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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、セドリックから夜食の誘いを受ける

 その後、いったんみんながいる食堂に戻った。食堂では、少女たちがだいぶくつろいでいた。

 レイクは少女たちに囲まれてご機嫌だった。

 そんな若者たちを無表情で護衛士が見守っていた。

 二人の門番は自分の持ち場に戻っていた。

 この場には9人の少女たちがいた。セドリックは彼女たちに帰る場所があるなら帰っても構わないし、今日はもう遅いから、今晩はここに泊まり、明日の朝帰ってもかまわない。帰る場所がないものには、落ち着くまで寝る場所と食事を提供することを説明した。

 セドリックの物静かな物言いは、少女たちの不安を補った。

 セドリックに化けていたカルロスは、見た目こそセドリックだったが、要所要所に横柄で欺瞞的な態度をとっていたため、こうして本人と触れ合うとね、まったくの別人だったということが改めて分かる。

 カルロスがセドリックに化けた当時、屋敷で雇っていた使用人をことごとく解雇し、新たに別の人間を雇い入れたのは、偽物だとばれることを隠すためだったのだ。


「わたしは避難場所となった学校の様子を見てくるわ。レイクとユーリはここで休んでいて」

「俺も行きます」

「僕も行くよ」

「二人とも、無理しなくてもいいのよ」

「無理なんかしてないです。あの場所は今も混乱していると思います。ルリカたちの様子も気になるし」

「僕もそうだよ。ラナが心配なんだ。ここまできてお留守番なんて嫌だよ」


 レイクとユーリは置いて行かれてはかなわないと必死になって訴えた。エルダは苦笑した。


「分かったわ。ただここも誰か守る人がいて欲しいのよね。門番の二人だけだと心許ないし」

「それなら、俺がいる」


 護衛士が名乗りをあげた。


「お願いしてもいいの?」

「俺は月単位で雇い主に雇われているだ。今月分の賃金は前払いでいただいているから、俺にとっては、日常と同意だ」


 セドリックが護衛士に頭をさげた。


「よろしく頼みます」

「俺の雇い主はあなたということになっている。仕事としてやっているから、あなたに頭をさげられる必要はない。金はいただいているからな」

「しかし、あなたを雇ったのは……」

「俺はセドリック神官に雇われているのだ。そしてあなたがセドリック神官であることに変わりはない。そうだろう?」

「……そのとおりです。ありがとう」


 セドリックは護衛士に礼を言うと、エルダに向き合った。


「エルダ殿は今夜、泊まる場所は決まっていますか?」

「昨夜から借りている宿があります。荷物もそこに置きっぱなしなので、今夜もそこに泊まることになるでしょう」

「そうですか。よろしければこの屋敷に泊まっていただくこともできましたが、宿の用意があるなら、余計な心配でしたな。

 せめて、夜食をごちそうさせてください」

「まあ、それは助かるわ」


 エルダが嬉しそうに言うと、はたと気づいたようにセドリックは顔色を曇らせた。


「いや、そうは言っても、はて、いままで誰が料理を作っていたのだろう」


 セドリックは首を傾げた。自分の屋敷ながら長い間牢屋にいたため、現代の屋敷内のことについて知らなかった。


「自分で提案しておきながら、おはずかしい」

「それならわたしたちが作ります」


 声を上げたのは、一人の少女だった。


「わたしはオルビア。マールと一緒に毎日料理を作っていたのはわたしたちなんです」

「なんと、君たちが」

「はい」

「はい」


 二人の少女は声をはもらせて返事をした。ユーリは彼女たちが自分がセドリックの部屋に侵入したとき、カルロスに操られて自分に抱きついてきたことを思い出して、どきりとした。

 二人とも姉妹のようによく似ている。オルビアは肩まで伸びた髪をツーサイドアップにし、マールは右側にワンサイドアップに髪を結わえている。

 二人ともルリカとはいわないまでも、童顔のわりには胸が大きい。オルビアとマールは交互に説明した。


「カルロスに操れていたときの記憶はあいまいですが、毎日三食料理を作っていたことはおぼろげながら覚えています」

「どの調味料がどこにあるか、どの食材がどこに保管されているのかわかるんです」

「今日のディナーもわたしたちが作ったんです。カルロスに指示されて得体の知れない液体を料理にまぜたりはしましたが。わたしたちの料理、どうでしたか?」


 突然、ツーサイドアップのオルビアがユーリに質問してきた。


「え、あ、うん。おいしかったよ。最初は警戒していたのに、おいしすぎて警戒を解いて食べていたもの」


 だからこそ、気づけば牢屋にいたのだが。


「そう言っていただけるとうれしいです」

「とってもうれしいです」


 ワンサイドアップのマールもオルビアと同じようにうれしそうに顔をほころばせた。

 セドリックが大きく頷いた。


「オルビアとマールの作る料理は確かにおいしい。何の変化もない牢屋では、毎度の食事が楽しみにならなかったからな。君たちが作ってくれていたのか。ありがとう」

「喜んでいただけていてうれしいです」

「うれしいです」

「それではお願いしてもいいかな」

「もちろんです」

「もちろんです」


 またしても声をはもらせて答えるオリビアとマール。

 セドリックはエルダのほうを見た。


「エルダ殿のお仲間は何人ほどいるのかな」

「大所帯で申し訳ないけれど九人よ。そのうち二人は避難所で休むために眠りについているわ」

「それなら今頃は目覚めているかもしれませんな。ここにいる私たちを含めると、二十人前ほどになるか。けっこうな量だが」

「それぐらいなら大丈夫です。普段の二倍作ればいいだけですものね」

「食材はディナーに備えて、偽セドリックが大量に仕入れたので、まだまだ余裕があります。わあ、腕がなりますよ」

「一時間、いえ三十分のうちに作ってみせましょう、ねえ、マール」

「ええ、もちろんよ、オルビア」


 二人の少女はお互いに、目を輝かせて頷きあった。


「それじゃあ、夜食の件はお願いします」


 エルダはセドリックと少女たちに行って、屋敷を出て避難場所に向かった。


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