私はキカイに恋をする ~彼は身長15メートル~ ※攻略キャラは巨大ロボットです
私──マリアは転生者である。
死んだ時の状況は余り覚えていないが、病弱だったために死んだか何かだろう。
気が付いた時は、日本とは違うファンタジー世界の赤ん坊として存在していた。
捨て子だった私を拾ってくれた、この異世界の両親には感謝している。
今では立派に14歳まで育ち、天性とも言える整備士という職も手に入れたりして元気にやっている。
……元気にやっていた、が正しいだろうか。
私は今、隣国の皇帝と兵士達に追われている。
暗い室内、曲がりくねった通路。
オイルと金属の臭いの中を走り抜ける。
「ええい、逃げるな! 皇帝の僕が嫁にもらってやると言っているんだ!」
偉そうな物言いの、紫がかった髪の少年。
私より年下で背も小さく、格式高そうなマント付きの高級服が浮いている。
こんなのが皇帝とは世も末である。
「足止めします!」
兵士はナイフを取りだし、素早く投擲。
私の肩に走る痛み。
傷口は痛覚熱く、血が流れ出ている。
「馬鹿者! 僕の大切な嫁──マリアを傷付けるな!」
「し、しかし、このままだとアレが置かれている格納庫に──」
「構わん、アレが動かない事は分かっている。ただの木偶人形だ」
そんなわけない……彼はきっと助けてくれる。
投げナイフがかすり、流血する肩を押さえながら格納庫へと辿り着く。
そして、横たわる巨大な彼によじ登る。
「何が不満なのだ? この僕──ジーク皇帝と契りを交わせるのだぞ?」
「私には、好きな人がいるんです!」
「はっ! この僕より魅力的な人間なんて存在しているはずがないだろう」
私は、それに対して自信満々に言い放つ。
心の底から、この言葉は当たり前だという確信を持って──。
「私は機械に恋をしています! 身長15メートルの格好良い彼です!」
格納庫に横たわる彼──巨大ロボットであった。
ここは剣と魔法と……巨大ロボットのファンタジー世界。
* * * * * * * *
──同所、1日前。
この騎士も居て、魔法使いも居て、巨大ロボット──バトルチャリオット、通称バトリオットも居る異世界。
そこにある王国の一角に、私が働く整備工場がある。
普通のファンタジー世界とは違い、技術体系はかなり歪だ。
この建物は鉄骨や、独自のコンクリートも使われている。
それに魔法陣を使って補強という、何とも和洋折衷というか──サイエンス・マジック折衷である。
科学魔法のごちゃ混ぜ。
現代知識でわかりやすく言うと、ナンバリングが進みすぎてしまったRPGシリーズで科学が絡みまくったアレだ。
おまっ、最初はコッテコテの剣と魔法だったはずなのに、いつの間にかバイクとかオープンカーとかホバーボードとか、どういう事だ。
──と誰もが突っ込むアレ。
「マリア、今日も元気そうね」
「あ、姫様、こんにちは。こんな所に来ていいんですか? ドレスが油で汚れちゃいますよ」
ここは主に屈強な男達が働き、鉄粉が舞い、機械油が飛び散る格納庫。
地球で言えば体育館……いや、もっと大きい旅客機の整備場くらいの建物。
私の職場だ。
所狭しと量産機であるノーマルチャリオットが並べられ、点検、整備されている。
「最年少S級整備士様であるマリアに診てもらうんだからね、ドレスが汚れるくらい気にしないわ」
「もう、幼馴染みなんだから、様は止めてよ~」
「そっちも、姫様扱いした罰よ。いつもみたいにヒメちゃんって呼ぶ事を所望するわ」
身分を忘れ、お互いに笑い合う。
姫様──ヒメリア=ルクク=フレイムドラゴンという王族独特の長い名前なので、昔からヒメちゃん呼びしている。
私より少しだけ年上の16歳で、絵本から飛び出してきたようなふわふわの白いドレスを着て、艶やかな金色の髪、分相応な自信たっぷりな表情。
王族専用機である、彼女のプリンセスバトリオットの整備は特殊なため、ずっと私が担当しているため顔なじみなのだ。
普通の整備士には出来ない、転生知識があるからこそ出来る芸当。
「プリちゃんの様子見る?」
「マリア……あんた、プリちゃんって……。プリンセスバトリオットは、由緒ある王機で、量産機では束になっても勝てないくらいの戦力でもあるし、歩く宝石のような財産でもあるのよ」
「うんうん。分かってる。私の可愛い彼女だもん」
溜息を吐くヒメちゃんを連れ、横倒しにされているプリちゃんへと向かう。
遠近感が狂うような15メートルの巨体。
基本的にチャリオットと名の付く二足歩行ロボットのシルエットは、中世の騎士のような格好をしている。
量産機のノーマルチャリオットはお値段リーズナブルで、サイズも小さくずんぐりむっくり。
