表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
123/415

ユーリ、クランシェの村に向かう

 セドリックとエルダがやってきた。エルダの隣にはアンナがいる。

 アンナは髪をラナと同じような長さに切り、ラナのふわふわの髪をまねてセットしていた。服装もラナと同じように、動きやすい服装に変えている。


「どう? ラナに似ているかな?」


 アンナは少し恥ずかしそうにうつむいて、ユーリたちに聞いてきた。

 ラナが口を開いた。


「アンナじゃないみたい」


 アンナの存在を確かめるようにアンナの手を取る。アンナはラナを見つめた。


「ラナ……」


 ユーリは並んでいるラナとアンナを交互に見て言った。


「本当の姉妹みたい似ているよ」


 アンナは照れたように微笑んだ。


「そう言ってもらえると身代わりとしてうれしい」


 そしてラナを見つめてにこりと笑う。


「ラナの友達としてもうれしい」

「アンナ……」


 ラナはアンナに抱きついた。


「そんなことを言ってくれたら、あたしだってうれしい」


 エルダがユーリに話しかけた。


「即席で用意したわ。旅道具セットよ」


 差し出された袋をユーリは受け取った。かかるくらいの大きさがある布の袋だった。


「クランシェの村で様子を確認したあと、中央に戻るのに、普通に計算しても、一週間はかかるでしょう。その間に必要だと思えるものを詰め込んでみたわ。即席だから、足りないものもあるかもしれないから、それはその都度、現地で調達してちょうだい」

「う、うん。分かったよ」


 いよいよ旅らしくなってきた。それにしてもこれは重い。これを自分ひとりで持つのは大変だなとユーリは心の中で思う。そんなユーリの心境を見越したように、エルダは言った。


「荷物は小分けして、みんなで分けて持つといいわ」

「そうするよ」


 エルダが用意した旅道具セットに、レイクもルリカも興味を示した。さっそく袋の中身を確認する。


「薬草や、予備のショートソードもある。さすがエルダさん、ありがとうございます」

「塩とか胡椒とか、何に使うんですかぁ」


 小瓶に詰められた調味料を手にとって、ルリカが不思議そうに小首をかしげた。

 エルダは笑って答えた。


「そのうち分かるわ」


 ユーリは小瓶や薬草が入っている入れ物のほうが不思議だった。金属でできている鍋のような形をしたものだったからだ。袋が重いのは、あの鍋のようなものが一番の原因だろう。


「それからこれを渡しておくわ」


 と言って、差し出されたのはミラーフォンだった。


「これで毎日、就寝前に必ず状況を報告してちょうだい。使い方は大丈夫?」

「うん、姉さんたちが使っているのをよく見ていたから」


 ルリカがにこりと笑った。


「わたしたちもいるので、大丈夫ですよ」

「そうね」


 エルダは頷いて、ユーリの目の前で、閉じているミラーフォンを開いてみせた。下の部分に九個のくぼみがあり、そのうち、一番上の列に小指の爪よりも小さな二つの石がはめられている。


「左の石がわたしとのミラーフォンにつながる石よ。右は中央の本部。中央は直接通話することはないと思うけれど、念のために装着しておいたわ」

「わかったよ」

「水の宝珠はきちんと持っているわね」

「もちろんだよ」


 懐の内ポケットを外側から軽く抑えた。そこに、ハンカチでくるんだ水の宝珠を入れているのだ。


「みなさんに私からも餞別を送らせてください」


 セドリックが言って、差し出したのは、きれいな細工の施された小ぶりな懐中時計だった。ところどころに宝石まではめ込まれていて、時刻を確認するだけでなく、装飾品としても価値のありそうだ。

 まっさきに反応したのはルリカだった。ルリカは目を輝かせて懐中時計に見入った。


「うわあ、きれいですねぇ」

「道中、時刻が確認できたほうが便利でしょう」


 エルダが控えめに聞いた。


「セドリック神官、いいんですか? 大事そうなもののようにお見受けしますが……」

「いえ、いいんですよ。だいぶ前に妻の誕生日にプレゼントしたものです。見ての通り、女性用の懐中時計です。使ってやってください。そのほうが妻も喜ぶでしょう」


 ルリカはエルダとセドリックを交互に見た。エルダは苦笑いを浮かべてルリカに言った。



「セドリック神官の好意です。感謝して受け取りなさい」


 ルリカはぱっと顔色を輝かせた。


「わーい。ありがとうございます、セドリック神官、大切にしますね」


 ルリカは礼を言って、セドリック神官から懐中時計を受け取った。

 クランシェの村に行くパーティが屋敷から出発するときに、盛大な見送りはなかった。最初はレイクだけが出て、時間をずらしてユーリとラナが出た。最後にルリカが散歩にでもいくような様子で屋敷を出た。

 エイジに「薄影」の魔法をかけてもらうという徹底ぶりだ。

 ほどなくして、アルデイルの町から、北を目指す四人の若者がいた。ユーリ、ラナ、レイク、ルリカである。


「クランシェの村ってここからどれくらいで行けるんですかぁ?」


 ルリカの質問にラナが答える。


「徒歩なら半日ね。今からなら、夕方にはたどり着くわ」


 ルリカは今にもスキップをしそうな様子で、にこりと微笑んだ。


「なんだかわくわくしますねぇ。本当の旅人になったみたいですぅ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