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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第34話 帰還

 都市アグレインに到着した。

 出発から3日目頃には慣れてきて酔わなくなっていたのだが、皆のチョコ争奪戦をやめさせるのも気の毒だし、膝枕は男でもけっこう気持ちいいので言わなかった。

 トアンの膝枕が一番、肉付きがよくて気持ちよさそうなのだけど、彼女だけは結局、最後まで一度も勝てなかった。


 エステルの説得は、結局できなかった。

 俺も何度も考え直すように言ったのだが、エステルは最後のほうは悲しい顔をして首を振るだけだった。


 出発したときと同じく小雨に降る中、俺たちは冒険者ギルドへと赴いた。

 護衛と御者を担ってくれた者たちにお礼と別れを告げた後、今回のメデューサ討伐の報酬をギルドから受け取った。依頼と報酬は国と村から出ており、それに村からの特別報酬が加わってなかなかの金額となったらしく、ゴドゥたちは喜んでいた。

 俺とリヴィオは貰っていないが、エステルが討伐の仲間を集めるためにも大金を払ったと言っていたので、そのお金もあるのだろう。

 同じく、俺とリヴィオはギルドに参加もしていないのだが、報酬はパーティで山分けだ。


「なんじゃと!? ほ……本当にその値段か!?」

「はい。ウチ以外でしたら、もっと高値で買い取るかたもいらっしゃると思いますが……。どうします?」

「どうしたんだー?」

「喜べ、トアン……。この牙は、さっき貰った報酬の、ご、5倍の値段じゃ……」

「え……ええ~~っ!」


 七色に光るブランワーグの牙を換金しようとして、ギルド内が騒ぎになった。


「しもうた。こんなところで出すもんじゃなかったわい……。トアン、声がデカいんじゃ」

「ご、ごめん。だってさー」


 ギルドに集まる冒険者たちでも、初めて見たという者が殆どだった。


「それ、本物なのか?」

「本物じゃい!」

「この魔力量……。言う通り、本物なのだろう。仮に偽物だとしても、高値で売れるぞ」

「よ、よく見せてくれよ……」

「触るなよ」


 騒ぎを聞きつけてやってきたギルド長も驚いていた。

 ブランワーグは後々勢力を拡大し、山脈に入る者だけに限らず周辺に住む人々などにも被害を及ぼしていた可能性が高かったそうで、もしそうなっていたら、山脈越えの後に俺たちを泊めてくれた民家の人々などが犠牲になっていただろう。その段階になれば、国から危険生物の討伐報酬が出たらしいが、俺は事前に退治できてよかったと思った。


「ゴロー。キミがもう1本の牙を持っていることは、黙っておいたほうがいいぞ」


 ディアスの耳打ちに俺は頷いた。ブランワーグは俺が倒したということで、報酬の半分として1本、牙を貰っていたのだ。それを持ってることがバレて、襲われでもしたら嫌だしな。

 見た目も七色で綺麗だし、お金にしたら色々無駄使いしそうな気もしたので、俺は換金せずに困ったときのためにそれを取っておくことにしていた。


 結局、ギルドで換金しようとしていた牙のほうは、そのまま換金することにした。

 貴族に売れば高値で買い取ってくれる者もいるだろうが面倒だし、商人は買い叩いてきたりして面倒そうだが、ギルドなら適正な価格で買い取ってくれるので。


 それと、牙の騒ぎに乗じて、トアンの隙を突き、彼女の荷物の中にこっそりミルクチョコレートを1つ、放り込んでおいた。


 それから、騒ぎも収まり報酬も山分けして、とうとう、俺たちの別れのときがやって来た。


「それじゃあ、そろそろ行くわい。いやあ、思えば、大変な旅じゃったなあ」

「そうだなー。でも、こんなにいっぱい報酬貰えるとは思わなかったんさー。暫く、のんびりできるなー」

「そうじゃな。ひさしぶりにそうするか」


 ゴドゥとトアンのドワーフふたり組は、ほくほく顔でそう話している。


「ふふ、ゴドゥの言う通り、もう遠慮したいほど、危険な旅だったな」


 そう言って微笑むディアスは、ギルドの2階の窓からの陽光に銀色の髪が煌めいていて、伏せ目がちに笑うその美形は、絵になる姿だった。

 以前の俺なら、イケメンめー、なんて冗談で思ったところだけど、今はこの男にとても感謝している。

 彼は、俺のメデューサクリスタルの石化と解除について調べたいそうで、この先も会う約束をしていた。


「だが、スリリングで有意義で、楽しい旅でもあった。あ、エステル、気に触ったなら済まない。キミの兄のことは残念だったが……」

「ううん、いいよ。わたしも楽しい旅だったよ?」


 眉根を寄せたディアスに、エステルが笑顔で返した。


 結局、エステルの説得はできなかった。

 酒場での言い争いの後も、リヴィオ以外の俺たちは、考え直すようにエステルに説得を試みたのだが、最後のほうは悲しい顔をして首を振るだけだった。


「エステル、いつ発つんだ?」

「明日の朝かな」

「そんなにすぐにか!?」


 尋ねたリヴィオが驚いた顔をしてエステルに近付き、取り縋るように寄り添った。ふたりは、なんだか昨日からスキンシップが多い。昨夜、ふたりで話をしていたようだけど、何かあったんだろうか。

