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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第88話 フーゴの仇

「女王様が来てたなんて、夢でも見てたみたいだったなぁ」


 今日は闘技大会2日目、リヴィオ様とゴロー様、それにルーシアお姉ちゃんは観戦に向かい、私、フリアデリケはお留守番です。

 正直、闘技大会みたいな野蛮なのは少し苦手なので、行かずに済んでちょっとほっとしてるんだよね。もしナユちゃんやエステルさんがお城に行ってなかったら、メイドとしてはお世話する人が多くなるから今日も行かなきゃかなって思ってたから。

 もちろん、ゴロー様とルーシアお姉ちゃんが出る日には全力で応援に行くつもりだけど。

 でも私、前よりはよくなってるんだけど心配性なとこあるからなぁ……。ふたりとも無事に終わるといいな……。


「よしっ。客間のお掃除かんりょー」


 今日の分の屋敷のお掃除が終わった。次はおやつタイムにしようっと。

 ふふふ、ゴロー様が置いてってくれたミルクチョコレートがあるから、食べるのが朝から楽しみだったんだよねー。

 その前に昨日、ソファで女王様が腰掛けていたところに座りたくなったので、腰を下ろしてみる。

 えへへ。気分はちょっと女王様だよ。


「ふふ……。わたくしの見立てでは、リヴィオ様だけでなく、エステル様もゴロー様がお好きなようですよ」


 女王様の真似をしながら言ってみた。たぶん全然似てないけど。

 以前、私はリヴィオ様がゴロー様に恋をしているのを見抜けなくてショックだったからそれ以来、家の皆のことをよく観察するようにしてる。

 それで気付いたんだけど、エステル様もゴロー様のことがたぶん好きだ。

 ゴロー様は……ちょっとよくわかんない。リヴィオ様もエステル様もどっちも決して嫌いではないとは思うんだけど、年頃の男の人だからドキドキしてるだけみたいにも見えるんだよなー。

 あと、もしかしたら実はルーシアお姉ちゃんもゴロー様のこと好きなのかも知れない。なんとなく、ゴロー様とお話してるときのお姉ちゃんはいつもより楽しそうな気がしてるんだよね。一番大切なのはリヴィオ様だと思うけど。


 そんなことを考えていたら、門の呼び鈴が鳴った。来客だ。

 誰だろ、物売りかな。最近はゴロー様関係の工房や商業ギルドの方の来客がけっこう来るから、そっちかも知れない。

 居たのは、小さな男の子だった。半ズボンを履いていて、まっすぐな蜂蜜色の金髪を真ん中で分けている。

 この子、何度か見たことある。工房の凄い設計士で、名前は確か……。


「フーゴくん」

「はい。ゴローさんはいますか?」


 いないことを伝えると帰ってくるまで待たせて欲しいというので、客間にお通しした。

 フーゴくんは今まで会ったときの人当たりのいい感じとは様子が違っていて、思い詰めているような顔をしている。


「紅茶どうぞ。それとこれ、ミルクチョコレートってお菓子です。おいしいですよ~」

「どうも……」

「…………。あの、これホントに美味しいですよ?」

「…………。いただきます。……これは……」

「おいしいですよね!」

「え、ええ……」


 せっかく半分あげたミルクチョコレートも驚いてはいたけど、あんまり美味しそうに見えないなぁ。


「ゴローさん、いつごろ帰ってきますか?」

「ええっと、夕方頃かと」


 今はまだ昼前だ。


「そんなに……」

「あ、ご、ごめんなさい。言えばよかったですね! ええっと、どうします? もしよかったらお話お伝えしておきますけど……」

「出来たらゴローさんに直接お話したいので、待たせて貰ってもいいですか?」

「は、はい。でもフーゴくんなんだか思い詰めたような顔してるから、ゴロー様の前に聞きますよ? あっ、も、もちろんもし話したかったらですっ。お仕事の相談とかはむりですけど!」


