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irregular  作者: 二次元逃避中
序章
1/10

目覚め *

人生に夢とか希望とか。


そんなものとうに無く。


今はただ、怠慢を貪るようにだらだらと生きている。


朝起きて仕事に行って、仕事が終わって家に帰れば寝る。


ただただそれの繰り返し。


仕事も、初めは少しずつ出来ることが増えて嬉しかった。


けれど、私は不器用で仕事の出来ない方なのだろう。


しばらくすると、注意される事の方が多くなってしまった。


自分なりに頑張ってみるも、足りない。


全然、全然足りない。


無能(クズ)で、約立たずで、生きる意味も見出せず。


家事に追われるのも、生活の為だけに仕事に行くのも疲れてしまった。


せめて無能(クズ)無能(クズ)なりに、誰にも迷惑をかけずにひっそりと生きていけたらどんなに良いだろう。


そんな繰り返しの日々の中、絶対に不可能だと分かっていても、思ってしまう。


人生を一からやり直したいと。


自分でも馬鹿なことだと分かっていた。


これも無駄な逃避だ。


そんなことより、今の生活を少しでも改善するべきだと。


けれど、今日もまた逃避した思考が同じ事を繰り返す。


ああ、本当に私という奴は……。


しかし、もしもがあるとするなら。


私は、今度こそ--。





…………。


何も見えない、暗闇。


その中に一人、✕✕は佇んでいた。


幽かな光すら差し込むことの無い空間は、けれど不思議と恐怖を感じさせない。


曖昧な意識は未だ纏まることもなく、暗闇の中で停滞するばかりだ。


そうして、どれほど佇んでいただろうか。


ずっと真っ暗だった世界に、唐突に幽かな光が差し込む。


それは目を閉じれば消えてしまいそうな程に、か細い光だ。


(…………光)


✕✕は無意識に、光に向かって手を伸ばす。


そこに何の意思も存在しなかった。


咄嗟に身体が動いていたのだとしか、言いようが無い。


そして✕✕の掌が光に触れた瞬間、引きずり込まれるようにして意識は浮上した。


曖昧な意識が徐々に覚醒し、視界がクリアになっていく。


暗闇の世界から一転して、明るい世界へ。


「うーん、朝………………?」


✕✕は徐に気怠い身体を起こした。


ズキッと頭痛がして、額に手を当てる。


「いっつ……。 今何時? 仕事、……仕事行かなきゃ」


周りを見回した✕✕の視界に、日に照らされた部屋が映る。


部屋の中は日が差し込んで、とても明るかった。


そう、✕✕にとって珍しい事に。


「寝坊……!?」


まだ眠気の残る✕✕はサッと青褪めると、飛び起きるようにベッドを飛び降りる。


「先輩にまたドヤされる!あー、昨日もミスして怒られたってのにこれで寝坊なんしたら!マズイ、マズイ」


慌てて服を着替えようとしたころでようやく異変に気が付いた。


--自分の部屋じゃない。


少なからず、✕✕の記憶にはこんな広々とした部屋は無い。


よくよく見れば家具も絨毯も何もかもが違っていた。


愕然とする。ならば、此処は一体誰の部屋だろうか、と。


否、そもそも、誰の()なのか。


何故自分は此処で寝ていたのだろう。


混乱した頭でどれ程考えても、答えを導き出す事さえ出来なかった。


「外……」


外を見れば場所だけでも分かるのでは?


