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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第54話 vs.ヴァンパイア

「それで貴様ら、どういう用件でここへ来た? まさか、不死身のこの吾輩を滅ぼしに来た……などということではあるまいなァ?」


 威厳を取り戻そうとしてか、ラファエルと名乗ったヴァンパイアは恐ろしげな顔を作って牙を見せ、赤い瞳を見開いた。

 不死身ってマジか。そう思ったのだが――。


「不死身じゃなくって、単に再生能力が異常に高いだけ……」

「ぬああっ!? コンスタンティアァ!」


 威厳は取り戻せず、更にディアスの目の輝きが失われる。


「実は、魔晶石を譲って貰いに来たんだよ。こないだのオークションで落とせなくってねェ。そんな大きいのじゃなくていいんだ。お願い出来ないかなァ。勿論、血の代価は払うからさァ」


 一歩前に進み出たベルナ・ルナがそう請うと、ラファエルはシャープな顎を擦った。


「ふむ……。よく見れば貴様は、いつぞや都市アグレインで魔晶石を分けてやった、鍛冶師の女ではないか。こうまでして魔晶石が欲しいとは、よほどの事情か?」

「ああ。一生に一度、あるかないかの大仕事でねェ。どうせなら、最高の物を作りたいんだ」

「ほう……。コンスタンティア、魔晶石の用意は出来るのか?」

「大きくないものなら……」

「よかろう。その願い、聞き届けてやろう。但し――」


 ラファエルが指を差す。リヴィオに向かって。


「貴様の血はもう飲んだからな。今度はその女がいい」

「わ、私か……?」


 戸惑うリヴィオ。血の代価って、噛ませて血を吸わせるってことか。


「リヴィオさえよけりゃァいいけどさ……」

「お、おい、ヴァンパイアに血を吸われたら、その眷属になっちまうんじゃないのか?」

「慌てなくっても大丈夫さァ。だから、ちょっといい値のする浄化ポーション持ってきたんだからな」

「そ、そっか……」


 なんだか動揺してるな、俺。


「あの、わたくしではダメでしょうか?」


 ルーシアが一歩進み出て、ラファエルに問いた。リヴィオの代わりになるつもりなんだな。


「貴様も美しいが、生娘ではなかろう?」

「……きっ……?」


 ルーシアの頬に赤い色が入る。


「血の代価になる生き血は、生娘のものだけだ。我が妻、コンスタンティア以外はな」

「…………き、生娘ですよ、わたくしも……」


 益々顔を赤くして、俯きながら彼女はそう打ち明けた。


「そうか……。…………いや、やはりその女がいい。男のような格好をしているのに、女の美しさと気高さを感じさせる。いや、そのような格好が、そう感じさせるのか……。このような女は、稀有かも知れぬからな」

「そ、そうですか……」


 俯きながら、ルーシアが少し頬を含まらせているのに気付いた。

 気持ちはわかるよ。辱め受けただけだもんな。


「リヴィオ、アタイの代わり、お願い出来るかなァ……? 無理しなくってもいいんだけどさ……」

「……わかった。元々、私の剣の為だしな。私の生き血でよければ」


 リヴィオが玄関へと続く石畳の道の上をラファエルのほうへ歩み出ていくと、彼も彼女へと近付いていく。やがてふたりは正対し、薄暗い闇夜の中、リヴィオはくすんで見えるピンクの長い髪を手でよけて、細く長い首筋を露わにした。抱き寄せられるリヴィオ。彼女は、小さく震えているように見えた。

