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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第12話 リヴィオの事情、エステルの来訪

「うわぁあああああー!」


 リヴィオの絶叫が木霊した。


「なっ、何事ですか!?」


 その声を聞き付けたフリアデリケが廊下を駆けてくる。


「うっ、うわあああ、見るなー!」


 リヴィオは慌てて自室の扉を閉める。

 そうしてからすぐに足元に転がった熊のようなぬいぐるみを掻き抱き、クローゼットへと走ると、人形とともにぎゅうぎゅうと詰め込みだした。


「そんなに詰め込むと、また飛び出してきちゃうんじゃ……」

「……っ! そっ、そうか! どっ、どうしよう」


 そう尋ねながら俺を見たリヴィオは、半べそをかいていた。

 こんな顔、初めて見た。普段はクールな美人って感じなのに、俺の伝え方が下手だったから……。申し訳ない。

 俺はとりあえず人形を1体、毛布の中に隠すことを提案した。


「どうしました? 大丈夫ですか、リヴィオ様!」


 そうしている間に、フリアデリケは扉をドンドンと叩いて問いかけてくる。


「だっ、大丈夫だ。大丈夫だから、開けるなよ!」

「一体、何事ですか!?」

「あっ、ルーシアお姉ちゃん」


 扉の向こうでは、この家のもうひとりのメイドさんが駆け付けてきたようだ。

 まぁ、あれだけ当主が大絶叫すればなぁ。

 てか、お姉ちゃん? もうひとりのメイドってフリアデリケの姉だったの?


「もっ、もういいぞ!」


 リヴィオが告げると扉が開け放たれ、フリアデリケとその姉であるルーシアが入ってきた。

 姉のほうは14歳の妹とは歳が離れており、31歳だと聞いている。


 ルーシアは、おっとりとした感じの女性だった。

 長い黒髪を左肩でひとつに束ね、胸元に垂らしている。その胸は豊かで、全身に漂う色気が凄かった。

 あまりフリアデリケには似てないな。


「一体、どうしたのですか?」


 妹と同じメイド服を着たルーシアが、そう問いかける。


「ああっと、その、それはだな……」

「俺が、リヴィオの着替えを覗いてしまって……。お騒がせして、すみません」


 俺はさっきの間に考えておいた言い訳をし、頭を下げた。


「着替えを覗いたのに、部屋の中にいたのですか?」


 うっ。そこまで考えてなかった。


「私が後ろを向いて動くなと言ったのだ。騒がせてすまない」

「そうだったのですか」


 リヴィオが誤魔化してくれて助かった。

 ルーシアは納得したのか、俺に向き直るとメイド服のスカートの袖を掴んで会釈してきた。


「あなたがクロキヴァ様ですね。お初にお目にかかります。わたくしはこのアンバレイ家で妹とともに住み込みで使用人をさせて頂いております、ルーシアと申します。こちらのフリアデリケの姉です」

