第十章:シャム
本編入ります〜。第八章の続きです。
「・・・・・・・・・・もうすぐ家だけど、心の準備は良い?二人とも・・・・・」
僕は後ろで キラキラ ガタガタ と、している人達に声をかけた。
「は・・・・・・はい!!!」
これは安西さん。
「う・・・・・・・・やっぱ俺帰・・・・グェ!?」
これはシャム・・・・・。最後の奇声は、逃げようと踵をかえしたところ、惜しくも安西さんに襟を掴まれたらしい。
そこまでジュエルが嫌なのか・・・・・。頷けるけど。
エレベーターに乗り込み、七階へ。
家のドアを開けると、なぜか鞭を持って玄関の前に立っていたジュエル・・・・・・・・・・・・・・・・。って鞭!?
「ジュエル、どした?お出迎えなんて珍し・・・・・・」
「ゴラァ!!!パシリはとっとと茶ぁでも買いにいけや、クズ!!!!!」
床に鞭をパシンッと叩きつけたジュエルは、鳥肌が立つような恐ろしい顔で僕に向かってそう言った。
「はぁ・・・?パシリって・・・・」
「すみませんすみません!!!すぐ買ってきますから叩かないで下さい!!!」
そう言ったのはシャム。どうやらさっきのジュエルの言葉は僕宛てでは無かった様だ。・・・・じゃなくてぇ!!
「冗談だ、猫。それにしても・・・・凄い驚きっぷりだな」
ジュエルは笑いを堪える様にして言った。
「・・・・てめぇ・・・・またかこのやろぉ!!!!!」
さっきひれ伏せていたシャムとは別人の様に、ジュエルに怒鳴り散らした。
パシィィーーーーーーーーーーーーーーン!!!!
ジュエルがまた鞭を床に叩き付けると、
「ぅにゃぁぁぁあああ!!!!!!」
と、また床に蹲ってしまった。
「『にゃ』・・・・・・!?」
「コイツはな、鞭の音が苦手なんだ。だからコイツに事あるごとに鞭の音を浴びせてるんだ。しかも、驚くと猫語になる」
「そ・・・・・そうなんだ・・・・。でも・・・ジュエルが鞭持ってると・・・・めちゃくちゃ危険な香りが・・・・・・」
すっごいヤバい香りがプンプンするよ・・・・・。お子様には見せられない、知られたくないって感じだ。
「うぅ・・・・・・なんでお前は鞭なんかいっつも持ってるんだよぅ・・・・・」
シャムが半泣きでジュエルを睨んだ。
「しかも時々ホントに俺を叩くし・・・・・・」
叩いちゃうの!?それはもう本気でヤバいよ!!!
「だって面白いんだもん」
ジュエルはシャムの猫耳を引っ張りながらニヤニヤと言った。
「あ、そう言えば深雪は・・・・・・?」
シャムが思い出した様に呟いた。
「深雪?」
「安西深雪の事だよ・・・・・」
安西さんって『深雪』って名前なのか。
「安西さんならここに・・・・」
隣にいる安西さんを見ると、安西さん体をフルフルと震わせていた。
「は・・・・・はははは羽・・・・・・・・・人形みた・・・・い・・・・・・・・しかも・・・・・シャム・・・・にゃ・・・・にゃぁって・・・・・」
安西さんの口からボソボソと何か聞こえてきたが、詳しくは聞きとれない。
「ヤベェ!!!」と言ったかと思うと、シャムは安西さんを連れて外へ出てった。
シャムが勢い良く閉めたドアの音が響く。
ジュエルに「あれは・・・何?」と聞く素振りをすると、ジュエルは「さぁ?」と首を傾げて言った。
――――数分後・・・・・・・・・
なぜかボロボロになって帰って来た。・・・・・・・・シャムだけが。
安西さんは至って怪我は無い様子。しかしシャムは身体中傷だらけの痣だらけで、オマケに口から血が出ている。
「うわ・・・・ど、どうしたの!?」
二人に聞いて見ても、
「私が暴走しまして・・・・・」
と、
「これは名誉の負傷だ・・・・・」
としか言わなかった。何があったんだろう?