それに比べて、一品物のバトルチャリオットは物凄く強く、物凄いお値段で、サイズも大きめでスマートなスタイルとなっている。
「ああ、この表面の透明なダイヤモンドみたいな魔導装甲……すべすべぇ……」
私は、思わずほおずりをしてしまう。
特殊な魔導装甲なのでダイヤモンドとは違うが、価格的にはまさにブランド物だ。
日の光に当たってキラキラしてるし、ピカピカしてる。
起動時の魔力光が透けて乱反射する時は、機体自体が万華鏡のようになって、どんな物よりも尊い美術品になる。
「マリアって、本当にチャリオットが好きね……」
「そりゃもう、女の子はブランド物に弱いのは必然!」
「ま、まぁわたくしもアクセサリーとかコレクションしてるし、このプリンセスバトリオットもドレスコードとしては、王族の式典でも、戦場の前線でも最上位ですけど……」
ヒメちゃんは何故か困り顔をしている。
「ペロペロするのはよしなさいな。ペロペロは」
ほおずりからキス、キスからペロペロに移行してるのがバレてしまった。
愛しい彼女との百合プレイなら何時間でもしていられるが、所有者は向こうなので我慢しよう。
──周りには転生者という事は話していないので、前世からロボオタでした、とも言えないのであった。
昔、友達の間で、敵味方に分かれて戦う美男子のロボットアニメが流行して、私もそれを見せられた。
そこでハマってしまったのだ。
美男子そっちのけで、イケメンのロボット達に。
流れるように美しいお肌、浮き出るセクシーな鎖骨、ハートを射貫く鋭い眼光。
たまらなくない!? ねぇ!? と素でパッションを表現した所──。
『そう……』
と興味なさげに一蹴されて、速攻でハブられた。
あれから、絶対にロボオタだと言わずに生きてきたため、この異世界では反動が爆発してしまったのだろう。
最年少で、王様から直接授与されるような称号──S級整備士を承ってしまったのだ。
その驚異的な技術力は一国に数人レベル。
ただがむしゃらに、実際に存在するチャリオットにハァハァするための知識を学んでいただけなのに。
どうしてこうなった。
「マリア、あんたそんなのだから人間の彼氏の1人も出来ないのよ。見た目はその……か、可愛いんだから……」
「ありがと、ヒメちゃんとプリちゃんも可愛いよ!」
「なっ──って……、バトリオットと同類の可愛さを褒められても複雑なんですけど」
最上級の褒め言葉なのに。
やっぱり上手く伝わらないなぁ。
「ええと、プリちゃんは不調をきたしている左足の魔導アクチュエーターを明日交換で終了ー。さてと、ヒメちゃん、この後はお暇ですかな~?」
「ひ、暇だけど……」
「よし、私の彼氏を紹介しよう!」
「はぁ……何となくパターン的に分かってるけど……」
ヒメちゃんの手をギュッと握って、格納庫の一番奥へ向かう。
誰もいない、寂しげな機密区画へ。
パーツの入った木箱が積み上げられ、工具類が雑多に放置されている封印禁秘格納庫。
そこに彼はいた。
「これ、もう数千年も動いていないって話でしょ……」
「ブラックボックスが起動しないだけで、他の場所は全部動くように整備したよ! ご機嫌になれば今すぐにでも立ち上がって、私をお姫様抱っこしてくれそうなんだけどなぁ……」
「それ、サイズ差的に無理」
そこに横たわる、薄紅色をした15メートルの彼──プリンスバトリオット。
ヒメちゃんのプリンセスバトリオットと対になっているため、プリンスという銘が入っている。
アーサー王伝説を彷彿とさせる、均整の取れた甲冑型の曲線装甲。
人間で言えば細マッチョである。
凛々しいシャープな顔に、ドラゴンの角のような兜飾り。
イケメン戦国武将の兜がありなら、これも十分にありだろう。
「マリア、戦国武将って……なに?」
「あ……えーっと」
心の声がダダ漏れっていたらしい。
気を付けねば。
「では、彼──王子様の素晴らしさを語りましょうか! 装甲はプリンセスの方と類似点が多いけど、間接部からチラッと見えるセクシーな魔導シリンダーは短期近接戦闘に特化されており──」
「……やばい、マリアはこのモードに入ると数時間は続く。人でも機械でも彼氏自慢というのは馬も食わないわね……」
「──そもそも、バトリオットはブラックボックスの能力によって、直線的な遠距離攻撃は全て避けてしまうので、基本的には魔法か近接戦でしか対処できなく──」
──その時、騒がしい音がした。
誰もいないはずの物陰の方からだ。
私は聞き覚えがある音なので、すぐに分かった。
気を抜くと、がしゃーん! って良くやっちゃう。
「そこ、工具箱はなるべくひっくり返さないようにしてくださいね」
「──機密区画よ、ここ!? 誰!」
いつものノンビリおっとりな私と、ピリピリしたムードになるヒメちゃん。