 慌てて訂正したせいか、フーゴくんがちいさく笑った。

 それから、フーゴくんはゴロー様への要件を話してくれた。


 話によると、ゴロー様の2回戦の対戦相手はフーゴくんのお兄さんの仇なんだそうだ。

 フーゴくんが幼い頃、お兄さんとともにレンヴァント国で奴隷だったと聞いてびっくりした。

 2回戦の相手の貴族の、キーゼル・ベルンシュタインという人にフーゴくんとお兄さんは買われ、お兄さんは魔法の実験台にされて殺されてしまったのだという。

 フーゴくんも実験台にされそうになったのだけど、ベルンシュタインの屋敷の人に逃がして貰ったのだそう。

 例え奴隷であってもそんな扱いは許されることではないから、役所に訴えたんだけど無駄だったのだそうだ。


「うう……ぐすっ、ぐすん……」

「あの……これどうぞ」


 お話を聞いて涙を流す私に、フーゴくんがハンカチを差し出してくれる。

 つい受け取って拭いてしまった。後で洗って返さなきゃ。


「聞いてくれてありがとう……。おかげで楽になりました」

「ううん、つらかったんだね……。あれ? でもあの国の奴隷制が廃止されたのって確か結構前だよね?」

「はい。ボクこう見えて15歳なんですよー」

「ええっ!? じゃあ私のひとつ上だ! わ、わたしフーゴくんだなんて呼んじゃってました。ごめんなさいっ」

「いえいえ、くん付けでいいですよ。ボク、ホビットなんでよく幼く見られるんです」


 あ、そうなんだ。だから耳がちょっと尖ってたんだ。

 しかし、酷い話だったなぁ。そっかぁ、それでゴロー様に仇を討って欲しいと……。

 あ、でも……。


「フーゴくんのゴロー様への用事って、つまり仇を討ってくれってことだよね……?」

「は、はい……」

「あのね、フーゴくん……。言いづらいんだけど、ゴロー様は人殺しは引き受けないと思う……」


 それに、私も優しいゴロー様に人殺しはして欲しくない。

 1回戦でも、相手の選手を殺さないよう気遣ってたゴロー様だもん。元々、下手をすれば死んでしまう命の懸かってる大会で、女王様に頼まれたことで無理して自分の命を危険に晒してでもゴロー様は勝とうとするんだろうけど、それでも相手の命は気遣うんだと思う。

 仕方なく、殺めてしまうことはあるかも知れないけど。


「そうですよね。でも、おかげでスッキリしました」


 フーゴくんは困ったような笑顔でそう言うと「すみません、こんなお願い持ち込んでしまって……」と謝って帰っていった。


 夕方になってゴロー様とリヴィオ様、ルーシアお姉ちゃんが帰ってきた。

 私はリヴィオ様とルーシアお姉ちゃんを呼んで、ふたりにだけフーゴくんのことを話した。


「よくロゴーに話さず私たちにだけ話してくれたな。ロゴーのことだ。この話をしたら悩んでしまうかも知れない」

「ええ、フリアちゃん偉いです」


 褒められてちょっとくすぐったい。


「フーゴは屋敷の者に逃がして貰ったそうだな……。逃した者の見当が付かないほど多くの者がこの状況を知っていたのかも知れない。せっかく国と繋がりが出来たのだ。外圧を掛けて貰えるように頼んでみよう」


 流石、リヴィオ様っ。

 その後、ナユちゃんとエステル様の着替えを持っていくがてら様子を見に行きたいとお願いをして、リヴィオ様とルーシアお姉ちゃんはゴロー様と瞬間移動でお城へ。

 ゴロー様に内緒で宰相にお話すると、すぐに貴族や大会出場者として相応しくない疑惑の者がいるとレンヴァント国へ強い抗議の要請を出してくれたそう。


 女王様は昨日より更に元気になっておられて、昼食は2年前の量くらい食べられたのだと側仕えの人が泣いていたらしい。

 でも、なんだかお姫様とナユちゃんの仲がぎくしゃくしてるんだって。なんでだろう?

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