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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第106話 奇跡のクリスタル

 横並びになった俺たちを見て、こういうの特撮ヒーローものであるよな、と気分が高揚した。これも願望が反映された結果なんだろうか。

 だけど、不安も生まれた。皆を強制的に召喚してしまったんじゃないだろうか。


「ヴァッハッハッハー! 力がみなぎってきおるわ。なんと愉快な現象か……! これが奇跡か!」


 光を纏ったラファエルが豪快に笑う。楽しそうだな。


「やったやった! ゴロー! 奇跡起こせたね!」


 俺の左隣でエステルが嬉しそうに飛び跳ねた。背中に背負った矢筒が揺れる。

 皆、戦闘用に自前の装備を付けて来ていた。


「ああ、だけど、皆を巻き込んじまったみたいで……」

「それは違うぞ、ロゴー。召喚前には説明を受け、同意を求められた。それで応じてここにいるんだ」


 右隣のリヴィオが優しい表情でそう告げる。

 あの短い時間のあいだにか。

 そういえば以前、カルボが出てきたときに世界が止まったようになったことがあったな。あのとき、カルボは他の人たちは時間の流れがほぼ静止してるって言ってた。

 あれって世界中の時間の流れを操ったのかと思ったけど俺も動けなくて、実際には俺だけが短い時間を長く――例えるなら1秒間を1時間に感じるようになってたみたいな感じだったんだろう。

 それがリヴィオたちにも起こってたってことかな。

 すると、エステルの左隣にいた菜結が、列からぴょこっと顔を出して声を掛けてきた。


「そうそう、だからおにいちゃんはしんぱいしなくていいよ!」

「……いや、でも菜結はまだ子供だし、それに、こういうの皆も断りづらくないか?」

「フン、それくらいの年齢だったらもうええじゃろ。皆、死ぬかも知れんことくらい百も承知じゃろう。というかゴロー。おヌシ、妹がおったのか」


 列の端っこのほうから聞こえてきたゴドゥの大きな声。場内が騒がしいのによく俺の声が聞こえたな。


「いや、菜結は実際にはまだ5歳なんだよ。今は大きくなってるけど」

「なぬ? そうなのか、ううむ……」

「いーんじゃないかー? 無理しなきゃさー。予選で決勝まで勝ち残ったんだろー?」


 ゴドゥの隣にいるトアンも、大きな声で俺に声を届けてくる。


「そうなのか!? 流石、ゴローの妹じゃな」


 うーん、まぁ、ここまで来て菜結を止められる気がしない。菜結にはくれぐれも無理はしないようにと念を押した。


「皆も無理はするなよ! これで死なれたら、困るぞ、俺は」

「同意の上だから、気にするなと言っておったであろうが。闘う者への侮辱になるぞ」


 う……。ラファエルに咎められてしまった。

 少なくともラファエルには侮辱になってしまったみたいだ。


「わ、わかったよ……」

「では、さっさとその奇跡の力を調べるがいい。把握したら作戦を立てて行動開始だ」





「あのさァ、もう並んでなくていいかなァ? なんか列、乱しづらいんだけど、リヴィオに用事があるんだよ」


 吾郎が『ピープルクリスタル』について調べているあいだに、一番端に並んでいるベルナ・ルナが声を上げた。


「そうだな、このままじっとしていると観客たちも不思議がるだろう」


 そう述べるディアスの提案で、皆で円陣を組む。


「ヒカッテテ、キレイ」


 フランケンシュタインが皆を見回しながら、不気味で彫りの深い顔の奥にある瞳を輝かせる。吾郎以外は、淡い金の光を全身から放ち続けている。


「ククク……。まさに奇跡だな……」

「そうね…………」

「コンスタンティア、そなたまで召喚に同意するとは思わなかったぞ」

「興味があったから……。それに、無理はしないわ……」


 ラファエルとコンスタンティアは、この事象を他の誰よりも楽しんでいる。


「それで、ベルナ・ルナ、私に用事というのは?」

「ああ、魔剣ロンドヴァルなんだけどさ、完成したんだよォ! それで、喚び出されたときに持っていこうとしたんだけど、自分以外の持ち物は持って行けないって言われてさァ。だからさ、すぐ取りに行くよ。……リヴィオは鞘、持ってきてるしなァ」


 誕生日にベルナ・ルナから鞘を一足先にプレゼントされていたリヴィオは、もしかしたらロンドヴァルの修理が間に合っているのではと思い、喚び出された際に鞘を用意していた。

