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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第25話 魔石

 俺が、落ち着きをだいぶ取り戻してきて。

 森の捜索をしていたトアンたちが、なぜこんなに早くこちらに来たのか、説明してくれた。

 トアンたちは森の中で、メデューサの死体が2体積んであるのを見つけたのだという。引き摺られた跡や足跡から、ストーンゴーレムがその場に運んで捨てたのだと考え、坑道にいる俺たちが危険だと、急いでやってきたのだそうだ。


「これで4体か……。過去に2体いた例はないこともないが、それも協力していたというよりは近くにいた、といった感じだったのだが、これは……ううむ……」


 俺の治療をしながら、ディアスが眉根にしわを寄せて唸る。歪ませても眉目良みめよい顔だ。思えば今回はとてもディアスに助けられているな、俺。


「リヴィオ、キミはどう思う?」

「私か? そうだな……。やられてしまったのかも知れんが、2匹以上の目撃者が一人も出ていないというのは、やはり普通は単独行動を取る生物なのだろう。例えば、同じメデューサ同士でも石化してしまうなどの理由で……。坑道はストーンゴーレムが大量に作れてメデューサにとっては居心地がいいのだろうが、今までディアスでもそんな例は聞いたことがなかったのだろう? これは、何者かの手によるものではないか?」

「何者か、とは?」

「うーん……。人の手によるものか、或いはメデューサを引き連れるような強い個体がいるとか……。無論、そうでない可能性もあるぞ。例えばメデューサが魔石の魔力に引き寄せられているとかな」


 そう話したリヴィオは、まだ俺の肩を撫でさすってくれていた。


「そっか……。なんにせよ、気を付けていかなきゃね」


 すると、エステルはそう言いながら俺の元にやってきて、俺の頭を撫で始めた。う……。嬉しいけど恥ずかしいな。


「互いに縄張りがあるらしく、各地でばらばらに生息しているのがメデューサだ。坑道からの魔石の魔力に引き寄せられてこうも集まるのは考えにくいから、リヴィオの言う通り何者かの仕業だろうか……」

「なぁ……。メデューサって、魔石でパワーアップしたりするのか?」

「魔物のそういう例は数多い。メデューサでも充分あり得る話だ。事例はないがな」


 俺の質問にディアスはそう答えた。そして、ディアスも俺の背中を擦り始める。

 なんだこれ。


「……思ったんだけどさ、メデューサってのはストーンゴーレムを動かすのに目に見えない魔法かなんかで命令を出してるんだろ? ゴーレムのほうから『了解した』とかって送信してるかはわかんないけど、そういうのを受信できるゴーレムを作れるんなら、メデューサも受信できるのかも知れない。もしそうなら、例えば魔石で強くなった個体に他のメデューサが従うとか、操られるってこともあるのかもな。そもそもメデューサと目が合うと石化するのだって、目に見えない何かを飛ばしてるんだろうから、メデューサってのはそういうのが得意なのかも……」

「…………」


 俺の言葉に皆が黙りこんだ。え、どうしたの?

 ギシッと木の板の床を鳴らしてトアンが俺に一歩近付いてきて、何をするのかと思ったら後頭部を撫で始めた。いや、だから、なんなんだこれ。


「ゴロー、急に頭のいいこと言うとさー、殴られた頭の打ち所が悪かったのかって心配になるぞ」

「ええ?」

「いや、ロゴーは前から利口だぞ」


 ああ……。前の世界で得た知識や知恵が、そう思わせるのかな。


「どんなヤツが相手じゃろうと、ワシの腹ァ決まっとる。ディアスの治療が済んだらおそらく決戦じゃぞ。覚悟しておけい」


 遂にはゴドゥまでもがしゃがみ込み、俺の膝を擦り始めた。


「ジジイまで、なにしてんだよー」

「いやぁ、なんとなくな……。って、ジジイ呼ばわりはやめい! ワシぁまだそんな歳じゃないわい!」


 トアンがケラケラと笑い、皆も笑った。

 皆、スキンシップで慰めてくれてたの……かな?





 ディアスの治療が終わって、俺たちは最下層の、何かの音が聴こえた横穴へと向かった。俺は既に変身済みだ。

 リヴィオは掠り傷だからと、治癒魔法をかけて貰わなかった。傷みそうな感じに見えるけど、ディアスの魔力は節約しなくてはならないからと。結婚をやめた理由も聞きたかったが、今はエステルの兄の探索が優先だ。皆の前だしな。


 横穴へと向かう途中の階に、石化した人がふたりいた。ふたりとも頭にだけ防具を付けており、ここの作業員のようだった。


 横穴に辿り着いた俺たちは、明かりの代わりになって貰っているブレイズドラゴンを先頭にそこへと入り、慎重に進んでいく。

 仄暗い道の向こうから、徐々に何者かが採掘しているような音が大きくなってきて、それが二箇所から鳴っていることもわかり、近づいているのを感じて緊張が高まっていく。

 じきに、水平方向に進んでいた道が下り坂になった。天井は水平方向のままなのでどういうことなのかと思ったが、すぐに理由が想像できた。掘り進んだ横穴は天然の洞窟に繋がっており、その洞窟の地面が横穴から数メートル下だったために、高さを合わせたのだろう。


