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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第50話 ベルナ・ルナの頼み事

 ルーシアの厳しい特訓は続き、身体の動かしかたを変化させる魔法を受けても、短期間でかなり動けるようになっていた。

 他にも、目眩ましの魔法に対する特訓やら、眠くなる魔法に対する特訓やら、酔っ払う魔法に対する特訓やら、弓矢を素手で掴む特訓やら、模擬戦やら……、様々な特訓を行った。

 といっても、変身すると一部を除いて魔法耐性が高くなるので、それで効かなくなったり効果が弱まったりする魔法への一番の対処法は『変身する』ということが多かった為、特訓は予想よりずっとハイペースで進んでいる。


 それと並行して、魔物退治を行うことにした。カルボがクリスタルを5つ集めると、ゴロークリスタル以外からでも変身できるようになると言っていたからだ。

 魔物退治を行う為、冒険者ギルドに登録した。特訓しながら、いい依頼があったら引き受けるという形だ。

 そのとき、リヴィオとルーシアも魔物退治に付き添うというので、一緒に登録することになった。ルーシアはかつて登録をしていたそうだが、長年活動していなかったので脱退となったらしい。アンバレイ家で自分だけ仲間はずれは嫌だということで、フリアデリケも登録していた。


 それからは、日帰り出来るような魔物の討伐依頼を見つけては何度か趣いて、これまでにコボルト、オーク、ゴブリンを相手にしたが、俺はどの魔物の言葉でも理解できたので、力を見せることで戦いを回避することも出来そうだったが、人と彼らの間での和解というものは一部のコボルト種以外では話し合っても得られなかった歴史があり、それ以外は討伐するしかないようだった。

 そのときは力で脅して逃したとしても、次回、誰かが殺されるようなことになっては困るので、仕方がない。以前、山脈越えをしたときのような、魔物の縄張りでの話ではないのだ。


 そういう訳で魔物を討伐した俺は、コボルトクリスタルとゴブリンクリスタルを入手していた。

 どんな能力かというと……。



『コボルトクリスタル』

・焦げ茶色のクリスタル。

・嗅覚が大幅に増す。

・必殺技『コボルトハウルズ』

 レバー1回で吠えて遠くまで声を届かせる。声に1つの単語くらいの意味なら持たせることが出来る。例えばワオオーンと鳴いた声にこんにちは! の意味を持たせると、届いた相手にはワオオーンと聞こえているが、こんにちは! という意味だとわかる、というもの。

 レバー2回で超音波攻撃。吠えて相手に苦痛を与える。鼓膜を破ったりなどの外的損傷を与えることは出来ない。


『ゴブリンクリスタル』

・淡い緑色のクリスタル。

・逃げ足のみ速くなる。

・必殺技『ゴブリンアックス』

 太い木の枝か幹のどちらかと思われる柄に、刃の部分を削って作った厚みのある平たい石を紐で括り付けた原始的な片手斧が、自分の周囲の空中に3~5本、右手に1本出現する。自分の斧を相手に投げ付けると、周囲の斧も一斉にそちらへ飛んでいく。



 と、いった感じだ。

 あんまり使えなさそうな感じだが、こういうのも使い方かな?

 ともあれ、これでクリスタルは6つ集まり、5つ集めたことでどのクリスタルからでも変身できるようになった。

 10個集めたらまた何かあるんだろうか?



 そうして日々を過ごしていたある日の特訓中、アンバレイ家に珍客がやってきた。


「よっ、兄ちゃん。ルーシアさんに~……。その横のはルーシアさんの妹さん? 姉妹揃って美人だねェ~。鍛錬の最中に、悪いね」

「ベルナ・ルナさん、珍しいですね。リヴィオ様の剣でしたら、連絡頂ければ取りに伺いましたのに」

「ああ、いや、そのことでちょーっとお願いがあってねェ。そこの兄ちゃん、暫く貸して欲しいんだよね」

「へ? 俺?」


 話を聞いてみると、リヴィオの魔剣に使う素材として、貴重な魔晶石を使用する予定だったのだが、オークションでの入手に失敗。仕方がないので、その魔晶石を手に入れる為の旅に『黒き魔装戦士クロキヴァ』として有名な俺に、同行して欲しいというのだ。


「……てことは、危険な旅なのか?」

「まァ、そこそこね。だから兄ちゃんに来て貰いたくってさ。問題はアイツだなァ……。好戦的なヤツだけど、戦闘にはならないようにすっから、頼むよォ!」

「アイツって?」

「んー。ヴァンパイア」

「へ? マジ?」


 ヴァンパイアかー。へ~。でも、じゃあ強いんじゃないの。凄く。しかも好戦的って。


「成程……。アディット村に行くつもりなのだな。私も行くぞ」


 話に交じっていたリヴィオが同行を宣伝する。それに、家族にお願いされてミルクチョコレートを買い付けに来ていたディアスも続いた。


「私も行こう。ヴァンパイアには前々から興味があったんだ!」

「へー。ディアスは好奇心強いよなぁ」

「ふふ。中でもヴァンパイアに関してはかなり強いぞ。彼らの作り出す様式美に惹かれるものがあってな」


 瞳がきらきらしていて嬉しそうだ。かなり好きそうな感じがする。


「じゃあ、皆で行きましょうか。ゴロー様の修行をつけねばなりませんから私も行きますし、フリアちゃん一人置いて行くより、そのほうが安全でしょう。最近は国の護衛の兵士が家の周りを見張ってくれていますから、空き巣の心配はないでしょうし。兵士が空き巣しなければ、ですが」


