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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第16話 vs.ワーグ&ロックゴーレム

 俺が変身したことで、周囲を取り囲んでいた魔物たちの動きが止まった。

 派手だしな。


 ワーグは、自分が予想してたよりデカかった。

 前の世界で、友人がラブラドール・レトリバーを飼っていたけど、皆あれよりデカイな。

 個体差はあるけど平均すると高さ1メートル、横は尻までで1.3メートルくらいか。

 爪は長く、犬歯も長く伸びている。

 殴ってぶっ飛ばせるといいけど。


 ブランワーグも同じくらいだけど、上顎の2本の牙が魔力を帯びているためだろう、虹色に淡く光って見える。

 ロックゴーレムは、いくつもの岩で人型に身体が構成されている。

 個体によって、身長も体格も身体の部位の大きさも、バラバラだ。

 身長も横幅も2.5メートルほどあるやつが一番大きいだろうか。

 胸か頭が弱点なのだそうだ。稀に魔石が入っているとか。


「爆発する技を使うから、気を付けてくれ」


 俺は後ろの皆に、注意を促す。


「なら、私が魔法壁を……」

「ディアス、魔法壁を貼ったまま、魔法は使えるか?」

「ああ、だが、そうするとあまり大したものは貼れないし、維持も出来ないぞ」

「そうか。爆風と破片が防げればいいのだが……。リスクはあるが、チャンスを逃したくない。皆、聞いてくれ――」


 そうしてリヴィオは作戦を話し、皆はそれに賛同した。


「じゃあ、行くぞ!」


 俺は傾斜にバランスを取りながら、ぎこちなく前方に駆け出した。

 そして必殺技のトリガーである、ベルトのレバーを押し下げる。


『キックグレネード』


 狙いは一番手前の、おそらくこの中で一番巨大なロックゴーレムだ。

 ベルトとの会話から、キックグレネードにはある特性があることがわかった。

 倒した敵が爆発して、別の敵がその爆発に巻き込まれて倒れた場合、その敵も爆発するとのことなのだ。そして、誘爆した敵で倒れた敵も誘爆し、倒れる敵がいなくなるまでそれは続く。


 俺は、手前のロックゴーレム目掛けて跳躍し、蒼く輝く必殺のキックを浴びせた。

 ロックゴーレムは胸が砕け、吹っ飛び、地面を転がって最も敵が密集した場所で爆発した。

 狙ってやったことだが、我ながら上手くいった。

 ロックゴーレムの巨体の爆発に巻き込まれ、数匹のワーグが誘爆する。

 更に1匹、その誘爆によって爆発した。





――――ディアス視点――――


 黒き魔装戦士クロキヴァ、その力は凄まじいものだった。

 ゴブリン戦の後、ドラゴンを倒したと聞かされた時はなんの冗談かと思ったが。あながち嘘ではないのかも知れん。


 私は、こんな危機的状況だというのに、彼がロックゴーレムを蹴り飛ばす勇姿を見て胸が高鳴り、嬉しさが込み上げた。

 いつか、是非とも彼の故郷に行ってみたいものだ。

 そこは未知の物で溢れているのではないか。

 しかしそれには、この状況をなんとかしなければな。


 彼の勇姿を横目で見ながら、私はゴブリン戦で用いた光の矢を自身の前に展開させていた。

 全力展開の最大本数、13本。だが今は7本だ。

 なぜならゴローが起こした爆発に備えてそちら向きに弱い魔法壁を展開し、後方のパーティの盾にもなっているからだ。


 敵がゴロ―のほうに注視している隙を突く。

 前方以外だと後方の敵が一番多いが、リヴィオ・アンバレイは上方の敵に攻撃する提案をしてきた。

 私もそれに賛成だ。

 上方は切り立った崖になっており、行き止まりのためか敵の数が少ない。

 また、上方に移動に崖を背にしてしまえば背面を取られる心配もない。

 360度、敵に囲まれている状態から崖のおかげで180度になれば、遠距離攻撃でのサポートもしやすくなる。

 逃げずに徹底抗戦するなら、このほうがいい。


 ゴロ―が派手な爆発を起こすのを合図に、私は上方の敵陣に向かって光の矢を放つ。

 真ん中の1本以外、私はあまり上手く狙いは付けられないのだが、7本中3本がワーグに命中したのでいいほうだろう。

 ロックゴーレムにも1本命中したが、それは跳ね返されてしまった。


 だが、命中したワーグたちも致命傷は避けたようだ。

 そこへエステルの弓矢が放たれていく。

 エルフのエステル、この娘の弓の腕も凄い。

 兄に教わったというから、兄はもっと凄い腕前なのだろう。近衛兵になれたのも納得だ。

 