育ちの差だろうか、しっかりしてるなぁ。
私としては、工具が痛んでいないかの方が心配である。
機械と一緒で、ヤワでは無いが繊細ではある。
人間の方も普通だと、工具落下で足の指を骨折したりする危険はあるが、ここに出入りするような者は鉄板入りの安全靴を履いているので平気なのだ。
「ご、ごめんなさい……」
ゆっくりと物陰から出てくる少年。
俯きながら叱られないかと、不安げに上目遣いでチラチラと見詰めてくる。
紫がかった髪に、研修生用のネームプレートとツナギ姿だ。
「ヒメちゃん、研修生さんが迷い込んじゃったんだよ」
「で、ですが、ここはプリンスバトリオットが保管されていて、立ち入り禁止になっている場所で──」
私は、背の低い少年の後ろへ回り込み、その背中を押した。
ちょっとだけだが、身長が勝っている事による優越感。
男性が多い職場ならではの気持ちだろうか、と内心苦笑してしまう。
まぁでも、それに断然勝る、少年の動機による共感。
隠れながらもここに来るという事は、そういう事なのだろう。
超好感触である。
「あなたも王子様が見たかったんだよね? 一緒に見よ!」
「え、あ、あの……いいんですか?」
「格好良いから、みんな見たくなっちゃうのはしょうがないよね!」
これだからマリアは……といった感じで、ヒメちゃんは頭痛を抑えるように額に手を当てていた。
さてと、この王子様の魅力を、どうやって話そうか。
まずは初歩的な事から。
「昔々、この王国は悪いドラゴンが支配していました」
「ドラゴン? 本当にいたの?」
「た、たぶん。実際に見てきたわけじゃないけど……。ええと、そのドラゴンを、このプリンスバトリオットに乗った王子様が一刀両断!! わーわーぱちぱち!」
ヒメちゃんが『引いている』という視線を送ってくる。
──う、ついついテンションが上がってしまう。
抑えなければ……。
「その王子様は、今もこのバトリオットの中で眠り姫となって、国を見守り続けていると言われているの」
「マリア、王子で眠り姫っておかしくない?」
ナイス突っ込みである。
眠り王子……語呂が悪いなぁ。
「ま、まぁともかく、そんな伝説があるバトリオットなの。どう、格好良いでしょ? でしょでしょ?」
「んーと、お姉ちゃん……マリアお姉ちゃん」
「はいはい、なにかな~?」
お姉ちゃんと呼ばれてしまった。
悪い気分では無いかもしれない。
「このプリンスバトリオット、動くの?」
「うっ」
痛いところを突かれた。
ブラックボックス以外は完璧に直した。
いつ動いてもおかしくない状態なのだ。
なのに、ブラックボックスが起動しないため、機体を本格的に動かす事が出来ない。
王家の血筋に反応するケースもあるため、ヒメちゃんを始めやんごとなき方々達がコックピットの中に入ったものの、うんともすんとも言わずだ。
私もどさくさに紛れて乗り込もうとしたが、高貴な御方以外は入ったらダメと怒られた。
こういう時に限ってはヒメちゃん達が羨ましい限りである。
「あれ、マリアお姉ちゃんが固まっちゃった」
「テンションが最高潮まで上がった瞬間に、王子様は目覚めないという現実に引き戻しちゃったのが原因かもしれないわね……。あ、わたくしの事もお姉ちゃんって呼んでいいわよ。ヒメお姉ちゃんって」
「そ、そうなんだ……ありがとう、ヒメお姉ちゃん!」
はうっ、と心臓を射貫かれたようなポーズでうずくまるヒメちゃん。
そういえば、昔から年下の子が好みだった気がする。
機密区画で私達、うずくまったり固まったり何やってるんだろうか……。
1回深呼吸。
冷静、うん──落ち着いた。
「ちなみに、その戦いは絵画になっているの。ほら、そこに飾られてる、整備工場には不釣り合いな絵」
少し高い位置にかけられている、高級な額縁。
その中の油絵に描かれているのは、燃えるような赤髪の美青年と、同じように真っ赤な魔導装甲を光らせているプリンスバトリオット。
伝説のフレイムドラゴンを退治しているシーンである。
この建国時の出来事にちなんで、王族の名前にフレイムドラゴンと入っているとか何とか。
「へ~、今の薄紅色の装甲と色が違うんだね~。……うわわっ」
少年は背的に高く見上げる体勢になるため、バランスを崩して後ろへよたよたと下がってしまった。
その背中は積み上げられた木箱に当たってしまい──。
「あっ」
少年の頭上──。
2メートル程の位置にある木箱の上に、工具箱が乗っていた。
そして、ぶつかった衝撃でそれが落下した。
空中で中身がバラ撒かれ、それなりの重さがある大型レンチやニッパーが少年の頭へと向かう。
「危ない!」
私は、無我夢中で少年を突き飛ばした。
少年と共に華麗に回避!
