第4話 黒き魔装戦士
ドラゴンが爆発し、上空に高々と吹っ飛ばされた俺はふと思い付き、自由落下中に前に後ろに斜めにと回転した。そして地面に片手と両足で着地し、その際、片膝を立てる。
アクション映画なんかで観る、スリーポイントランディングとか三点着地とか呼ばれるものだ。
余ったもう一方の腕は斜め後ろ上へと伸ばすポーズを付けており、そしてバッと顔を上げる。
キマった。
だが、辺りを見廻すと誰も彼もひっくり返っていて、こちらを見ていなかった。
虚しい……。
彼らはよろよろと顔を上げ、呆然としているようだった。
皆、大丈夫そうかな……あ。金色の旗の軍勢の馬の一頭にドラゴンの鱗が刺さってる。
傷は深そうだ。かわいそうに……。
心の中でごめんよ、と呟いた。
すると、ドラゴンのいた爆心地の辺りからヒュンヒュンと風切音が聞こえてきた。
見ると、金色の装飾が施された紅い小さなクリスタルが、その音を鳴らしながら飛んでくる。
キャッチして見てみると、蒼いクリスタルと同じくらいの大きさで、似た感じの作りのものだった。金色の装飾が炎っぽい。
ドラゴンを倒したからゲットできたってことかな。コイツは後で試してみよう。
「えーっと……」
変身した自分の姿を見て、クリスタルを入れたりしておけるとこがないかなと探してみたけど、ないみたいだ。
うーん、手に持ってると邪魔だな。
あ、そうだ。蒼いクリスタルを出すときに願ったら出たから、逆に消えろって願ってみる。
お、消えた。上手くいった。
これ、どこに消えてるんだろう。異空間?
それから、戦いも終わったので変身解除をやってみることにした。
まず、ベルトのクリスタルを外して、レバーを下げる。無反応。
やっぱり、こうかな? と、割れた魔法陣の側面を包むようにして割れていない状態に戻すと、変身が解けた。
すると、なぜかさっきのふとももまるだしの鎧姿から、半袖のポロシャツとジーンズにスニーカーという姿に変わっていた。
自分がカルボに轢かれたときの格好だ。
あ、ポケットにスマホ入ってら。でも電波は入らないし充電も切れてるかもなー。
身体を見回すと、口の端が切れて血が顎に伝っていた。あちこち痣だらけだ。たんこぶもできていた。軽い火傷っぽい痕もある。
でも、変身していた効果で火傷の痕が残ることはなさそうだ。
フルフェイスだった美人の女兵士のところに向かうと、彼女は立ち上がろうとはせず、女の子座りで放心していた。
可愛らしさもある顔立ちでピンクの髪色なので、こういうポーズをしていると余計愛らしい。
「怪我、無いか?」
俺の問いかけに、呆けた顔で口を半開きにしたまま頷く女兵士。
「俺は黒木場吾郎。アンタの名前、聞いていいかな?」
「えあ、クロッキー? わ、私はリヴィオ・アンバレイ……」
クロッキーじゃないよ。素早く描写しないよ。
てか、異世界で本名を名乗っちゃまずかったかな。奇異に見られたり……って今更か。
「リヴィオさんか。信じられないかも知れないけど、俺はこの世界に来たばっかりなんだ。よければ、色々教えてくれないか?」
放心したリヴィオに手を差し伸べると、ちょこんとその上に手を乗せてきた。
……引っ張って起こしていいんだよね? なんかそれ以外に起きようってモーションが見えないから不安なんだけど。
まぁいいや、引っ張っちゃえ。
ずべし。
リヴィオは俺に腕を引かれたせいで、前のめりになって顔から地面にダイブした。
「ぶぇあっ。ぺっ、ぺっ、ぷぇ。何をするっ!」
正気に戻ったみたいだ。土を吐き出す声に生気が宿ってる。
