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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第8話 本当の必殺技

 リヴィオが小走りに俺の元へやってきて、俺が身体から引き剥がした小さなスライムに踏んづけ攻撃を連続で浴びせた。

 ぶちぶちと潰れる音がして、じゅわああっと蒸発すると体積を減らしていく。


 ああ、そうだな。小さいのは剣で斬るよりそっちのほうが効率いいし有効そうだ。

 てかリヴィオ、剣持ってないや。そういや俺がリヴィオの剣を放り投げたんだった。

 後で探さないとな。でも軍から貸し出されたものならまとめて回収されるかな。


「大丈夫か、ロゴ―?」

「あぁ……ありがとうな」

「礼などいい。それより、あのスライムはお前のあの凄い蹴りを止めていたが、まだ勝算はあるのか?」


 そうだよなぁ。キックグレネードが止められるとは思わなかった。

 あのスライム、もう一匹のスライムが俺のキックグレネードを食らっていたところを見て、学習したのか?

 スライムに視覚があるのか分かんないけど。


「勝算は……考えなきゃな。どうしたらいいと思う?」

「む~…。囮……いや、危険だな。今度は逃れられない程の塊を飛ばしてくるかもしれ……んっ!?」


 そんなことを言っていたら、スライムは自身の塊を飛ばしてきて、俺とリヴィオは、すかさずその場から飛び退いた。

 スライムの塊は俺たちのいた場所を通り抜け、後方の人物へと着弾した。


「あ」


 俺とリヴィオの声が重なった。後方にはエルフのエステルがいたのだ。 

俺たちが気掛かりで、傍に来ていたのだろう。

 俺が受けた塊より大きな塊をその身に浴びて、やがて赤子のように泣きだしてしまった。


「びえぇえええ……! びぇええーん!」

「…………さて、どうやってあのスライムを倒すべきか……。ロゴ―、お前も考えろ」

「そ、そうだな。今はそれが優先だ」


 エステルが浴びたスライムは、後方にいる兵士たちにまかせておけばいいだろう。

 俺も頭をひねることにした。

 キックグレネードが通じないとなると、アイツに一番有効なのは炎の剣だろう。

 だが、何千回斬ればいいかわからない。

 けれど、倒すには他に方法が思い付かない。

 よし、仕方ない。その手でやろう。

 俺はベルトのクリスタルをドラゴンクリスタルに交換し、モードシフト(ベルトの説明によると、別のクリスタルへ能力を変えることをそう呼ぶそうな)する。

 しかし、その考えはリヴィオに却下された。


「なんで?」

「近づいて斬るのだろう? スライムが自身の塊を飛ばしてきたらどうするつもりだ」

「う、そっか。いや、そこはホラ、上手いこと回避して……」

「ヤツの近くで飛ばしてきた塊に当たって少し動きを止められれば、ヤツは本体で飲み込んでくるぞ」

「うう……。でも、じゃあ近づかずに長い時間をかけて倒すしかないのか?」

「それでも倒せるかどうか……。兵士を赤子にして養分にされたら、与えたダメージは回復されてしまう。まぁ、倒せずとも撃退できればいいのだが……」

「じゃあ、いっそ逃げるとか。もうさっきみたいに挟み撃ちされてないし」

「確かにそれも手だが、我が国にあんなのがいる以上、討伐はせねばならない。軍隊長は多少の犠牲を払ってでも討伐の支持を出すだろうな」

「じゃあどうすりゃあ……う~ん……」

「むぅ~…………」


 ふたりで思案に暮れる。

 すると、唸りながら顎に白い指をかけて眉根にしわを寄せていたリヴィオが、ハッとしたような顔を上げた。


「ロゴ―、その炎の剣には光る脚で蹴って相手を爆発させた、あの技のような力はあるのか?」

「へ?」

「……危険で使えないのかも知れないが、あるなら一応教えてほしい」


 ……ん? 剣の必殺技?

 リヴィオの口から出たその言葉に、今までその発想がなかったことに気付かされる。

 俺は心の中でベルトに問いかけた。

 説明求む。炎の剣、ブレイズブレイドだっけ。それに必殺技はないのか?


――ある――


 あるんかい。あるんかーい!

