ユーリ、アクティの町の教会の司祭の態度に戸惑い、男たちの部屋割りにかける熱い思いに閉口する
アクティの町は、教会まで続く道が広く造られている。そのため馬車に乗ったまま移動し、教会の前で馬車を停めた。
「こんな時間に訪れるとは、中央の人間は非常識ですな。もう就業時間は過ぎていますぞ」
いまいましげに言うのは小太りの五十代ほどの司祭の男である。
勤めの時間を過ぎたからだろう、司祭の制服ではなく、普通の簡単な服を着ている。みためだけでは、聖職者には見えない。
「申し訳ありません。馬車で移動をしているもので、時間がつかみにくくて」
エルダが申し訳なさそうな表情を浮かべて謝った。
「まあ立ち話もなんですから、入ってください」
粗末な応接室のようなところに通される。
「盗人について何か情報はありませんか?」
「まだ何も町人からは報告はありませんな」
そっけない回答である。
「そうですか。何かありましたら中央に連絡をお願いします」
「わかっています」
「このあたりで泊まれる宿を紹介していただけませんか?」
「宿なら、町の通り沿いにいくつかあるから、適当にあたってみなさい」
「分かりました。ありがとうございます」
教会を出てから、ユーリが不愉快な気持ちを隠そうともせずに言った。
「ずいぶんぞんざいな態度だったね」
エルダは困ったような表情を浮かべた。
「地方では、中央の聖職者を毛嫌いする聖職者が少なからずいるのよ」
地方の聖職者は三年の年期で入れ替えることが原則だが、実際は何年も一つの町に配属されることがよくある。
その町を心からよくしたいと思っている聖職者ならそれでいいが、はやく中央に戻りたいと思う聖職者にとっては、中央の聖職者は嫉妬の対象なのだ。
司祭の男に言われた通り、適当に宿を見つけて店の中に入る。
「まあまあ聖騎士様がうちの宿を使ってくれるなんて、鼻が高いわ。ぜったい周りのほかの宿屋に自慢してやるんだから」
うきうきと言うおかみさん。
「五人用の部屋はありますか?」
「うちは一人用か、二人用しかないのよ。二人用の部屋に布団を持ち込んで三人で寝ることはできるわよ」
「そうですか」
エルダは後ろを振り返り、四人の男たちに提案した。
「できるだけ出費を抑えたいの。二つの部屋を借りることにしていいかしら? 二人はそのまま二人部屋で、三人は二人部屋に仮のベッドを持ってきてもらって泊まるのよ」
「異論はないぜ」
シグルスが率先して言い、ほかの者達も異論はないことを示すようにそれぞれ頷いた。
「ありがとう」
にこりと微笑んで礼を言うと、エルダは宿の手続きを始めた。
そんなエルダの後ろでこそこそと話しあう男四人。
と言っても、ユーリはただ会話を聞いているだけだ。
話の内容は誰が姉と同じ部屋になるか、というもの。
「エルダさんと同じ部屋で寝れるかもしれないんだ。こんな機会そうそうないぞ。あわよくは……」
「レイク、へんなことを考えてるんじゃないだろうな。そんなやつとエルダさんが同じ部屋なのは心配だ。ここは俺が一緒の部屋で、エルダさんをお守りする」
「いやいや、おまえたちのレベルなら、守るより守られるほうになっちまうだろうが。
ここは大人の俺がびしっと守ろうじゃないか」
シグルスがどこまで本気なのか分からない、にやにや顔で言ったところに、エルダの声がかかった。
「さあ、部屋に行きましょう」
ぎくりとする男たち。シグルスが代表して質問した。
「部屋割りはどうする?」
「ああ、そうね。裏表でいいんじゃない?」
簡単に言うエルダの言葉に、ユーリはレイクがこっそり後ろ手でガッツボーズをしたのを見て、思わず吹き出しそうになった。
結果としてエルダとユーリ、ほかの男三人が三人部屋ということになった。目に見えて落胆するレイクの様子がおかしすぎて、ユーリはふたたび吹き出しそうになるのを我慢した。
タイトル、長すぎですよね。
文章のタイトルは、中嶋の場合、そのタイトルから
どういう場面だったか、おおまかにわかるように
つけています。
最初は今回の文章を二つに分けるつもりでしたが、
それだと文章が短くなってしまうため、
二つの場面を一話としました。
センスのいいタイトルを考えつきたいものです。
とはいえ、中嶋のもっているキャパの中では、
難しいと思われます。
これからもセンスのない長いタイトルを付けることが
あると思いますが、ご愛敬として笑ってやってくださいませ。