ユーリ、空飛ぶじゅうたんに乗ってみる
ユーリたちが中央の井戸に向かうと、すでに村人たちが集まっていた、気の早い人の中にはアルデイルの町へ移住するための準備まで整えてさえいる。
ガッシュの説得力と、移住先の目途がついたこと、それからこの土地は当分人が住めない土地になるとこの国の守護神アクアミスティアが断言したことが、村人たちの決心を固めた。
ガッシュが真剣な表情を浮かべて言った。
「我々はアルデイルの町への移住を受け入れることにした」
「そうですか。分かりました」
ルリカがユーリたちを代表して頷いた。
「ただ一つ、問題がある。移住を希望する者の中には、足腰の弱い者もいる。彼らが徒歩四時間の移動に耐えられるかといったら難しい。だから、体が丈夫な者が、交代で背負って移動しようと思う」
ガッシュ自身、自分の妻は病気で床についている。ガッシュは妻を背負っていく覚悟だった。
テットがとことことやってきて、ガッシュに話しかけた。
「ガッシュのおじちゃん、おばあちゃんが話があるんだって」
「なんだ、話って」
「じゅうたんを運んで欲しいんだって」
「そんなもの、ミミさんとこにあったかな。まあ、ちょっと行ってくる」
首をひねりつつ、ガッシュはテットの後をついて行った。ユーリたちはお互いに顔を見合わせ、その後を追った。
ミミの家では、ミミが一人ゆっくりとお茶を飲んでいた。
「ようやく来たね、ガッシュ。ここに敷いているじゅうたんをもっていってくれないかしら?」
「これはじゅうたんだったのか。床と同化していていままで気づかなかったぜ。それにしても、こんな汚いじゅうたんをもっていってどうするんだ?」
「うふふ。これはね、空飛ぶじゅうたんなのよ」
「空飛ぶじゅうたんだって?」
ガッシュは半信半疑のまま、じゅうたんを家の外にだそうとし、到底一人では無理なことに気づいた。
「俺たちが手伝いますよ」
「おう、助かる」
協力して外に運んだ。
そのじゅうたんは二つ折になっていて、広げてみると、縦四メートル、横六メートルほどの大きさになった。
「ほんとうにこれが空飛ぶじゅうたんなのか?」
「うふふ。ほんとうさね」
「このじゅうたんが空を飛ぶの?」
テットが祖母に聞いた。ミミは目にいれても痛くない愛しい孫を、にこにこと笑みを浮かべながら見つめた。
「そうよ。これは人を乗せて空を飛ぶ魔法のじゅうだんなの」
テットは少年らしく目を輝かせてその場で飛び跳ねながら喜んだ。
「うわあ、すごい!」
レイクが目を丸くし、ユーリも驚きの声をあげた。
「これが空飛ぶじゅうたんか。まさか本当に目にすることができるなんて、信じられない」
伝説の魔法道具といってもいい空飛ぶじゅうたんを目の当たりにし、ユーリは胸がどきどきした。
ミミが説明をする。
「これはご先祖様がこの土地にやってきたときに、使っていたものなのよ。いざというときのためにとっておいたの。今がいざというときさね。ただ操るのにちょっとしたコツがいるそうだよ」
じゅうたんには刺繍が編み込まれていた。四つ角と対角線を通って、前方の左右中央に円形の魔法陣のようなものが編み込まれている。
魔法に心得がある者なら誰でも一目でわかるだろう。その円形のところに座り、魔力を解放することより、空とぶじゅうたんを操れるのだと。
「いきなり操れるものじゃなさそうですよねぇ」
「誰が最初に試してみる?」
「僕がやってみてもいい?」
「おお? ユーリ、チャレンジャーだね」
「空飛ぶじゅうたんに乗るのは、昔から憧れていたんだよ」