ようやくそこへ思い立った✕✕は、開け放たれた窓から外を覗き込んだ。


「嘘……」


緑の木々が視界を埋め尽くす。


森。それは正しく森に違いなかった。






目を覚ました✕✕は、寝る前と何ら変わりない状況に大きく溜息をつく。


無駄に広いこの家は洋風の造りをしていて、家具やら飾ってある絵やらはどれも高価な物に見えた。


洋画に出てくるような、お金持ち仕様の洋館といっても良い。


「……やっぱり夢じゃなかったか」


もう一度深く溜息を付く。


あの後、家の中を探索してみたものの、目ぼしいものは何も無く。


途方に暮れた✕✕がどうしたのかと言えば、……そのまま諦めて寝たのだ。


それはもう、ぐっすりと。


人間、ここまで追い詰められると神経が図太くなるらしい。


とはいえ、何時までも現実逃避をしているわけにもいかなかった。


「う、……」


きゅるるる、と間抜けな音が部屋に響く。


空腹。こればかりは、生理的なものでどうしようもない。


寝る前に、少し待てば家主が戻ってこないものかと淡い期待もしていたが、家の中は静まり返ったままだ。


いい加減現実を受け止めて、動かなくてはならないのだろう。


✕✕はいそいそと起き上がって伸びをすると、再び洋館の中を歩き始める。


あれから日が暮れたのか、洋館の中は暗く、歩くのに少し心許なかった。


せめて灯があれば、そう思いはするものの、電源を入れるスイッチらしきものも見当たらない。


そもそも、薄暗いせいで視界が悪いのだから、それも当然と言えば当然である。


「こう、スイッチって大体壁に付いてるものじゃない?」


試しに手探りでスイッチを探してみる✕✕だが、その手つきはいい加減だった。


✕✕も本気で見つかるとは思っておらず、単なる思い付きに過ぎないのだろう。


「まあ、そう簡単にあるわけ…………」


コツンと手に硬い感触が伝わる。


それは金属のように冷たく、何やら丸い形状をしているようだった。


(まさか、本当に……?そんな馬鹿な)


半信半疑のまま、とりあえずドアノブのように回してみる。


バチッと静電気のようなものが走って、数秒の間明滅した後洋館の中を照らす。


まさか本当に点くと思っていなかった✕✕は、暫し呆然としてしまった。


そして改めて見る洋館の中は、ホコリが積もっていて生活の気配を感じられない。


前に住んでいた住人が家を出て、かなり経っているのかもしれない。


人が住んでいないと考えた方が自然だった。


「朝はちゃんと見れなかったからなぁ……」


何しろ混乱していたので、ざっとしか見れていない。


もう一度見直さなくては、と✕✕は反省する。


「外はまだ暗い、か……」


外を見ようと窓を覗き込んだ時だ。


窓に映し出された人影を見て、✕✕は一瞬それが誰なのか分からなかった。


窓に映っているのは、長い黒髪の、五、六歳頃の少女。


少女は窓の中で、その整った顔をポカンとさせている。


恐る恐る手を動かせば、窓の中の少女も同じように動いた。


つまり、それは。


「嘘……」


--✕✕自身である事を示している。


✕✕も、色々な可能性、それこそ拉致監禁だとか、誘拐だとかを考えてはいた。


けれど、これはあまりにも想定外過ぎるというもの。


今日一日でどれだけ驚いたら良いのだろうと✕✕は嘆息する。


(えーと、私死んだのか?いや、よくあるやつだとその時の記憶が無いと変じゃない。私、死んだ記憶なんて、全くないけども)


✕✕は最近読み漁ったケータイ小説を思い返していた。


それらはどれも死んだ時の記憶は明確にあったように思う。


「……いや、こういう場合もあるのかも?」


少々腑に落ちないが、そうでも無ければこの状況を説明出来ない。


(まあ、目が覚めたら知らない場所、それも森の中の洋館に居て、それでいて姿が変わってるって普通有り得ないしね)


自分が死んだにしても、そうでないにせよ、転生かあるいは誰かの肉体に入り込んだのは間違いないと✕✕は思った。


一つ、此処が前の世界と同じなのか、そうじゃないのかという疑問は残るが、明日外に出れば嫌でも分かるだろう。


そう結論付けて、✕✕はふらふらと寝室に向かった。


もう一度寝に入る為に。




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