「それにしても・・・・・・ジュエルさんって噂以上に綺麗ですねぇ・・・・・・・・・」
「ほぅ・・・・」と、安西さんがうっとりため息を吐きながら言った。
「魔界でもコイツ、顔だけは良いって評判だったからな・・・・・・」
シャムが『だけは』の部分をやたら強調させて言った。つまり中身は・・・・って事だな。
「これで、会う度に俺に鞭の音聞かせたりホントに叩いたりしなければ普通に可愛いのに・・・・・・・・」
確かに・・・・・・。事あるごとに鎌とか縄なんて取り出さなければ完璧なのになぁ。
「完璧なものなんて無いんだぞ、猫、勇気」
「「なんかそれっぽい事言うな!!!!」」
僕とシャムの声が重なる。あれ?そう言えば前もこんなセリフ言った気が・・・・・・・まぁいいか。
シャムと、未だに目を輝かせながらジュエルを見つめている安西さんを僕の部屋へ招き、お茶を出した。
「わぁ・・・・・この紅茶美味しい・・・・」
安西さんが紅茶の入ったカップを指差しながら言った。
「あ、それ・・・・確かアップルティーだたかな・・・・?僕が淹れたんだけど・・・・」
「勇気が淹れたのか?男の俺でも美味いって思えるぞ」
シャムの言葉に、少し僕は照れくささを感じた。
「確かに勇気って料理上手いよな」
ジュエルも人を褒めるのか・・・・・・。あ、ちょっと失礼か。
「いっつも母さん居なかったから・・・・・料理とか自然に慣れちゃって」
「勇気君ってお母さんも仕事してるの?」
「うん・・・・父さんが死んじゃう前からずっと」
って、『勇気』君?さっきまで『斉藤』君じゃなかったけ?ちょっと恥ずかしい感じだ。
「そっか・・・・変な事聞いてゴメンね?」
「え、別にいいよ。大した事じゃないし!!」
「そういえば、勇気のキャンディーの色って何色になったんだ?」
シャムが突然妙な事を言い出した。
「きゃんでぃー・・・・・・?」
僕は間抜けな声を出した。
「あれ?まだなのか?ってなわけ無いよなぁ・・・・深雪を狩ったんだし」
「あ、そうだそうだ」
シャムの言葉で思い出したのか、ジュエルが何かを取り出した。
「・・・・・・・あ、それ・・・・・!!」
僕が安西さんと戦った時に食べた飴があった。
「あれ・・・・?前は白だったのに・・・・・・」
小瓶の中に入っている飴玉の色は、赤色だった。朱色・・・・紅色・・・・・ううん、やっぱり『赤』だ。
「可愛らしいキャンディー・・・・・・」
安西さんの言うとおり、絵になる様な可愛いキャンディーだ。如何にも「キャンディー」みたいな。
「これはな、舐めると自分の潜在的な能力の何倍ものパワーが得られる代物なんだ」
シャムの声が部屋に響く。
「このキャンディーを口に入れると忽ち体内に吸収され、力を発揮する」
だからあの時、口に入れたとたんに無くなったのか・・・。
「キャンディーによって得られるパワーは、時として人を殺める程、莫大なものだ」
今度はジュエルが僕に説明した。
「そして、一度舐めたならそのキャンディーが入っていた小瓶はそいつを主人とみなし、主人の性格や意思と照らし
合わせた色に、中に入っているキャンディーを染める」
「つまり・・・・・・僕の性格や意思は・・・・・赤色みたいなの?」
僕は頭を軽く掻いた。
「色によってそれぞれ意味を持っているんだ」
ジュエルは僕の顔を見た。
「詳しくは知らないが、確か赤は・・・・・」
「赤は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少し考えてから、
「いかにも『普通の飴』って感じの色だよな。『つまらん奴』って事じゃねーの?」
と、笑みを浮かべながら言った。
「なんじゃそりゃ!めちゃくちゃだ!!しかもキャンディーの事言うの遅すぎ・・・・・・」
「おい、ジュエル・・・・・そんな事言って良いのか?」
シャムがジュエルにたずねた。僕、反論途中だったのに・・・・・。
「別にいいだろ。いつかは知るだろうし」
「いや、でも・・・・・・・・」
シャムはまだ何か言いたそうだったけれど、口を閉じた。
「じゃぁそろそろ帰るね。ジュエルさんと勇気君ばいばいー」
「あ、うん。また明日学校でな」
「猫、また来いよー遊んでやるからさ」
「・・・・・・もう来ねぇぞ?」
「あはは、シャム、ジュエルの鞭は没収しとくからまた気軽に来て?親いないから二人だけだと寂しくてさ」
「わかった・・・・・・・じゃあジュエルの事は頼んだ」
「没収できるんならしてみろ」
「・・・・・・ゴメン、無理っぽい」
「えぇ!?」
そんな会話をしながら、二人を見送った。
「勇気、今日の夕飯なんだ?」
「んー・・・何にしよう・・・。今日買い物行けなかったんだよなぁ・・・・」
僕は夕焼けに頬を染めたジュエルを見ながら今日の献立を考えた。
その横顔が、少し悲しげに見えた。
「マズいもん作ったら鞭でシバくからな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん、気のせいだ。
ジュエルちゃんやっちゃいました!!鞭でお仕置き!!!怖ぁ〜い。気づいたら書いてたんですよ。鞭を持ちながら玄関に立つ、笑みを浮かべたジュエル・・・・・・
わぉ、恐ろすぃ〜・・・・・・・・・。