 いや、思えば俺が炎の剣を必殺技だと勝手に思い込んでたんだ。

 説明が不親切ではあったけど、そのことはわかっていたのに。


 必殺技の説明を求めると、


――レバー1回でリーチの長い強力な炎の剣の一撃――


――レバー2回で炎の剣が炎の竜になる――


 との返答。

 ふたつある! それに、炎の竜ですと? モンスターを操って攻撃させる的なやつか? わくわくしてきた。


「リヴィオ、あったわ、剣の必殺技……」


 俺は呆れ笑いを浮かべそう言って、リヴィオに技の説明をした。

 リヴィオは、それならば……と崖の上を指差し作戦を授けてくれた。


「よし、じゃあそれやってみる。今はスライム周辺に赤子になった兵士はいないが、もし被害者が出たら、運んでくれるか?」

「ああ、わかった。気を付けろよ」

「おう!」


 返答と同時、俺は崖の上へとジャンプする。

 途端、スライムと戦うべく集まってきていた兵士たちが驚愕の声を上げた。


「うわっ!? な、えぇ……?」

「あの高さを跳躍して登るとは……なんという身体能力だ……」

「驚いた……。確か、25メートル以上あったハズだぞ」

「信じられん……。魔法で身体能力をあそこまで上げられるものなのか……」

「あの黒い魔装の力じゃないのか?」


 ああ、そうか。キックグレネードのときも、ここまで高くジャンプしなかったからなー。

 下の人々のざわめきを聞きながら、俺は炎の剣を出し、スライムの位置を確認する。

 スライムは俺とリヴィオに自身の塊を飛ばした後は、巨大な自身を挟んで道の後ろ側にいる兵士たちに標準を定めて追いすがっていた。

 

 この道の後ろ側にいる兵士たちが、俺がキックグレネードを失敗してリヴィオたちに助けられていた際に、スライムの注意を引き付けるために攻撃を仕掛けてくれていなかったら。

 俺は今頃、全身をスライムに取り込まれ、赤子と化していたかも知れない。

 スライムの一部の塊に捕らわれて、足掻いている中で、彼らの勇敢な声が聞こえていた。

 黒き魔装戦士を助けろ! と。


 俺は、自分が情けない。

 変身ヒーローになったのは人々を助けるためだ。なのに、逆に助けられてしまうなんて。

 今度こそ、俺が彼らを助けたい。


 先程までのように、2匹のスライムに挟まれて逃げ場のない兵士はもういないため、逃げる兵士たちのほうがスライムより速い。

 だがスライムが自身の体の一部を飛ばし、兵士たちの幾人かがそれを浴びて、逃げられなくなってしまっていた。

 周りの兵士たちは、スライムに取り付かれた兵士たちを引きずったり、その身体にまとわり付くスライムに攻撃を仕掛けたりしながら逃げている。

 だが、引きずっていたのでは逃げる速度が遅く、やがて追い付かれそうだ。もうあまり時間がない。

 今はまだ20メートルほどは距離があるが、兵士たちとの距離が近付き過ぎるのはこれからやろうとしてることを考えたら危険だ。

 俺は走ってスライムを追いかけながら、ベルトのレバーを倒した。


『ブレイズフォース』


 すると、手に持っていた炎の剣が重みを増し、炎の勢いが増すと明るく発光していく。

 ブレイズフォースかぁ。ブレイズブレイドって名称もだけど、厨二病っぽさはあるけど、でもこういうのもちょっと憧れなんだよなぁ。


 そんなことを考えながら炎の剣を見ていると、やがて炎の勢いと明るさが上がらなくなった。

 これが最大の状態か。

 威力は増してそうだがベルトの説明通り、リーチ長くなってないぞ? どういうことだ?


 俺はブレイズフォースの意味について考えてみる。

 ブレイズは炎だよなぁ。フォースってなんだ?

 スター○ォーズのじゃあないだろうし……。

 forthだと「前へ」とか「以後」とかを表すんだったっけ。


 う~~……。わからん!

 大体、キックで倒した相手が爆発する必殺技の名前にキックグレネードなんて付けるネーミングセンスだから、考えるだけ無駄かも知れない。


 そうこうしているうちに、もうスライムは動けなくなった兵士たちの近くまで迫っている。

 時間がない。くそっ、どうすりゃ『リーチの長い強力な炎の剣の一撃』ができるんだ!?


