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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、門番の嫌がらせを受ける

 門番たちの様子に気づかないふりをしても気軽にエルダは彼らに話しかけた。


「あれからどうな様子かしら?」

「どんな様子って?」


 と、ぶっきらぼうな回答が返ってきた。


「だから残された子たちの様子はどうなの?」

「あの部屋は外風が入ってきて寒いっていんで、食堂に全員集まっているよ」

「彼女たちと話がしたいわ。中にいれてくれないかしら」

「それはできん」

「どうしてよ?」

「セドリック様の命令だからだ」

「まだそんなことを言っているの? さっき警備員の男の人が言っていたでしょう? 屋敷に異常を感知した場合、強制的に侵入することは有効となるって。わたしたちには中に入る権利があるわ」

「異常は確認され、今は平常化したと考える。だから強制的侵入は犯罪だ」

「それはあなたの勝手な判断じゃないの?」

「そんなことはない。客観的観測だ」

「セドリックは魔族が化けていたのよ。その魔族はセドリックの部屋の壁を壊して外に逃げて倒されたの」

「知らん。俺は知らん。セドリック様に魔族が化けていたことなんて知らん。俺、その現場、見てないし」

「強情な人ね」

「強情じゃあない。これは仕事なのだ。仕事を確実にこなさないと給料がもらえないのだ」

「時と場合があるでしょう」


 そんなやり取りをしていると、扉が内側から開き、もう一人の門番が出てきた。

 彼もユーリたちを見ると、顔をしかめた。


「なんだ、外が騒がしいと思ったらまたあんたたちか」

「残してきた女の子たちが心配で戻ってきたのよ。彼女に合わせてちょうだい」

「何人たりとも中にいれることできん。これはセドリック様の命令なのだ」


 レイクがあきれたように言った。


「そのセドリックが今は行方不明なんだよね」

「行方不明でもなんでもかまわん。セドリック様の命令はやぶるわけにはいかない」

「それならせめて、彼女たちを解放してあげてちょうだい。彼女たちはセドリックに化けていた魔族が集めてきた子たちなのよ。その魔族が死んだ今、彼女たちがここにいる必要はなくなったわ」

「少女たちを屋敷の外に出すなというのもセドリック様の命令の一つだ」

「ここは力づくでやるしかないかしらね」

「犯罪者になる覚悟があるならばな。聖職者を犯罪者にさせることができたら、俺たちはいろんなところに吹聴してやろう」


 にやにやと嫌味な笑みを浮かべる門番たち。

 ユーリは悟った。そもそもがそれが目的なのだ。屋敷の中に残っている少女たちのことを心配するよりも、自分の見栄と人を貶めるために、彼らは自分たちを屋敷に入れることを拒んでいる。


 そのことに気づいたのはユーリだけではなかった。

 エルダと門番たちの会話をやきもきしながら聞いていたマリーナの父親が前に出た。


「君たち、栄誉が欲しいのか? 栄誉はやれんが金ならやれる。だからマリーナに会わせてくれ」


 きらりと門番たちの目が光った。


「金だと? 金に物言わせて俺たちをおちょくる気か?」

「まあ、いくら出すか金額を聞いてやらんでもない」

「これでどうだね?」


 男が手のひらを向けた。


「五千だ」

「五千じゃたりないな。せめてもう一桁ないとな」

「五万か……それでも娘をここからだせるなら、いいか……」

「ちょっと、あななたち、それは賄賂というのよ。賄賂は法律で禁止されているのよ」

「法律で禁止されていようか金に勝るものはない。五万エルあったら、この町を出て違う町で一山当てることもできるかもしれない」

「そういう人生もいいよな」


 二人の門番はお互いに頷き合った。

 エルダは男のほうに向き合った。


「あなたもあなたよ。そんなことをしたら、あなただって捕まるかもしれないのよ。捕まっても、金ですぐに外にでることができる。今の俺にはマリーナに会うことが重要なんだ」

