ユーリ、クランシェの村に向かう
セドリックとエルダがやってきた。エルダの隣にはアンナがいる。
アンナは髪をラナと同じような長さに切り、ラナのふわふわの髪をまねてセットしていた。服装もラナと同じように、動きやすい服装に変えている。
「どう? ラナに似ているかな?」
アンナは少し恥ずかしそうにうつむいて、ユーリたちに聞いてきた。
ラナが口を開いた。
「アンナじゃないみたい」
アンナの存在を確かめるようにアンナの手を取る。アンナはラナを見つめた。
「ラナ……」
ユーリは並んでいるラナとアンナを交互に見て言った。
「本当の姉妹みたい似ているよ」
アンナは照れたように微笑んだ。
「そう言ってもらえると身代わりとしてうれしい」
そしてラナを見つめてにこりと笑う。
「ラナの友達としてもうれしい」
「アンナ……」
ラナはアンナに抱きついた。
「そんなことを言ってくれたら、あたしだってうれしい」
エルダがユーリに話しかけた。
「即席で用意したわ。旅道具セットよ」
差し出された袋をユーリは受け取った。かかるくらいの大きさがある布の袋だった。
「クランシェの村で様子を確認したあと、中央に戻るのに、普通に計算しても、一週間はかかるでしょう。その間に必要だと思えるものを詰め込んでみたわ。即席だから、足りないものもあるかもしれないから、それはその都度、現地で調達してちょうだい」
「う、うん。分かったよ」
いよいよ旅らしくなってきた。それにしてもこれは重い。これを自分ひとりで持つのは大変だなとユーリは心の中で思う。そんなユーリの心境を見越したように、エルダは言った。
「荷物は小分けして、みんなで分けて持つといいわ」
「そうするよ」
エルダが用意した旅道具セットに、レイクもルリカも興味を示した。さっそく袋の中身を確認する。
「薬草や、予備のショートソードもある。さすがエルダさん、ありがとうございます」
「塩とか胡椒とか、何に使うんですかぁ」
小瓶に詰められた調味料を手にとって、ルリカが不思議そうに小首をかしげた。
エルダは笑って答えた。
「そのうち分かるわ」
ユーリは小瓶や薬草が入っている入れ物のほうが不思議だった。金属でできている鍋のような形をしたものだったからだ。袋が重いのは、あの鍋のようなものが一番の原因だろう。
「それからこれを渡しておくわ」
と言って、差し出されたのはミラーフォンだった。
「これで毎日、就寝前に必ず状況を報告してちょうだい。使い方は大丈夫?」
「うん、姉さんたちが使っているのをよく見ていたから」
ルリカがにこりと笑った。
「わたしたちもいるので、大丈夫ですよ」
「そうね」
エルダは頷いて、ユーリの目の前で、閉じているミラーフォンを開いてみせた。下の部分に九個のくぼみがあり、そのうち、一番上の列に小指の爪よりも小さな二つの石がはめられている。
「左の石がわたしとのミラーフォンにつながる石よ。右は中央の本部。中央は直接通話することはないと思うけれど、念のために装着しておいたわ」
「わかったよ」
「水の宝珠はきちんと持っているわね」
「もちろんだよ」
懐の内ポケットを外側から軽く抑えた。そこに、ハンカチでくるんだ水の宝珠を入れているのだ。
「みなさんに私からも餞別を送らせてください」
セドリックが言って、差し出したのは、きれいな細工の施された小ぶりな懐中時計だった。ところどころに宝石まではめ込まれていて、時刻を確認するだけでなく、装飾品としても価値のありそうだ。
まっさきに反応したのはルリカだった。ルリカは目を輝かせて懐中時計に見入った。
「うわあ、きれいですねぇ」
「道中、時刻が確認できたほうが便利でしょう」
エルダが控えめに聞いた。
「セドリック神官、いいんですか? 大事そうなもののようにお見受けしますが……」
「いえ、いいんですよ。だいぶ前に妻の誕生日にプレゼントしたものです。見ての通り、女性用の懐中時計です。使ってやってください。そのほうが妻も喜ぶでしょう」
ルリカはエルダとセドリックを交互に見た。エルダは苦笑いを浮かべてルリカに言った。
「セドリック神官の好意です。感謝して受け取りなさい」
ルリカはぱっと顔色を輝かせた。
「わーい。ありがとうございます、セドリック神官、大切にしますね」
ルリカは礼を言って、セドリック神官から懐中時計を受け取った。
クランシェの村に行くパーティが屋敷から出発するときに、盛大な見送りはなかった。最初はレイクだけが出て、時間をずらしてユーリとラナが出た。最後にルリカが散歩にでもいくような様子で屋敷を出た。
エイジに「薄影」の魔法をかけてもらうという徹底ぶりだ。
ほどなくして、アルデイルの町から、北を目指す四人の若者がいた。ユーリ、ラナ、レイク、ルリカである。
「クランシェの村ってここからどれくらいで行けるんですかぁ?」
ルリカの質問にラナが答える。
「徒歩なら半日ね。今からなら、夕方にはたどり着くわ」
ルリカは今にもスキップをしそうな様子で、にこりと微笑んだ。
「なんだかわくわくしますねぇ。本当の旅人になったみたいですぅ」