「黒木場吾郎です、お世話になってます」

「クロキヴァ様。貴方様がお強いのは存じておりますが、リヴィオ様は嫁入り前の身。いい加減なお気持ちで粗相をされることのないようにお慎み下さい」

「うえっ!? は、はい……」

「ですが、遊びでないのなら、私は構いませんよ」

「え?」

「ル、ルーシア、何を言っている! 私は嫁ぎ先のある身だぞ!」

「ふんっ。嫁ぎ先の『予定』でしょう? 私は反対ですよ、リヴィオ様」

「まだそんなことを……」


 子供みたいに頬をふくらませ、ぷいっとそっぽを向くルーシア。

 家に仕えるメイドという立場でも、こんな態度取れるんだな。

 まぁ、相手がリヴィオだからか。昨日のあのガラードって男なら、いきなり斬りかかってくるかも知れん。


「ルーシア……。昨日も言っただろう。アンバレイ家の復興はお父様の悲願なんだ。私はそれを叶えたい」

「ですが、あのような男の元に嫁ぐなど……」

「仕方ないだろう。どうやって他にこのアンバレイ家を盛り返す手段があるというんだ」

「それは……あっ、あんな男の元に嫁がずとも、リヴィオ様が何か……商売とか……」


 尻すぼみの声と一緒に自身も縮こまっていくルーシア。

 その肩を、リヴィオがそっと撫で擦る。


「元手が無くては、大きな商売はできない。少額、稼いだところで没落は免れないだろう」

「……なら、いいじゃないですか……。貴族の地位など……。亡きグレアス様だって、リヴィオ様が不幸になってまで、アンバレイ家の復興など、望んではおりませんよ……」


 肩を撫で擦るリヴィオの手に自分の手を重ね、ルーシアはそう呟いた。

 そこには、切望が感じられた。


「………………」


 リヴィオは答えなかった。

 無言で重ねられた手を離すと、沈黙が訪れる。


「あ、ええっと……」


 傍らで見ていたフリアデリケが何か言おうとして、押し黙る。


「私は少し、ロゴーと話がある。じきに朝食だろう? ふたりとも、支度を頼む」

「は、はい」

「……わかりました」


 ルーシアは部屋の扉を閉め、フリアデリアと去っていった。

 閉まっていく扉の向こうで、どこか悲しげな顔でお辞儀をしたフリアデリアが印象的だった。


「なぁ、リヴィオ……」


 声をかけると、突然、リヴィオが俺の胸に飛び込んできた。


「えっ!」


 ぎゅうっとポロシャツを両手で掴み、頭を俺の胸に押し付けてくる。

 さっきのルーシアとの会話で、思うところがあったんだろうな。


 リヴィオはがばっと頭を上げた。

 その顔はぐしゃりと崩れていて、眉は曇り、口をへの字に曲げ、瞳からは涙が溢れ出しそうになっている。


「さ、さっきのことは、内緒にしてくれ。お願いだ……」

「そっちかよ」


 俺は思わず突っ込んだ。

 さっきの重い展開の後で、こっちが来るとは思わなかった。


「言わないよ、誰にも。てか、さっきはごめんな。理解があるぞ、教えてくれよって意味でああ言ったんだ……。俺は、いくつになっても人形で遊んでていいと思うぞ」

「…………本当にそう思うか?」

「ああ」

「そうか……」

「俺だってアクションフィギュアとかの人形で遊ぶし。楽しけりゃ好きにすりゃいいんだよ」

「アクションフィギュア……?」

「ああ、動かして遊べるんだ。俺は自分が変身した姿みたいな人形で遊んでた」

「……あのロゴーはカッコイイからな……。その気持ちは私にもわかる」

「かっこよかった!? ホントか?」

「ああ、本当だ」

「そうか~」

「ふふっ……。嬉しそうだな」

「まぁな~」

「でも、誰もがお前のように理解があるわけでもないからな。本当に、黙っていてくれるか?」

「ああ。黙ってるよ」

「誓うか?」

「誓う」

「何に誓う?」

「えっ。えーっと……明日のパンツに」

「ぶふっ。あははは。おもしろいヤツだな、お前は」


 火◯映◯くんの台詞から着想を得たネタがウケた。

 やがて、リヴィオは笑い終わるとまた表情を曇らせた。

 俯きながら俺のポロシャツを白い指できゅっと摘んで、俺から離れようとしない。

 俺は、優しい声色を不器用に発した。


「あのさ、俺は部外者だけどさ、聞かせてくれないか、結婚のこと」

「…………」

「アイツに殺されかけたんだ、話してくれてもいいだろ?」

「……そうだな」


 リヴィオはゆるりと俺から離れ、俯いていた顔をゆっくりと上げた。


「愉快な話ではないぞ」

「わかってるよ」


 俺が苦笑して答えると、リヴィオも苦笑した。


「……アンバレイ家は、成り上がりでな。領地で魔石が採れることがわかって富を得て、貴族になったんだ。だが、父様はある貴族に酷く騙されてな。細かいことは省くが、結果、それで母は死んでしまった」


 リヴィオは話しながら、ゆっくりと部屋の中を歩きつつ、天蓋付きのベッドの柱を撫でた。

 その横顔に、複雑な哀愁を漂わせ、自嘲のような笑みを浮かべながら。


「私が子供の頃には、この家にもまだ多くの調度品や芸術品があり、使用人も多かったのだがな……。それも長い歳月の間に、高い価値のある芸術品はすべて手放してしまい、使用人も今の二名を残すのみとなってしまった。そして、とうとう魔石の採掘権も手放すことになってしまってな。父様は酒に溺れ、やがて病に伏した。病床の父様は、私にアンバレイ家を再興するよう強く願い、悔しさにまみれて死んでいった」

「…………」

「昨日の男、ガラード・フールバレイは、父様が魔石の採掘権を引き渡す代わりに、どうにか縁談を取り付けてきた男だ。私が17になったら、見合いする約束をしていてな。そして私は先日、17になった。私は父の願いに従い、この話を受けるつもりだ」


