Episode15
まもなく喫茶店は閉店した。
強面な二人組は少しだけ休憩して、話をし、またすぐ店を出て行った。
店長は衝撃的な話を聞かされた。
ユズキのことが心配だったが、今は冷静になって、事の詳細を詳しく洗って見る必要がある。
しんと静まり返った店内。バックミュージックはすでに止まっている。
不意に、店の扉が開いた。
誰が入ってきたかと思えば、イチコだった。
「……どうも」
イチコは力無げに頭を下げた。顔色が、ひどく悪い。
「あの、鈴木さんたちを見ませんでしたか」
鈴木さん――よくここで屯している、若い青年の三人組のうちの一人だ。今日は昼ぐらいに三人でやってきて、珍しくすぐに退散していった。
「いや、もう帰ったよ」
「そうですか」
イチコはあっさり踵を返そうとする。
「カオリを祭りへ誘いに来たんじゃないのかい?」
「……私がここへ来たことは、カオリには言わないでおいてください」
おや、と訝る。何かあったのだろうか。
「喧嘩でもしたの?」
「いや、なんというか、私から一方的に……」
言いづらそうに、しばらく押し黙られたので、店主はなんとか彼女へ掛ける言葉を選ぶ。
「仲直りをするなら、なるべく早いほうがいいよ」
「そうですね……それじゃあ」
弱々しく微笑んで、イチコはすたすたと店を出て行った。
再び辺りが静まりかえる。
喧嘩というより、もっと別の理由が、彼女にはありそうだった。
店長は溜息をつく――なんだか、いつの間に、あちこちで厄介なことが起き始めているみたいだ。
アリスと別れて、ユズキが浮かれた気分で通路を歩いていると、突然、向かい側にいた少女とぶつかった。
ユズキは尻餅をついた。完全によそ見だった。
慌てて、相手に謝る。
「す、すみません……」
「いいよ、次から気をつけなよ」
よく見ると、ぶつかった相手はユズキの見知った顔の少女だった。店の外の階段で、一度だけ姿を見かけた覚えがある。
彼女が、カオリの話していた友人のイチコだろうか。
しかし、それにしては随分以前と気色が違っているような……。
「じゃあね、ユズキくん」
少女――イチコはそう言って片手を振り、ヘラヘラ笑うと、よろけながら反対方向の暗がりへ消えていった。
声をかける暇もない。
自分の名前を知っているということは、やっぱり、カオリの友人であるということに間違いはなさそうだった。
カオリを祭りに誘いに来たわけではなさそうだ。こんな時間に、一体、何をしに来たのだろう?