 横道から少し開けた洞窟に出ると、地面のあちこちに水溜りができていた。壁からも其処彼処そこかしこで水が流れ出ていたり滴ったりしている。地下水流で洞窟が形成されたのだろうか。


 俺は変身しているからわからないが、先頭で索敵役をしているエステルが自分の身体を抱き抱えるようにしながら手で二の腕をさすり、寒そうにしている。


 洞窟は左右に続いており、右側の地面はならされておらず、でこぼこだ。採掘するような音は両方から聞こえていて、敵に見つからないよう小声で話し合った俺たちは、音が小さい右側へと進んだ。

 ブレイズドラゴンを少し後ろに下げてあまり明かりが前に漏れないようにし、音が反響するため気を遣いながらゴツゴツとした地面を歩いていく。緩やかにカーブする洞窟を歩いていくと、視界に1体のストーンゴーレムが映り込んだ。こちらに背を向けた状態で、自身の石の手で岩を掘っている。俺たちはストーンゴーレムから死角になるところまで戻り、再び小声で話し合った。


「ありゃあ、魔石を掘っとるのか?」

「うーん……あのゴーレムの掘ってる岩の上と横に隙間があるから、奥に空間が広がっててそれで掘ってるのかも?」

「なら、誰かそこに逃げ込んでいるかも知れないな」


 横の隙間はストーンゴーレムには狭くて入れないが、人なら入れそうだった。リヴィオの言葉でエステルは自分の疑問に希望となる仮定が与えられ、瞳を見開く。


「そ、そうだ! そうだね!」


 小声だが力の篭った声で、大きな青い瞳を輝かせるエステル。だがその後、青い顔をした。


「わたしたちが来た横道の手前辺りで沢山の足音が聴こえる……。ストーンゴーレムだ。何体もいる……」

「何体も……? 1匹のメデューサが操れるのは、せいぜい2、3体だ。何体くらいいる?」

「待って、どんどん増えてるから……。……5、6……7体以上いる。でもメデューサっぽい足音は聴こえないよ。何匹もいるならわかると思うけど……」

「……どういうことだ……。リヴィオの言っていた強い個体がいるとしても、7体以上とは……」


 ディアスが眉間にしわを刻む。


「ここじゃあ挟み撃ちじゃ。まずは奥にいるゴーレムをぶっ壊すぞ」


 ゴドゥの言葉に皆が賛同し、まず俺がストーンゴーレムに奇襲を仕掛けた。奥は更に開けていて天井まで5メートル程度あったので、足音で気付かれないように飛び蹴りをその背中に食らわせた。


「んっ!?」


 今までのストーンゴーレムなら、粉砕できていた威力だ。だが、ヒビが入る程度だった。俺は素速くバックステップで距離を空ける。ストーンゴーレムが振り向いたのだが、動きも今までのストーンゴーレムよりも速い。その胴体には、鈍い光を帯びた紫色の宝石のようなものが埋め込まれていた。


「おりゃああ!」

「ぬぅん!」


 そこへ駆け付けたトアンとゴドゥが、ストーンゴーレムの左と右の側面に回り込み、巨大なハンマーの円錐形側を振り下ろした。ストーンゴーレムは大きな両腕を左右に広げ、それを防ぐ。やはりヒビが入る程度だった。


「今さー!」

「やれぃ! ゴロー!」


 ガラ空きになった胴体目掛け、俺は渾身の力を込めて右足裏で蹴りを叩き込んだ。だがビキビキと音が鳴ったものの、砕くには至らない。そこへストーンゴーレムが大きく広げた両腕で、俺の身体を左右から叩き潰すように振るってきた。


「んぎ……っ!」


 ギリギリ、俺は膝から上を後ろに倒してそれを回避した。俺の身体の上でその硬い両手を打ち鳴らすストーンゴーレム。俺はそのままブリッジの体勢を取った。


「おとなしくしてろー!」

「頑丈なヤツめ!」


 トアンとゴドゥが再び左右からハンマーを振るった。ストーンゴーレムの両腕は砕けなかったが、また胴体がガラ空きになる。

 俺はブリッジの体勢から、変身して腕力の増した腕の力で身体を跳ね上げて起こし、一歩踏み込んで、胴体の蹴りを入れた箇所を狙って肘を叩き込んだ。バガン、と胴体の砕き割れる音が鳴り、ストーンゴーレムは崩れ落ちていった。


「よっしゃー!」

「やはり、こりゃあ魔石じゃな。これで強化されとったんじゃ」


 トアンが歓喜の声を上げ、ゴドゥはストーンゴーレムの胴体に埋め込まれていた紫色の石を拾い上げた。ストーンゴーレムが崩れる前は鈍く光っていたが、今は消えている。

 縦横3センチ程度の、小さな石だ。そんなのであれだけパワーアップできるのか……。魔石としちゃ大きいほうなんだろうか。


「…………誰だ……?」

「え?」


 ストーンゴーレムが掘っていた岩の向こうから、声が聞こえた。


「お兄ちゃん!」


 そう叫んだエステルが岩の隙間へと駆け寄り、身体をビクリとさせて、顔を歪めた。

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