「悪い。起こそうと思ったんだが……」
「あ、あぁ、そうか。いや、ちょっと信じられないものを見てな……。フフフ……あははは……」
なんか笑い出した。少し不気味だ。
「あはははは…………。ふぅ……。あれはなんだ? 魔法か?」
「んー……どうだろう。もしかしたら魔法なのかも知れないけど」
「お前にもわからんのか」
「変身ヒーロー、ではあると思うんだけど……」
「へんしんひーろー? ああ、そうだな、ヒーローだな。変身もしていたしな。確かに変身ヒーローだな、うん」
うんうんと頷くリヴィオ。
「そっ、総員退却!」
声に振り向くと、先程ドラゴンに襲われそうになっていた金色の旗の少数の騎馬の軍勢が撤退していくのが見えた。
馬を引っ張って、帰りは徒歩だ。馬も喫驚して落ち着かないんだろうか。
「彼らはどうするかな。もしかすると……いや、期待はすまい」
「……リヴィオさん?」
「あぁ、すまない。リヴィオでいいぞ。……クロッキーと言ったか。先程の激痩せしたというのは、嘘なのだろう? 元々、細腕だったのではないか?」
「黒木場、ね。ごめん、実はそうなんだ」
「やはりな。オマエの着ていた鎧も、細身のものだったしな。そのような細腕の戦士には憶えがないから、少なくともクロクィヴァがどこかから来た、というのは確かなのだろう」
「黒木場、ね」
「……クロキィヴァ」
言いにくいらしい。
実は、俺は日本語をしゃべってはいない。
だがリヴィオたちが使っている言葉はわかるし、流暢にしゃべることもできるのだ。カルボができるようにしたのだろう。
けれど固有名詞は黒木場のままなので、発音しにくいらしい。
「……まぁ、なんだ。行く宛がないというなら、私の部隊にいればいい。ドラゴンを倒せるお前だ。居てくれるだけで敵の脅威になるしな」
「有り難いけど、部隊に入る訳にはいかない。俺はなんで戦争してるかも、わかってないんだ」
「……そうか。ふむ……」
リヴィオは腕を組んで、頭を捻っているようだ。
俺としては、とりあえずこの世界で生きていく力が欲しいな。
その中でも、食糧問題が一番大事だ。ドラゴンとの戦闘で既に腹が減ってるし。
変身すれば狩りはできそうだけど、何が食えるのかわかんないしなぁ。
ドラゴンって食えるのかな。食えるなら食ってみたい。
「ドラゴンって食えるの?」
聞いてみた。
「種族によるかと思うが……。今、ロゴ―が倒したドラゴンなら喰えるし、旨いという話だ。ただ、生食はできないし、腐りやすいらしいからな。喰いたいなら早めに喰うといい」
呼び方がロゴーに変わった。吾郎なんですけど。
リヴィオは近くに置ちていたドラゴンの尻尾の一部を拾い上げて、眺める。
「私も一度、喰ってみたいな。少し持ち帰ってみるか。ロゴ―。おまえも喰いたいなら急いでそこらのを拾い集めてこい。ここは両国の防衛線だから長居はできないぞ」
「え、あ、ああ……。ええっと」
俺たちは急いで辺りに散乱する肉片を拾い集めた。
――――――――――――――
「隊長! 儂ァ、ドラゴンなんぞ初めて喰うたぞい! んまいのう!」
髭面のドワーフは大声でそう言って笑い、焼いたドラゴンの骨付き肉にかぶり付いた。
歯で肉を毟り取って、幸せそうに咀嚼している。
「うめェ! これしかねぇのか? 今から拾いに行くか?」
「バカ。敵に見つかったら殺されちまうぞ。……でも、うんめぇなぁ」
「だろう? 行こうぜぇ。こんなにうめェの、腐らせちまったら勿体ねぇって」
「やめておけ。今はいらぬ刺激をしたくない」