 そして、その首筋へラファエルが顔を近付け、牙を立てようとしたとき――。


「ちょっと待った!」


 俺は、思わず一歩前に進み出ていた。


「……貴様、どういうつもりだ? 吾輩の食事を邪魔するとは」

「いや、血なら吸わなくても、グラスに入れたのでもいいんだろ?」


 なんか、嫌だ。リヴィオが血を吸われるのは。

 正直、自分でも自分のこの行動に、ちょっと驚いている。振り向いたリヴィオの、困惑したような表情が見て取れる。俺も、そんな顔をしているんだろうな。


「クク……ヴァッハハハ……! 貴様、この女の恋人か? お前のような輩はたまにいるのだ。そして、吾輩がその時なんと答えるか、知っておるか?」

「……いいや」

「ならば、教えてやろう。吾輩はこう言うのだ。吾輩に勝てたら、この女の血は吸わないでおいてやろう、とな……!」


 ニタリと大きく口元を開いて嬉しそうに破顔し、リヴィオを横にのけたラファエルは、真紅の裏地のマントをバサリとひるがえしながらそう宣言した。

 こうなったら、やるか。


「ちょ、ちょっと待った待った! アタイの血もあげるからさ、ここは穏便に……!」

「なぁに、殺しはせん。なるべく、だがな」

「いやいや、大怪我されても困るって! 初級治癒術師しかいねェし!」

「ククク……それは気の毒であったな」

「中級治癒ポーションなら持ってる……。有料……」

「そ、そんなこと言わずにコンスタンティアさんも止めてくれよ~! 中級ったって、高価じゃん! そんな金ねェよ! その兄ちゃんは、今度の闘技大会に国の代表として出るって話なんだ。怪我でもされちゃ申し訳ねェよ~」

「ほう、闘技大会になぁ……。そうかそうか。それならば、楽しめそうだ」


 その様子を見ていたディアスが「火に油だな」と囁いた。

 話し合いは通じなさそうだ。


「わ、私ならいい! ロゴー!」

「美しい娘よ、そなたの血はもう関係ない。吾輩はどうしてもこの男と闘ってみたくなった」

「あちゃァ~~。やっちまった……。すまねェ、兄ちゃん。こうなっちまっちゃあ、もう……」

「いや、俺が軽率だった。姫様に頼まれてたってのに……」


 またやらかしちまった。


「いいえ。よく言いました、ゴロー様!」


 ルーシアは両手で作った握りこぶしを自分の胸の前にぐっと持ってきて、俺を称えたけど。


「が、がんばってください、ゴロー様っ!」


 フリアデリケも同じポーズを取って、応援してくれる。

 それに頷いて応じ、ラファエルへと歩き出す。ベルトを出現させながら。


「むうッ。その光は……!?」

「なあ、手加減しないでいいんだろ?」

「クク…ッ!? ヴァアッハッハハハハ……! 面白いことを言う奴だ! 無論だ、本気で来い!」

「わかった! ――変身!」


 ベルトの魔法陣を叩き、全身を輝きに包んだ。そして変身を遂げると、すぐにレバーを下げる。


『キックグレネード』


 ゾンビ戦での体力の消耗が回復していない俺は、少し体力を使うが必殺技で一気にケリを付けることにした。

 短い助走から跳躍し、青く輝く右脚で尾を引く彗星のようにラファエルの元へと飛んでいく。


「ヌゥウッ!?」


 それをヤツは魔法壁を張って防ごうとしたが、必殺の蹴りはそれを破壊し、その胸へと命中した。


「グブォオオオッ!?」


 胸に円形の大きな風穴が空き、叫声を上げながらラファエルが吹っ飛んでいく。そして屋敷の壁面に突っ込むと、そこにも大穴を空けた。


「ふぃ~」


 仮○ラ○ダーウィ○ードのように一息吐く。

 休憩してないから、やっぱり必殺技を使うとだいぶこたえる。でも、戦いを長引かせるよりはよさそうだという判断だった。

 これで終わってくれるといいんだけど……。てか、胸の3分の2くらいが抉れてたけど、死んでないよね?


