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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第13話 旅立ち

 俺とリヴィオは、すぐに旅の支度を始めた。

 エステルは冒険者ギルドに行って、仲間を探して来るという。

 準備が整い次第、町外れの街道にて待ち合わせだ。


「リヴィオ様、クロキヴァ様っ。どうかお気を付けて……」


 玄関前で、フリアデリケが心配そうに見送ってくれる。


「そんな顔をするな」


 リヴィオはそんなフリアデリケの身体をそっと抱き寄せる。

 瞳を閉じて、身を委ねるフリアデリケ。

 そこへ、馬に乗ったルーシアが門の外からやって来た。


「遅くなりました。馬を借りて参りました」

「ご苦労だったな」

「いえ。リヴィオ様、これを……」

「ロンドヴァルじゃないか! もう直ったのか?」

「腕のいい魔法使いがおりましたので……」


 リヴィオは柄から剣を引き抜くと、綺麗な刀身が姿を現した。


「かなり綺麗に修復されているな……。高かったんじゃないか?」

「リヴィオ様の安全のためです」


 これ、リヴィオが俺に貸してくれた剣だよな。

 修理代、高かったみたいだし名前もあるし、いい剣なんだろうか。


「いい剣なのか?」


 聞いてみた。


「それに、直ったって。傷んでたのか?」


 更に聞いてみた。


「……これは、父様が私にくださった、名剣ロンドヴァルだ。お前が馬鹿力でドラゴンなんかに投げ付けるから、刃こぼれしてしまったのだっ」


 ぷうっと片頬を膨らませて、リヴィオはそっぽを向いた。


「ご、ごめんなさい……」


 そうだったのか。しょんぼり。


「いや……気にするな。貸したのは私だ」


 リヴィオは苦笑すると、肩を落とした俺の背中をぽんと叩いた。


「私も付いていきたいのですが、この家を守らなければいけませんので……」

「ルーシアさんも、戦えるんですか?」

「ルーシアは、私の剣の師匠だ」


 俺の問いに答えたのはリヴィオだ。

 なんでも、ルーシアは最初はリヴィオに剣を教えるために雇われたが、リヴィオが気掛かりでこの屋敷に残り、メイドとして働いているのだという。

「生活が安定するので」とルーシアは言っていたが、リヴィオが戦争に行っている間に屋敷に4人組の賊が侵入し、それをなんの被害もなく撃退したのだ、とリヴィオが胸を張る。


「ルーシアさんって強いんですね」

「ふふ。そう見えますか?」


 しなを作って小首を傾げ、頬に手を当てて微笑むルーシアからは、とてもそんな感じはしない。


「いえ、そんな風には見えないです」

「それはよかったです」


 にっこりと笑み浮かべるルーシア。


「見えないほうがいいんですか?」

「ええ、強そうに見えたら油断してくれないでしょう?」


 なるほど。なんか笑顔が怖く見えてきた。


「ルーシアは強いぞ。私も剣の腕だけは互角に近くなったが、素手ではまったく敵わない」


 素手でも強いのか。


「ルーシアお姉ちゃんは怒るとホントに怖いんですよ~。この間も腕をへし折られそうになりました」


 へし折られそうにって。


「あっ、あれはフリアちゃんが私が並んで買ってきたシュナンパイをひとつ余計に食べちゃうから、つい……」


 つい、へし折りそうに……。


「ううぅ……怖く思わないでくださいね」


 俺の青い顔を見て、ルーシアは涙目になりながら俺の両手を自分の両手で包むように掴み、そうお願いしてきた。


「さて、じゃあ行くか。ロゴー、後ろに乗れ」

「お、おうっ」


 エステルが一刻も早く兄の元へ辿り着きたいというので、まず馬で山脈地帯の麓まで行くことになった。

 ルーシアが借りてきた馬に跨る。


 リヴィオは戦争の時と違って、鎧を身に着けている部位が少ない。

 重いし動きづらいからだそうだ。

 そんなリヴィオの布の服を纏った腰に捕まる。


「失礼しま~……す」

「……妙な言い方をするな。ひゃ、くすぐったいじゃないか」

「あ、ゴメン」

「しっかり掴まっていろ。……なんだか、思い出すな」

「あ、あぁ、そうだな。前にもこんなことがあったよな」

「いや……思い出したのはスライムが飛んできたほうだ……」

「あぁ、そっち……」


 ばぶばぶおぎゃーの刑に処されたことは、リヴィオにとって忌まわしい出来事だったに違いない。

 

