ユーリ、アルデイルの町に戻り、セドリックの屋敷を訪ねる
「私のほうはかまいませんが……」
伺うようにガッシュを見るセドリック。
「俺のほうでもかまわない」
「よかったぁ。それじゃあ、参加させてもらいます」
「ちょっと待ってください」
口を挟んだのは神官デイジーだ。
「あなたが参加する理由は何かしら?」
「わたしたちはアクアミスティア様からクランシェ村の様子を調査するように指示を受けて形成されたパーティです。そんなわたしたちには、クランシェ村の人たちの行く末を見届ける義務があると思うんです」
「調査の結果はでたのよね。それならもう、あなたたちの役割は終わったのではなくて?」
「調査結果で、クランシェ村がある土地が人が当分住めない土地だと分かりましたが、だからといって、それでさよやらというのは薄情すぎますぅ」
「薄情も何も、私たちは人情で動いているのではないわ。お仕事で動いているの。お・し・ご・と、よ」
「うう……」
デイジーの大人の迫力に負けて、うつむいて黙り込んでしまったルリカに合いの手を入れるように、はきはきとした口調で裁判官ラティシアがデイジーに言った。
「デイジー、新米司祭をいじめないの。仕事ではあっても、人情で動くこと、よくあるでしょう」
途端にデイジーはうらめしそうに裁判官ラティシアを見つめる。
「ラティシアは甘いのよ。そんなんだから、隣町までわざわざやってきたあげく、エロ神官の尻ぬぐいまで手伝わされる羽目になっているんじゃない」
ルリカに対する口調とがらりと違い、砕けた口調になっている。そんなやり取りから、デイジーとラティシアが気さくな関係なのだとユーリは思った。
慌ててセドリックが口をはさんだ。
「エロ神官は私ではなくてですな」
「知っているわ。言葉のあやよ。それ以上のことはここでは厳禁です」
デイジーはぴしゃりと言った。それ以上、というのは、ガッシュたちがいる前で、それ以上のことは言うなと言っているのだ。
セドリックはほっとしたように胸をなでおろした。
「分っているのならいいのです」
ガッシュが不思議そうに誰にともなく質問する。
「エロ神官とはなんだ?」
セドリックは再び合わせてて言いつくろった。
「クランシェ村のこととは全く関係ないことなので、気にしないでください」
「ふーん」
ガッシュはいかにも怪しそうな目でセドリックを見た。
セドリックは話題を変えた。
「明日の話し合いは各自朝食を取った後、この食堂でということでよろしいですか?」
「構わない。そうだ、朝食の用意も宿のほうでしてくれるんだよな?」
「もちろんです」
そこにレイクと口の達者な警備員が一緒に戻ってきた。
「みなさん、無事についたんですね。よかった。ユーリ、おつかれさま」
「マクシム殿たちはどうしたんだね?」
レイクが答える。
「もうすぐ戻ってくると思います」
レイクはクランシェから来た人たちに目線を向けた。
「それではさっそく宿に案内しましょう。ガッシュさんとテット君は俺についてきてください。ガッシュさんの奥さんがすでに宿でお待ちしていますよ。テッド君は今日はひとまずガッシュさんたちと同じ部屋です。明日、お父さんのところに連れていくね」
「おう、分かった。テッド、行こう」
「お父さんはこの町にいるんでしょう?」
「そのはずだけど、住んでいるところまで調査しきれなかったんだ。明日には分かると思うから、分かったらお父さんの元に連れて行くね」
「うん」
警備員が他のクランシェの村の人たちに言った。
「ラディツ一家の方々と、デルタさんは私についてきてください。ああ、申し遅れまた。私はこの町の警備員をしております。この町で私の知らない道はありませんので、ご安心ください。今、名前が呼ばれなかった方も、これから戻ってくる私の仲間たちが案内しますから、ご安心を」
そんな感じで、クランシェの村人たちは、次々と宿屋に案内され、セドリックの屋敷を出て行った。
クランシェの村人たち員が宿屋に案内され、ようやくユーリたちは一息ついた。口の達者な警備員ポープは、仕事を終えて挨拶を済ませると、仲間と一緒に本来の仕事へと戻っていった。
「あの人もよく働きますよねぇ」
ルリカが感心するように警備員のことを褒めると、レイクが答えた。
「好きなんだろうね。口を動かすのも体を動かすのも」
ユーリは思わず笑って答えた。
「それは言えるかもね」