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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第26話 再会と……

 ストーンゴーレムが掘っていた岩の隙間には、大柄なひとりの男が石化し通路を塞いでいた。その無骨な顔は割れてしまっている。厚手のローブを着た身体も砕けていて、杖を手に持っているところから、魔術師のようだった。


「エステル……!? エステルなのか?」


 隙間の向こうから再び声がした。這いずるような音も聴こえる。


「うん、わたしだよ! お兄ちゃん、無事なの!?」


 這いずるような音が近付いてきて、石化した男に塞がれた向こう側を覗けるいくつかの狭い隙間から、人の姿が見えた。


「驚いた……本当にエステルだとは……。夢や幻ではないようだ……」

「本当にわたしだよ! あぁ……お兄ちゃん……! 生きてた! 生きてた!」

「なんとかな……。片足が折れてしまっているが……」

「今、助けるよ! ゴロー、この岩砕ける!?」

「ああ、やってみる」

「待て……。岩よりも石になったオレの同僚を砕いたほうが早い。コイツならそうしろというハズだ。敵も近付いてきているようだからな……」

「……そうだね……アルギスなら、そう言いそう……。ゴロ―、お願いします……」


 エステルとも知り合いの人だったのか……。悲しげに顔を伏せたエステルは、手の甲で頬を拭った。頬を伝った涙は喜びと悲しみの入り混じったものなのだろう……。


 アルギスと呼ばれた男の、石にされた身体を砕いてどかしていく。最初から割れていたのはストーンゴーレムの仕業だろう。その間に、俺たちはエステルの兄からそこに至る経緯をざっくりと聞いた。


 6名の討伐隊は3名の村人とともにメデューサ討伐に坑道へと向かったが、坑道に着く前に数名がやられ、立坑の途中でエステルの兄とアルギスはストーンゴーレムに襲われ転落、負傷してここまで逃げ延びた。そして、魔道士であったアルギスが魔法によって通路を岩を固め、ほとぼりが冷めた頃に脱出を試みたが、潜んでいたメデューサにアルギスは石化させられてしまったのだそうだ。


「アルギスは三度メデューサ退治をしている男だ。普段ならこんなことにはならなかったハズだ。コイツも疲弊していたんだろう……」


 そのアルギスの石化した瞳が、上を向いているのが印象的だった。石化している間に動かしたのだろうけど、メデューサと目が合ってすぐに目を逸らし、それでも石化してしまったのだろうか。


「ロゴー、急げ!」

「あ、ああ」


 ストーンゴーレムの群れが近付いている。俺はアルギスの上半身をどけてなんとかエステルの兄が通れるくらいの隙間を作り出し、彼を引き摺り出した。

 エステルの兄は青緑の瞳をした、長身細身の男だった。随分、疲弊しているようだ。地面へ座らせると、エステルは兄へと抱きつく。エステルの兄は深い感銘を受けたような「ああ……」という声を漏らし、ゆっくりと抱き締め返した。


「お兄ちゃん、生きててよかった……。本当に……」

「お前のほうこそ……。戦争に行ったハズでは……?」

「もう終わったよ。そしたら、せっかく私が代わりに行ったのに、こんなことになってるんだもん。すごく心配したよー」

「すまなかった……。しかし、まさかこんなところにまで来るとは……。まったくお前は、怖がりのくせに無茶ばかりして……」

「あはは。戦争のときはすっごく怖かったよー。でも、おにぃちゃんが戻ってないって連絡聞いて、そしたら、怖いより、やらなきゃって……お、おにぃちゃんん、失くしたく……ながった、がらぁあ……」


 感極まり、次第に涙声になって、遂にはボロボロと涙を溢れさせるエステル。

 エステルって怖がりだったのか。そんな風には思ってなかった。あ、でもそういえば初めて話したとき、悪戯したらすごい驚いて怖がってたな……。


 エステルの兄は、自分の金髪の頭の隣にエステルの同じ金髪の頭を抱き寄せて、幾度か優しく撫でた後、俺たちに顔を上げた。


「エステルから聞いているとは思うが、アグレイン国でリズオール姫の親衛隊をしている、エルトゥーリ・ブランだ。お前たちには、礼を言わねばならないな……」

「近衛兵とは聞いていたが、親衛隊か。凄い役職だな」


 そう話すリヴィオを見ると、少し驚いたような顔をしていた。お姫様の身辺警護役だもんな。でも、エステルが代わりに戦争に行ったって言ってたけど、そんな役職の人でも戦争に行かなきゃいけないんだろうか。