ドラゴンの肉を頬張る部隊員たちを、リヴィオ隊長がたしなめる。
俺は、赤い旗の軍勢の野営キャンプ地におじゃましていた。
彼らの軍は、アグレインという国の軍隊なのだそうだ。
それで、隣国である金色の旗のレンヴァント軍と国境付近でやり合うのはよくあることだが、近年は割と規模の大きいぶつかり合いをしているのだという。
今日も、そんな大きなぶつかり合いのひとつだったのだが、ドラゴンが召喚されたことで戦争どころではなくなって、両軍、態勢を立て直しているところのようだった。
行く宛のない俺は、今はそのアグレインの南東方面軍、リヴィオ隊長が率いる第4部隊のキャンプ場にて、晩餐の御相伴にあずかっていた。
辺りが宵闇に包まれてようやく涼しさが増し、快適な気温になってきた。たまにそよぐ風が心地好い。
「確かに旨い。味付け、塩だけなのになー」
俺もドラゴンの肉に舌鼓を打っていた。
爆発でバラバラになったので、どこの部位がわからないが非常に弾力があり、肉汁がたっぷりだ。
例えるなら、タコの刺し身が近いかな。タコほど柔らかさも噛み応えがないけど。
部隊員たちとは少し離れた場所で、草の上に腰かけて味わっていると、隣にハゲた小太りのおっさんがしゃがみ込んできた。
よく見ると、ドラゴンに襲われていたのを助けたおっさんだ。人生初のお姫様だっこの相手。
そのおっさんが、もじもじしながら伏し目がちで話しかけてくる。
……何の話か知らないけど、言い出しづらいだけだよね?
「あー、その……なんだ。リヴィオ第4部隊長に聞いた。アンタがあのとき、俺を助けてくれたんだってな」
俺はリヴィオに、あのとき見ていた者も少ないだろうから、ドラゴンを倒した者の正体が俺かと尋ねられたらどうすればいいかと相談されていた。
俺の力は強大で、人に話していいものかどうか判断に迷う、と。
俺は、そんな風に考えてくれるならこの世界のことを知らない俺よりいい判断ができそうだし、まぁ、なるようになればいいか、と彼女に判断をまかせた。
そうしてリヴィオがこのハゲたおっさんに教えることにしたというのなら、それでいい。
「ええ。助けられてよかったです」
そう言ったら俺の両手を包み込むようにして、おっさんが両手で、野太い指で、力強く握ってきた。
おっさんの目から、大粒の涙がこぼれ出す。
「あ、ありがとう……! ありがとうな! う、うう~……! な、なんだ、ちきしょう、涙が出てきやがる……」
おっさんは第3部隊の隊長で、部下たちを逃がすため自分を囮にしていたそうだ。
けれど自分も愛する妻がいて、もうすぐ子供も産まれるので死ぬわけにはいかなかったのだという。
「死を覚悟していたけどな」
そう言っておっさんは和らいだ笑顔を見せた。
俺も助けられてすごく嬉しいよ。
こんなに人に感謝されたことは初めてだな。気恥ずかしい。
しかし、自分を囮にするって、この国の隊長ってそういうものなのか? と思って尋ねたが、やっぱりそんなことはないらしい。
おっさんの部隊は今回の戦争で召集された兵士と違い、元々、国に兵士雇用されていて、部下たちに思い入れがあったからだそうだ。
目の前で幾人か部下がドラゴンに殺され、居ても立ってもいられず、囮役を買って出たらしい。
「じゃあ、行くわ。メシの邪魔して悪かったな。あー……、それと、俺が今ここで泣いちまったことは俺の部下たちには黙っててくれるか? 笑われっちまうからさ」
「ええ、わかりました」
「私も内緒にしておいたほうがいいよな?」
「うえっ!? リヴィオ第4部隊長、そこにいたのか!」
