Episode4
翌日、早朝。
高級マンションの屋上で、細身の男と幼い少女がそれぞれ腹ばいになって床に伏せている。
男の方が泰造、少女の方はアリスという。
「嫌な気分だわ。朝から殺しの仕事をするなんて」
「仕方ないだろ。今回の依頼が一番簡単だったんだ。おまけに、報酬も高い」
泰造は三脚で固定した狙撃銃を構えていた。アリスが隣で双眼鏡を覗き、標的の監視と風向きの観測を行っている。二人は殺し屋で、射撃の腕前は超一流だ。配役はローテンションで変わる。
「あ、出てきた。全員揃ってる」
「妻子だけ狙うんだったか。夫に対する見せしめだとかなんとか」
依頼主から、いつも詳細な情報が送られてくるとは限らない。深く詮索してはいけない事柄というのが、この業界にはごまんとある。殺し屋は標的を狙って、ただ引き金さえ引いていればいい。
「……ちょっと気が引けるな。食事中の家族を狙うなんて」
「何言ってるの。あなたが勝手に引き受けた依頼でしょ。早く終わらせちゃって」
「はいはい」
泰造がスコープに意識を集中させる。アリスが風向きと弾道の修正量を伝える。
「……いいわ、撃って」
「了解」
泰造が引き金を絞り、食事中の子供の頭を吹き飛ばした。続けて母親の胸部に二発弾丸を命中させる。悲鳴が上がる間もなく、妻子はすぐに倒れて動かなくなる。
リビングにぽつんと残された夫の呆然とした姿を見て、アリスは気分を損ない、双眼鏡から目を離した。
「終わったな」
泰造が言った。
「そうね」
ぶっきらぼうにアリスは頷く。
後味が悪い。
仕事の報告が済んだら、喫茶店でも行って、口直しにお茶がしたい気分だった。