 大人たちのあきれた会話を聞いるうちに、ユーリは思わずため息をついた。

 自分本位で人のことを考えない。こんな人たちを守るために自分が命をかけて魔族と戦ったのかと思うと、やりきれない。


「俺は金はないが、キャシーことが心配なのは本当なのだ。こうなったら、無理やりにでも中に入るぞ」


 ギルバートが扉に手をかけると、門番の男がギルバートの頭を後ろから殴った。


「いってー。何するんだよ」

「不審者を侵入させないようにするのが俺たちの仕事なもんでね」

「だからって暴力を振るうのはどうかと思うわ」


 エルダは門番たちをにらんだ。

 エルダの権幕に気おされ、門番の一人が腰に履いた剣の柄に手をかけた。


「やるっていうの?」

「いや、これは思わずってやつだ。正当防衛だ」

「さきに手をだしたのはあなたたちじゃない」

 一触触発の事態となった。

 そこに、ゆっくりと再び扉が開く。扉の先には白髪が多い髪とひげを伸ばし放題にした男が立っていた。


「あなたは!」


 ユーリは声をあげた。彼は自分が牢屋から脱走するために協力してくれた男だった。


「やや。勝手に食堂からでてきたな」


 門番の男が言うと、男は門番に目線を移した。


「あなたが出て行ってからしばらく戻ってこなかったものだからね。もしやと思って来てみたのだよ」

「あなたはいったいどういう方なんですか? この屋敷の方なんですよね」

「私は……」


 男が口を開くよりさきに、門番二人が交互に言った。


「こいつは俺が門番職についた一年半前にはすでに地下の牢屋にいた者だ。どんなやつかは知らん」

「つねづねあやしい奴だと思っていた。セドリック様はどうしてこんなやつを牢屋にいつまでもいれておくのかと不思議だったのだ」


 門番の言葉を男は穏やかな表情を浮かべたまま黙って聞いていた。

 再びエルダは質問した。


「あなたは何者なんですか?」


「私はセドリック・クラーク。アルデイルの教会の神官だよ」


 門番二人は驚きのあまり、その場で飛び跳ねた。


「ええ!?」

「なんですと!」


「やっぱり、そうだったのね」


 エルダがため息をつくの言うと、門番二人はわめき始めた。


「こいつがセドリック様であるはずがない。いままでのセドリック様が魔族が化けていたのだとしても、それは本物のセドリック様に似せていたはずだ。こいつは化けていたセドリック様とは人相が似ても似つかない。髪はぼさぼさでひげは伸び放題」

「それにいつもこぎたない服を着ているのだぞ。こんなに身なりにだらしない人間が神官なわけあるか」

「あなたたちの目は節穴なの? この人の瞳の色はセドリックと同じよ。髪型や髭、服装に捕らわれないでよく見てみなさい」


 二人の門番は男をまじまじと見つめ、顔色を真っ青にした。


「――まさか」

「ほ、ほんとに……?」


 門番たちの心に宿った一瞬の疑いは、すぐに否定の念で覆いつくされた。


「いやいやいや。この後におよんでいままでの雇い主が偽物で、牢屋の不審な男が本物だったなんてオチはありえない。というか信じたくない」

「そうだそうだ。俺たちは俺たちの仕事を全うしてきただけだ。そんな俺たちは、おまえがセドリック様だと認めるわけにはいかないのだ」

「いかないのだ」


「だったら」


 エルダが口をはさんだ。


「この人がセドリック本人だと証明できたらどうかしら? それは明日の午後には分かることよ。ヨルドからティテスの審判ができる裁判官がくる予定なの。ティテスの判決はゆるぎないものよ。その審判でこの男性がセドリックだと証明されることでしょう。

 本来はセドリックに化けたカルロスの行動の真偽を審判する予定だったけれど、カルロスはわたしたちが倒しちゃったからね。ちょうどいいわ」


 何がちょうどいいのか門番たちには分からなかったが、あきらかに自分たちに不利になるように物事が進んでいることをひしひしと感じ、戦々恐々となった。

 自らを神官セドリックだと名乗る男がゆっくりと口を開いた。


「君たちは今から一年半ほど前に私が牢屋に捕らえられた後に雇われたんだね?」

「そ、そうだ、です」

「そのとおりです。だからもしセドリック様が偽物だったとしても、俺には区別がつかなかった。本物と会ったことがなかったから」


 横柄な言い方だった門番たちの言葉使いが、うってかわって慇懃なものになっていた。


「そうでしょうそうでしょう。だから安心しなさい。君たちの行動は悪くないのだから」

「え?」

「は?」

「いかなる理由があろうとも、任務を全うしようという君たちの心持ちはたいしたものだと思うよ」

「そ、そうですよね」

「俺たちは仕事熱心なんです」

「そんな君たちならわかるはずだ。

 神官セドリックに化けて好き勝手なことをしていた魔族は中央からやってきた彼らに討たれた。それはアルデイルの町に住む人間として、感謝するべきことだということだよ」

「う、まあ、そうですね」

「異論はありません」

「私を本物のセドリックだと信じてくれないだろうか? そうすれば君たちの今までの行いは、良心的に受けいれられるだろう。もし、信じていただけないのであれば、ティテスの審判で私が本物のセドリックだと判断されたときに与えられる君たちの処遇に、私は助たちはしないだろう」

「信じます信じます。あなたがセドリック様だということを信じます」

「信じますよ。先ほどは身なりが神官らしくないなんてことを申しましたが、それは俺の目が節穴だったからです。こうして改めてみると、あなたの知性を彷彿とさせる物言いや、落ち着き払った態度は、まさに神官。俺はあなた様がセドリック様だと信じますよ」


 にこりとセドリックは微笑んだ。


「そう言ってくれてうれしいよ。いままで私の屋敷を守るために働いてきた君たちに、牢屋暮らしをさせるのは心苦しいからね」

「なんとお優しいお言葉。そんなお言葉を偽物にはかけてもらえませんでした」

「やはり本物は違うものですな」


 美辞麗句を言いまくる門番たちをユーリは辟易した思いで見つめていた。


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