……とはいかず、少年は無事だったが、引っ込め損ねた私の両腕に工具類が直撃。
腕に激痛が走る。
「お、お姉ちゃん大丈夫!?」
「マリア、あんた何やってんのよ!」
心配して駆け寄ってくる二人。
腕を見ると、少し血が滲んでいるだけで大怪我では無い。
時間が経てば青あざになって、見た目がちょっと猫と喧嘩した後みたいになるくらいだろう。
したことないけど、たぶん。
「たはは、バトリオットの運動性能と装甲が欲し~ね」
「バカ! 救急箱はどこ! あんたは国を背負うS級整備士なのよ!」
ヒメちゃんは心配性である。
これくらいの傷はどうって事無い。
「ご、ごめん。でも、大げさだよ。仕事は出来ると思うし──」
「……友達を心配しない人間なんていないでしょう!」
「う、うん。ありがとう」
「なっ、なに笑ってるのよ! ほら、さっさと治療しに行く!」
──その時、プリンスバトリオットの魔導装甲が少しだけ真紅に染まった気がした。
* * * * * * * *
腕は痛むが、しばらくしていれば治るという感じだったので、そのまま家に帰って食事とかお風呂とかの後、寝ちゃおうとした。
その時、ふと気が付いた。
財布が無い。
早く帰れ帰れと押されまくったため、整備場に置き忘れてきてしまったのだ。
私生活に関してはズボラなので、自炊なんて出来ないし、外で買ってきた出来合の物もさっきので最後だ。
朝ご飯を食べられずに餓死──はしないが、その状態ではお昼まで持たない。
──というわけで、仕方なく夜の整備場に舞い戻ったのであった。
基本的に急ぎの仕事も入っていない時期なので、夜は警備兵さんが欠伸をしながら暇しているくらいだ。
何か差し入れでもしてあげたいが、その先立つものがない。
とりあえず『いつもありがとうございます』程度は言っておこうかな。
正門に隣接するコンクリート製の警備室を覗き見る。
……だが、誰もいない。
おかしい。
夜食でも買いに行ったのだろうか。
羨ましいので後で分けてもらおう。
そのまま格納庫に隣接されている事務所に向かう。
暗い中、覚えている感覚でドアを開け、明かりを灯す。
仕事机が並び、書類が散乱する雑多で男臭い場所。
隅の方にある、定規のアームがくっついている製図台周辺が私の城だ。
整備士とは呼ばれているが、S級ともなるとバトリオットの事は設計も含め、すべて対応できるようになっている。
あ、ちなみに隅なのは、追いやられたとかではなく、落ち着くから場所を移してもらったのだ。
決して、この世界でもハブられているとかではない。
「さてと、お財布は……あったあった」
新パーツの設計図の紙束の上に、無造作に置かれていた。
こんな感じでも盗まれないのは、職場に良い人が多いからと、王国が大らかなためだろう。
お隣の帝国との戦争なんて忘れ去られている。
戦争状態だが長い間、実戦はしていない状態。
平和ぼけ、お気楽、そんな雰囲気だ。
ここにあるノーマルチャリオット達も生まれてこの方、昼行灯と化している。
でも、そんな雰囲気も嫌いでは無い。
「あ、いけない。ヒメちゃん、寝る前に家まで様子見に来るって言ってたっけ……」
すっかり忘れていた。
お姫様が一人で夜出歩くとか、そんな事も出来てしまう平和な異世界。
──のはずだった。
「早く戻らないと、待たせちゃ──」
振り返ったその時、黒ずくめの男達が視界に入った。
警備兵さんの格好では無い。
「見られた。殺すか?」
「そうだな……」
すごい恐い会話をしている。
……私、このパターン知ってる。
ロボットアニメで主役機を盗みに入った奴に、一話目で殺される私だ!
「で、出来れば命が助かる薄い本コースでお願いします……」
同人作家達は心優しいので、大抵は死亡まではいかないだろう。
いやいやいや、そうではない。
「何言ってるんだ、こいつ……何かの暗号か?」
うん、やっぱり伝わらない。
気が動転しすぎていた。
「特殊な用語……あ、噂の拉致対象! 最年少S級整備士ですよ、この少女!」
「確か名前をマリア……そう情報にあったな。なぜ、この時間にいるのかは不明だが──丁度良い、ここのバトリオットと共に対象となっていたからな」
セーフ、セーフである。
命あっての物種、ここは抵抗せずに──。
「王国の象徴であるバトリオット二体を破壊した後、連れ去るとしようか」
「……破壊?」
私は、つい聞き返してしまった。
「そりゃそうだろ、お嬢ちゃん。新たな皇帝を迎えた今、王国は目障りなだけだからな」
新たな皇帝……と言う事は、この黒ずくめの男達は帝国の兵士?