「ふん、礼を言うのはまだ早いわい」

「無事に帰れてからさー!」


 ゴドゥとトアンの言葉に、エルトゥーリは静かに深く頷いた。そこへ近付き、彼の骨折した片足の具合を見ていたディアスが尋ねる。


「歩けるか?」

「杖でもあれば、なんとかな……」

「そうか、ならば……」


 ディアスは先程、拾っておいた黒いローブに引っ掛けてある杖を取ろうとした。メデューサが使っていた、俺が苦しめられた身体の動きがおかしくなる魔法の杖だ。


「いや、それは使うかも知れん。ディアスが持っていろ。代わりにこれを使え。大事なものだから、乱暴に扱うなよ。ちなみに剣は折れているぞ」


 リヴィオが折れた魔剣を収めた鞘を腰から外し、エルトゥーリに手渡す。片腕でそれを使って起き上がるエルトゥーリのもう片腕には、弓が握られていた。彼も戦うつもりなのだろう。


「ディアス、ブレイズドラゴンの代わりに明かりを灯してくれないか」

「ああ、そうだな。わかった」


 横道から左右に続いていた洞窟の左側の通路にはランプが壁際に一定の間隔に備え付けられていたが、こちら側にはない。ブレイズドラゴンを明かり代わりにするにも動き回られたら戦いづらいし、剣でも戦いづらくなるからな。


「『スターダスト』」


 ディアスが銀の杖を掲げ、呟いた。杖が輝き、そこから光の粒が溢れて飛散していく。洞窟が光の星屑に彩られていって、辺りが照らされていく。

 それでわかったが、洞窟のこちら側はもう少し先で行き止まりになっていた。エルトゥーリが逃げ込んだ先には道が続いているかも知れないが、出口には繋がっていないだろう。


「こんな時でもなければ、浸っていたくなるな」


 光の星屑の綺麗さに俺がそう言うと、ディアスは照れたようで目を逸らして顔を伏せた。


「なっ……。そ、そうか……。これは、私の独自魔法なんだ……」

「へぇえ。オリジナルか」


 伏せられたその顔には喜色が見て取れたが、すぐに引き締められた。


「じき来るぞ!」


 そう叫んだゴドゥが前に出て、ハンマーを構えた。トアンもその横に並ぶ。


「足音がしなくとも、メデューサに気を付けろ。敵が見え始める位置からは目線を離し、視界に入れるだけにして、メデューサらしきものが視界の端に映ったらすぐに視界から外せば、石化は免れる」


 エルトゥーリが俺たちに指示を出した。なるほど。メデューサの目を視界に入れつつ石化しない、そういう技があるのか。

 カーブした洞窟の右側から敵が見えてくるので、目線を左に移すとすぐに視界の右側から、ストーンゴーレムたちがぞろぞろと姿を現してきた。暫くするとストーンゴーレムの背に乗ったメデューサのらしきものが見えて、俺は素速く視界からそいつを外した。


「メデューサだ!」


 複数人の声が同時に疾走はしる。


「まったく、狡賢ずるがしこいヤツだ……」


 そう呟いたエルトゥーリが、エステルに支えられながら弓を構えた。


「風よ……の元へと導け!」


 放たれたその矢は、俺でもすぐに命中しないことがわかるくらいメデューサから外れていた。しかし、矢は曲線を描いてメデューサに命中した。


「――ッ!? ギャアァッ!」


 驚いた。凄いな、風の魔法か。メデューサにはエステルの遠矢を避けていた個体がいたので、普通に狙えば避けられていたかも知れない。

 不意を突かれたメデューサが、地面にドサリと落ちた音が聴こえた。


「流石、お兄ちゃん!」


 エステルの弾んだ声を聞きながら、俺は皆の一番前へと歩み出した。


「次は俺の番だな」

「ゴロー、どうするつもりじゃ」

「無茶はダメさー!」

「無茶するわけじゃないよ。でも、俺が一撃食らわすまでは前に出ないでくれ」


『ブレイズフォース』


 ブレイズドラゴンを炎の剣であるブレイズブレイドに戻した後、その必殺技を使うべく、レバーを下げた。勢いを増して発光する炎が、更に明るく洞窟を照らす。

 これは、賭けだった。

 コイツらは人形であるが故、俺とリヴィオとエステルを崖から突き落とした時のように、己の身を顧みずに突っ込んで来るかも知れない。コイツらに集団で一斉に来られたら、俺も仲間もどうなるかわからない。なので、ストーンゴーレムでも斬れそうなこの必殺技を使うことにしたが、折れてしまえば剣は暫く使用できなくなる。炎の竜であるブレイズドラゴンも剣から変身するので、使えないだろう。それでも、俺が炎を放出したりはできるが。


「ぉおお……りゃあ!」


 元々ずっしりとした炎の剣は、必殺技で更に重みを増す。発光するその炎の剣を、ストーンゴーレムたちの胴体の高さに合わせ、水平に薙ぎ払った。伸びた剣が斜め右前の壁に届き、壁面を切り裂いて、それから全てのストーンゴーレムたちの胴体を見事に真っ二つにした後、更に斜め左前の壁面を切り裂いて、元の長さに戻った。9体のストーンゴーレムの重い体が崩れ落ち、無数の大きな音が洞窟に響き渡っていく。


