第36話 ロンドヴァルの行方
一ヶ月ぶりの投稿です。
なろうに投稿を始めて、『エタる』という言葉を知りました。エタらないようになんとかやり遂げたく思っておりますので、どうぞよろしくお願い致します。
それと、多くの方に作品を読んで頂きたいので、宜しければ宣伝して頂けたら嬉しいです。こちらもどうぞよろしくお願い致します。
(2016.8.4記)
エステルと別れてから、数日が経った。
あの後、俺はリヴィオの屋敷に出戻った。有り難いことに、リヴィオとメイドのふたりは喜んで迎え入れてくれた。
「ゴロー様。ご一緒にお出かけ致しませんか?」
柔らかな日差しの午後、メイド姉妹の姉、ルーシアに誘われて、俺はその日差しの下へと歩み出る。
「ルーシアさんは、外でもメイド姿のままなんですね」
「ええ。このほうが都合がよいのですよ」
ルーシアは、とても艶っぽい女性だ。なので、彼女の言う意味はわからなかったが、違う服も見てみたいと思った。そのルーシアの豊満な胸元には、左肩でひとつに束ねられた黒髪が垂れていて、リヴィオの剣が抱きかかえられている。
「その剣の修理の依頼に行くんですね」
「はい。それと、食材のお買い物を。男手に期待させてくださいね」
おっとりとした雰囲気で、にっこりとルーシアが笑う。
31歳のルーシアは、歳の離れた14歳の妹のフリアデリケとは似ていないが、感情が表情によく出るところは似ていた。
「はい、それくらいなら」
「ふふっ。男の子がいると、助かっちゃいますね」
時折吹く優しい風が心地いい日和の中、石畳の続く道を、街の様子を眺めながらふたりで歩いていく。
俺は半袖のポロシャツにジーンズにスニーカーという変わった出で立ちをしているが、思ったほど人々の視線を受けない。色んな種族や身なりの者たちがいるからだろう。隣にルーシアがいたことも大きな理由のひとつだと思う。彼女は多くの男性の視線を集めていた。
ああ、なんとなくさっき言っていた意味がわかった気がする。ルーシアは、よく男に声を掛けられるのだろう。しかし、メイド服なら仕事中と言って話を切り上げたり、声を掛けた相手も貴族などが雇っているメイドかと推測して、あまりしつこくできなかったりするのだろうな。
そうして、石畳の道を歩くこと数十分。石畳からレンガ畳の道に変わった、鍛冶屋が立ち並ぶ一角に目的の店があった。
店内は広く開けており、扉近くでは壁際に様々な武器や防具がディスプレイされていて、奥のほうでは炉やらハンマーやらふいごやら色んな道具があり、そのうちのひとつの炉は火が入れられ、鉄を打っていた。
「お、あんちゃん、なんか入り用かい? ウチは武具専門だよ」
中に数人いた男たちの中で、最もガタイのいい赤いトサカ頭のおっさんが気さくに話しかけてきた。
「って、ルーシアさんじゃないですか。そちら、お連れさんですか?」
「ええ、ウチの居候のゴロー様です」
「そうでしたか。いや~あんちゃん、羨ましいなあ! ルーシアさんみたいな美人と一緒に住めるたぁ」
「ふふっ。からかわないでください」
「いやいや、本当ですって! なぁ、あんちゃん」
「え、ええ……」
「あら。本気にしちゃいますよ、ゴロー様」
「そう思ってるのは本当なんで……」
「まあ……ふふっ。嬉しいですねぇ」
「そんで、本日はその剣ですかい? また欠けちまったかな?」
ルーシアから剣を受け取ったおっさんは鞘から剣を引き抜き、顔を歪ませた。
「……魔力が失われちまってるな……。ルーシアさん、残念ですけどこりゃあもう……」
「わかってます。ですが、主の希望でして。魔力は戻らないでしょうが、修復して頂けませんか?」