 そのことを指摘され、レスポンシブな頬を少し赤らめるリヴィオ。

 ロンドヴァルが偽物だったことを打ち明けるか迷っていると、ルーシアが話してしまった。


「……気付いてたよ。アタイもルーシアさんとガラード・フールバレイの試合見ててさ、そうかもって。だけどさ、凄い剣が出来たって自信があるよ! 刀身も変わったし、リヴィオのはもう、別の魔剣ロンドヴァルさァ!」


 谷間の見える豊満な胸に装備された金属の胸当てをドンと叩いて、ベルナ・ルナは胸を張った。

 その言葉に、リヴィオとルーシアとフリアデリケは救われた気持ちになる。


「……ありがとうございます」

「え!? いや、頭上げてくれよ、ルーシアさん!」


 慌てるベルナ・ルナの手を駆け寄ったフリアデリケがぎゅっと握り、リヴィオも近寄って手を添える。

 ベルナ・ルナは褐色肌の顔を真っ赤に染めて、照れ笑いを浮かべた。


 その後、喚び出された彼らは吾郎がクリスタルの力を調べ終わるまで、自己紹介や雑談をして時を待った。

 ロンドヴァルの作製に徹夜をして決勝戦に寝坊したベルナ・ルナ以外は皆、今までの吾郎とルーシアの試合を観戦していたという。





「わかったぞ」


 調べ終えた俺は、皆に『ピープルクリスタル』の力の説明を始めた。



『ピープルクリスタル』

・豪華な金の装飾の、金色のクリスタル。

・通常の変身フォームの2倍のパワー。

・入手した全てのクリスタルの能力のパワーアップしたものを発動できる。

・必殺技(レバー0回)『サモンヒーローズ』

 親密度と戦闘能力が一定以上の者を、その者の了承を得ることで呼び出すことが出来る。

 喚び出された者は身体が発光し、吾郎の通常の変身フォームのときと同等の身体能力を得る。

・必殺技(レバー1回)『任意の必殺技名』

 使おうと考えた入手済みクリスタルの必殺技のパワーアップしたものが使用できる(特定の条件のあるものは除く)

・必殺技(レバー2回)『ニュークリアブレイド』

 核の剣。使用者の身の安全は保証される。



 予想はしていたけど、それ以上のとんでもない能力だった。

 その理由は1つ。核だ。

 ベルトによると、この都市を吹き飛ばすほどの威力があるという。

 俺が核の説明をすると、あまりにも馬鹿げた力に皆、唖然としていた。


「……奇跡の力も、万能ではないということか……」


 俯いて、リヴィオがそう囁く。俺も同じことを思っていた。

 ベルトによると、人々からクリスタルへと集まった光球は、願いを定量化して変換したもので、その集まった総量によって『ピープルクリスタル』に違いが出るとのことだった。

 何万という人々の願いが、多すぎた結果なのだろうか……。


 都市で核など、使えない。かといって、グリーディに瞬間移動でどこかに付いてくるように交渉したところで、ヤツだって人がいないところでは魔力を得られず自分に不利になるとわかっている。乗るわけがない。

