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アクアディア聖国物語  作者: 中嶋千博
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ユーリ、青い空を見上げる

「ない……。どうして?」


 少年のハシバミ色の瞳は、空を見上げている。しかし焦点を当てているのは、空の手前にある物干しざおである。

 物干しざおに干してあるべき存在が、今からでも、ふいに出現しないかと、わずかな願望をもって目を凝らした。

 もちろんそんなことが起こるわけはなく、物干しざおはがらんどうで、青い空は相変わらず青い空だ。


 本来はこの物干しざおには学校の制服が干してあるはずだった。なぜなら、昨晩ここに制服を干したのは彼本人なのだから。

 少年の名はユーリ。十六歳の学生である。


 昨日学校内で、やむを得ない事情で制服を汚してしまい、その後の授業は運動着で授業を受けたのだった。

 家に帰って、そっこうで制服を洗い、庭先のこの物干し台に干した。

 ここに制服を干していれさえすれば、一晩のうちに洗った制服は乾き、今日はきれいになったその制服に腕を通して、学校に登校できるはずだった。

 それが朝起きて、庭に制服を取り込みに庭にいったら、干していたはずの制服がなくなっていたのである。


「これは夢かな?」


 ユーリは事実を受け入れらず、何度も瞬きをしてみた。それでも制服はそこになかった。


「はぁ……」


 ようやく事実を受け入れた。風で物干しざおから制服が飛ばされたのかもしれない。庭の中を探してみる。

 しかしさほど広くない庭の中には制服はなかった。


 家族が干されている制服に気づいて、中に取り込んでくれたのか。と一抹の希望が首をもたげるが、すぐに首を横に振るう。


 ユーリは父と姉と自分の三人。

 朝早く出勤し、夜遅くに帰宅する父は、ユーリが自分の手で自分の制服を洗ったことすら気づいていないだろう。

 昨日夜勤だった姉は、まだ帰ってきていない。

 それでも、家族の誰かが家の中に取り込んだ、という願望のもと、家の中も探してみる。


 しかし、制服はなかった。


「こうなったらしかたがない」


 このままでは学校に遅刻してしまう。ユーリは覚悟を決めた。


「運動着で行こう!」


 寝間着から運動着に着替え、全速力で道を駆け抜け、学校に向かう。制服を探すことに手間取って、いつもより遅い登校になってしまった。

 校門の前にはすでに生徒の姿はかった。校門から校舎までの距離がやけに長く感じる。

 ユーリは痛くなってきた脇腹を抑えつつ疾走し校内に入ると、予鈴のチャイムが鳴り響く廊下を駆けぬけ、予鈴のチャイムが鳴り終わるとほぼ同時に教室に飛び込んだ。


 ちょうど教壇に着いたところの担任の教師に睨まれた。


「すみません。ぎりぎり遅刻、じゃないですよね」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、自分が遅刻ではないことを主張する。

