日間なら本来十万ですが、割引させていただいて八万エルでいかがでしょう」

「普通に乗合馬車で行きます」

「そ、そうですかぁ。残念です。八万エルといっても、四人で割れば一人二万。そんなに高くないと思いますよ」

「駐車代と馬の餌代もプラスされるでしょう」

「そ、そうですけど」


 詳しく話を聞くと、今まとめて中央まで乗車券を購入するより、乗合馬車で移動して、夕方あたりに立ち寄った村や町で降りて、その地で一晩を過ごし、朝再び、別の乗合馬車の乗車券を買って、移動を進めるという方法が、移動の変更などがあった場合に対処しやすく、コストも安く仕上がることが分かった。

 とりあえず、今回は夕方までにたどり着きそうなメトリック町までの乗車券を購入する。

 乗車時間はちょうど十二時。ルリカから借りてきた懐中時計の針は十時五十分をしめしていた。

 昼ごはんは馬車の中で食べることにして、お昼ごはんを購入すると、ユーリたちはセドリックの屋敷に戻った。

 話し合いはまだ終わっていなく、ようやく話し合いを食堂のドアが開いてルリカたちが出てきた。

 時刻は十二時になろうとしていた。ルリカに手短かに乗合馬車の切符のことを伝え、昼食を共にしようというセドリックの申し出を丁寧に断ると、ユーたちは、乗合馬車の停留所に向かった。

 猛ダッシュをして、十二時になる三分前に停留所についた。結局、乗合馬車が発車したのは、十二時を十五分すぎたあたりだった。

 切符を買った人の中に、発車時刻に遅れた人がいて、その人を待ってから出発したからだ。

 ルリカが参加した話し合いの内容を聞きたくても、周りにはいろんな人がいるため、聞くことができなかった。


「すみませんねぇ。アルデイルで絶対に食べておきたかった食べ物がありましてね。人気店で、お昼近い時間だもんで、店の中に行列ができていたんですわ。それでも急いで食べればどうにか間に合うと思ったんですけどなぁ。希望的観測でしたわぁ」


 その料理を食べるだけにわざわざフルレ村からやってきたのだという。

 フルレ村とアルデイル町は馬車で片道四時間から五時間。一日がかりのちょっとした旅行だ。

 食べ物がなくて困っている村があるかと思えば、資金難で困っている町もある。そしてその町の食べ物を食べるためだけにまる一日使う人もいる。

 世の中、本当にいろんな人がいるものだとユーリは思う。

 フルレ村といえば、廃墟となった教会に住み着いた魔物サンダーマンティコアと戦ったところだ。

 そして、あの村でラナを捕まえた。


「あんたたち教会の人間は、その力を中央に集中させて出し惜しみしている。その力があれば、死ななくてもいい人がたくさんいるのに」


 フルレ村に続く街道で、大けがをしたキャラバンの隊長ケイトを、魔力が枯渇する寸前まで魔力を使って、治癒したとき、思ってもいなかった乱暴な言葉を投げかけられ、ユーリは唖然したものだ。


 あの時のラナの瞳は、夕日を浴びて金色に輝いていた。

 ユーリは今、自分の隣に座るラナを見つめる。

 ラナは窓のほうに目をやり、流れていく景色を見ていた。その瞳は、金色に近い琥珀色をしている。

 夕日を浴びて金色に光る瞳の色もきれいだけれど、今のラナの瞳の色もきれいだ。

 心地よい風になびく麦の穂のように、どこまでも穏やかな色をしている。


「なに?」


 目線を感じたのだろう。ラナが突然、こちらを見た。


「い、いや、疲れていないかなぁと思って」


 慌てて目線をはずして適当なことを言うユーリ。

 

「あたしは大丈夫よ。ユーリこそ、大丈夫?」

「うん、僕は大丈夫だよ」


 言うが、本当のところは、体のあちらこちらが筋肉痛で痛い。しかし、そのことを素直に好きな子の前で言えるわけがない。

 ユーリは見栄を張った。


 向かいにすわったレイクが言ってきた。


「そろそろ昼ごはんを食べようよ」


ラナが頷いた。


「そうね」


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