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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第95話 最高の誕生日

 リヴィオの18歳の誕生日の日がやってきた。

 闘技大会の再会の日程が明日に決まったので、毎年、晩餐とともに行われていた誕生会は、今年は早めに昼からの開催となった。

 飾り付けられた居間には、屋敷に住まうメンバーの他に招待客(ゲスト)も招かれている。


 普段、日中は寝ているラファエルも祝いの為に起きてきたが、大あくびをしている。鋭い牙が剥き出しになり、それを見たゲストの一人、リズオール・アグレインはちょっと緊張した顔をした。


「ここ住んでおることは知っておったが、ヴァンパイアを見るのは初めてなのじゃ……」

「きばー」

「ナユは怖くないのか?」

「うん。らふぁえるすきー」

「そ、そうか」


 それを聞いてほっとしている姫の姿を見つけたラファエルは、そちらへ歩み寄っていくと大声で笑った。


「ヴァッハッハー!」

「ぴっ!?」


 びくんと身体を震わせるリズオール。


「まさかこの国の姫君まで来ておるとはな! 我が名はラファエル・フォン・グランキャッスル3世。ヴァンパイアである。見知り置くがいいぞ」

「リ……リズオール・アグレインなのじゃ。宜しく頼む」

「うむ! 間近で見ると実に美しい銀髪だな。お主の祖母や父の若い頃のようだ」

「お婆様やお父様のことを存じておるのか!? よ、よければ聞かせてくれぬか?」


 よほど興味があるのだろう、身を乗り出す姫様。その様子にラファエルは口角を上げて牙を見せると話を聞かせ始めた。

 そんな様子を緊張した面持ちで見つめるベルナ・ルナがいる。


「話にゃ聞いてたけどさァ、本当にコンスタンティアさんたちもこの屋敷に住んでるんだな。ひ、姫様までいるなんて、聞いてねェよぅ……」

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。よく話してみると、そんなに怖い人たちじゃないですよー」


 以前の旅の間に仲良くなったフリアデリケが、いつもより着飾ったベルナ・ルナの肩に手を添えて微笑む。それでベルナ・ルナも幾分、和らいだ顔を見せた。


 居間にご馳走が運び込まれてきて、高そうな酒類を見つけてドワーフのゴドゥとトアンがテンションを上げる。

 今回のご馳走には外注したものも含まれていて、それを運び込んできた人物には見覚えがあった。


「あれ? キミは確か……」

「あ、クロキヴァゴローさん! その説はどうもお世話になりました!」


 ぺこんと大きく頭を下げる15歳くらいのポニーテールの女の子。老舗の宿が火事になったときに、石化させて助けた女の子だった。

 確か名前は……。思い出そうとしているとコンスタンティアが近付いてきて声を上げる。


「コンチェッタちゃん……!」

「あ、お姉様!」

「へ?」


 嬉しそうに抱き合うふたり。尋ねてみるとこのふたり、歳の離れた姉妹なのだそうだ。

 道理で、凄い魔法壁を作ると思った……。宿屋の冷蔵室も、彼女の氷魔法があるからやっていけてたそうな。

 火事で消失してしまった老舗旅館は立て直されて営業も順調だそうで、それで当時は恩返しをする余裕がなくて遅れてしまったけれど、先日、せめてものお礼にと贈り物を用意してこの家を訪ねてきたコンチェッタは、コンスタンティアとばったり遭遇。ふたりとも家を出た身であった為、数年ぶりの再会に喜びあった。

 そこで今回のリヴィオの誕生日を知り、旅館側で恩返しにとご馳走を用意することになったのだという。

 ……別に助けたのは俺なのにっていうつもりもないけど、俺、なんにも知らされてなかったんだけど……。


 テーブルに並ぶ料理は、実に豪華だった。

 いくつかのリヴィオの好物では、同じ料理でもルーシアとフリアデリケが作ったいつもの味のものと、旅館の料理人が作ったレシピの違うものが用意されている。特別感あるなぁ。