振り返ると、近くに設置された木のテーブル席に、いつの間にやらリヴィオが腰掛けていた。
「いや、すまん、私も話に加わろうかと思ったのだが、そんな雰囲気じゃなかったのでな……。しかし驚いたよ。鬼のヘーゲル隊長も、人の子だな」
「まいったなぁ……。見られちまってたとは。アンタも黙っててくれるか。頼むよ」
「ああ、了解だ」
それからおっさんが帰って暫くすると、俺の周りに人だかりができていた。
たったひとりでドラゴンを倒した黒き魔装戦士がいる、と話題になったのだ。
リヴィオが教えたわけではなかった。まぁ、あれだけのことをしたわけだから、目撃者がいたら仕方ないな。
見物に来た人は皆、半信半疑だったようだが、俺たちが食っているのは紛れもなくドラゴンのお肉。
少なくとも、そいつがお肉になっているのは本当だということで、人々は俺の力を見たがった。
「ドラゴンを倒し、あの男も疲れているのだ」
それを治めてくれたのはリヴィオだ。
その後も他の部隊から俺や、俺の変身後の姿を見に来たり、遠巻きに見に来る人々がちらほらいたが、ここの部隊員たちがリヴィオの意向を汲んで対応してくれたおかげで、あまり話しかけられることはなかった。
その中にひとり、命を助けられたのでどうしてもお礼がしたい、という女性を部隊員が連れてきた。
見ると、俺が助けた金髪のエルフっぽい少女だった。
控えめな胸の辺りまであるストレートな金髪で、青い大きな瞳をした色白で細身の、可愛らしい少女だ。
エルフっていうと自分の中では西洋人風の高い鼻の美人さんなイメージあるけど、この少女は童顔だな。
あ、いや、少女ではないのかな? エルフだから、実は何百歳とかなのかも。
その少女(とりあえず)は、俺の傍まで来ると片膝を立てて跪き、頭を垂れて右手の甲を前に出した。
あ、こういうの見たことある。もしかして手の甲にキスするのか?
逡巡していると、少女は少しだけ顔を上げて上目遣いでこちらを伺った。
俺はゆっくりと手を取る。すると少女がにこりと微笑んだので、俺はその手の甲にキスをした。
「うひゃぁ!」
「え?」
すごい跳躍力で飛び退かれた。
頬を赤らめた彼女は、その見開いた大きな瞳で、自分の手の甲と俺の顔を何度も交互に見ている。
「ちょぉ、ロゴー、どうした!」
「いや、挨拶をしたんだけど……」
騒ぎを聞き付けてきたリヴィオに事情を説明する。
「なるほど……。エルフの娘よ、すまないな。ロゴーはこちらの礼儀作法をよく知らないんだ。キスしたのはこの男のところでは挨拶らしい。許してやってくれ」
「あ、挨拶だったの!? そ、そっか……」
話によると、こちらの世界では差し出された手を上に引いて、立つように促すのが丁重な挨拶なのだそうだ。
俺とエステルは地面座ってたんだけど、その場合は横に引いて顔を上げるように促すんだそうだ。
異文化だなー。
「あ、あの、先程はありがとうございました。おかげで命を救われました」
「ああ、いえいえ……」
「わたしはエステル・ブラン。第7部隊に所属するエルフです」
やっぱりエルフだった。
本物のエルフだと思うと、なんだか嬉しいな。
「黒木場吾郎。19歳です」
物語の中のエルフって長命なのがイメージなので、年齢を言えば教えてくれるかと思って言ってみた。
「あ、えっと、99歳です」
おお、白寿だ。やはりこの世界のエルフも長寿のようだ。
でも幼い顔立ちをしているので、まだ若いのだろうか。
「エルフで99歳だと、まだ若い方なんですか?」
聞いてみた。
失礼だったかな?