 遅刻ぎりぎりで制服ではなく運動着で教室に入ってきたユーリに向けて、教室のいたるところからくすくす笑いがあがる。

 教師はユーリの恰好を見て、片方の眉をあげた。


「どうして制服じゃなくて運動着なんだ?」

「制服は洗濯中なんです」


 制服をなくしたなどと、ここで正直に言うつもりはない。管理が不十分だとかなんだとかで説教を食らうのが目に見えているからだ。

 教師はいぶかしげな表情を浮かべるが、それだけだった。


「まあ、いいだろう。確かにぎりぎり遅刻ではないな。席に着きなさい」

「はい」


 ユーリは級友たちに照れ隠しの笑みを浮かべながら自分の席についた。

 アクアディア学院の制服は、紺色を基調にし、袖の部分には三つの金色のボタンがついている。襟元には男子は水色のネクタイを、女子は水色のリボンをするのが特徴だ。


 教師は教室を見渡してにやりと笑みを浮かべた。


「さすがに今日は休むやつはいないな」


 言うと持っていた出席簿をめくって今日の日付の頁を開き、一番の上の行に○を記述すると、それより下は棒線で全部が○であることを示した。


 明日から春休みで、一か月間、学校は休みとなる。

 終業式である今日は校長の長い話を聞くだけで、授業はないのだ。


「九時から終業式が始まる。五分前には、いつものように体育館の所定の位置に整列しているように」


 教師の指示に元気よく返事をする生徒達。


「はーい」


 そんな生徒たちを見回して、今気付いたというように、言葉を続ける。


「終業式だから、女子達はリボンを正式な結び方に変えるんだぞ」



 女子達から非難の声があがる。


「ええ? そんなぁ」

「せっかく今日はかわいく結べたのにぃ」


 女子のリボンの結び方は自分でアレンジが可能なため、どんな結び方がかわいらしく見えるか、試行錯誤を怠らない。そして日々実践しているのだ。


 教師は女子達の声が聞こえなかったふりをして教室を出て行った。

 すぐさま、ユーリのところに一人の女子がやってきた。


「ねえ、ユーリ」


 そのあまったるい声で相手を見ずとも誰だか分かる。

 振り向くと思った通りそこには、背中まである蜂蜜色のゆるやかな髪と、青色の瞳をした女子生徒の姿があった。襟元のリボン正式な結び方の蝶々結びとなっている。

 どんな結び方をしても、フィリアのことはかわいいと、十人の内九人は思うだろう。それくらいの容貌をフィリアは持ちあわせている。


「やあ、フィリア。おはよう」

「おはよう。……ねえ、ユーリが運動着なのは、わたしのせいよね?」


 制服を庭先に干しておいたらなくなっていたなんて、制服が汚れたきっかけになった本人に話したら余計に心配をさせてしまうだろうと思い、とっさに嘘をつく。


「昨日、制服を洗濯したのが遅かった時間だったから乾かなかったんだ」

「そうなの? それでも、ごめんなさい」


 眉根をよせ、心から申し訳なさそうな表情をつくるフィリア。


「気にしないで」


 返答しながら、ユーリは昨日の出来事を回想した。

 それは昼休みの出来事だった。

 ユーリが学食に向かうため廊下を歩いていると、向こう側から友達とおしゃべりしながらフィリアがやってきた。

 ユーリにはフィリア達の後ろ、少し離れたところで、男子が二人オレンジジュースをめぐって格闘しているのが目に入っていた。

 どうやら一つしかないオレンジジュースをどちらが取得するかで争っているようだった。

 と、オレンジジュースが二人の手から離れ、宙に飛んだ。このままではフィリアはオレンジジュースを後ろから浴びてしまうことになる。

 その時には手を伸ばせばフィリアに触れられるところまで近づいていたユーリは、思わずフィリアの腕をつかみ、自分のほうへ引き寄せた。


「きゃあ」


 突然のことにフィリアは小さく悲鳴を上げ抗った。その反動でユーリとフィリアの位置がダンスを踊るように回転し、結果、ユーリがフィリアのかわりに背中にオレンジジュースを浴びることになったのだ。