「美味しそうだねぇ……」


 同じように料理を眺めていたエステルがぺろりと可愛らしく舌舐めずりした。


「城ではいいもん食べてるんだろ?」

「いや~、なんか高級な食材ってのは感じるんだけど、素材の味を活かしてるって感じでさ、全体的に味付けが薄いし……。美味しいことは美味しいんだけどね~」

「へぇ~」

「ねぇゴロー、ところでさー……」


 エステルが俺のすぐ傍まで近寄ってくると、つま先立ちして俺の耳に唇を寄せてきた。


「リヴィオとの仲は、進展した?」

「へっ!?」


 吃驚びっくりして顔を離し、エステルと目を見合わせる。


「ん~……その調子じゃなんにもなしか~」

「……さ、最近は俺よりも、菜結やフランケンに夢中だよ」


 視界の隅に映っていたフランケンに顔を向けると、エステルもそちらへ目をやった。

 そこでは美形で魔法使いのディアスと、馬車作りでお世話になった工房のホビットであるフーゴがフランケンを興味深そうに観察している。


「あはは。可愛いの大好きだもんなぁ、リヴィオは。でも、そっか~~。ゴロー、次の試合に勝てたら、ちゅーさせてくれとか頼んでみたら?」

「はぁっ!? いやいや、そんな不純なこと言ったらリヴィオ、不機嫌にならないか?」

「ああ~……うーん、そうかも……。やっぱゴローはよく見てるねぇ、リヴィオのこと。ん~……よし! じゃあ、リヴィオとはまた別の機会にして、次の試合に勝てたら私がキスしてもいい?」

「ええっ!?」

「…………だめ?」


 見つめ合っていると、エステルの顔がみるみる長い耳まで赤くなっていって、本気なのだと感じた。


「だけど……」


 リヴィオは別の機会って……。それでいいのか? ふたりともにそんなことしていいのか?

 そんな俺の心配を見抜いたのか、


「リヴィオなら、大丈夫」


 そう囁いて、エステルは優しく微笑んだ。

 とても可愛らしく、温かな表情で。


「さぁさぁ、本日の主役の登場ですよ! 皆さん、拍手をお願いします!」


 返答する前に、ルーシアの声が客間に響き渡った。

 皆が拍手すると開け放たれた扉から、真紅のドレスを身に纏ったリヴィオが姿を現した。

 前の世界では空想の世界にしかいなかった淡紅色の髪色もあって、化粧も施された今日のリヴィオは、さながら美しい人形のようだった。

 拍手が大きくなり、歓声が混る。

 リヴィオは俯いて頬を染めながら、料理の並ぶテーブルの上座に着席した。


「さぁ、誕生会を始めましょう」


 ルーシアの声に、皆が席へと向かう。

 エステルに返事をしようとリヴィオから彼女に向き直ると、エステルは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべ、


「ざ、残念、時間切れー。さ、さっきの話は無しねっ」


 とまくし立て、ささっと自分の向かう席へと行ってしまった。





 ラファエルの為に厚いカーテンで閉め切られた部屋は、沢山の燭台で明るく灯されていたのだが、それらが準備の為に消される。

 そしてフリアデリケが今日の為に新しく考案したチョコレートシュナンパイを部屋に運び込んできた。

 俺の前の世界の誕生日の風習を真似て、パイには火の灯ったローソクが何本か立てられていて、その演出にお姫様が「わぁ……」と思わず大きな声を上げて恥ずかしそうに縮こまっていた。


 この世界にも誕生日の歌があり、恥ずかしそうな者も多い中、皆で合唱した。 歌が終わって拍手の中、リヴィオがローソクの炎を吹き消す。そこで「おめでとう」と俺が言うと、皆もそれに続いた。