いや、問題はそこではない。
こいつらが言い放ったもう一つの事だ。
……私の彼女と彼氏を破壊する?
戦闘でボロボロになるのなら、それは享受と言って良い。
あの子達も満足だろう。
だけど、破壊工作なんてつまらないもので壊すのは頭がおかしい。
私の命より大切なモノ──。
「ロボットはね……」
「ん?」
「ロボットはね……戦ってぶっ壊れるのがロマンってもんでしょ!」
魂はロマンで出来ている。
私はぶち切れ、全力でその場を逃げ出す。
黒ずくめの、帝国の兵士達がいない方向──格納庫への通路へ。
「あ、逃げやがった。追え!」
格納庫へ辿り着けば、何とかなるかもしれない。
そう思い、全力で走る。
暗い中でも、地形を覚えている私の方が有利だ。
ノーマルチャリオットと、プリンセスバトリオットが横倒しで並ぶ格納庫。
がむしゃらに走って辿り着き、後続を遮るために扉を閉めた。
そして目にした光景。
「あ……」
格納庫の大型搬入口が開き、帝国の黒いノーマルチャリオット数体が月明かりに照らされている。
……既にここも占領されていたのだ。
バトルチャリオットよりは一回り小さく、10メートル程のずんぐりむっくりした体型だが、この状態では凄まじい脅威だ。
その手に持つ鉄塊は、一撃で民家を粉砕できる程。
それが私に近寄り、一歩一歩……地響き。
圧倒的な威圧感。
鋼鉄の巨人相手に、生身の人間が出来る事などない。
そう、ノーマルチャリオット達の冷たいカメラアイが告げている。
剣を持っていない方の巨大な手を伸ばし、こちらを拘束しようと──。
『わたくしの友達に、汚い手で触れないでくれますこと?』
格納庫内に響く、頼もしい声。
「ヒメちゃん!」
横倒しになっていたプリンセスバトリオットが起動し立ち上がり、その華麗な姿を見せる。
透明な魔導装甲は白銀のプリズムを生み出し、煌びやかに光の精霊を舞い踊らせる。
鋭く光る硝子眼は、相手のノーマルチャリオットを射貫く。
──瞬間、プリンセスバトリオットは消えた。
烈風巻き起こり、ノーマルチャリオット達の後ろへ出現。
圧倒的な機動力。
ノーマルチャリオット達がそれを振り返ろうとしたが、既にボディは大破して崩れ落ちていた。
プリンセスバトリオットは、いつの間にか抜刀して通り抜けざまに切り裂いていたのだ。
その剣にベッタリと付着した黒いオイル──それを空で一薙ぎして飛ばし、カチリと鞘へ収める。
──機体による、格の違い。
ノーマルチャリオットは、バトルチャリオットの足止めが精一杯なのだ。
運が良ければ小破させ、最強の兵器に集団特攻して足止めさせるという役割。
風のように駆け、大砲を正確に躱し、一瞬で敵を殲滅するバトリオットに敵う兵器は存在しない。
ドラゴンですら倒したというのも、この姿を実際に見たら納得出来る。
『マリアの家に行ったら誰もいないし、近所の人に聞いて、こっち方向に歩いてたって言われたから来てみたけど……この状況は何よ? アレ、見た事無い機体よ』
外部スピーカーで私に問い掛けられてもなぁ……。
「えーっと、何か帝国さんが破壊工作しにきたみたい……なのかな?」
『どうして、いきなりそんな……』
集音マイクでちゃんと届いたらしい。
『それはね、僕の気まぐれさ』
バトリオット独特の駆動音が、新たに一機分近付いてくる。
ヒメちゃん以外で、近辺に正規の操縦者はいないはずだ。
となると、この声の主は帝国側の──。
『また会ったね、お姉ちゃん達。昼間はありがとう』
「その声は……」
紫がかった髪で、ツナギを着ていた研修生の少年を思い出す。
そして搬入口から入ってくる、深紫色のバトリオット。
禍々しく黒い薄光を沸き上がらせながら、その重鎧兵のような装甲を見せる。
尖った両肩と頭の衝角は、単眼の視界に入った物を全て射殺すというアピールに見える。
『このわたくしをヒメリア=ルクク=フレイムドラゴンと知っての狼藉か!』
『ああ、知っているとも。その王機プリンセスバトリオットの事もね』
一触即発の状態でにらみ合う、深紫色のバトリオットと、プリンセスバトリオット。
『貴様、何者!』
『騙して悪いけどお姉ちゃん達、僕が新しく即位した皇帝ジーク=レクク=ディープドラゴンなんだ』
深紫色のバトリオットは単眼を光らせ、内部の動力を調整して戦闘起動へとシフとした。
その電力と魔力を混ぜ合わせる独特の駆動音で分かる。
それを可能にするブラックボックスが搭載されているからこそ、バトルチャリオットなのだ。
そして私は、相手の機体に見覚えがあった。