 フィリアはユーリに感謝し、オレンジジュースを投げてきた二人の男子は、ユーリに謝ってくれた。


 ユーリとしては、あの時フィリアを助けられると思ったから手を出しただけのことだった。代わりに犠牲になることが分かっていたら、手出しはしなかったはずだ。


 自分はそこまでお人よしではないとユーリは思っている。


 フィリアの肩越しに、女子たちがリボンを結びなおしているのが見える。

 学級委員長が声を張り上げた。


「そろそろ九時五分前になります。すでに移動している人もいますが、まだここにいる人たちもすみやかに体育館に移動してください」


 フィリアの友達がフィリアに声をかけてきた。


「フィリア、行こう」

「ええ、そうね。それじゃあ、ユーリ、また」

「うん」


 ユーリも自分の席から立ち上がり、クラスメイトの流れに沿って移動をはじめた。

 と、そこにユーリの肩に思いっきりぶつかってきた男子がいた。不意打ちだったため、ユーリはもろに体制を崩し近くにあった机の角に腰を打つつけ、苦痛の声をあげる。


「つっ……」

「おっと、わりぃ」


 ユーリにぶつかってきた男子は、たいした謝りの気持ちを感じさせない言葉をユーリに投げつけ通り過ぎた。


 ユーリは小さくため息をつく。その男子生徒はダグラスといい、フィリアに恋心を抱いている男子軍の一人だ。

 さっきまでフィリアと親し気に話していていたユーリに、意地悪をしたくなったのだろう。

 体当たりに、明らかに意図的なものを感じたが、ユーリは黙っていた。


 いちいち言い争いをするのはめんどうだ。


 体育館にアクアディア学院の生徒達が整列する。

 案の定、運動着なのはユーリだけだった。


 思ったより周りの人たちが自分の服装を気にしていないことだけが救いだ。


 教壇で演説するのはアクアディア学院の校長グランデ。ふっくらとした体つきに好々爺のような面差しをしている。


 一見、人の好さそうな顔をしているが、時と場合によっては、鬼のような形相になることもあるとユーリは噂で聞いたことがある。

 グランデの顔が鬼のような形相になるところなど、ユーリには想像できない。人のいいおじいちゃん、という印象だ。


 校長グランデの話は長い。


「アクアディア学院の生徒である自覚をもって、恥ずかしくない行動をしてください」


 ありがたいお話が終わったのは三十分後だった。


 校長の長い話が終わって、ほっとた生徒達は、一同それぞれ教室に戻る。


 教室で各々がおしゃべりをしていると、担任教師が入ってきた。


「さて、これから春休みの宿題を配るぞ」


 数分後、大量の宿題の山がユーリ達の机の上に乗っかっていた。

 これを全部やるのは大変だ。


「はぁ」


 ユーリはため息をついた。

 生徒達の心境を代表して、お調子者のラクロスが声をあげる。


「先生、これ全部一ヶ月でやるんですか? これじゃあ、遊ぶヒマがありません」


 教師はにやりと笑う。


「もちろん全部だ」

「ええ~!」


 ラクロスが悲鳴じみた声をあげると、それに追随するように、いたるところから抗議や不平の声があがる。


「うげぇ」

「むりでーす!」


 教師は生徒たちの声を受け止めて、苦笑を浮かべるとすぐに真面目な顔になって、生徒達を見渡した。


「これから一ヶ月の春休みだが、休みが明ければ当然、次の学期が始まる。中等部としては最後の一年間となるんだ。選択教科もはいってくる。つまり、この一ヶ月を将来の目標に向かって努力するか、ただただぐうたら過ごすかによっておまえ達の将来はまったく違うものになるぞ」


 教師の説教を他人事のように聞く生徒達。

 先が分からない将来より、目の前の長期休みのことのほうが気持ちの大半を占めている。


 続けて、教師が春休みの間に注意することや推奨する行為などを説明していく間に、そそくさと教科書をかばんに詰め込んで帰り支度を始める生徒や、興味なく窓の外をみて大きなあくびをする生徒がいる。


 ユーリも同じようなもので、教師の話は耳に入ってきても右から左。頭の中ではお気に入りのマンガのことを考えはじめた。

 春休みに入ったら、最近ようやく最終回を迎えたマンガを一巻から最終巻の百四十九巻まで一気に読もうと思っているのだ。


 マンガというのは、絵と文章によってつづられた物語のこと。かつてこのエルファメラの世界とは違う世界からやってきた者が、この世界に広めた文化なのだとか。

 異世界から人がやってくる云々は眉唾物だが、マンガの文化はすばらしいとユーリは思っている。


 マンガは物語ごとにシリーズがあり、マンガを描く人のことをマンガ家という。

 ユーリが気に入っているマンガは、ここでない世界が舞台の物語。魔力ではなく、科学の力が人類の生活を支える世界の物語だ。

 主人公は科学技術を駆使して、世界を征服しようとする悪の結社から世界を守ろうと果敢奮闘するのである。その悪の結社の総帥が、担任の教師と瓜二つなのだ。ユーリは担任の教師を見るたび、いちいちマンガを思い出してしまう。とくに「にやり」と笑う教師の表情は悪の総帥そのものだ。


 科学技術かぁ。

 ユーリは未知なる力、科学技術というものに憧れの思いをはせる。科学技術というのは、電力という魔力に似た力を動力として、生活に便利な道具を使用することができるらしい。