「おもしろい風習だな」


 再び燭台が灯された中で、ビブラートの効いた美声を披露していたラファエルは、牙を見せて愉快そうだ。

 ラファエルのガチな歌声もおもしろくて噴き出しそうになったぞ。俺以外にも耐えてた人は多かったんじゃないだろうか……。

 ディアスも一緒になって本気の美声を披露してた。このふたりは趣味も会うし気も合いそうだ。


 それから、プレゼントが手渡された。

 まずリズオールがプレゼントを差し出し、リヴィオは大変に恐縮した。


「ひ、姫様……。宜しいのでしょうか……」

「勿論じゃ。余が図々しくも参加させて欲しいと頼んだのじゃからな」

「そ、それでは……」

「うむ。誕生会おめでとうなのじゃ」

「あ、ああ……ありがとうございます! 一生忘れません……!」


 リズオールは大袈裟だと笑った。リヴィオは瞳をうるうるとさせている。

 姫様はこういう会に出席するのは初めてで、昨日から楽しみでドキドキして寝付きが悪かったとは、後から菜結に聞いた話だ。


「こ、これは……」


 姫様のプレゼントをリヴィオが開けると、中身はきらびやかな人形用の衣装だった。


「聞いたぞ、人形が好きなのじゃとな。じゃから、余が子供の頃に異国の者から献上された人形用の服を用意したのじゃ!」


 人形が好きなことをバラされてリヴィオは顔を赤くしたが、羞恥よりもリズオールの想いに応えるほうが重要だったのだろう、「き、貴重なものなのでは……?」と尋ねた。


「そうかも知れぬが、あっても押入れの肥やしになってしまうからのう。貰ってくれると有り難い」

「で、では有り難く頂戴致します……!」


 「お堅いのじゃ」と姫様は笑い、皆にも笑い声が広がる。

 リヴィオはルーシアとフリアデリケの様子をちょっと怖怖こわごわと伺った。そして自分が人形遊びをしていたことを彼女たちにも知られていたと気付いたのだろう、やっぱりな、といったような表情を作った。


 それから、ディアスが高級そうな髪飾りを、トアンは「姫様と被っちゃったさー」と苦笑しながら手作りの人形の服を、ゴドゥが高級なワインを、フーゴは工房を代表して装飾の凝ったネックレスを、菜結がリヴィオの似顔絵と花飾りを、ラファエルとコンスタンティアとフランケンシュタインは3人一緒のプレゼントとして装飾用の豪華な剣を、それぞれリヴィオにプレゼントした。

 次々に渡されるプレゼントに、リヴィオはなんだか瞳孔が開きっぱなしのような顔をして、赤い瞳を大きく開けていた。


 次にベルナ・ルナがリヴィオに歩み寄り、「アタイもちょっと被っちまったなァ」と布から高級そうな刀の鞘を取り出して手渡す。

 ラファエルたちの装飾品用のものとは違って、あまり飾り気はないが高級そうな感じがする。


「これはもしかして……ロンドヴァルの鞘か?」

「そうさァ。いやァ、本当はなんとかこれと一緒に魔剣ロンドヴァルも今日に間に合わせたかったんだけど、あともう数日だけかかっちまうんだよォ。それにまァそっちは依頼の品だからさ、それとは別に用意してたこれを一足先に、な」

「だが……これは値が張るものなのだろう? いいのか?」

「こりゃァこっちが勝手に用意したモンだからさ、請求なんて出来ねェよ。いい剣にはいい鞘を……ってさ。貰ってくれよ!」

「……わかった。ありがとう、ベルナ・ルナ」


 その次はフリアデリケとコンスタンティアのプレゼントが手渡された。

 それは傘だった。この国では主に貴族のステイタスとして日傘は存在していたが、これは俺が前にいた世界の話を聞いてフリアデリケたちが特注した防水加工の施された傘だ。

 しかも単に雨除け用の傘ではなく、彼女たちが自分たちのアイディアを元に商業ギルドに務めるグリースバッハに相談して、身体の弱い貴族の少女の為にとデザインされた可愛らしいステッキのデザインを流用した特注品だ。


 グリースバッハは雨除け用の傘にも驚いていたが、今までの日傘では傘布のデザインばかりが注目されていてそれ以外の部分にはあまり感心が持たれていなかった為、防水用の傘布ではあまり可愛いデザインに出来ないかもと、彼女たちがリヴィオを想って考え付いたそのアイディアにも感心していた。

 また、この傘を作る為の費用は俺からは一切出ていない。彼女たちの給金や冒険者としての稼ぎから出ている。彼女たちはグリースバッハから貰ったアイディア料の分も費用に回していた。


 グリースバッハは雨除け用の傘とステッキのデザインを組み合わせることで普及が見込めると考えたようで、俺にも雨除け用の傘のアイディア料を出してくれた。契約書も作らずに相談したことだったんだけどな。


 このプレゼントには、ディアスやラファエルにコンスタンティア、フーゴにお姫様までもが大いに感心を見せていた。


 そしてとうとう、俺の番がやってきた。

 ドキドキしながらストレージから人形を出現させる。


「に、人形……! しかもこれは……!?」


 ラファエルたちに協力して貰って完成した、リヴィオと同じピンク色の髪をした人形だ。

 それと、リヴィオが持っているタイプの人形には、脚に固いものを入れて立つことが出来るものと脚に綿が入っていて立てないが脚を伸ばしたり膝を曲げたりしてお座り出来るものがあり、リヴィオは立てるものは持っておらずこの人形もお座りするものだったので、立った状態で飾っておく為の台座を用意してみた。