こっそりと帝国側から手に入れた、レアなマニア手作りカタログで。
帝国最強の機体、それは──。
『──帝機カイザーバトリオット、いくよ!』
『王機プリンセスバトリオット、受けて立ちますわ!』
私を気遣ってか、格納庫の外へ飛び出るプリンセスバトリオット。
夜陰の中で二機による剣戟が鳴り響く。
バトリオットの美しいハイヒール型の足には、高度な魔法が使われているため、傾斜や水上でも戦える程に安定している。
そのため、巨大な機体同士が打ち合っても地面はえぐれていない。
だが、その風圧は木々を揺らし、まるで剣によって巻き起こる台風。
あまりの素早さで常人の目には巨大な残像──深紫の亡霊と、白銀の蜃気楼にしか見えない。
一刀、二刀、三刀と、素早くも重い打ち合いが煌めき、強大なエネルギーがぶつかり合う。
鉄塊同士をぶち当てる音──いや、衝撃波が耳に痛い。
それと同時に、足回りの振動音が気になった。
歯車と歯車が噛み合わないような、駆動のロスを知らせる些細な悲鳴。
──そう、明日交換予定だった、プリンセスバトリオットの魔導アクチュエーター。
『ヒメお姉ちゃん♪ 隙有り、ってね!』
『そんなっ!?』
勝負は一瞬だった。
数度打ち合い、相手の不調部分を見抜いたのだろう。
カイザーバトリオットの剣が、体勢を崩したプリンセスバトリオットの腕を潰し折った。
返す刀で、脚ともう片方の腕をなぎ払い、透明な魔導装甲の破片とオイルを飛び散らせる。
落下するようにゆっくり倒れるプリンセスバトリオット。
『さてと、これで残るはマリアお姉ちゃんだけだね』
カイザーバトリオットから降機してきた、紫がかった髪の少年。
もう、その格好はツナギでは無かった。
少年らしい、フリルの付いた仕立ての良い白ブラウスの上に、紫色のガウンとドラゴンの羽根を思わせるマントを羽織っている。
その周りには、追い付いてきたらしい黒ずくめの兵士達も集まってきていた。
さすがに不味い。
ここは逃げなければ。
相手に背を向け、必死に走り出す。
ヒメちゃんは、たぶん無事だろう。
ブラックボックスの加護によって、バトリオットの操縦席は世界一頑丈だ。
稼働時間内なら、外部から壊す事はバトリオット同士でも難しい。
「マリアお姉ちゃん、僕のお嫁さんになってくれないかな?」
逃げる私の背後から、そんな馬鹿げた声が聞こえた。
「最初は、気まぐれで王国のバトリオットを直に壊すために来たんだけど……S級整備士も貴重だなって思ってね」
気まぐれ……まぁ気まぐれじゃないと皇帝様、御自ら出向いたりはしないよね。
「上手く潜り込んで見学させてもらってる時、マリアお姉ちゃんに助けてもらって惚れちゃったんだよ」
……助けなきゃ良かったかなぁ。
「だからねぇ、惚れさせたマリアお姉ちゃんが悪いんだ。僕の幸せなお嫁さんにしてあげるよ?」
「滅茶苦茶だと思うんだけど!?」
私は、息も切れ切れになりながら反論した。
いくら日頃、身体を健康に保っていても、命からがらプレッシャーの中で逃げ続けている状態だと疲労困憊だ。
最後の望みである、一番奥の機密区画まで辿り着かなければ、この少年皇帝の不幸せなお嫁さんになってしまう事だろう。
そんなのは御免だ。
折角、ロボットが存在する異世界に来たというのに。
「絶対! 絶対! ぜぇーったい! キミのお嫁さんにはなりませんから!」
「──ッ! ええい、逃げるな! 皇帝の僕が嫁にもらってやると言っているんだ!」
私に拒絶されたのがショックなのか、皇帝ジーク君の声に怒気と焦りが籠もっている。
「足止めします!」
オマケに、お付きの兵士が投げたナイフで肩を切り裂かれたりした。
痛いです。
──そんなこんなで、プリンスバトリオットの機密区画まで辿り着いた。
目の前には、私が最も好きな薄紅色の装甲が見える。
「何が不満なのだ? この僕──皇帝ジークと契りを交わせるのだぞ?」
「私には、好きな人がいるんです!」
「はっ! この僕より魅力的な人間なんて存在しているはずがないだろう」
私は、それに対して自信満々に言い放つ。
心の底から、この言葉は当たり前だという確信を持って──。
「私は機械に恋をしています! 身長15メートルの格好良い彼です!」
その言葉に呼応するかのように、プリンスバトリオット──私の王子様が輝きだした。
薄紅色だった装甲は、伝説で語られていた真紅へ。
胴体にある操縦席への装甲扉は独りでに開閉し、私を受け入れようとしてくれている。