「……上手くいった」


 炎の剣を確認したが、ヒビが入ったりはしてないようだ。


「な……な、何者だ、貴方は」


 振り返ると、エルトゥーリが驚愕の表情を見せていた。貴方と言ったのは変身前の姿を見せてないからかな。

 そこにエステルが胸を逸らす。


「ふふ、ゴローは凄いでしょ!」

「ああ……。先程、石を拳で砕いたのも驚いたが……一撃であれだけの数のストーンゴーレムを倒してしまうとは……」


 最初にエルトゥーリの矢に射られたメデューサは、胸に矢を受けて倒れていた。ゴドゥがハンマーを振り下ろし、トドメを刺す。


「反対側から聴こえてた、掘ってるみたいな音、聴こえなくなってる」

「ああ」


 エステルにエルトゥーリが同意し頷いた。俺も耳をすましてみたが、やはり聴こえなくなっている。


「でも、さっきの集団の中に合流したってことはないと思う。そんな音はしなかったから」

「そりゃあ残念じゃな。じゃが、目的は達したんじゃ。後は討伐隊に任せたらええわい。皆、草臥顔くだびれがおになってきとるしのぅ。ゴロ―もそれでええじゃろ。戦うなら討伐隊とともにすればええ」

「ああ」


 そうだな。大量のストーンゴーレムが動いたのは謎で、得体が知れない。今は被害を出さず、無事に帰ることが優先だ。


 討伐隊がいつ来るかはわからないし、入れて貰えるかもわからない。被害のリスクがあるのにトドメを譲って貰うために手加減しろとも言えないけど、メデューサのクリスタルを手に入れられる可能性があるなら、待つのが俺の中の理想の変身ヒーローだ。

 だが、俺はそれに縛られて無理をしている気持ちもあることに気付いた。今までは、間違っていたこともあるにせよ、戦うのが怖かったりと無理をしていることがあったにせよ、自分の意志で理想の変身ヒーローだと思うことをしてきた。だけど、リヴィオは言っていた。囚われているんじゃないか、と。そうかも知れない。

 俺は暫く悩んで、こういうときは自分の本心に従うことに決めた。理想の変身ヒーローでなくてもいい。俺は俺の変身ヒーローでろう。

 で、今回は無理してる部分はあるけれど、討伐隊を待つことに決めた。ひとりで待つのも退屈かも知れないし、ちょっと不安だけど。でも、リヴィオも待つって言い出すかも知れない。迷惑はかけたくないから、そのときはその旨を伝えよう。


 そんなことを考えながら、俺は皆と自分たちの来た横穴まで戻り、驚くべき光景を目の当たりにすることなる。


「な、なんだこれは……! 土魔法か!」


 ディアスが叫んだ。

 横穴の少し奥、下り坂が終わって水平方向になった辺りの壁面が全体的にり出してきて、穴を塞いでいってしまったのだ。


「は、反対側に魔術師でもおったのか!?」

「そんな足音は聴こえなかったよ。お兄ちゃん、どうだった?」

「魔術師はいないだろう」

「どうしてわかるんじゃ?」

「私は魔力に敏感な体質なんだ。魔力はそちらからは感じなかった。だが……暗闇でも一応、見ないように。石化するかもしれないからな」


 エルトゥーリはそう言って、俺たちがまだ行っていない、横穴から見て左側へと続く道を指し示し、こう言った。


「向こうからは、魔力を感じた」

「……するよ、石化……。てか、したんさー……」


 トアンが青い顔をして震える。肉付きのよい二の腕が、ふるふると揺れた。


「……じゃあ魔物の仕業か? こんな風に土魔法を使う魔物なぞ、ワシは聞いたことがないが、誰か心当たりはあるか?」


 皆は、首を横に振るか、沈黙で「ない」と意思を表した。


「掘るには時間がかかるだろうな。崩落の懸念もある。それに、作業中に今度は生き埋めにされかねん」


 リヴィオが無念そうな顔で皆に言って聞かせた。


「ならば、るしかないな」


 ディアスがそう言って、ローブに引っ掛けてあったメデューサが使っていた魔法の杖を手に取り、銀の杖との両手持ちになった。皆も各々に武器を構え、俺はブレイズドラゴンにランプを灯していくように指示を出そうと声を発しようとしたその時、何かが地面に落ちる音が聴こえた。見ると、エルトゥーリが杖代わりにしていたリヴィオの剣だった。


「え……!? う、嘘……やだ……お兄ちゃん!」


 エルトゥーリを見ると、暗闇のほうを見ていないハズのその身体が、石化していくところだった。

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