 透明なプラスチック製で、台座から伸びた支柱の先端のアームで人形の腰を支えて立たせることが出来る。

 プラスチックを作るのが大変だったので1つしか作れなかったが、他の人形と一緒に飾りたいかと思うし、ご所望ならラファエルにでも協力して貰うかな。

 ラファエルなら支柱をボールジョイントによる可動式にしたものも出来るだろうから、量産すれば複数体の人形にアームでポーズを付けて飾ることも出来るだろう。


「なるほどなー。これで支えてるんかー。考えたなー」


 トアンが感心して何度も頷いている。


「いやぁ、俺が考えたんじゃないんだけどね」

「そうなのか? それに前よりずっとべっぴんさんになってて驚いたさー!」

「ラファエルに手伝って貰ってな」

「おおっ、アンタそんなこと出来るのか! すげェな!」


 褒められたラファエルは「ヴァッハッハー、そうだろうそうだろう!」と

鼻を高くする。

 その様子を眺めた後、リヴィオへ視線を戻すと彼女は目を見開いて微動だにしないまま、涙の滝をいくつも頬に作っていた。


「リ、リヴィオ……!?」

「あ、いや、へ、平気だ……。う、嬉しくて、涙が……」


 ルーシアにハンカチを手渡され、それで顔を覆うとリヴィオは声を殺して泣き始めた。


「うぅ……ぐずっ……ぐすん。すまない……」

「謝ることじゃないって」


 俺の言葉に皆も賛同する。

 それを聞いて、ハンカチ越しのリヴィオの声が大きくなる。


「ううっ! あり、ありがどう……っ! み、皆がこんなにしでくれるのが、信じられなぐで……! ゆ、ゆべみだいで……! でも、ロゴーのにんぎょぅ見でたらっ……ひぐっ……じ、実感が……!」

「リヴィオ様、わかりましたから……。伝わりましたよ」


 ルーシアがリヴィオの肩を撫で擦りながら、今まで聞いたことのないような優しい声でそう伝えた。

 主人がこれ以上、面恥つらはじを掻かないように言ったのだろう。

 だけど今、この場にいる人たちの表情は心配そうな顔を含めて優しくて、雰囲気は温かく穏やかで、皆の中のリヴィオへの好感度はきっと上がってるだろうと思い、嬉しくなった。

 そのせいか、俺まで鼻の奥がつーんとしてきて焦った。目に涙が溜まっていって、ボヤけた視界の先でハンカチから赤い瞳を覗かせたリヴィオと目をが合って、お互いに涙していることが可笑しいとリヴィオも思ったのだろう。俺たちは笑い合った。


 リヴィオが落ち着いてきて、「さぁご馳走を食べましょう!」とフリアデリケが大きな声で告げたのだが、まだプレゼントを渡す人物がひとり残っていた。エステルだ。


「わぁ、すみません!」

「いや、いいよいいよー。いや~、なんかもうこれ、渡さなくていい流れじゃない?」


 苦笑いするエステルに、「いいえ、オチ担当ですから!」とルーシアが告げる。彼女はエステルのプレゼントの中身を把握しているようだ。

 「しょうがないな~……」などと言いながらエステルが渡した袋をリヴィオが開けてみると……。


「…………うわ」


 皆が沈黙する中、声を出したのはトアンだった。

 プレゼントは3種類のセクシー下着、上下セットだったのだ。

 それから、皆の笑い声が部屋中を包んだ。

 なぜこんなものをプレゼントしたのか聞かれたエステルは「そのうち必要になると思って~」と苦笑していた。

 それを聞いて顔を赤くしたリヴィオがこちらをチラリと見てきたのに気付く。恥ずかしそうに俯くリヴィオ。

 もしかしたら、そんな可能性もあるんだろうか……。

 胸が高鳴りを覚えた。


 誕生会が終わって会場を後にするときには、誰もが楽しかったと口を揃えた。

 リヴィオは赤く腫らした目で、とても幸せそうに皆を見送っていた。

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