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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第47話 謎

 リヴィオとともに玄関へ向かうと、メイドのふたりが見送りするべく待っていた。


「まぁ、リヴィオ様……。大変可愛らしいです!」

「ホントです! リヴィオ様、素敵です! やっぱり私が着るより似合ってますよ~」


 普段と違う格好を褒められ、リヴィオはとても恥ずかしそうな様子だ。

 聞くと、今、着ている服は買ったはいいが着れなくて、フリアデリケに着て貰っていたそうだ。それもそれで可愛いとは思うけど。


 彼女たちに見送られ、俺とリヴィオはミルクチョコレートを売るべく、貴族街を白と黒の服で並んで歩いていく。

 馬車を使えば楽だが、リヴィオの家には馬車の車部分しかないので、馬はレンタルして来なければならない。お金がかかるので節約だ。


「最近、見回りの兵士が増えたよな」

「そうだな。だが、何か祭りがあるときにはもっと多いから、闘技大会を開催することを正式に発表すれば、きっと更に増えるぞ。門番が重装備してる家も出てくるだろうな」

「へぇ……」


 最初に訪問する貴族の家の前、軽装備の門番ふたりの全身が、鉄の鎧に覆われているところを想像しながら、彼らの元へと向かった。


「私は、リヴィオ・アンバレイという。家の者に面会を申し込みたいのだが……」


 兵士たちにそう言うと、彼らは顔を見合わせ、頷き合った。


「お約束は、ないのですね?」

「あ、ああ。突然ですまないが――」

「では、お引き取り下さい」


 リヴィオが話している最中に割り込み、兵士が断りを入れてくる。


「……っ。すぐに済む用だ。家の中の誰でもいい。面会を頼めないか?」

「申し訳ありませんが……」

「……そうか」


 仕方なく、その家の前を後にした。

 幸先の悪いスタートだ。嫌な予感はしていた。リヴィオは面識のあったいくつかの貴族に宛てて手紙を書いていたのだが、すべて断られてしまっていたのだ。それで、こうやって直接訪問するという手段に出た。相手が貴族ならば、事前に約束がなくとも話を聞くくらいはするだろう、と。


 貴族の家への訪問販売というのはよくあることで、商人の間で情報が流れているのだろう、リヴィオの家にはあまり来ないが、家によっては訪問販売と思われる人々が列を成している様子を目にする機会も珍しくない。