 個人の魔力に頼るのではなく、誰でも共通に使える電力という力で生活できるのだ。なんて便利なんだろう。


 魔力は生まれたそのときから、得意とする魔法の種類が決まっていて、使用したい魔法を使えるようにするためには、さらに神と精霊と魔法契約をしなければならない。


 何もないところに火を発動させるためには、火の神やその眷属の精霊と契約しなければならないし、治癒魔法を使えるようになるためには、癒しの力を持つ神や精霊と契約しなければならない。

 魔法契約をしたら魔法は使用できるようになるが、魔力をあげるためには、それなりの修行なり努力をしなければならない。


 逆を言えば、努力をしなかったら、それどまりということだ。


 科学技術が発展したマンガの世界では、契約という面倒な手続きをしなくともよく、電力は自分の力を必要としないから、使い放題だ。

 魔力が足りなくて使用できなかった、という理不尽な思いをしなくてもいい。


 便利な力だよなぁ、ユーリは憧れのため息をつく。


 トントン。

 教師が出席簿やら連絡事項やらが挟まったバインダーを机の上で鳴らす音で、ユーリは我に返った。


「きりーつ」


 担当の号令係が声をあげる。


「さようなら」

「さようなら」


 教師が教室から出て行くと、先ほどまでの無関心から一変して、一気に教室内は春休みに浮かれた雰囲気になった。


「待望の春休みだ。夜遅くまで起きて、朝遅くまで寝られるぞ」

「わたし、この春休みの間にイメチェンするのよ」


 どこの国でも、どこの世界でも、長休みというものは学生にとって嬉しいイベントだろうとユーリは思う。


 科学技術が繁栄している世界の人たちも同じだろうなぁ。

 無理やり押し付けられる、生きていくのにさほど重要ではないと思う知識や、やりたくもない運動を強いられる体育という名の拷問から解放される期間なのだから。


 にぎわう教室の中、ユーリも席を立ち、かばんを肩にかついだ。春休みの宿題が入っているので、いつもより数倍重い。これを家まで持って帰るのを想像すると、一気に疲れた気分になる。


 ちょうど教室を出る手前で、五、六人の男子が固まってわいわい騒いでいた。

 その中から、ひときわ大きな声のラクロスの声が耳に飛び込んできた。


「やっぱり探検家だろう。自分の腕一つで世界を渡り歩く。これこそ男のロマンだぜ。そう思わないか? ユーリ」


 ちょうど、通りかかったユーリにラクロスが同意を求めた。


「なんの話?」

「将来なりたい職業だ」

「明日から春休みなのに、それを通り越して将来の話をしているの? まだまだ先の話だよ」


 あきれた表情を浮かべるユーリ。

 話に最初から加わっていた学級委員長のゼルジュが銀縁フレームの眼鏡の縁をくいっと上げてユーリを見つめた。


「ユーリはのんきですね。まだまだ先だと考えていると、あっという間に時間は過ぎるものですよ」

「まあね」


 ユーリが肩をすくめて同意すると、ゼルジュはは満足げに頷いた。そして今度はその場にいるみんなを見回す。


「今から一ヶ月もある春休みですが、ふと気付いたら明日から新学期ということになっていた、ということを経験した人は多いでしょう?」


 突然語り出した学友に、ラクロスがぞんざいな返事をする。


「へーい。ごもっともな説教をありがとうよ」

「礼を入れるまでもありません。クラスメイトを正しい道に導くのも、学級委員長の役割です」

「ほめたわけじゃないんだけどなぁ」


 ラクロスがぶつぶつとつぶやいた。


「というわけでラクロス、探検家は危険ではありませんか?」


 ユーリもゼルジュの言葉に同意する。


「そうだよ。わざわざ危険なことをすることはないと思うよ。魔物と戦ったりもするんでしょ?」


 探検家とは普通の人が寄り付かない危険な場所に赴き、貴重な素材を入手することを生業にする職業だ。

 貴重な素材とは例えば、断崖絶壁の崖の合間に生える貴重な野草だったり、深海に眠る大きな真珠だったり、魔物が巣食う森の奥地に咲く美しい花だったり、魔族が住まう城の宝物庫の宝石だったりする。

