第十八章:じゅうにさい
今日も普通だ。
昨日の健との愚痴り大会の後、僕等はこれまでにもない清々しい顔で別れを告げ、僕は静かな眠りに着き、今日、いつもと違ってジュエル
に叩き起こされることなく、爽やかな朝を迎えた。
そして、普段通り学校へ行った。昨日、あれから深雪の家まで追いかけて行き壮絶なバトルを繰り広げていた葉咲さんを止めに行き、
疲れ果てていた健を慰め、タニシの長話を聞き、無事に帰路へ着いた。
・・・・・・・あれ、なんか普通じゃない気がしてきた。
因みに、葉咲さんはこの世の者ではつくる事は出来ないであろう、般若の如き顔で深雪に何やら凄まじい技をかけていたらしい。
で、当の深雪は、漫画を熟読しながら適当に葉咲さんの技を受け流していたそうだ。
そんな二人の姿を直に見た健は、軽い女子恐怖症に陥っていた。慰めるのに大変だったのなんの・・・。
とにかく、今日は平和だった。
科学的根拠のない事も起きなかったし、第一、今日はジュエルがいない。
凄く普通。ふつうの男子中学生の生活風景だ。
あ、でも夜くらいにはジュエル帰って来るんだっけ。ご飯、何にしようかなぁ。
確か「スーパー特一」でジャガイモと牛肉が安売りしてたはず。じゃあ、今日は肉じゃがかな。
人参は家にまだあるから、インゲンと・・・あ、シラタキも買ってこうっと。
「うわぁ、まんま主婦だな、勇気」
「ム・・・しょうがないじゃん。だって小さい頃から母さん居ないこと多かっ・・・た・・・し?」
「よ」
「うわぁ!!シャム、いつから居たのさ!」
隣にシャムが居た。
し、自然に話しかけてくるからこっちもナチュラルに会話しちゃったじゃないか。
「しかも心読まないでよ」
「だって思考が漏れてたし?つーかお前ばけもん使いなんだから俺の気配も読み取れっての」
指で額を弾かれた。デコピンって地味に凄く痛い。
「いたた・・・。だっていちいち思考の外漏れを制御するのってめんどくさいもん。それに、シャムの気配ってなんか読みとりずらいの」
そこら辺ウヨウヨしてる霊とかと紛れてて。
「まぁ俺は気配を消すことに関してはプロ並だからな」
「それって陰が薄いって言うんじゃないか?」
「うるせーやい。んで、本題なんだけど」
なんだ、ちゃんと様あって話しかけてきたのか。てっきり暇だったのかと思った。
「・・・あのな、俺もそこまで暇じゃないんだぞ?それでだ、ジュエルの事だが」
「ん?あの顔は良いくせに喋り方は男らしくて、俺様で女王様で暴力的なジュエルがどうしたの?」
「あぁ、あの顔は良いくせにあの喋り口調のせいか年の割に全く色気が無い、高慢でサドでアホなジュエルなんだが」
悪口じゃないよ。ただジュエルの特徴を分かりやすく説明してみただけだよ、うん。
「アイツ、最近おかしくなかったか?」
「ジュエルが?特にそんなことなかったけど・・・・あ、時々なんか考えごとしてるみたいだよ?」
「考え事?」
「んー、夕方とか外に出ると、なんか遠くを見てボーッとしてるんだ。すぐあの性格に戻るけど」
まぁ、女の子は雨や夕焼けを見るとメランコリックな気分になるとか母さんや姉さんが言ってたし。
だから、特に気にはとめてなかったけどなぁ。
「そっかー・・・やっぱ気にしてんのかな、アイツ」
「何を?」
「んー、教えて欲しいか?」
シャムの顔が意地悪そうな笑みに象られた。
「いや、特に」
「・・・・・お前、元からそんなドライな性格なのか?」
「うん、多分」
「そんなんで友達ちゃんといんのかぁ?」
「とりあえず必要なくらいは」
「・・・・・必要なくらいってなんだよ」
「必要なくらいの。情報収集とか、物の貸し借りとかに困らないくらいの。あと、絡まれると厄介な奴とか。先に顔見知りに
なっといて、変に問題にならないようにしとくのさ」
「中学生男子がなんつー友達関係の計算をしてんだよ。青春しとけよ、青春」
「そんなもの良い思い出にしかなんないじゃん。全てがこの後のメリットとデメリットで分別されるんだよ」
「怖いなー・・・」
本当のことだもん。
でも、一人だけ違う。
健・・・笹本健はこの後のこととか、めんどくさいの全部抜きで、友達だ。
言うならば、精神的の「メリット」を得るために、の、友達だ。
「なんだ、充分青春してんじゃん」
「・・・・・人の心読まないでよ」
「親友なんて一人いれば充分だからなー。お、勇気顔赤くなってやんのー♪だったら思考読まれないように制御しとけっての」
忘れてたんだもん・・・・。
てゆーか、僕顔赤くなってる!?