「あ、はい。人間でいうと10代後半です。ですがクロキヴァ様は実際に19歳という若さであれほど……。お若いのに、凄いです。魔装具を使って助けてくださったとき、わたし、すごく感動しました」
やっぱり見た目通り、エステルはまだ若かった。
そして、自分はどうやらこの軍隊の人々に、物凄い魔装具の鎧を召喚して使う戦士だと思われているらしい。
魔装具とは、魔力を付与した道具のことだそうだ。略して魔装と言う。
まぁ、変身ヒーローだと言われてもわからないだろう。そういうことにしておくか。
「凄いん……ですかね」
「ご謙遜なさらずとも。あの魔装具、ドラゴンの巨体を蹴り飛ばし、爆発させたと聞き及んでおります。国宝級の魔石がいくつあってもできない所業です。そんな魔装具を使いこなすのならば、相当量の魔力をお持ちなのでしょう?」
「えぁ? え、ええ、まぁ……」
魔力など持っているのかすらわからないが、そういうことにした。
本当のことを知られれば、面倒なことになるかも知れないからな。
まぁポロシャツにジーンズ姿で、どっかから来た人なのはまるだしなんだけど。
でも、この軍隊の人々には遠い異国から来た凄い魔術師だろうって思われてるみたいだった。
「クロクィ、失礼。クロキヴァ様は、どちらのご出身なのでしょうか」
「エステルと言ったな。なぜそんなに畏まっているんだ?」
近くのテーブルで様子を伺っていたリヴィオが横から声をかけた。
「え? えっと……」
「普通でいいぞ」
リヴィオがそう助言すると、エステルはちょこちょことリヴィオの元に移動して、何事か耳打ちしたようだった。
「ぷっ、あははは! ロゴーは怖くないぞ。そうか、それであんな畏まった挨拶や話し方をしていたのか。エルフが貴族の女のような話し方をしているから、おかしいと思ったんだ」
「ちょっと!? 声大きいよ、もう~」
びっくりまなこでリヴィオを咎めるエステル。
どうやら俺、怖いと思われてたようだ。ドラゴン、ぶっ飛ばしたもんな。
「怖くないのは、あなたが隊長だから、ってわけじゃないよね?」
「あぁ、うちの部隊の連中とも話しているのを見ていたが、そんな感じはなかったぞ」
「そっかぁ。あんなに凄い力を持ってるのに、立派だなぁ」
そう言いながら、エステルはすごくいい笑顔でこっちに戻ってきた。
ダイジョウブ、コワクナイヨ?
先程までの彼女は、色白で細身で伏し目がちだったのもあるだろう、どこか儚げな印象があったのだが、リヴィオに文句を言ったあとは、そういったものが薄らいだ、元気な女の子な印象だ。
「あの、ありがとうね」
エステルはぎゅっと俺の手を握ってきて、照れ笑いを見せた。
なんだか、悪戯心が湧いちゃうな。
「エルフは別だ」
「……え?」
「馴れ馴れしいぞ。だがまぁ、許してやらなくもない。俺に服従を誓うというのであれば、な」
エステルに握られた手を強く握り返し、不敵な笑みを作ってみせた。
「…………ほぎょえええ!」
仰天したエステルは手を振りほどくと、3回転の連続後転の後、大きなワイン樽に背中からぶつかった。
そのままワイン樽にしがみ付き、ぶるぶると震えながら驚きと怯えを交えた表情でこちらをそっと覗き込むように見た。
「ごめんごめん、冗談だよ」
「あはは、あはははは」
そんなエステルを、リヴィオは脚をバタバタさせながら指差して笑った。酔ってる?
リヴィオは鎧は脱いでいて、ふとももまで剥き出しの脚が煽情的で、俺には刺激が強いな。
有り難く見させて頂きますけども。
「~~っ。もうっ、酷いよっ!」
むくれたエステルをなだめていると、何やらキャンプ地の入り口付近が騒がしくなった。
様子を見てきた部隊員の男にリヴィオが尋ねると、男は敵軍から使者が来た、と告げた。
「もう来たのか。迅速だな」
「もうって……。知ってたの?」
「予想はしていた。そして、予想が正しければ……いや、やめておこう」
そう言って、リヴィオはワインをぐびりとやった。