 窓の桟に手をかけ、遠くを見つめるリヴィオ。

 逆光に照らされたピンク色の髪は、自分がいた世界の人間には無かった髪色だったため、その姿は幻想的で、彫像のような印象を受けた。


 話し終え、逆光の中で俺と向き合ったリヴィオは、意思の篭った瞳を向けつつ、どこか悲しげな顔をしているように見えた。


「ロゴー、殺されかけたお前は、さぞ不満だとは思うが……」

「リヴィオ、お前は本当にそれでいいのか?」

「ああ。それでいい」

「それは、本心からか? 本心から、あんなヤツの嫁になりたいと思ってるのか?」

「……私とて、出来ればあんな男じゃないほうがいい。だが、家のため、父様のためには仕方ない」

「家なんて、どうでもいいじゃないか」

「それが、父様の願いなのだ」

「だけどさ……」


 俺がそう言うとリヴィオは俯き、瞳を伏せて、拳を握り込んだ。


「私の瞼の裏には、死の間際の父様の顔が焼き付いているのだ……。無念さと悲愴さを宿した、酷い顔だった……。私は父様の想いに応えてやりたいのだ……」


 そう言葉を絞り出したリヴィオに、それから先、俺は何も言えなくなってしまった。


 リヴィオの父を騙したのはガラードが仕組んだもので、メラメラと正義の炎が燃え上がり、変身してぶっ飛ばす、なんて単純な展開だったらよかったのになぁ……。



――――――――――――――



 午後になって、エステルが屋敷にやって来た。

 遊びに来たのかと思ったが、深刻な面持ちで、俺に助けを求めてきた。


「兄を助けて!」


 大きな蒼い瞳を潤ませ、胸の辺りまであるストレートの金髪を額や頬や首に張り付かせ、汗だくになって息を切らせている。


「ど、どうしたんだ?」

「兄がっ、帰って、来なくて……」


 はぁはぁと喘ぐエステルに、メイドのルーシアが水の入ったグラスを差し出す。

 それを一気に干すと、口の端から零れた水を腕で拭いながら、エステルは懇願する。


「お願い! 助けて、ゴロー! あなたの力が必要なの!」

「わかった」

「ぅえっ!?」


 俺が食い気味に返事をすると、エステルは目を丸くする。


「いいの? まだ事情も話してないのに……」

「ああ」


 変身ヒーローになったんだ。困った人がいたら、できたら助けてやりたい。

 知り合いの女の子の兄が帰って来ないという状況を聞いて、助けないという選択肢は俺にはなかった。

 

「そ……そっか。じゃあ、あの、事情話すね」


 いつのまにか差し出されていた2杯目のグラスの水を飲みながら、エステルは語りだす。


「私の兄はね、この国の近衛兵なの」

「ほう」


 返事をしたのはリヴィオだ。ここは客間で、俺とリヴィオ、それにお茶の支度をしているメイドのルーシアがいる。


「実は、私たちが戦争に行っている間に、トリア村からメデューサの討伐以来が来てね、軍も冒険者ギルドも人手不足で、近衛兵の兄たちが討伐に向かったの」

「メデューサか……」

「メデューサって、目を見ると石になるっていう、蛇の髪を持ったヤツ?」

 

 俺がそう尋ねると、リヴィオが「よく知っているな」と頷いた。


「それでね、昨日、メデューサがいるっていう坑道に行ったっきり、村にも戻ってないって、さっき連絡があって……」

「なるほどな。しかし、メデューサ相手では、ロゴーがそこまで助けになるかな……」

「倒してくれなくてもいいの。それは私の弓でやるよ。ゴローはさ、炎も使えるでしょ。陽動でも役に立つと思うの。それに、近道しようと思って……」

「まさか、山脈越えをするつもりか?」

「うん。一刻も早く、行きたいの」

「確かに、ロゴーがいれば……。だが、危険だぞ」

「わかってる。ゴロー次第だけど……」


 ふたりの瞳が、俺を見つめた。


「行くよ。さっき言ったろ」


 その返事にエステルは、ぱあっと明るい笑顔を見せた。


「なら、私も行こう」

「えっ、いいの?」

「お前たちは知った仲だし、ロゴーひとりでは心配だしな」

「あっ、ありがとう!」


 エステルが、がばっとリヴィオに抱き付き、リヴィオはつい「ひゃ」と小さく叫んだ。

 そして恥ずかしそうにしていたが、エステルにハグされて嬉しいのか、照れ笑いを浮かべる。


「リヴィオ、いいのか? アンバレイ家は、お前ひとりなんだろう? お前に何かあったら……」

「その時は、その時だ。私には剣技しか己の力が無いからな。例え、この道で何かあっても、それは父様も了承してくださったことだ。もっとも、死ぬつもりなど毛頭ないぞ」


 それを聞いて、俺はひとつ、溜め息をついた。

 ホント、お人好しだな、リヴィオは……。


「……ありがとね、リヴィオ」

「う、うんむ……ちょ、胸に手が……」


 エステルはリヴィオの胸に顔を埋めながら、それを手で掴んでいた。

 うらやまけしからん。


「いやー、リヴィオ、顔を埋めてみたら思ったよりあったから、つい。羨ましい……」

「うう、わかったから、手を離せ……」

「うん、ごめんね。えへへ……。なんだか、ふたりが来てくれることになって、だいぶ気が楽になったよ。ありがとね」


 そう言ってエステルは、はにかんだ笑顔を見せた。

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