「そうですかい。そんならやりますが、折れた刃を修復するより、新しいのに付け替えたほうが安上がりですよ? 魔力ももう宿ってねぇんで、もっと切れ味のいいものに出来ますが……」
「そうなんですか? う~ん、でも主はどっちを望むかわからないんですよね。ゴローさんはどう思います?」
「え? えーと……どうかな……。魔力を篭めるっていうのは無理なんですか? リヴィオは、出来れば魔力の宿った前の状態を望んでると思うんだけど……」
「いやあ、あんちゃん。いい魔石でもなけりゃあ、前のようにはできねぇよ」
そうかー……。でも、いい魔石って、お高いんでしょう? 何か魔力が宿ったものでもあれば別なんだろうけど。
……あ。
それに思い至った俺は、腰にベルトを出現させる。
「うおっ! なんの光だ? なんだそりゃ、あんちゃん!」
「えーっと、魔法のベルトです」
そういうことにして、俺はベルトの機能で消しておいた、皆から貰った1本のブランワーグの牙を心の中で出てくるよう願って、出現させた。
いちいちベルトを出現させないと持ち物を出せないのは不便だな。俺の願望が反映されてるなら、ベルトの出現は必要ないと思うんだけど……。
「おわっ!? またなんか出たな。な、なんだぁそりゃあ……七色に光ってやがる……」
「ブランワーグの牙です。これって、魔剣にするための素材にできませんかね?」
「ブ、ブランワーグ!? 本物か!?」
赤いトサカ頭のおっさんの大声に、工房にいた他の男たちが全員、集まってきた。
「ブランワーグだって?」
「初めてみた……。本当に七色なんだな」
「強い魔力を感じやがる……。どうやら本物のようだな……」
「おいおい、マジか。こんなもん拝めるなんて、一生に一度あるかないかだぞ!」
皆、凄く興奮している。それで、魔剣に出来るのか聞いてみると……。
「コイツを扱えるのは、ウチじゃあベルナ・ルナだけだな。おい、誰かあの寝坊助を起こして来い!」
「アタイならここにいるよォ!」
声が聞こえたほうに視線を向けると、広い工房の中央辺りにある、隣の住居と繋がっている扉から、褐色肌の『姉ちゃん』って感じの人が出てきた。ひと目で、そのグラマラスさに激しい衝撃を受けた。なぜならば――。
「ベルナ・ルナぁっ! またそんな格好で出てきやがって! 上着を着ろぉお!」
上半身、裸だったのだ。豊満な胸が惜しげも無く露になっている。
「あ~ん……? いいじゃねェか。減るもんじゃなし」
「よくねぇよ! 男の客だって来てるんだぞ!」
「見りゃァわかるよ。な、兄ちゃん!」
上半身裸の女性がおっぱいを揺らしながら俺に近付いて来て、肩をばんばんと叩いた。
女性の胸を生で見たのは初めてだ。心構えもなかった俺には、刺激が強すぎる。
「ダメだ、コイツ……」
トサカ頭のおっさんが、そのトサカを撫で上げて頭を抱えた。
「兄ちゃん、ウブだねェ、目ェ逸らしちゃってさー」
そうしているのは隣にルーシアがいる手前もあったのだが、当のルーシアは、「よかったですね」なんて言って微笑んでいる。
薄黄色のボサボサの髪をズボンのポケットから取り出した紐でポニーテールに括ったベルナ・ルナは、鳶色の瞳でブランワーグの牙を覗き込んだ。
「でェ……ソイツだね、アタイを起こした魔力の源は。急に強い魔力を感じたもんだから、飛び起きちまったよ。兄ちゃん、魔力封じの箱にでも入れて持ってきたん?」
「え? あー……まぁ、そ、そんなようなものです……」
ちらちらと目線をふたつの星の引力に引かれさせながら、しどろもどろになって俺は答えた。うう、嬉しいけど刺激が強い!