「な、なんだアレは……動かないはずじゃ。……どうして動く!?」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
私はにっこりと、少年皇帝へ微笑んだ。
「女の子のピンチを救うのが──王子様ですから」
そのまま、プリンスバトリオットの中へと乗り込んだ。
「皇帝陛下、お下がりください!」
「くっ」
兵士達と共に外へ向かう少年皇帝。
このまま退散してくれれば良いけど、たぶんそうはいかないだろう。
あの帝機カイザーバトリオットに乗ってくる予感が、フラグ的に立ちまくっている。
私はそれに備えなければならない。
そう、大事な王国の宝であるこの機体を守るため、しょうがなく……しょうがなく操縦席に乗り込んだのだ。
一般ピープルが乗り込むの禁止と言われても、状況的に不可抗力だ、うん。
「ああ……憧れのバトリオットのコクピット……」
車の運転席よりは広く、漫画喫茶の個室よりは狭い程度だろうか。
シートは包み込むように優しく、左右には雄々しいスティック、足下にはペダル。
横にあるスイッチを操作して、前部装甲を閉鎖、操縦席を密閉状態にする。
そして、やりたかった事──すんすんとニオイを嗅ぐ。
微香くすぐる、使われていないシートの粒子……これが王子様の香り……。
サイッコーである! 男の子の! おっとこのっ子の──。
いかんいかん、鼻血が出そうなくらいテンションがマックスになってしまった。
転生してから苦節14年の夢が叶ったからといって、冷静にならなければいけない。
内部チェック。
既に動力炉には火が入っているため、手順をいくつか省略。
レーダー等の計器類のトグルスイッチを片っ端からオン。
動力音は……うん、心地良い振動を感じる。
きちんと整備をしていたため、数千年のブランクは嘘のよう。
計器類での調子もオールグリーン。
後はシートベルトを締めて──。
「我、竜を打ち倒す者也。その剣は竜を切り裂く為、その身体は竜の臓腑を浴びる為、その心は黄昏世も竜を尋行き彷徨う為」
詠唱によって、機体と操縦者との魔力同調を開始する。
科学だけでは無い、魔法とのハイブリッドな兵器──それがバトリオット。
……すると、不思議なものが見えた。
「よう、聖母様。また俺様を頼ってくれて嬉しいぜ」
赤髪の青年。
それが機体の中にホログラフ的に見える。
初対面の私に、何を言っているのだろうか?
「あれ、髪伸びた? 周りの雰囲気も何か違うし、あれからどれくらい経ったんだ?」
「この機体が前回稼働したのは、数千年前と聞いています」
とりあえず、答えておいた。
詳細は理解できないが、ロボット物的に付属のAIか何かだろう。
姿は絵画にあった王子様に似ているが、特に気にしなくてもいいだろう。
「数千年……マジか。そんなに経っちまったのか。あ、でも聖母様はあんま変わんねーな!」
王子様AIにしては、随分とぶっきらぼうな口調だ。
「たぶん別人です、そら似です。私──マリアは14歳ですから」
「他人……じゃないと思うんだけどなぁ。俺様が反応したのも、この血から得られる情報としても──」
赤髪の青年は、私の肩の傷から流れ落ちた血をペロリと舐めた。
ゾワッと悪寒が走る。
ホログラフっぽいのに、不思議と走る触覚。
ただでさえ無遠慮な俺様男というのは苦手なのに、自分の血を舐められたのだ。
「あの、あなたは何なんですか……?」
「俺様か? そうだな、記憶が無いのなら名乗らないといけないな。名は炎呪だ。どうだ、禍々しい名前だろ?」
エンジュ……。
何か聞いた事があるような。
遠い記憶、前世の記憶、つい呟いてしまう。
「……葉がくれの、星に風湧く槐かな──」
「俳句……か?」
何故、異世界の癖に俳句が通じるのか小一時間は問い詰めたい。
私のロボット物の雰囲気を返せ。
「お母さんが好きだったの。詠んだのは杉田久女って女の人のだったかな? だから、あなたの名前も素敵だと思う」
「そ、そうか……素敵か」
髪だけでは無く、頬まで赤くする青年──エンジュ。
ちょっとだけドキッとしてしまうが、それは憧れのバトリオットに乗り込めた事の相乗効果だろう、きっと。
「って、こんな話をしている場合じゃない私。帝機カイザーバトリオットが戻ってくるかもしれないんだった」
「カイザーバトリオット……? あいつ、今はそんな名前で呼ばれてるのか」
古い顔見知りか何かなのだろうか。
とりあえず、戦闘起動までの手順は完了した。
後は、何か出来る事はえーっと……。
──そんな悩みは必要無いという感じに、格納庫の壁が吹き飛んだ。
その向こうから、ゆっくりと姿を見せるカイザーバトリオット。
