【えんでぃんぐ】
筆記用具とノートしか入っていない軽い鞄を振りながら、ブレスレットを認証機にかざすと、すぐ隣の自動ドアが開いた。
廊下を進んで、エレベーターに一人乗り込み、上へ。
止まったら当然降りて、目的のドアを開ける。
「たーだいまー」
と言うと、
『お帰りー!!』
「おー、おかえりー。お疲れー」
って、声と、笑い顔が返ってきた。
「ただい……待て待て引っ張るな」
『早く早く〜!』
ワタシが靴を脱ぐのも待たずに、双子はワタシの腕をぐいぐいと引っ張って、ナオはそれを楽しそうに見ていた。
面倒くさいし大したことじゃないから説明は省くけど、双子とナオは、今はワタシと同じ家で暮らしている。
リョーサンの家にこれ以上お世話になるのも何だか気が引けたし、何よりリョーサンが、セキュリティーがしっかりしてる所があるなら、その方が良いと言ったから。
ワタシはもう学校が始まったけど、もとより行っていないこの三人は、この家から商店街に行ってお店を手伝ったり、青空市に買い物に行ったりしてる。
……いや、お店を手伝うって言うのは、あんまり正しくないか。
あれはもう経営だもんな。うん。
ユエさんの雑貨屋さんを、ワタシたちは引き継いだ。
今日は定休日だけど、普段は昼間、三人が店番をして、夕方ワタシも加わる。
正面の大きな看板はそのままだけれど、ガラス戸に、【雑貨屋&何でも屋 1007】とかかれた小さいプレートが引っかけられている。
双子が勝手に書いたんだ。
何から何まで四人でやって、大変だけど、周りの人に支えてもらいながら、楽しくやってる。
「着替えるから待ってて」
『早くね!』
「はいはい」
パタパタと部屋に戻って荷物を置き、制服から私服に着替えた。
あの後、何回か警察に行く用があったんで、やんわり聞いてみたんだが、『刑事の大井さん』は、あの日の何日か前に退職していた。
詳しい理由は、誰も知らないらしい。
「ほい。お待たせ」
「んじゃ、行くか」
『おー!』
夏休みの間にもう一度だけ、四人で砂時計の家に行った。
明美ちゃんも含め、子供たちも先生たちも、みんな元気そうで安心した。
『早く! 早く!』
「走るな引っ張るな! 転ぶぞ!」
そうそう、ワタシたちがとってもお世話になったあのボロ船。
あれはもうあの場所には無い。
ただ、別の場所に移ったんだ。
ラジオ体操の公園に。
『到着!』
そう言いながら、双子がラジオ体操の公園に入っていく。
キレイに補修されて、滑り台なんかも付いた元ボロ船は、どこか誇らしそうに、どーんとそこに居た。
偶然(と言うことになっている)とは言え、子供たちを救出したワタシたちは一応ヒーローな訳で。
なんと自治体から、何でも一つ願いを叶える権利、なるものを渡された。
でも別に、みんな特に欲しい物も無かったから、あの船をいつまでも生かして欲しいって頼んだんだ。
正直、まさか本当にやってくれるとは思わなかったけど。
子供たちの良い遊び場になっているようで、とても嬉しい。
「……良い時間だな。早速始めるか」
『おー!』
「おー!」
だいぶ日の入りも早くなってきた九月上旬。
ワタシたちはそれぞれ分かれて、バケツに水をくんだり、ろうそくに火を付けたりした。
そして、
『花火ー!!』
双子が大きな花火セットをバリバリと開けた。
「いやはや。まさか九月に入ってから花火とはなあ……。八月中もさんざんやったのに」
「まあ、良いんじゃないか? 何だかんだ言って、ナオだって楽しんでるだろ?」
「まあな」
『はよやろー!』
「はいはい」
適当に一本取って火を付ける。
今年最後の花火だろうなあ、とか思いながら、バチバチパチパチ色を変える花火を眺めた。
「音葉! 煙こっちに寄越すな! 音夜は振り回すの止めろ!」
『ひょー!』
「わっ! 本当に危ないから!」
飛んできた火の粉を間一髪で避けて、ワタシも叫ぶ。
終わる夏を惜しむように、大いに叫んで、大いにはしゃいで、大いに笑った。
線香花火は、もちろん最後に。
「そう言や、今日商店街に行った時、リョーサンたちに会ってさ、今度の土日の朝、青空市の手伝いに来てくれないかって」
「ああ、良いんじゃないか? 何だか久しぶりだな」
『青空市! 出動!』
「おう! じゃあ、明日リョーサンにOKって伝えとくわ。音葉も音夜も、寝坊すんなよ?」
『ナオじゃないからしないもーん!』
「なっ! てめっ!!」
『うきゃー!』
「あっはは!」
いつものやりとりに笑いながら、ワタシはまた花火に火を付けた。
ワタシは、これからの長い人生を、ずーっと生きていく。
自分の過去も、思いも、全部持って、未来に向かって進んでいく。
たくさんの物を見て、触れて。
たくさん笑って、たくさん泣いて、たくさん怒って。
良いことも、悪いこともあるだろう。
それを、全て受け止めて、心を豊かにしていきたい。
まだ夏の匂いが残る風の中で、そう思った。
「よしっ! じゃ、土日は早起き! もちろん手伝いも頑張るぞー!」
『おー!』
「おー!」
ワタシたちは、この夏何度もそうしてきたように、揃って拳を空に掲げた。
1007、ここに見参!
なんてね。




