ユーリ、月夜の庭でラナと二人きりになる
「ラナこそ、どうしたの? こんな夜中に」
「寝付けなくて。気分を変えるために、外の空気を吸おうと思ったの」
「ほんとうにそれだけ?」
「ほかに何があるっていうのよ?」
「ううん、なにもないよ」
言って、ユーリは笑みを浮かべた。
「僕も寝付けなくて外の空気を吸おうと思って外に出たんだ。そうしたらラナがいたから驚いたんだよ」
さほど遠くではない昔、ユーリは嘘をついたがために、牢屋にぶちこまれ、嘘をついたがために捜索隊のメンバーになった。
そして、今、ユーリはラナを思って嘘をつく。ラナが逃げ出すしたのかと思って不安になって追いかけた、などという事実をあえてラナに伝える必要はない。
ましてやラナともっと話がしたいとかラナの近くにいたいとか、そんな本心を伝える必要などないはずだ。
ユーリの言葉に、ラナも笑みを浮かべた。
「そうなの」
ラナは再び空を見上げた。
「今日は月がとてもきれいなのよ」
ラナの視線の先には月がぽっかりと浮かんでいた。
その月を見上げて、ユーリは言った。
「今日は満月なんだね」
こんなに高く昇ってしまえば、窓から覗くだけでは見つからないわけだ。さきほどのシグルスは、椅子に座っていたし、時間も今より前だったから、月が見えたのだろう。
月がこんなに高く昇ったからこそ、ユーリはラナが外にいることに気づいたし、今こうしてラナと会話ができているのだ。
そう考えると、月に感謝しなくちゃいけないな、とユーリは心の奥で思った。
と、チャポンと魚が水から跳ねる音がした。
「池があるのね」
「ちょっと行ってみようか」
「ええ」
池の水面はゆらゆらと揺らめき、そこに映る丸い月もゆらゆらと形を変える。
「暗くてどんな魚がいるか分からないわね」
「そうだね」
池の近くに雨露をしのげる屋根がついた休憩所があり、どうやら椅子もありそうだ。
二人はどちらともなく、そこに歩みを進め、長椅子に座った。
ラナの肩にいたキャットが飛び立ち、二人の間に、わざとらしく挟まるようにして舞い降りる。
「ラナはこれからどうするの?」
「あたしは罪人よ。アクアディア聖国の宝珠を盗んだ大悪党。罪を償わなくゃいけないでしょうね」
「うん」
「でもその前にやらなくちゃいけないことがあるの。青の宝珠を盗んだ目的を全うすることよ」
「ラナ、それって……」
ラナはしっかりと頷いた。
「あたしはまだ青の宝珠の力でクランシェの村を救うこと、あきらめていない」
「水の宝珠は姉さんたちが持っているし、もし奪ったとしても、すぐに捕らえられるのが落ちだよ」
「それでもあたしはやるわ」
その瞳に強い決意の光を称えて、ラナはしっかりと言った。