「わぶぅ!」
トサカのおっさんにタンクトップを投げ付けられ、ベルナ・ルナは渋々それを着た。ああ、さようなら……。ふたつの魅力、暴力よ……。
だが、タンクトップでも充分に魅惑的な姿だ。ルーシアと並んで、お色気二大巨頭だ。
そんな馬鹿なことを考えている間に、トサカのおっさんがブランワーグの牙に興奮するベルナ・ルナに事情を説明していて、それを聞いた彼女が、自分の右拳を左掌にパン! と打ち付けた。
「一生に一度あるかないか……こういうのを待ってたんだよォ! ああ、ワクワクすんなァ! やってやんよ、兄ちゃん、それにルーシアさん!」
「刃は新しくなるのでしょうか?」
「そうだなァ……。この刃も悪くねェんだが、魔力を宿すんなら新しいほうがいいよ。魔力を余さず刃に宿したいからな」
「そうですか。そういうことでしたら、リヴィオ様も納得するでしょう。よろしくお願い致します」
「任せといてくれよ! あー……ただなァ……」
「なんでしょう?」
「かなり金かかっちまうよ? いや、アタイはこんな仕事ができるんならタダでもいいくらいなんだけどさ、刃の素材がなァ……」
具体的な金額について尋ねたルーシアは、吃驚するくらい渋い顔をしたが、それを承諾した。
「い、いいのかい? なんか、すんげェ顔になってたけども……」
「仕方ありません。主のためですから」
「わかった。気合い入れて作るからさ!」
剣は、出来上がったら家まで届けに来てくれるそうだ。
店を後にすると、ルーシアが俺に頭を下げてきた。
「あの、ありがとうございます。貴重な素材をわけてくださって」
「いえいえ、俺もリヴィオの喜ぶ顔が見たいですから」
「そう言って頂けて、私も嬉しいです」
顔を上げ、ルーシアは嬉しそうに笑みを湛える。
「ゴロー様が良い方でよかったです。最初は、得体の知れない男を連れてきて、リヴィオ様はお人好しですから情にほだされでもしたのかと思って心配しておりました」
「まぁ、そうでしょうね。俺でもそうなると思います」
「ご自分をですか? ふふっ」
口元を抑え、艶っぽく笑うルーシア。
「ただひとつ、不満な点があります」
「え? な、なんでしょう……?」
「私にはチョコレート、くださらないのですか……?」
潤ませた瞳でそう言うルーシアは、これまでで一番色っぽく見えた。本当に、色香の塊のような人だ。
そういえば、フリアデリケにはチョコあげたけど、ルーシアにはあげてなかったな。
俺は、帰ったらすぐにでも……と約束すると、ルーシアはそれから暫くずっとニコニコとしていた。
そんなルーシアと、露店街で買い物をしているときだった。
「なんでしょう、騒がしいですね」
少し離れたところから、人々の喧騒が聞こえてきた。何かあったんだろうか。
周囲の人々の話に聞き耳を立てると、どうやらパンを盗んで逃げた男の子を、追いかけた店の主人が捕まえたのだが、男の子はパンを渡すまいとして口に詰め込み、喉に詰まらせてしまったらしい。
見に行ってみると、確かに小さな男の子が喉元を押さえて苦しんでおり、ガタイのいい白いエプロン姿のおっさんが、その背中を強く掌で叩いていた。たぶんこの人が追いかけてきた店の主人なのだろう。
「おい、勝手なことして死ぬんじゃねぇぞ! 出せ! 出せ!」
男の子は青い顔をしている。
吐き出せないようだ。マズイな。
「…………。ベルト、出ろ」
「えっ?」
俺の声にこちらを向いたルーシアが、ベルトが出現した輝きに目を細めた。周囲の人々も何事かとざわめく。
「変身!」
変身の行程でより大きな輝きが放たれ、周りの人々が驚いて俺の傍から離れていった。




