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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、ラナとアンナの再会に立ち会う

「ラナ、あなた、ラナね」

「アンナなの?」


 クランシェ村の二人の少女は抱きあい、再会を喜んだ。こうしてみると、二人は背格好がよく似ていた。背丈は同じくらいだし、髪の色もよく似ていた。ラナは燃えんばかりの赤色で、アンナの髪は赤く沈む夕日を浴びた大地の色だ。


「アンナ、カルロスに嫌なことをされなかった?」

「嫌なことどころか、ここに来てから、毎日ご飯が食べれてありがたいくらいだったよ」

 ラナはアンナをまじまじと見つめた。


「そういえばアンナ、少し太ったの?」

「自分でも自覚があるよ。ラナは前より少しやせた?」

「さあ、どうかな」

「ごめんね。わたしばかり毎日ご飯食べてて」

「アンナがあやまることじゃないわ。よかった。アンナが元気そうで」

「ユーリから聞いたよ。ラナ、クランシェの村を救うために、水の宝珠を盗んだって」

「そうよ。あたしは今は罪人なの」

「ラナ……」


 アンナは言葉を詰まらせた。ラナはアンナに微笑みかけた。


「どうしてアンナがそんな表情をするの?」

「村の状況はそんなにひどいんだね。わたしばかり、何もしなくてごめんなさい」

「あたしが好きでやったことよ」

「お父さんたち大丈夫かな……」

「あたしが村を出たのは、十日くらい前。その時はガッシュさんはぴんびんしてたわ」

「そう」


 ほうっと安堵するようにアンナはため息をついた。そして、何かを思い出したように、突然笑い出した。


「あはははははは。わたしってほんとバカ。お父さんたちがお金欲しさにわたしを売ったのに、そんなお父さんたちを心配しているなんて」


 ラナは驚いて、アンナを見つめた。


「どういうこと?」


 アンナは泣き笑いの表情のまま、目をきょとんとさせた。


「え? お父さんたちから何も聞いていないの?」

「あたしが聞いたのは、明日食べるものもない家にアンナをこのままいさせるのは、忍びないから、外に奉公にだしたっていう話よ」


 アンナは大きく首を左右に振った。


「うそ! うそうそ! そんなの嘘!」


 アンナは時々涙を流しながら説明した。

 今から三ヵ月前、クランシェの村に、このあたりではとうと見かけない豪華な馬車がやってきた。馬車に乗っていたのは、セドリック神官だった。それは後でわかることで、このときは、身分を隠すために、仕立ての良い服を着た裕福な貴族のような服装をしていた。


「この村に、赤毛のそれはそれは美しい少女がいると聞いたのだが」


 クランシェの村で、赤毛の少女といえば、ラナとアンナだけだった。このとき、ラナは周辺に警備に出かけていて、すぐに対応できたのはアンナだけだった。

 セドリックはアンナを一目みると、微妙な表情を浮かべた。


「確かに美しいが、いささかやせすぎているな」


 アンナは自分を観賞植物でも見るように上から下からつま先から頭のてっぺんまで見回すセドリックを少し気味が悪い男だと思った。しかし、男の裕福そうな服装や身分に興味も持った。


「ご主人、少し話したいことがあるのだが」

「どういう内容ですか?」

「娘さんのことだ。決して悪い話ではない」


 アンナの父親はアンナを外に使いに出すと、家の奥にセドリックを案内した。使いを終えて家に戻ってみると、セドリックがにこやかにアンナを出迎えた。

 そして父親に告げられる。

 セドリックという男は、アルデイルの町の神官で、屋敷で働く人材を探している。アンナは、セドリックの屋敷に奉公に行きなさい、と。

 アンナは突然のことに、頭が真っ白になった。


「仕事といっても、掃除やベッドの手入れなど、簡単なものだよ。されで三食昼寝付き、好条件だと思うのだがね」


 セドリックはにこにことした笑みを絶やさないまま話しかけた。


「いやです。わたしはここにいる。お父さんたちと一緒にいるよ」

「はて。それは困ったな」


 セドリックは顎に手を当てた。セドリックの横に立つようにアンナの父親が一歩前に出た。


「アンナ、あきらめなさい。すでに金はもらっているんだ。この家にお前の居場所はない!」


 冷たく告げられ、アンナは今度こそ、目の前が真っ暗になった。

 そして気づいたら、セドリックの屋敷にいたのだ。


「わたしは家族に売られたのよ!」

「そんな……」


 ラナはアンナから重大なことを告白され、言葉を失った。アンナの父親の姿を脳裏に思い浮かべる。名前はガッシュといって、偉丈夫で家族思いの父親だ。あんな父親が自分にもいたらいいなと思ったこともある。

 そのガッシュが、我が子をお金欲しさに売るだろうか。自分に問いかけ、否、とすぐに結論付ける。


「何か理由があるはず。カルロスの声の術にかけられていたのかもしれない。お父さんを信じてあげて」

「急に、そんなこと言われても……」


 アンナは瞳をさまよわせ、再び涙を流した。

 ラナはそんなアンナを抱きしめた。


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