 それらはいずれも高値で取引される。

 ユーリ達の問いかけに、ラクロスは挑戦的な笑みを浮かべた。


「魔物どころか、魔族とやりあうこともあるらしいぞ。魔族殺しのラクロスなんて異名が世の中に知れ渡ったら、想像するだけで爽快だぜ」


 魔物は通常の動物よりも力があり、魔法を使える者もいる生き物だ。魔族は体力、魔力とも人間よりも高く、人間の血肉、そして種族によっては負の感情を糧とする。そのため、わざと人間同士を戦わせたり、悲しませたり、嫉妬させたりするのだ。

 ユーリは幸い、今まで魔物にも魔族に出くわしたことがない。自分を襲う存在になど、一生出会いたくないというのが本音だ。


「ますます危険だよ」


 そんな者達と戦うだなんて、ユーリなら真っ向からお断りだ。

 ゼルジュがしたり顔を浮かべた。


「ユーリの言う通りです。探検家は多くの男子があこがれる職業ですが、実際に探検家になるのは、腕におぼえのある一握りの人間だけという、学問とは別の意味で狭き門なんですよ」

「だからこそ夢があるだろ? 俺たちはこの国しか知らない。砂漠に囲まれたこの国しかな。けれど世界は広いんだ。自分が知らない世界が砂漠の向こうにあるんだぜ。どんな世界なのか想像するだけでわくわくしないか?」


 目を輝かせるラクロス。ユーリにとってラクロスの思いは熱すぎるし、まぶしすぎる。

「春休みは探検家になるべく、体力づくりと剣術の稽古に励むつもりだぜ」


 ラクロスはにかっと笑った。

 ラクロスはクラスの中でも、ひときわ体格がしっかりしていて力も強い。かわってユーリはひょろりとしていて、体力も同年代の男子と比べると弱いほうだ。


「ラクロスは体力も行動力もあるから、探検家は合っているかもしれないね」


 僕とは違ってね、と心の中で付け加えるユーリ。


「力だけは自信があるからな」


 腕を上げて力こぶをつくってみせるラクロス。しかしすぐにそれをひっこめ、ユーリに苦笑いを向ける。


「けど、魔力はおまえにはかなわないぜ」

「僕はなんとなくできるだけだから」

「おいおいそりゃあ、聞きようによっちゃあ、イヤミだぞ」

「剣術はクラスでも最下位です、と言っても、イヤミ?」

「それはただの開き直りだ」


 そこに別の級友が言う。


「将来のことなんて分かんないぜ。それより今は学生の身分を充分に楽しもうや。昼までまだ少し時間がある。スフィアやろうぜ」


 スフィアというのは、獣の皮を繋ぎ合わせて中に空気を入れ、二十センチほどの大きさに膨らませたボールを使って遊ぶ球技だ。六人二組でチームを組んで遊ぶ。そのため最低でもメンバーは十二人は必要だ。


「お、いいね。ユーリもどうだ?」

「せっかくだけど僕は遠慮するよ」

「そうか」


 相槌を打つとラクロスは、誘ってきた級友に向き直った。


「あと何人集まればできる?」

「二人だ」

「よし、誰か捕まえるぞ」


 わいわいしているラクロスたちを後にして、ユーリは教室を出た。


 春休みに唯一やりたいことが、お気に入りのマンガを読破することで、それ以外は何もない。

 ラクロスのように熱く語れる将来の夢も特にない。

 何事もなく過ごせればそれでいいと思うユーリなのである。


 夢と現実とは違う。夢を見て、現実を実感して、絶望するのはいつも夢見る者たちなのだ。だ

 ったら最初から夢なんか見ないほうがいい。


 他人に迷惑をかけず、自分も傷つかないのだから。


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

剣の魔法の世界の物語を書きたいなぁと思い、

思いつくまま、文章を綴りました。


最後まで完結できるように頑張っていきたいと思います。


一人でも読んでくれる方がいるかもしれないと思うと、

とてもどきどきします。


ご指摘やご感想など、いただけたら嬉しいです。

よろしくお願いいたします。


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