「……そうだ。説明では『一撃』と言っていた。なら、もしかしてコイツは斬るとき伸びるんじゃないか? 説明!」


――不明だ――


「~~っ。なら、ぶっつけ本番だ!」


 伸びなくても、足止めにはなるだろう。

 そう思い、俺は走りながら剣を地面へと振り下ろした。

 崖側の地面を斜めに斬り付ける。

 炎の剣は振り下ろした遠心力で伸びたのか、炎の刃は大幅にその長さを伸ばした。

 予想通りだ。

 『一撃』というなら、さっきの威力の上がった状態で使えるのはおかしいからな。

 伸びた炎の剣にはほとんど抵抗はなく、あっさりと地面が切り裂かれていく。


「うぉおりゃぁああ!」


 駆けながら、刃を振り抜いた。

 切り立った崖側の地面がごっそりと切り取られ、その巨大な塊が重力でゆっくりとずり下がり、やがて落下した。

 下にいる体長7~8メートル程の、巨大なスライムへと。


 轟音とともに、スライムが弾けて潰れる音が幾重にも聞こえた。

 それから、じゅわああああ……っとスライムが溶けて大量の蒸気が上がった。

 崩れた崖上から下を覗く。兵士たちに被害はないようだ。

 大岩が転がっていたが、そこまでは届いていなかった。

 そうか、そういう危険もあるよな。そこまで考えてなかった。

 よかった、無事で。


 ん? 下でリヴィオが叫んでいる。

 よく聞き取れないが、ここにいると危ないと言っているようだ。崩れるかも知れないしな。

 ほんじゃ、降りるか。


 俺が崖から飛び降りると、また兵士たちが驚きの声を上げた。


「あ、あの高さから……」

「なんという魔法だ」

「凄い……黒き魔装戦士……名はロゴーと言ったか」


 ゴローです。リヴィオがロゴーって呼ぶから広まってるみたいだな。

 変身して耳が良くなっているから、普通に会話する距離で聞こえたんじゃないんで、訂正はしないけど。

 まだやることがあるしね。


 落とした岩盤で潰されたスライムだが、その隙間ではまだ分裂した生き残りがいくつもいるだろうから、倒しておかないと。

 また合体されると面倒だし。兵士たちでも倒せるだろうけど時間がかかるだろう。

 だけど、こうすれば……と、俺は生き残りのスライムのいる、落とした岩盤の隙間に炎を送り込んだ。

 でも、少しじゅわああっと音が聞こえたが、それっきり。

 うーん、スライムに効いてない?


 じゃあ、炎の竜ってやつを使ってみようかな。使ってみたいし。

 俺はレバーを2回倒した。


『ブレイズドラゴン』


 炎の剣が俺の手から離れて空中に浮かび上がると、炎の剣が螺旋を描きながら竜の形に変わっていく。

 あ、これ、なんか日本の竜っぽい。胴体が蛇みたいに長いヤツ。

 剣の大きさぐらいのソイツが俺の周りをぐるりと飛び回ると、やがて形が定まったようで、カッコイイ咆哮を上げた。

 おおー。見た目もカッコイイっ。


「えっと、そんで、どうすりゃいいんだ。えーっと……潰れたスライムを、焼き尽くせ!」


 俺は潰されたスライムが埋まっている辺りを指差して、そう命じてみた。

 炎の竜がすぐに動かなかったので、あ、これまた恥かくパターンか? と一瞬思ったが、竜は俺の命令に応じた返事なのか、ひと鳴きすると落とした岩盤の隙間に潜り込んでいった。


「す、凄い……」

「炎の竜を使役したのか? あ、あんな竜がいたのか?」

「聞いたこともないな……。だが、命令に従って動いたよな……」


 また兵士たちがざわざわしていた。

 土砂の下からは、スライムの蒸発する音が聞こえてくる。

 どうやら上手くいったらしい。

 やがて、スライムが滅んだのか炎の竜は俺の元に戻ると、炎の剣へと戻った。

 すると、俺の頭の中に情報が入ってきた。

 炎の竜が何をし、何を見ていたか、情報が入ってくる。

 こんな能力があるのか。


 炎の竜はスライムが焦げて硬くなる前に、自身の身体を素早くスライムへと通していた。

 あまり大きいと通しきれなさそうな感じだ。やっぱりさっきコイツを使わなくてよかった。

 炎の剣なら硬化した部分も力を込めれば斬り裂けたけど、炎の竜は通れなくなるようで、さっき俺が隙間から炎を浴びせたところは、焼けて硬化したスライムが壁になってしまっていて、通れなくなっていた。ごめんよ。


 コイツをもし使ってたら、途中で巨大スライムの硬化した部分に囲まれて、閉じ込められてたかもな。

 炎を放射しても効果が薄かったから、コイツも効果薄いかもと思ってたんだ。


 そんなことを考えていると、ヒュンヒュンと風切り音がした。

 その音を鳴らしていた正体、俺の元に飛んできた緑色のクリスタルをキャッチする。

 

 どうやら、スライムを倒したから手に入ったようだ。

 こうやって色んな力が使えるようになっていくシステムなのか。

 俺の願望とは少し違う気もするが、どこまで願望が反映されてるかもわからないし、これはこれでいいかもな。


「やったな、ロゴー。お疲れ様」

「ああ、お疲れ様だ」


 リヴィオに後ろから声をかけられ、俺は変身を解いて振り返って親指を立ててみた。

 すると、それを見ていた兵士たちが歓声を上げた。

 それで巨大スライムを倒したということが他の兵士たちにも把握され、歓呼の声がすぐに広がり、大歓声になった。

 その中にはいくつか、おぎゃああ……という声も混じっていたが。

 あぁ、そうだ。エステルを介抱してやろう。踏んづけられたら大変だし。



 エステルは、お漏らししていた。

 しかも、その最中に正気に戻った。

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