 そういうものは普通、その家の使用人が応対をして、よほどの品でなければ貴族が自ら相手をするのはあまりないことらしい。


 商品がチョコレートの場合は、よほどの品だ。

 しかしその後も、門前払いが続いた。


「う~ん。すでにどこぞの貴族が、ウチと仲良くするなとでもって言ってんのかね」

「…………。そうだな」

「あれ? リヴィオ、なんで笑顔?」

「いや、ロゴーがアンバレイ家を『ウチ』と言ったから嬉しくてな……。身内になれた気がして」

「ああ……俺、つい『ウチ』って言っちゃったな。その……俺が身内でもいいのか?」

「ああ。ロゴーがいいなら」

「勿論いいけど……。じゃあ、出て行かなくてもいい……ってこと?」

「そんなことを考えていたのか?」


 リヴィオが目を丸くする。


「そりゃあ、まあな。今は査定や闘技大会のことがあるけど、それが終わった後も、いつまでも世話になってるってわけにはいかないだろうって思ってたから……」

「そうか……。私はお前のそんな気持ちにまで気が回っていなかった。すまない……」

「い、いや、いいよ。謝ることじゃないだろ?」

「だが、ずっと居ていいと伝えておけば、お前に要らぬ心配をかけさせずに済んだ」

「……リヴィオは、優しいな。ありがとうな、リヴィオ。俺、お前に会えてよかったって思ってるよ」


 すると、彼女はどんどん顔を赤く染めていった。うわ……それ、こっちまで恥ずかしくなってくるから……。


「……ぇあ……。そ、そうか……」

「あ、ああ……」



 結局、チョコはひとつも売ることは出来なかった。

 貴族が出てきて話を聞いてくれる所も3件ほどあったが、どこも横柄な態度で、試食のチョコに口を付ける者はひとりとしていなかった。

 田舎者が質の悪いチョコを持ち込んだとでも思っているような口ぶりの者もいた。

 だが、リヴィオと一緒だったおかげで、あまり嫌な気分にならずに済んだ。





 数日後、闘技大会の開催が正式に発表された日。

 俺とリヴィオは、ディアスとひさしぶりに会っていた。メデューサクリスタルの能力を研究したいと言っていたディアスの要望に応えた形だ。

 町外れの人目につかないところで、ディアスの連れてきた数名の研究者の前で研究用のねずみなどを相手に能力を使って石化と解除を繰り返した。


 これで石化した人を治せるようになるきっかけでも見つかればと思っていたが、結果は「さっぱりわかりません」とのことだった。残念だ。


「実は、奇妙な噂があってな」


 ひさしぶりにあった本日も黒い服を着た銀髪の美青年、ディアスによると、なんでも隣国レンヴァントで最近、石化を治す秘薬の噂があるのだという。


「よくある噂だと思ったのだがな。複数の証言があって、気になってな。研究所からも現地に人を向かわせたそうだ。なんでも、10年も前の石化が治ったという話だ」

「ええぇ? それがあれば、エステルの兄も、もしかしたら治るのか……?」

「彼の場合は特殊だから、それはわからんが……。もし本当なら、石化したトリア村の人々は助かるな。法外な値段を取るらしいが……。そういう辺りも、眉唾物だ」

「なぁロゴー、このあいだ姫様が言っていた噂って、このことじゃないか?」

「ああ、そういえば言ってたな。そうか、きっとこのことだな」

「なんのことだ?」


 俺たちはディアスに事情を説明する。アンバレイ家を貴族に留めるためにあれこれやっていて、貴族にチョコレートを売ろうとしたことも。


「ならば、私の家ですべて買い取ろう」

「おお、助かるよ! ディアスなら買ってくれるかもって思ってたんだ。よかった~」

「礼を言う。ディアス・リングバレイ。だが、そんなことをして平気か? 多分、アンバレイ家の悪い噂が立っていると思うが……」

「ああ。貴族の間では、アンバレイ家は敵国と通じ、我が国に取り入って損害をもたらさんとしているとか、噂になっているそうだ」

「やはりか……」

「だが、関係ないさ。リングバレイ家は、どの貴族においても色眼鏡で見たりはしない。噂の真相や出処は調べるがな」


 そう言って、ディアスは口角を上げた。


「もし出処がわかったら、私たちにも教えて欲しい。それと、レンヴァント国での噂についても」

「ああ。約束しよう」

「しっかし、石化を治す薬が本当にあるっていうならタイミングよすぎだよなー」


 俺の言葉に、ディアスは腕を組み、頭を捻る。


「確かにな……。だが、そもそもメデューサが何匹も出てきたこと自体がおかしいのだ。もしかしたら、レンヴァント国にはメデューサを召喚できる者がいるのかも知れない。メデューサの召喚というのは聞いたことがないが、強力な魔物を召喚できる者ならば、魔力だけを代価に召喚することも可能だろう。向こうにも魔法の研究機関はいくつもある。それで、我が国より石化に対する研究が進み、薬が出来たのかも知れん」

「その召喚できる者っていうのが、トリア村の鉱山にメデューサたちを放ったってことか。この国に損害を与えて、石化を治せる薬を売りつける為に?」

「薬を売りつけるというのはどうだろうな……。先程も言ったが薬はかなりの高額らしく、平民には厳しい。だが、それでも愛する者の為ならば、借金を負ってでも買うか……。リヴィオ、キミはどう思う?」

「薬を売るという線はあまり考えにくいな。そのマッチポンプはわかりやすい。

やるとしても、一度しか出来ないだろうな……。私は、闘技大会を開催させることが狙いだったんじゃないかと思う。魔石の採掘に損害を与えることで、開催を促そうとしたのではないか?」


 その推測に、俺はハッとする。


「あっ。もしそうなら、もしかしたらドラゴンや巨大スライムもそうなんじゃないか? 軍に損害を与えれば、大会を開催させやすくなるって考えたのかもなって」

「確かに、あんな巨大なスライムは見たことがなかった……。何者かが意図的に行った可能性は高いな。すべては、闘技大会の魔石の採掘権を手に入れ、巨万の富を得る為に、か……。だとするとロゴー、その何者かは、おそらくおまえのことを最も警戒すべき存在の一人として見ているハズだ」

「えっ、マジか」

「ああ。得体の知れない強力な力を持っていて、敵の意図を次々に潰していて、大会にも出場するのだからな……。これまで以上に、充分に注意したほうがいい」

「うへー……」


 俺は随分と嫌そうな顔をしていたのだろう、リヴィオが少し慌てた。


「ああ、すまない。そんな脅かすつもりはなかったんだ。私やルーシアもいるし、国に頼んで警備も増やして貰おう。ただ、心配で……」

「ゴロー、どうせドラゴンを倒せる時点で、キミは否が応でも注目され、警戒される存在なのだ。大して変わらんかも知れんぞ」

「う。そ、そうだよな……。なぁ、リヴィオ。俺、ホントにアンバレイ家にいて大丈夫なのかな? 迷惑かけちまうかも……」

「い、今更なにを。そんなことは皆、承知している。迷惑だなんて思ってないぞ!?」

「でも、ルーシアさんは迷惑だって思ってるかも……」

「いやいや! ルーシアだってそんな風には……ちょっとは思ってるかも知れないけど……でも、仕方のないことだ! だから気兼ねすることはない! ただ、今までより注意しようっていうだけの話だ。なっ?」


 なんだか、大げさな身振り手振りでリヴィオが必死に慰めてくれるのが可笑しくなってきて、俺は笑み零してしまった。


「ああ……。ありがとな、リヴィオ」

「……。お前はよくそう言うが、私のほうこそ、お前に感謝しているのだぞ……」

「え……? そ、そっか。ならよかった」


 彼女に見つめられ、揺れるその赤い瞳に目を奪われて、暫く無言で見つめ合った。そして、どちらともなくディアスの視線に気付き、顔を隠す。


「ふむ……。リヴィオがあれほど慌てていたのは初めて見たな。やるな、ゴロー」

「え? ああ……?」


 ニヤリと白い歯を見せるディアスの「やるな」という言葉は、慌てさせたことについて言っているだと、このときの俺は思っていた。

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