「ま、話は凄くずれたんだが」
ホントだよ。
「ジュエルがなんか悩んでることは分かった。とりあえずアイツに「気にするな」とでも言っといてやれ」
「ねぇシャム、やっぱりさっきの教えて」
「お、聞きたいか?」
「うん」
「・・・・・・・・こう、いつも素直なら可愛いんだけどな、お前」
「僕男なんだけど。可愛いとか言わないでくれる?気持ち悪い」
「俺もこんな風にきっぱり言えば深雪もちゃんと分かってくれんのかなー」
「ねぇ、また話それてる。早く話してよ。じゃないと魔界の色々を呼び寄せるよ?」
「それが人にものを頼む態度なのかぁ・・・?ま、いいや。教えてやる」
多分、こういう風にすぐに折れちゃうとこがシャムが深雪になめられる原因なんだろうね。
「あのな、ジュエルは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「アタシがどうかしたか?」
「「うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」」
「じゅ、ジュエル!?」
「いきなり出てくんなよ!!」
さ、最近の使い魔は心臓に悪い登場をするのが流行りなのか?
なんか寿命が縮んだ気がする・・・。
「大袈裟だな」
「五月蝿い!てゆーかジュエル、帰ってくるの今日の夜じゃなかったの!?」
「あぁ、思ったより早く用が済んでな。ジュエル様のお帰りだぞ、嬉しいだろ?」
「何も俺達の前に現われることないだろ・・・。勇気ン家行ってろよ・・・・・」
「行こうとしたらお前等に会ったんだ。で?アタシがなんだって?猫」
「え、えーっと・・・・・」
空の青がだんだん消え失せ、赤と化していた。しかしシャムの顔は青かった。
「怪しいな・・・・勇気、なんの話をしてたんだ」
「さぁ?ただ、シャムがジュエルの最近の様子を聞いてただけ」
「アタシの様子・・・?」
「うん、悩んでるがなんとかかんとかって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
黙り込んだジュエルの黒髪が風に揺れる。
「シャム、アタシはあんなのどうでも良いと思っている」
「いや、でもよぉ・・・・・・・・」
「アタシはアタシだ。天界の歴史なんてしったこっちゃない。今は今、だ」
「それは俺だって思ってるさ。でも、それでも天界の奴等達は違うだろ・・・?」
話が全く分からないが、とりあえず深刻な空気なのは確かだ。
こういうとき、どっか行ってた方がいいのかなぁ?
「ま、気にする事はないだろ。アタシはそんなに弱くない。だろ?」
「「それはよぉ〜く存じております」」
あ、僕もつい口出ししちゃった。
「だからいっちょまえに心配なんてすんなよ、シャム」
「そりゃ心配はするけどさ。とりあえずまだまだガキなんだし。なにより俺より年下だしな、お前」
「え、そうなの?」
「なんだ、知らなかったのか、勇気」
「そう言えば勇気達には俺等の年とか言ってないもんなぁ」
態度とかそんなんで、絶対同い年かジュエルの方が年上かと思ってた。
つーかシャム、立場弱っ! ・・・・・って、今頃か。
「ジュエル達っていくつなの・・・・?」
「俺は十七。ま、人間から見ればの話だけどな」
「あー、そんな感じしたよ、シャムは。やっぱりベタだね」
「あはは、泣いて良い?」
「ジュエルは?」
「スルーですか」
「ん・・・・・・・・・・とだな・・・・・・・・」
ジュエルが珍しくお茶を濁すような喋り方をした。
いや、ホント珍しい。
いつもあんなに無駄にキッパリハッキリ言う奴が。
「あー・・・・・・・・・・・・十二だ」
「ふぅん・・・・・・・・ってえぇぇ!?」
嘘だ!!絶対そんな訳ない!
十二歳って、僕より二歳も年下なんだよ!?