 空き巣よりは万が一に備えての身の安全だ、というわけで、アンバレイ家はなんと全員が行くことになった。

 魔物退治に行くときはルーシアかリヴィオのどちらかがフリアデリケと家に残っていたのだ。

 一緒に修行してみてわかったのだが、フリアデリケも結構強い。そこいらの盗賊では1対1ではまず勝てないだろうとルーシアは言っていた。それでも心配なのだろう。俺も心配だし。


「わぁー、お出かけ楽しみです~!」


 そんな彼女はほとんど遠出の経験がない為に、とても無邪気にはしゃいでいる。

 旅支度をしてきた彼女は、メイド服に似合わない大きなリュックを背負っていた。


「遠出でもメイド服なんだね」

「はい! これが一番落ち着きますし、武器もロングスカートに色々隠せますので」


 ルーシアもメイド服だ。

 ふたりに、違う服も見てみたかったと言うと、困ったような照れたような、姉妹でそっくりの仕草をするので、可笑しくて可愛らしかった。


 旅での移動は、スプリング付きの幌馬車を購入していたレンタル業者から、ちょうど運良くそれを1台借りることが出来たので、それを使用した。

 馬車に乗って、都市アグレインから南西へ。3日目の夕方に、俺たちはアディット村へと到着した。


「廃村なんだな……」

「あ、そうか。言ってなかったものな。すまない、ロゴー」

「いや、いいけど……」


 ヴァンパイアが村に住んでるのかと思ってた。

 低級の魔物がその生息地を伸ばした為に、人々は村を追われ、人がいなくなってから10年ほど経っているそうだ。蔓や枝が家屋を侵食し、踏み固められていたであろう地面からも、無数の草木が逞しく伸びている。


「今夜はここに泊まるのか?」

「そうなるね……。悪ィ、説明不足だったよ。兄ちゃんが他所の国から最近、来たってこと、考慮してなかった」


 申し訳なさそうに苦笑するベルナ・ルナ。

 俺は、彼女の瞳から視線を移さないように耐えていた。胸元の大きく開いた服から覗く褐色の艶を帯びた胸に、目線が引き寄せられてしまうのだ。

 肌や下着の露出に関して無防備な彼女は、夜など、男の俺やディアスがいても平気で服を脱いで身体を拭いたりする。それで困る俺たちを見て楽しんでいる節もあった。

 なので、胸元を見たところで彼女から嫌がられることはないだろうが、居候先の皆がいる手前、そういう訳にはいかないのだ。白い目で見られたくはない。


「い、いや……。別にいいよ」

「そうかい? 兄ちゃんイイヤツだよな~。ん~~っ!」


 挙句に、俺のフェチな部分であるわきを伸びをして時折には露わにするものだから、よく見える位置に移動して見たくなってしまう。しないけど。……出来たらしたいけど。1回やったら、リヴィオに不審がられたんだよなー……。


「ロゴー、どうした? ぼんやりして。疲れたか?」

「え? ああ、いや、へーきへーき!」


 なんだか最近はリヴィオが俺を見ることが増えたような気がするのだが、きっと胸や腋が見たいと思って、周囲を気にしてるせいだろう。


 俺たちは、曇った空模様の下、荒廃してちょっと不気味な村の中を良い寝床になりそうな場所を探し歩いた。そして、かつて宿屋だった建物を見つけ、そこを利用することに決めた。

 何度か誰かが同じように利用してきたのだろう、掃除された跡などがある。


「夜になったら出かけっからさ、しっかり休んどいてな」

「え? あ、そうか。ヴァンパイアだもんな。太陽の光に弱いんだな」

「そういうことー」


 俺たちは休息と夕食を取り、日が落ちて幾分経ってから、村はずれへと向かった。

 途中、大きめの墓地がある。う、異臭がするな。


「あ~ん……? 土ん中から魔力を感じるな……。こりゃあ、いるぞ」

「……い、いるってまさか、ゾ、ゾンビですか?」


 フリアデリケがそう言って身を縮こませながら、姉のルーシアの背中にしがみつく。


「ああ。それも、数が多い……」

「ひ、ひい!」

「田舎だからな……。ゾンビ化の防止処理が出来るエンバーマーがいなかったんだろう」


 ディアスがそう推測し、杖を掲げた。

 うわぁ、俺もゾンビは嫌だなぁ。

 暗闇の中、なにやら蠢く音がする。目を凝らすと、あちこちの墓の下の土が盛り上がり、腐敗した腕やら頭やらが出てきていた。

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