「リヴィオ様、顔色が優れませんが、ほっ、本当に大丈夫なのですか?」

「えぁっ? あ、ああ。いや、これは違うんだ」

「そ、そうですか……」

「戦争に行くときも言っただろう? 私はお前がにこにこと笑っているのが好きなのだ。そう心配するな。なるようにしかならん」


 先程のように心配そうな顔を見せるフリアデリケの頭を、リヴィオは馬上から撫でながら、優しい声色で言い聞かせた。


「う~……っ。そっ、それはそうですが! でも、でも……無事に帰ってきてくれなきゃイヤですよ!」

「ああ、私とてそうさ。だから、笑って見送ってくれるか?」


 頷き、フリアデリケは笑顔を作って俺たちを送り出してくれた。

 健気でいい子や。





 リヴィオの屋敷を出発して、町外れで待つこと小一時間。

 エステルが仲間を連れてやって来た。


「ワシはドワーフのゴドゥ」


 まず、ずんぐりっとした小柄な髭面の中年男がひとり。


「アタイも見りゃわかると思うけど、ドワーフさ。トアンっつーんだ」


 次に、同じくらいの背丈のぽちゃっとした体型だがおデブさんとは思えない感じの、愛嬌のある顔をした女の子。

 見てもドワーフだとはわからなかったけど、この世界の人たちならなんとなくわかりそうな特徴が感じられる。


 ふたりとも、巨大なハンマーを背負っている。

 ハンマーは片面が平面で、もう片方はドリルのように円錐形になっている。

 メデューサは弓矢などから石を操って己の身を守るので、この円錐形のハンマーが石を砕くのに有効なのだそうだ。


 最後に、もうひとり。

 なんか全体的に黒くて格好いい人がいた。


 ローブに頭飾りやブーツなど、身に付けている物は大方が黒い。

 反対に肌は白く、陽によく煌めく銀髪をした凄いイケメンだ。


「魔術師のディアス・リングバレイだ。光系統の魔法を得意とする。宜しく」

「光? 闇属性じゃなくて?」


 見た目とのギャップに、つい口に出してしまった。

 ディアスに睨まれる。

 色素の薄い、青灰色の瞳だ。睨んでてもイケメンだ。


「こらっ、ゴロー、失礼でしょっ」


 エステルにたしなめられて、俺は手を振って否定する。


「いや、悪気はなかったんだ。見た目がそんな感じしたってだけでさ。黒を基調としててすげーカッコイイって思うし」

「え、本当か?」


 ディアスが身を乗り出してきて、い~い笑顔を見せた。

 なんかチョロそうかも、この人。


「山や坑道に行くから、できたら地系統の使い手を連れてきたかったんだけど、来てくれる人がいなかったんだよねー……」

「だが、山脈越えにメデューサ退治だ。あの短時間でこれだけ集められたのだから、よくやったと思うぞ」


 リヴィオが労うと、エステルは「奮発しましたから」と小さな照れ笑いを浮かべた。

 そんなエステルは、戦争の時とは違って軽装だ。

 リヴィオと違い、金属製の防具も身に付けていない。

 革の胸当てがいかにもエルフってステレオタイプを感じさせる。


 それから、仲間ではないがもうひとり、ひょろ長い冒険者風の男もエステルは連れてきたのだが、彼は乗り捨てた馬を連れ帰る役目だという。


 かくして、俺たちの旅は始まった。

 四頭の馬で首都アグレインの都市から北へ4時間ほど向かい、聳え立つ山々の麓まで来た頃には、見上げるといくつかの光の粒が瞬いていた。


「うう、凄くケツ痛い……」


 馬から降りて、お尻を撫で擦る。


「慣れれば大丈夫だ。最後のほうは、だいぶ教えた通りに出来ていたぞ?」

「そう?」

「大丈夫? ゴロー」

「わひゃ!」


 エステルが俺の尻を撫でてきて、思わず棒のように直立に跳ね上がった。


「ぷっ、あはははは!」


 なんだかリヴィオさんのツボに入ったらしい。


 トリア村まで、山を越えれば3日。通常は馬でも6日かかり、その場合は大きく山脈と湖を迂回しなければならない。

 今夜はここで夜を明かして、夜明けとともに出発だ。


 山のほとりには、なんだか美味しそうな黄色い実を付けた木々が山を囲むように並んでいた。

 気になったので近付いて、胸の辺りの低い位置にも生っていたその実を取ってみる。

 食べれるのかな、これ。


「あ、こらっ。それ取っちゃダメさ!」

「え?」


 声に振り返ると、ドワーフの女の子のトアンがいつのまにか傍に来ていた。


「ここのシュナンの木々は、飢えた魔物が山から降りてきて人や畑とか襲わないように植えてあんだよ。これだっから都会のもんは~……」


 やれやれ、とオーバーなリアクションで首を振るトアン。

 そうだったのか。


 ん、シュナンってどっかで聞いたぞ?

 どこだったっけ……。あぁ、そうだ。ルーシアがフリアデリケにシュナンパイ食べられて腕をへし折られそうになったって言ってたっけ。

 じゃあこれ、食えるんだな。


「食えるんだよね?」


 一応、聞いてみた。


「ああ、うん。もういじゃったもんな。じゃあ半分ちょーだい」


 にへへっと笑って白い歯を見せるトアンは、そう言いながらナイフを取り出した。

 シュナンの実を渡すと、ざしゅっといい音で半分こにして片方を放り投げて寄越した。

 一口、かじってみる。


「……すっぱー」


 梨みたいな味を想像してたけど、シュナンは酸っぱかった。


「わかってないなー。これがいいんさー」

「これのパイも酸っぱいの?」

「……ダジャレ? つまんないぞ」

「いっ、いや。ちがうちがう。素朴な疑問だ」

「アタイ、パイは食べたことないんだー」

「そっか」


 美味しそうに実をかじるトアンとともに皆の元に戻り、ちょっと許容範囲を越える酸っぱさだったのでリヴィオにあげようと差し出した。


「酸っぱいからいらん」


 突っ返されてしまった。

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