『マリアお姉ちゃん、迎えに来たよ』
機体に乗ったせいか、少年皇帝の口調は穏やかなものに戻っていた。
『さぁ、いらない手足を切り取って、マリアお姉ちゃんを持って帰って──僕がお嫁さんにしてあげるよ?』
そんな事を言いながら一歩一歩、前進してくる。
……バトリオットの手足をだろうか、それとも私の生のダイレクトな手足だろうか。
前者としてはロボットの破壊は美学で分かるが、後者の場合はご遠慮願いたい。
リアル昆虫標本みたいな感じは簡便である。
「安心しろよ、聖母様」
エンジュは、顔を数センチの所まで近付けて、真剣な眼差しを向けてきた。
そして熱い情熱を込めた言葉。
「お前は、俺様が守ってやる! さぁ、操縦を任せ──」
「どいて、邪魔」
私はプリンスバトリオット──いや、王子様を戦闘起動へと移行させた。
シートから伝わる独特の心地良い振動音。
王子様に包まれているという絶対的安心感。
「いや、聖母様? このピンチは、俺様が戦わないといけないシーンだろ?」
「ごめん、生身の男には興味無いんです。あと本当にごめん、S級整備士はバトリオットの事は一通り出来るの」
「えーっと、つまり操縦もか……?」
バトリオットの操縦知識は全て叩き込んである。
可能な限り、どのタイプでも動かせる。
実際には乗り込めなかっただけで、慣熟訓練もノーマルチャリオットで数千時間は行った。
平和だったので、もっぱら慣熟土木工事、慣熟災害救助、慣熟川で洗濯。
一番難易度が高かったのは、力加減調節のため、畑で完熟トマトの収穫を手伝った事だろうか。
ええい、慣熟がゲシュタルト崩壊する!
とにかく、ノーマルチャリオット同士での打ち合いなら、ヒメちゃんと戦っても100%勝てる程度だ。
これには、転生した人間独特の理由がある。
「マリア、いきまぁぁああす!」
1度言ってみたかったベタで恥ずかしいセリフである。
実際に乗りながら言えるとは感無量……ジーンと心を打つ。
『くくく……この僕の帝機カイザーバトリオットと戦おうと言うの? マリアお姉ちゃん。そんな骨董品と、付け焼き刃の操縦じゃ──』
私の王子様は素早く立ち上がり、余裕綽々でセリフを喋っているカイザーバトリオットの懐に、フェイントを30回ほどかけながら飛び込んだ。
いわゆる、分身というやつだ。
『──え、えっ!?』
少年皇帝は、既に間合いに入られていた事に驚いているのだろうか。
想定が甘すぎる。
バトリオットを動かすのに大事な要素は三つある。
一つ目は操縦技術、二つ目は魔力値、三つ目は──イメージ力である。
この、生前から悶々と『イケメンロボットに乗りたいなぁ……』という妄想を寝る前にしていた──もとい日々のイメージトレーニングを欠かさなかった私。
この世界で最強だ。
私の中では、巨大ロボットが忍者的な動きをするのはアニメで常識。
そう極限まで高められたイメージは、バトリオットへと魔力同調で伝わり、それを実現させた。
「ねぇ、女の子にこんな風にされて、どんな気分? ねぇ……皇帝クン?」
残っていた壁にドンと手を突き、カイザーバトリオットの衝角目立つ顔に、王子様の顔を近付ける。
分身からの神速壁ドン、顔密着。
それもイケメン巨大ロボット同士である。
ああ、素晴らしきこの世界。
「何コレェ……」
エンジュが横で何かを言っているが気にしない。
『ば、バカにするなぁーッ!』
カイザーバトリオットは、怒りをそのまま振るうかのように剣で足下を一薙ぎ。
私の王子様は、それを華麗に避ける。
──具体的にどう避けたかというと、壁ドンポーズのまま小ジャンプ。
その後に、壁ドンしている壁へ両方の足裏を吸着。
蜘蛛男もビックリなポーズ、壁ドン+足ドンである。
重力の方向を気にしないのであれば、王子様がカイザーバトリオットにのし掛かる肉食系な五秒前と言った所だろうか。
鼻血が出そうになる。
『ひぇっ』
この異世界では、ポーズ的になじみが無いのか驚かれてしまったようだ。
落ち着かせてあげよう。
幸いな事に、私の王子様は右手がまだフリーだ。
これで優しく、カイザーバトリオットの顎をクイッと持ち上げる。
そして、器用に顔同士を近付けて──。
『う、うわあああああああああああああああああああああ』
カイザーバトリオットの中の人が大絶叫し、火事場の馬鹿力で背後の壁を粉砕しながら遠ざかっていく。
「──今、全てのバトリオットを攻略していく、私だけの恋愛ロボット乙女ゲーが始まる!」
「始まらねーよ……」
エンジュのツッコミはスルーした。