ユーリ、戒めの腕輪の効果を聞く
ラナは右手首を月明りに照らしてみせた。そこには金属の腕輪がはめられていた。荒々しい茨の模様が月の光の中に浮かび上がる。
「首輪よりはおしゃれよね」
皮肉気に笑う。
「それは何? 今までつけていなかったと思うけど」
「戒めの腕輪というらしいわ」
「戒めの――!」
「さっき、食堂をでるときに、エルダに呼び止められたでしょう。ユーリたちが出て行ってから、ソレイユから受け取ったの」
ユーリも食堂を出て、食堂にはエルダとソレイユ、シグルス、そしてラナだけになってから、ソレイユが口を開いた。
「ラナに装着して欲しいものがあるんだ」
ソレイユが差し出した大きな手のひらの上には、金属の腕輪が二つ載せられていた。それぞれ施されている模様が違う。蔦の模様と茨の模様だ。
「こっちがエルダで、こっちがラナのだ」
「これは?」
「戒めの腕輪だ。名前で分かると思うが、効果は戒めの首輪と同じだ」
ラナは手を伸ばして、茨の模様が施された腕輪を手に取った。
「わかったわ。これをはめればいいのね」
エルダがソレイユに話しかけた。
「わたしに渡されたものは首輪で、ソレイユは腕輪だったのよね」
「普段の行いの成果だろう。がはははは」
「わたしの普段の行いが悪いという言い方ね」
「いやいや、俺の普段の行いの成果が良すぎると言いたかったのだ。まあ気にするな。戒めの首輪も戒めの腕輪も同じ効果があるんだ」
「見た目の違いと、気持ちの問題があるわ」
「がははは。その違いを感じるのもまた一興だ」
「屁理屈よ」
「いや、理屈だ」
「同じようなものじゃない」
「屁理屈と理屈はぜんぜん違う。その違いも分からないのかぁ。エルダは昔から難しいことを考えることが苦手だったからなぁ」
かわいそうな人を見るような目でエルダを見つめるソレイユ。
「なにそれ、わたしがバカだといいたいわけ?」
「そんなことは一言も言っておらん。こっちが言っていないのに、そう思うってことは自覚はあるのか?」
「なんですって?」
肩をふるふると振るわせるエルダに、シグルスがそっと手をかけた。
「エルダは正直すぎる。それが配慮のないがさつな人間の目から見ると、愚かな行動に見えてしもうのかもしれねえ。
そんなやつこそ、エルダの気持ちの正しさに気づかないバカなやつだぜ」
「シ、シグルス。ほめすぎよ。わたしはそんなに性格のいい人間じゃないわ」
「いや、短い間だが、一緒に行動してきた俺にはわかる。エルダは魅力的だぜ」
「シ、シグルス……」
妙な雰囲気になってきたエルダたちの会話に、ラナは聞かなくてはいけいなことがあるため、口をはさんだ。
「それでこの効果のことだけど、鎖はないけれど大丈夫なの?」
「ああ……」
エルダとシグルスの会話を苦虫をかみ砕いたような表情で聞いていたソレイユが、ラナに目線を向けた。
「そうだな。説明しなくてはな。これの効果は戒めの首輪と同じだ。違う点は、鎖が見えざる鎖であることだ。鎖は見えないが実はある。見えざる鎖というのも魔法が施されているまだ。藺生ならば、戒めの首輪より、戒めの腕輪のほうが性能が上ってことだ。しかも鎖の長さも五十メートル。戒められた側もそこそこ自由に動けるっていう寸法だ」
「へえ。周りからは鎖でつながれていることを悟られないのね」
「もともとは使用人が奴隷に使用していたものらしい。もし戒められた者が四十メートルより離れた場合は、持ち主の腕輪が小刻みに振動し、そのことを告げる機能がある」
「そんなことまでできるの」
「四十メートル離れたら、五十メートルはあっという間だ。鎖が見えないからな、持ち主も、戒められた者も、知らないうちに離れすぎるということもあるから、それを防止するための機能なのだ」
「よく考えられて造られているのね」
「そうなのだ。戒め道具の中では最新道具なのだ」
」
「分かったわ」
ラナは頷いて、エルダを見つめた。
「わたしはもう逃げない。けれど、青の宝珠はまだ狙うつもりでいるから」
エルダはしっかりとラナの目を受け止めた。
「いつでもかかってきて構わないわよ。受けて立つわ」
ソレイユはエルダの肩をぽんと叩いた。
「さすが、頼もしい聖騎士様だぜ」
「どの口が言うの。さっきはわたしのことをけなしていたくせに」
「けなしてなどいないぜ。エルダはすぐに怒るからな。からかいがある。がはははは」
「まったくソレイユはいつまでも子供なんだから」
エルダはソレイユの胸をどついた。
「いってぇ。骨折したかもしれない」
「これくらいで骨折するなんて情けない男ね。自分で回復しなさい」
「ひどい。優しい声をかけてほしかった」
二人の会話を聞いてたラナが思わずというように、くすりと笑った。
「おもしろい二人ね。漫才を見ているみたい。仲がいいのね」
「よくない」
「よくない」
エルダとソレイユは同時に言った。ラナは再び笑った。
「やっぱり仲がいいじゃない」
そのときのことを思い出して、ラナはまたくすりと笑った。