表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
114/415

ユーリ、月夜の庭でラナと二人きりになる

「ラナこそ、どうしたの? こんな夜中に」

「寝付けなくて。気分を変えるために、外の空気を吸おうと思ったの」

「ほんとうにそれだけ?」

「ほかに何があるっていうのよ?」

「ううん、なにもないよ」


 言って、ユーリは笑みを浮かべた。


「僕も寝付けなくて外の空気を吸おうと思って外に出たんだ。そうしたらラナがいたから驚いたんだよ」


 さほど遠くではない昔、ユーリは嘘をついたがために、牢屋にぶちこまれ、嘘をついたがために捜索隊のメンバーになった。

 そして、今、ユーリはラナを思って嘘をつく。ラナが逃げ出すしたのかと思って不安になって追いかけた、などという事実をあえてラナに伝える必要はない。

 ましてやラナともっと話がしたいとかラナの近くにいたいとか、そんな本心を伝える必要などないはずだ。


 ユーリの言葉に、ラナも笑みを浮かべた。


「そうなの」


 ラナは再び空を見上げた。


「今日は月がとてもきれいなのよ」


 ラナの視線の先には月がぽっかりと浮かんでいた。

 その月を見上げて、ユーリは言った。


「今日は満月なんだね」


 こんなに高く昇ってしまえば、窓から覗くだけでは見つからないわけだ。さきほどのシグルスは、椅子に座っていたし、時間も今より前だったから、月が見えたのだろう。

 月がこんなに高く昇ったからこそ、ユーリはラナが外にいることに気づいたし、今こうしてラナと会話ができているのだ。

 そう考えると、月に感謝しなくちゃいけないな、とユーリは心の奥で思った。

 と、チャポンと魚が水から跳ねる音がした。


「池があるのね」

「ちょっと行ってみようか」

「ええ」


 池の水面はゆらゆらと揺らめき、そこに映る丸い月もゆらゆらと形を変える。


「暗くてどんな魚がいるか分からないわね」

「そうだね」


 池の近くに雨露をしのげる屋根がついた休憩所があり、どうやら椅子もありそうだ。


 

 二人はどちらともなく、そこに歩みを進め、長椅子に座った。

 ラナの肩にいたキャットが飛び立ち、二人の間に、わざとらしく挟まるようにして舞い降りる。


「ラナはこれからどうするの?」

「あたしは罪人よ。アクアディア聖国の宝珠を盗んだ大悪党。罪を償わなくゃいけないでしょうね」

「うん」

「でもその前にやらなくちゃいけないことがあるの。青の宝珠を盗んだ目的を全うすることよ」

「ラナ、それって……」


 ラナはしっかりと頷いた。


「あたしはまだ青の宝珠の力でクランシェの村を救うこと、あきらめていない」

「水の宝珠は姉さんたちが持っているし、もし奪ったとしても、すぐに捕らえられるのが落ちだよ」

「それでもあたしはやるわ」


 その瞳に強い決意の光を称えて、ラナはしっかりと言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