「やってくれたな、貴様ァ~……! なんだその蹴りは! 面白いではないか……! そのような力の使い方をする者など、400年生きてきて初めてだ!」


 そりゃどうも。超有名な変身ヒーローの技の真似だけどな。

 口元が裂けているんじゃないかと思うほど口角を上げ、笑いながら立ち上がったラファエルの胸元には大穴が空いたままだ。よく立てるな。


「初めから全力で来たのだろう……? なら、こちらも全力で相手をしてやろう……!」

「まだやる気か!?」

「ヴァッハハハハ……! 当たり前だろう?」


 ラファエルの赤い瞳が発光した。それから両腕を突き出すと、広げた両手の付け根を合わせた。

 何か、凄くヤバそうな感じがする……。

 ヤツの髪、真ん中から分けた少し長めのウェーブのかかったそれが、風もないのに揺れ動き始めたかと思うと、両手のすぐ手前に光り輝く小さな赤い球体が次々に現れて、それが両手の中へと集まり1つの大きな球体になって、大きく明るく育っていく。


「ギャラリーは伏せて……!」


 コンスタンティアが少し大きな声を上げた。だが、彼女にしてみれば少しではなく大声を発して警告したのかも知れない。そんな印象の声と表情だった。表情も、あまり変化のない人ではあるのだが。


「大魔法か!?」


 そう声を上げたディアスが、後ろに戻っていったリヴィオや皆と一緒に伏せる。

 俺は、ベルトのクリスタルを入れ替えた。


「死を甘受せよ!」


 叫ぶラファエルの両手に集められた赤い光線が、真っ直ぐこちらへ向かってくる。身構えていた俺は、素速く横っ飛びでそれを回避した。


「ビームかよッ!?」


 ラファエルが腕の向きを変えたようで、まだ横っ飛びして空中にいる俺目掛け、すぐに幅10センチ程度の光線が迫ってくる。身体を捻りながら、迫る光線から背を向けて地面に着地した俺は、それを走り幅跳びの背面跳びのように飛び越えた。

 しかし、再び光線が俺を追いかけ、身体が地面に着く頃には今度こそそれを浴びてしまうかも知れない。危険を感じ、空中にいる間にレバーを下げる。

 そうしながら、轟音にチラリと皆のいる後ろ側を見ると、館の門と灰色のレンガ造りの堀に十数メートルくらい光線が横に走っていて、壊れ、崩れていっていた。自分家なのに、いいのかよ。

 そう思いながら地面に着地したところで、モードシフト中の光に包まれた状態になり、そこへ追ってきた光線が命中する。

 この状態なら平気なようで、痛みも熱さも感じない。準備しておいてよかった……!

 だが、この状態でいられる時間は短い。俺は思い切り大地を蹴って、斜め前へと飛ぶ。


「ヌゥウッ!? 防いだのか!? だが、まだだッ!」

「まだ放っていられるのかよ!」


 光線がこちらへ向かってくる間に、マスクの眼が紫色に発光した。この発光した瞬間から能力が使えるようになる。眼の輝きが消えていく間に光線をしゃがんで躱しながら、の出現を願って叫んだ。


「ストーンゴーレム!」


 石の塊が俺の眼前に姿を現して、光線の射線を防ぐ。ストーンゴーレムになりつつある体が光線を浴び、砕けていく。


「腕で防げ!」


 まだ上半身ぐらいしかストーンゴーレムは形成されていなかったが命令が伝わり、太い腕を突き出したストーンゴーレムによって防がれた光線は、やがて消えていった。

 ストーンゴーレムは両腕バラバラになりつつも、そこに立っている。


「ありがとうな。もういいよ」


 すると、頷くように頭の石が落ちて、それからバラバラと崩れていった。


「馬鹿な……。吾輩の『ブラッディ・レイ』が…………」


 呆然とするヴァンパイアと、数メートルの距離で対峙する。


「まだやるのか? なら、こっちも殺す気でやらなきゃいけなくなるんだが」


 胸の大穴が3分の1くらいの大きさにまで回復したラファエルは、「無論だ」と大口で笑った。

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