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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、ミカルという人物の話を聞く

 ミミという老人が住む家に向かった。出迎えたのは、さきほど祖母のためにきれいな水をちょうだいとせがんだ少年だった。


「おばあちゃんに用事があるんだね。どうぞ入って」


 ガッシュの家よりも小さな家だった。案内されて中に入ると、老婆がちょこんと座布団の上に座ってお茶を飲んでいた。


「ありがとう。あなたたちが井戸の水をきれいにしてくれたのね。感謝するわ」


「ここは他には大人の人はいないんですか?」


 ユーリが聞いた。


「そうよ。あの子の父親と母親はアルデイルで出稼ぎにでているわ。だからこの家にはテットとわたししかいないの」

「村を出ようとは思わないんですか?」

「とんでもない。この村をでることなんて考えられないわ。でも……」


 ミミは孫を目を細めて見つめた。


「テットには明るい未来を歩んでもらいたい。そのためにも、今あの子の両親は違う土地で一生懸命お金を貯めている最中なのよ」

「ミミさんにお聞きしたいことがあってきたんですぅ」


 ルリカが口を開いた。


「ミカルという人についてです。ミカルさんはどういう人だったんですか?」

「そうね。ミカルがやってきたのは、もう二十年くらい前になるかしら。空腹で今にも死にそうなほどふらふらでね。歳は今のあんたさんより少し上くらいだったかしらね」


 懐かしそうな表情を浮かべてレイクを見つめるミミ。レイクの向こうにミカルの面影を重ねているのだ。

 ミカルを不憫に思ったミミが食事を与え、寝る場所を用意してやった。

 次の日起きてミカルは、


「この世に絶望して死のうと思っていたのに、目の前に食事があれば食べてしまい、寝床があれば寝てしまう。私は弱い人間だ」


 と言って泣き喚いた。

 そこに、木登りをしていてあやまって落ちたガッシュがいて、医者がいるアルデイルの町まで連れて行いかなければならないという騒ぎが起きた。この時ガッシュはまだ十二歳で子供だった。


「私に見せてください。治せるかもしれません」


 ミカルは言い、言葉通り骨折を治した。ガッシュの両親はミカルに感謝し、ガッシュもミカルに何度も礼を言った。


「私の力を必要としてくれている人たちがいるのなら、私はその力をその人たちのために使いましょう」


 ミカルは言った。

 昨日まで生きることに絶望していた人物とは別人のようにはれやかな表情をしていた。以来、ミカルはこの村に住み、人々の手助けをするようになった。

 そこまでミミが話をしたところで、村の男がミミの家にやってきた。


「よかった、ここにいたんですね。また井戸の水が濁ってきていて」


 レイクが目を見開いた。


「またですか?」


 ユーリたちはミミに礼を言って井戸のところに向かった。


「こんなことなら、魔力回復薬を余分にもってくるんだったよ」


 悔しそうに言うレイク。疲労の影が濃いレイクの様子を見て、ガッシュがみんなに向かって行った。


「みんな、今使いたい分の水は確保できただろう? 今日はこれで終わりだ。騎士様の魔力がもたない」

「ここまでしてくれただけでもありがたい」

「ゆっくり休んでくれ」

「ようやく水は確保できたが、これからもまた濁ることを想像すると、生きた心地がとないねぇ」


 レイクに感謝しつつも、今後の不安を口にしながら村人たちは井戸から立ち去って行った。

 テットが言った。

「村が飢饉になりだしたのは三年前だけど、水が濁りだしたのは半年の間だよ。半年の間に水脈に変化があったんじゃないと思うんだ」

「その可能性はあるね。テット、すごいなぁ。水脈なんて言葉、知っているんだ」


 ユーリが褒めると、


「前にミカル先生に教えてもらったんだよ」


 テットは照れくさそうに笑った。

 教会の裏にある墓場のさらに奥にも井戸があって、その井戸の水がこの井戸とも繋がっているといわれている。


「その井戸を調査してみると何か分かるかもしれないな」


 レイクが言うと、ルリカも頷く。


「そうですね。でも今から調査するのは、中途半端になりそうですねぇ」


 ちらりとレイクの疲れ疲労具合を確認するルリカ。井戸の水を浄化したり、人びとの話を聞いているうちに、あっという間に時間は過ぎていた。日は傾き、あともうすぐで夜がやってくる。


「今更急いでもしかたありません。今日は休んで、明日行くことにしましょう」


 ガッシュが声をかけてきた。


「夕食の用意をしておいた。一緒に食べようぜ」


 出された食事は乾燥した肉をお湯でふやかして作ったシチューだった。


「日持ちするにんじんやじゃがいもなんかはアルデイルの町で買って地下倉庫に保管しておくんだ。この村はやせていて、植物も充分に育たないからな」

「そうまでしてガッシュたちはこの村に住んでいるんだね」


 半ば感心したように言うユーリ。


「村を捨てることは簡単さ。しかし、新しい土地に行ったら、部外者はいい仕事に着くことができない。いろんなところで冷遇される。それよりはどんなに住みにくくなっても生まれ育った村にいたいと思うんだ。けれど子供たちにそれを強いることはできない」


 食事をもてなしてくれたガッシュに礼を言って、家を出る。


「本当なら、家に泊まっていってほしいところが、家には余分な布団はない。ただ、泊まる場所には困らないぞ。家を放棄していったやつのところに泊まるのもいいし、教会の住居に泊まるでもいい」

「分かりました」

「空き家から毛布を何枚か集めたほうがいい。中央と比べると気温は若干暖かいが、まだ春の季節だ。夜は冷える。毛布は多いにこしたことはない」

「ありがとうございます」


 ラナの希望で今夜は教会の住居に泊まることになった。それぞれのベッドの隣に布団を空き家から持ち運んできたのだ。ラナの部屋にはラナとルリカ。ミカルの部屋には、ユーリとレイクが泊まることになった。

 ユーリはレイクに言った。


「ベッドはレイクが使ってよ。今日は浄化の魔法を使いすぎて疲れているでしょ」


 レイクは表情を輝かせた。


「おお! いいの? それじゃあ、お言葉に甘えるよ」


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