 私の攻撃で出来た隙を突いて、エステルは負傷したワーグの1匹にすぐにトドメを刺した。

 続けざまに素早く放った矢で更にもう1匹を仕留め、次のワーグには致命傷を避けられてしまったのを確認したところで、私は次の魔法の準備を終え、放った。

 光弾が後方と側面下方にゆっくりと弧を描いて飛んで行く。

 目眩ましの魔法だ。


「おぉおお!」

「おりゃぁあ!」


 ゴドゥとトアンのドワーフふたりが、上方へと駆け上がっていった。

 狙いはロックゴーレムだ。

 彼らの持つ大きなハンマーはその役目に適任だ。


 光弾が強く眩く発光し、辺りを光で埋め尽くす。

 ゴドゥとトアン、それぞれの足元にふたつの光弾によってふたつの影が出来た。


 俺の次の役目は、後方への光の矢の攻撃だ。

 その準備をしていると、バコン、という音と「よっしゃああ!」とトアンの歓喜の声が聞こえてきた。

 見ると、1体のロックゴーレムがバラバラと崩れていくところだった。


 上手くいっている。

 そう思った矢先。

 上方にいた2体のロックゴーレムのうちのもう1体が、身体を丸めてこちらに転がり下りてきた。

 マズイ。

 ここにいるエステルとリヴィオと私では、ロックゴーレムに対する有効な手立てがない。

 私の中~大規模の魔法なら倒せるだろうが、そのいとまはない。

 更にマズイことに、上方で倒されたロックゴーレムの崩れた身体である岩石がいくつも転がり落ちてきて、移動を阻んできた。


「ぐっ!」


 私はロックゴーレムから逃れようと無理に移動したために、その岩石に足を取られ、蹌踉めいてしまう。

 その隙に、ゴーレムの腕が私に降ってきた。

 人間の腕よりはるかに太い、岩の腕。

 私の身体を押し潰すかに思われたその腕は、軌道を逸らし私の銀髪を掠めるに留まった。

 なんと、リヴィオ・アンバレイが剣でロックゴーレムを真っ二つにったのだ。

 

「魔剣か!」

「いかにも。名剣ロンドヴァルだ」


 彼女は隠そうとして隠しきれていない得意顔をしていた。

 私はその間にも魔法発動準備を中断することはなく、光の矢を後方に放った。

 そしてすぐに上方へ向かう。

 驚いたことに、上方の敵は掃討されていた。

 6匹残っていたワーグたちだったが、目眩ましが上方のワーグたちにも効果があり、その隙を突いて数を減らせたこと、更にドワーフふたりが大斧を盾にワーグの攻撃を防いだところへエステルが弓矢で射る連携が効果的だったのだ。