「いや、人間で言う身体年齢の事だからな!実際、魔界ではもうちょっと年食ってるんだが・・・・・・・まぁ、身体年齢で見ると・・・・・・十二だ」
「嘘だぁ・・・・え、だって身長とかも僕より高いよ・・・?」
「なー、ぜってー十五以上には見えるだろ?すくすく育ちやがってなー、コイツ」
「いや、だから実際はもっと年上だ!!これはあくまで人間と同じ年齢の増し方をしたなら、の架空の設定であってな、」
「ふーん・・・・年下かぁ・・・・・・・」
「あのな、勇気。よく考えて見ろ、生まれてからの月日の長短ではアタシの方が長いんだからな?だから決して年下とかでは・・・」
「でも人間と同じ年齢の増し方をしたなら、年下なんでしょ?」
「いや、だからな、それはあくまで架空の計算であって、アタシは魔界人・・・・」
「どこで生まれたであろうと、今君が居るこの空間は人間の住む現世だから・・・・ね?」
いやー、人間って不思議だね。
年下って分かっただけで、なんかジュエル弱々しく、可愛らしく思えて来たよ。
あー・・・・・・・アタシだ。ジュエルだ。
今、アタシの前には、すっごい柔らかい笑みを浮かべながら、赤黒いオーラを後ろから噴射している奴が立っている。
どうやって出すんだよ、そんな赤黒なんてオーラ・・・・。
「へー・・・十二ねぇ・・・・・・」
「いや、だから、それは」
「そーだなー、確かに勇気の腹黒さはジュエルの凶暴横暴さとほぼ互角だもんなー。それに年齢差もプラスすれば結構・・・」
「猫!五月蝿い!!てめぇはさっさと深雪ンとこでも行きやがれ!」
「ひでぇ!」
「ジュエルぅ、目上の人にそんな言い方しちゃダメだろう?」
「く・・・・・第一年下じゃねぇっつってんだろ!その宥める様な口調やめろ」
「あっはっは、ジュエル馬鹿だからなー。これは勇気の形勢逆転かぁ?」
プチン
「・・・・・・・るせぇっつってんだろ・・・・・・・・・」
アタシが懐から出したもの。
銃。
「・・・・・・・・・・ぇぇぇぇえええええ!?」
「ちょ、銃!?おい、銃刀法違反!」
「元はと言えば猫のせいだからな・・・・・まずお前だ」
「え、ま、待て!それ・・・・」
「あぁ、この銃は魔界で出た最新作だ」
「お、落ち着け!!どうせまた、まともな沙汰じゃないんだろ!?」
「当たり前」
「ちょ、や、ヤメロォォ!!」
勇気はアタシ達の会話がよく汲み取れずにいる。
まぁ、数分後には分かるだろ。
ズガンッッ
銃声と共に、銃口から飛び出した緑の何かがシャムに命中した。
「う、うわぁ!!ちょ、動けねぇ!」
「当たり前だ。あっちの科学者達が仕事もしねぇで作りあげた一品らしいからな」
「何やってんだよ、科学班!!」
「これ・・・・何?」
勇気が目を丸めて猫を見つめている。
「ふ、これは今、魔界で警察を騒がせてる如何様銃だ。銃口から、弾の変わりに緑のスライム状の物体が出てきて
な、相手の動きを封じるのさ。強盗には最適だぞ?なんせ銃刀法にひっかからないからな」
ま、それでも捕まるけどな。
それにしても・・・・・・エロいなー、この銃。
スライムっつーか、なんかドロドロした液体みたいの出てきたぞ、これ。
地面に張り付いてもがく猫の姿・・・・・・・・・・深雪に見せたら喜ぶかもな。
よし、後で写真撮っておこう。
「へー、なるほどー・・・ってなんでそんな物が今ここにあるのさ!?」
「知り合いの科学者に貰ったンだよ」
「ゆ、勇気、そんな事より早く助け・・・」
「じゃあ、次勇気だ」
「ご、ゴメンってば!!さっきはちょっと遊びすぎた!ゴメンなさい!」
「ゴメンですめば死刑はいらねーんだよ・・・」
「死刑!?死刑って!?」
「ふ・・・・歯ぁ食い縛っとけ」
「え、ちょ、えぇぇぇええ!?」
「あれぇ、皆お揃いでぇ?」
「「み、深雪ぃ・・・・」」
「あらら、二人ともエロエロな格好で〜♪」
「「!?」」
「だろ?」
いい所に深雪が来てくれた。
丁度勇気もドロドロの刑に処した所だったからな。
「・・・・・・・て、ワケでな、ちょっと罰を与えたわけだ」
「・・・・・・・・・・・十二歳・・・?」
「え、ま、まぁな」
「年下・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょ、深雪!?」
「いいぞ・・・・・深雪やっちまえ・・・・・」
「猫!?」
「あー、そうそう、そことそこを切断して・・・・・あ、そこもっと右・・・・お、結構楽になった」
「勇気は何して・・・・って霊!?霊使ってスライムから抜け出しやがったな!」
「何の為に化け物が操られると思ってんの」
少なくとも、この為ではないだろ!?
「年下・・・・・ロリ・・・・・・・・・・かぅあぅいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「うあ、わぁぁぁああ!!!!!!」
それから、アタシ達はボロボロになって家へと帰宅した。
なんとか深雪を引き剥がしたものの、体は傷だらけの痣だらけだ。
シャムの痛みが身に沁みて分かった。
この後、何回も勇気に説教された。
あんにゃろー、何度も同じ事繰り返し言いやがって・・・。
「物騒なものを貰ってはいけません!使用してはいけません!てゆーか興味も示すな!」
母親かっての。
画面の前の皆の者、アタシが一つ忠告しといてやる。
よーく聞いとけ。
自分の年は、むやみに人に曝すもんじゃねぇぞ。
じゃないと、こうなるからな。
ちょっと長くなってしまいました;;
今回は、趣味に走りつつ、これからの物語のプロローグ的要素を詰め込んでみました。
ジュエルの秘密、本当は今回書いとこうと思ったのですが、まだ早いかなぁ、と。
もう暫くしたら明かしましょう^^
材料は大体揃いました。
さぁ、新展開の幕開け・・・・・になると良いなぁ(ぇ