 リヴィオはせめて旅の疲れを取ってから行けと説得していたが、じっとしていられない、平気だと言うエステルに、最後には説得を諦め、色々と気を付けるように話していた。


 ギルドから出ると雨はやんでいて、流れの速い雲がその隙間から日の光の柱をいくつも斜めに伸ばして、地面をなぞっていた。


「それじゃあ、皆、今回は本当にありがとう!」


 深々とお辞儀をして、顔を上げたエステルは笑っていた。


「じゃあ、わたし、行くね」

「ああ、それじゃあの」

「ばいばーい! 暫くはここにいるから、どっかで会ったらよろしくなー!」

「それでは、私も行く。ゴロー、リヴィオ、後日な」

「ああ。皆も、息災でな」

「ええっと……。皆、元気でなー!」


 散り散りになっていく皆に、最後に俺が大声を張り上げた。


「……ロゴー、私たちも行こう」

「ああ」


 残った俺とリヴィオは、肩を並べて家路を辿った。


「浮かない顔をしているな。エステルが心配か?」

「リヴィオにはお見通しだな……」

「……エステルも馬鹿じゃない。今回は無茶もしたし、色々と想定外だった。今後は慎重に、色んな場面を想定して、想定外のことも気を付けると言っていたぞ」


 リヴィオも心配であれこれ忠告したから、エステルがそう言ったんだろうか。そんな気がした。


「そっか……」


 エステルを放っておけない気持ちはあった。だが、俺はリヴィオのことも心配だった。リヴィオはああ言っていたが、リヴィオが結婚をやめたガラードという貴族の男は、いきなり俺に斬りかかってくるようなヤツだ。リヴィオが平民になったら、最悪、殺されてしまうんじゃないか。そういう不安があった。


 それに、この世界のことはよく知らないが、エステルの旅は不毛で、危険で、愚かなものに思えた。それを知った上で説得を聞かず、やると決めたのは彼女だ。

 俺はそうやって、消化できない感情を反芻はんすうし、仕方がないと思い込もうとしていた。





「リヴィオ様! ゴロー様っ!」


 リヴィオの屋敷に到着すると、庭掃除をしていたメイドのフリアデリケが俺たちの姿を見つけ、驚いたのだろう、手から箒を落として駆け寄ってきた。


「わあー! おかえりなさい! おかえりなさい!」


 ぴょんぴょんと嬉しそうにフリアデリケは俺たちの周りを跳ね回った。リヴィオが自分の正面に彼女が回ってきたところで手を伸ばし、その頭を撫でてやると、フリアデリケは嬉しそうに目を細めた。


「ああっ!」


 その騒動を聞きつけ、屋敷の中を駆けてきたようで、玄関を飛び出してきたフリアデリケの姉、ルーシアが驚きと喜びの混じったような声を上げた。


「ただいまだ、ルーシア」

「ああ、リヴィオ様……! おかえりなさい……!」


 両手を広げて駆け寄ると、彼女はリヴィオに抱きついた。それから、ハッとした顔ですぐに身体を離し、リヴィオの身体中を観察する。


「お身体は……お身体は無事ですか?」

「ああ、無事だ」

「よかったです……」

「お姉ちゃん、すーっごく心配してたんですよ」

「こっ、こらっ! フリアちゃん!」

「あっ、これ内緒でした!」

「……そうか。今までも戦場に赴く度、表には出さないが心配してくれているのはわかっていたが……。ルーシア、ありがとう」

「う……。ま、まぁその、メデューサと戦うことになるかも知れないなど、初めてのことでしたからね。それで、如何でしたか? 戦われたのでしょうか」

「それが、大変だったんだ……。詳しくは後で話すが、せっかく治して貰った剣も折れてしまってな」

「えっ! 名剣ロンドヴァルが?」

「ああ、ストーンゴーレムを斬ろうとしたら、ポッキリとな……」


 リヴィオが腰の剣を引き抜いて見せ、折れた刀身が姿を現した。

 それを見て、ルーシアがボソリと呟く。


「……ナマクラめ」

「ええっ? い、いや、ロンドヴァルはよくやってくれたぞ。ストーンゴーレムも、1体は斬ったしな」

「1体だけで折れるなんて、やっぱりナマクラです! なーにがストーンゴーレムでも容易に切り裂く、ですか! グレアス様は騙されていたんですよ。これのためにどれほどの財を投じたと……! リヴィオ様がご無事で帰って来られたからよかったものの、これのせいで何かあったら……!」

「確かに誇張はあったがな……。その、ところでこれ、直せるだろうか」

「え? こんなナマクラ直すのですか? 真っ二つに折れてしまってますから費用も相当かかりますし、魔力だって戻るとは思えません。私は反対ですっ」

「うう……いや、でも、思い入れのある剣だしだな……」

「は・ん・た・いです! 第一、アンバレイ家にそんな金銭的余裕はありませんよ! 私はまだ、結婚だって認めてないんですからね!」

「……貴族をやめれば、少しは余裕があるだろう? この剣くらいは直したいんだよ」

「え? え? それって……」

「ああ。結婚はやめることにする」


 その言葉を聞いたルーシアがわなわなと震え、再びリヴィオに抱きついた。


「~~っ! リヴィオ様あっ!」


 リヴィオが無事に戻ってきたのと、結婚が無しになったことで感極まったのか、ルーシアはそのまま泣き出してしまった。しかし、その顔はとても嬉しそうだった。


「ふふっ。それなら仕方ありませんね。このナマクラも、直してあげることにします」

「ナマクラじゃなく、ロンドヴァルって呼んでやってくれ……」

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