 我々は、上方の切り立つ壁まで到達した。

 今度はそこを背に、回りこまれないように戦う。


 後方と側面下方にいた敵は、我々が短時間で上方にいた敵を壊滅させたため、怯んでいるように見えた。

 上手くいっている。





――――主人公視点――――


 爆発で倒しきれなかった負傷したワーグに飛び込み、蹴り飛ばす。

 「ギャンッ!」と悲痛な声を上げて、地面に転がり落ちただろうワーグを見ることなく、次々に負傷した敵にトドメを刺していく。

 皆で生き残るために。


 駆けるというより跳んで移動している、といったほうが正しいだろうか。

 そうやって敵に急接近して拳を撃ち込んでいき、一連の奇襲が終わったところで俺はベルトのクリスタルを素早く『ドラゴンクリスタル』に入れ替え、モードシフトした。


 左と右から1匹ずつ、ワーグが牙を剥いて襲いかかって来る。

 左腕は左の、右腕は右のワーグへと伸ばし、それぞれに向けて炎を放射する。

 悲鳴を上げ、火達磨ひだるまになった2匹のワーグを横目に、他のワーグにも火炎放射で攻撃を仕掛ける。

 残りは3匹。坂の下方の2匹にはバックジャンプで素早く逃げられたが、上方のワーグは地形的にバッグジャンプでは距離を稼げず、炎に包まれた。

 残り2匹。


 モードシフトして炎でワーグを攻撃している間に、鈍い動きで迫ってきたロックゴーレムが俺を射程に捉え、俺のリーチの外からデカイ腕で攻撃してくる。


「うぉわっ!」


 バックジャンプでそれを避けると、俺がいた場所の乾いた地面が凹み、薄氷を叩いたようにヒビ割れた。


「こんのっ!」


 ゴーレムが戻しかけていたその腕に目掛けて、飛び蹴りを放つ。

 バゴン、と小気味良い音がして腕が砕け、後ろに蹌踉めくゴーレム。

 攻撃のためゴーレムは残った腕を振り上げたが、鈍重なので素速く懐に飛び込んで胸部を拳で撃ち抜くと、繋がっていた全身の岩の固まりがバラバラと崩れ落ちていった。


 これで、前方のゴーレムはすべて片付けたっ。

 そこで、側面から強烈に眩しい発光があった。予定通り、ディアスが目眩ましの魔法を使ったのだろう。


 「――っ!」


 その光で、地面にワーグの伸びた影が見えた。

 いつの間にか坂の下方ななめ後ろの死角から、1匹のワーグが飛びかかって来ていたのだ。

 ◯面◯イダー○ブトのように振り向きざまに回し蹴りを放つと、それが上手くワーグの胴体を捉え、ワーグは吹っ飛びながら縦に2回転して地面に滑り落ち、動かなくなった。

 あと1匹。


 「新技だっ」


 片手を軽く上向きに掲げ、その手の上に炎の球を生成していく。

 スライム戦の後、都市アグレインへの道中に人目を避けて変身し、編み出したものだ。

 炎の球は完成するまでは少しだけ手から浮いているが、完成すると手の上に落ちて重みを伝えてくる。

 バレーボールくらいの大きさと質量だ。

 これは、何らかの気体の可燃物が圧縮して重くなっているんだろうか。でも手に持てるんだよな。不思議だ。

 そういえば必殺技のブレイズブレイドはずっしりと重い炎の剣だったなぁ。


 そんな自分の理解の範疇を超えた炎の球が完成し、俺は最後の1匹のワーグに向かって投げ付けた。

 緩やかに放物線を描いたそれは、避けられてしまう。

 だが、それはわざとだ。俺の狙いはそこだった。

 飛び退いたワーグの着地の隙を狙って、もう片方の手でバラバラになったゴーレムの一部を拾い上げ、全力で投げ付ける。

 野球ボールくらいのゴツゴツとした石を、ワーグは眉間に凄い速度で撃ち込まれ「ギャゥッ!」と小さく呻いて倒れた。


「これで、後はお前だけだぞ」


 上がった息を整えつつブランワーグに向かってそう言うと、ヤツはのっそりと動き始めた。

 今までは最奥に構えていて、たぶん一歩も動いていない。

 仲間たちがやられていても、冷静にこちらを観察しているように見えた。

 だが、今こうしてじっと目を合わせていると、その目は静かに怒りを宿しているようにも見える。

 自分のイメージにある敵意ある狼は、グルルル……と唸って牙を剥き出しにした怖い表情を見せる感じなので、不気味に感じる。

 恐怖が頭をもたげてきた。

 落ち着け。ここまでは俺の考えた作戦以上の成果が出てる。

 ブレイズクリスタルを使ったのも上手く行ったし、アイツが魔法耐性に高くても、炎で目を攻撃するなら効くだろうという考えだ。


 ちなみに、スライムを倒した後に手に入れた緑色の『スライムクリスタル』、あれはここでは使えなさそうだ。

 と、いうのもあのクリスタルを使うと身体をゲル状にできるのだが、斬られる、潰されるなどでダメージを受けてしまうのだ。

 場所によるが、本来は骨の部分を斬られれば、骨折してしまう。


 必殺技も、相手の体から栄養分などを吸収して自身に取り込むという技なのだが、戦闘で使うには敵と接触しなければならない上に、小さな虫なら速攻で行動不能にできるが、ブランワーグのようなそれなりの大きさの魔物を行動不能にするには時間がかかり過ぎる。

 とても戦闘向きとは言えないものだった。


 まぁこの必殺技を使えば、その辺の草なんかからも栄養の摂取が可能なので餓死する心配はない。

 ってこれ、ミルクチョコレートの時も言ったな。

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