 今ある力で、なんとか倒すしかない。どうにか人の少ない所まで連れ出せれば、魔力も回復できなくなるんだが……。


 それから俺たちは話し合って、俺とラファエルとフランケンでグリーディを、他のメンバーは都市に出現した魔物の対処を行うことに決まった。

 それと兵士たちに、まだ国がやっていないようなら各商業ギルドに魔法を封じる魔道具があれば貸し出して貰ってくるように依頼した。


「ところで、ワシらはどっから外に出ればいいんじゃ?」


 かつての旅のときと同じ、大きなハンマーを担いだゴドゥが首を捻る。

 出入り口は人がいっぱいでとても無理だ。


「関係者用の通路があるわ……。外壁に近い……。兵士に土魔法の使い手もいるハズ……。掘って貰いましょう……」


 コンスタンティアが兵士へ顔を向けると、近くで聞いていた兵隊長がすぐに指示を出した。


「ヴァッハッハー! コンスタンティアは聡いであろう! 我が妻だ!」

「……い、いいから……。行きましょう……」


 急にラファエルが肩を抱いてきて自慢を始めたので、コンスタンティアは珍しく照れた様子を見せる。

 それを見ていたフランケンの表情はあまり変わっていなかったが、俺にはなんだか嬉しそうに見えた。


 その後、歓声に送られながら通路へ移動し、出口が作られているあいだにマスクオフしてそれを見てみる。

 おお、新フォームのマスクもカッコイイ……! 前より武張ぶばった感じがするな。

 一通り眺め終わると、それを見計らってかリヴィオが近付いてきた。赤い瞳に真剣な色を含んで目の前に立つと、俺の両肩に手を置く。


「ロゴー、お前は独りで戦ってるんじゃない。死ぬような無理はするな……!」


 まっすぐに見つめてくる彼女に、強い意志を感じる。

 俺が「ああ」と頷くと、リヴィオは柔らかく笑った。


「なんだか、まだリヴィオには敵わないなー」


 そこへ苦笑を漏らしながら、エステルもやってきた。


「わたしも、ゴローに無理して欲しくないけど、無理しちゃうんだろうなーって思って、だからなんて言ったらいいか迷ってたんだよねー」


 リヴィオに代わって俺の前に立ったエステルは、俺の頬にそっと片手を当てると微笑んだ。

 けれど、大きな青い瞳の上の眉根を寄せて、憂心ゆうしんを抱いているように見える。


「エステル……」

「絶対、帰ってきてね」

「……ああ」


 エステルは瞳を潤ませると、「その姿、カッコイイね」と笑った。





 通路に出口が空き、俺たちはコロシアムを飛び出した。

 暗雲の切れ間が増して、いくつもの金の帯が下りている都市の上空へと、いくつかの竜巻が立ち昇っている。それらに破壊された建物の破片が巻き上げられているのが遠目に見えた。


「あれも魔法なんだよな!? なら、『スティンガーディスペル』で消せるよな!」

「ゴロー、今は構うでない! まずはグリーディ、彼奴きゃつからだ!」

「わかってる! 聞いただけだ」

「ええい、遅いぞ大男!」


 普段よりは速く走れているフランケンだが、身体が重い為に皆と段々と差が開いている。

 凄いスピードで走る俺たちを見て、人々は驚き、声援を送ってくる。仲間たちは光を帯びてるしな。

 声援に背中を押されるように、屋台の立ち並ぶコロシアム手前の大通りを駆け抜けていく。

 この辺りには、被害は無いようだった。魔物もいないようだ。

 屋台がまばらになった辺りから、コロシアムから魔物討伐へと出てきた戦士たちが戦闘を終え、魔物が倒されている光景がちらほらと見えだした。

 正直、凄惨な光景を覚悟していたけれど、建物の中に逃げ込むことでそこまでの被害は出ていないようだった。


 コロシアムから大通りをある程度、進んだところで2、3人のパーティになって散開する。

 グリーディの討伐が目的の俺とラファエルとフランケンシュタインは、ラファエルが感知しているグリーディだと思われる強い魔力の方角へと向かった。

 途中、戦士たちが魔物と戦闘を繰り広げている場面を切ない気持ちで素通りし、突き進んでいく。


「うっ……!」


 途中、少し前方で狼男のように見えた魔物が民家の窓を破壊し、中に侵入したのが見えた。


「…………くそッ!」


 俺はブレーキを掛け、同じ窓に飛び込み追い掛ける。


「おいゴロー!」


 後ろからラファエルの疾呼する声が聞こえた。


「すぐ戻る!」


 その返事と何人かの悲鳴が重なる。

 声のするほうを見上げると、二階へ続く階段の先のドアを破壊した狼男のような魔物の姿が見えた。

 階段を使わずにジャンプして二階の廊下の手すりを越えたところで、幼子を身を挺してかばう母親へと、部屋に飛び込んだその魔物の鋭い爪が振り下ろされた。


「ガァアォオォッ……!?」


 しかし、その爪は空を切る。

 手すりを越える前、狼男の姿を目視してすぐに、『ジャイアントスパイダークリスタル』の能力である蜘蛛の糸を飛ばして魔物の背中へと貼り付け、その体を後ろへと引いていたのだ。

 俺に引っ張られながら振り向いた魔物の眉間へと拳を浴びせると、頭の骨が砕ける音がして狼男は崩れ伏した。

 幼子を守る母親を見ると、無事のようだった。よかった……。


「ライカンスロープか。人喰いの狼人だな」


 そこへ、ラファエルがやってきた。

 人肉を好む魔物だそうだ。恐ろしい……。

 それから、怒りが沸いてくる。グリーディめ…………。


 ラファエルは、俺をいましめるようなことはしなかった。


「俺は、やっぱり目の前で危ない目に遭ってる人を見捨てられない……!」


 再び3人で大通りを走りながら、絞り出すようにそう声を上げると、


「吾輩は貴様のそういうところが嫌いではない」


 と、ラファエルは振り返らずに告げてきた。


 やがて、貴族街へと続く坂道を進んでいくと、上から大量の狼のような魔物が吠え声を撒き散らしながら駆け下りてくるのが見えた。

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