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変身ヒーローin異世界  作者: 鯨尚人
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第9話 再会

 「見ちゃだめぇえ……! 見ないでぇええ……!」

 

 なんて悲痛な声色だろう。

 お漏らししてしまい、長い耳まで真っ赤にして身体をくねらせ恥辱にまみれたエステルを、正直見たい衝動に背中を押されながらも、乾いた大地に金色の濁流を広けるエステルから背を向けた。


 大丈夫だ、エステル。大丈夫だよ。

 俺はもう変身していない。変身していたら、そのパワーアップした聴覚でこの兵士たちの喜びの歓声の中でも俺はエステルのお漏らしの音を聞くことができただろう。

 だが今は生身だ。音は聞こえない。

 ってそこまで心配してないよね。


 エステルには俺が振り向いたあと、リヴィオがどこからか盾を持ってきて隠してあげていた。

 そして下半身を濡らしたエステルに、リヴィオは長いパレオのようなものを貸し与えていた。


 そんなことがあってから、リヴィオとエステルは随分と仲が良くなって、その後の帰路ではエステルは自分の部隊を抜け出し、リヴィオと俺のところで過ごしていた。


「私はこれでも部隊長だからな。自分の部隊を抜けだす者を注意しないわけにはいかないんだ」

「それなら大丈夫。部隊長の許可は取ってあるよ。隊長も、何かあった時には黒き魔装戦士殿の意向を早急に知りたいからって」

「そうか。なら問題ないな。そうだ、とっておきがある。ウチの侍女が作ってくれたクッキーなんだが、旨いぞ」

「わー、嬉しい! 食べる食べる!」


 リヴィオはあまり顔には出さないが、エステルと交流するのはけっこう嬉しそうに見えた。

 なんだか仲のいい姉妹みたいだなー。


「んんー! ホントだおいしい! ゴローも食べなよ。はい、あ~ん」

「やめてくれ」


 他の兵士たちの目が気になって恥ずかしいし気まずいので、俺はあ~んをお断りした。

 すると、ぷくっと片頬を膨らませるエステル。


「いいじゃない、別に~。じゃあリヴィオ、あ~ん」

「えっ。あ、あ~……ん」


 馬上で屈み込み、感じやすい頬を赤らめて、リヴィオは口でクッキーを受け取っていた。





 出発から、4日目の午前。

 赤い旗の軍の首都である、都市アグレインに到着した。

 途中、数回に渡って国境からの伝令が届いたが、敵国に動きはないそうだ。

 このまま和平が結ばれるといいな。

 俺は変身ヒーローだから、人間同士の戦争で人殺しなどしたくない。


 都市アグレインは、広大で緩やかな丘岡の上に作られた都市のようだった。

 最も高い場所に荘厳な造りの城が建っており、城壁に囲まれている。

 その下には立派な屋敷群が立ち並んでいて、そこも壁に囲まれており、更にその下側に街が大きく広がっていた。


「あの上のほうは、貴族の屋敷が多いのかな?」

「おー、そうそう。異世界から来たのによくわかるねー」


 そういってエステルは俺の頭を撫でようとした。


「こんな往来で、やめろって」

「む~、いいじゃないの。わたしのほうがずーっと歳上なんだぞ」


 もうすぐ、旅も終わりだ。

 エステルと俺も随分と仲が良くなり、俺が異世界の人間だということも話した。

 本当に信じてるのかわからないが、理解を示してくれた。

 エステルはこの間、お漏らしを見られてから何かとお姉さん風を吹かせてくる。

 大丈夫だ、エステル。大丈夫だよ。

 別に人としての尊厳とか損なってないから。

 人っていうかエルフだけど、この世界ではドワーフとかエルフとかホビットとか、人間に近くて知能も人並みなら、広義の意味では人でいいみたいだ。


 旅の終わりは、兵士の詰め所に到着までだ。

 そこで軍隊は解散となる。

 常勤の兵士ではない者たちには、給金が出るそうだ。

 俺にも兵士ではないが給金が出るというので付いて行っている。先立つものがないとな。


「ロゴー、お前、これからどうするつもりだ?」

「そういやさ、リヴィオはなんでゴローをロゴーっていうの?」

「いや、最初はちゃんと名前を聞いてなくてな……。そのまま定着してしまったんだ。でもロゴーって、カッコイイだろう? あ、ゴローが悪いといっているわけではないぞ。おもしろい響きだとは思うが……」

「うーん、まぁ、確かにカッコイイけども……」

「いや、いいよ。もうどっちでも」


 リヴィオはロゴーと呼ぶのが気に入ったようで訂正してもやめなかった。

 しかし、ロゴーってここじゃカッコイイのか?


「それで、どうするつもりなんだ?」

「ええっと……。とりあえず貰った給金でどっかの宿にでも泊まって、それから教えて貰った冒険者ギルドに登録してやっていこうかって考えてるけど……」

「そうか。なら、ウチに泊まれ」

「えっ。いいのか?」

「あぁ、部屋ならたくさん空いているし、それに……」

「あのことか」

「ああ」


 あのこと、とは、リヴィオが懸念していることだ。

 自軍の兵士が召喚したドラゴンがこちらの軍を襲ったことや、巨大なスライムが誰かの意図したものだった可能性がある。

 リヴィオはそう考えて、俺に忠告を促してきた。

 少なくとも和平が結ばれるまでは注意しろ、と。

 強大な力を持つ俺が邪魔で、何か仕掛けてくるかも知れない、と。

 人間同士の争いには巻き込まれたくないなぁ。


「私の家は落ちぶれているとはいえ、一応は貴族の家だしな。街の安宿よりは安全だろう」

「いーなー。リヴィオのお屋敷。わたしも行ってみたい~」

「来ればいい。歓迎するぞ」

「ホント? やたっ。じゃあ今度遊びに行くね!」


 嬉しそうに飛び跳ねるエステル。お姉さんらしい威厳はそこにはない。


 やがて詰め所に着き、給金を貰うために並んでいると仕事を終えた人々にクロキヴァ、クロキヴァ、とよく話しかけられた。

 黒木場なんだけど、言いにくいならしょうがない。

 俺は『黒き魔装戦士クロキヴァ』としてアグレイン国軍の間で有名になってしまっていた。

 彼らの中には、俺が冒険者ギルドに登録する予定だと聞いてパーティに誘ってくれる者も何人かいた。

 保留にしたが、有り難いことだ。


 給金は安かったらしい。エステルがぶーたれていた。


 「だが、我々は国民として徴兵された兵士や志願兵だからな。給金が出るだけましだろう」


 とは、リヴィオの弁説だ。

 アグレイン国では常勤の兵士は多くなく、有事の際にこうやって駆り出されるのだそうだ。

 そこで、俺はリヴィオが給金袋を持っていないことに気付く。


「あれ、リヴィオは給金貰ってないのか?」

「ああ、私は貴族だからな。貴族はこういうときに戦争に参加するのは義務なんだ。そうしないと庶民が納得しない。とは言っても、近年は戦争を稼ぎの一環にする者も増えた。国境沿いの小競り合いなんかは特にな。本気の戦争ではないからと」


 命がかかってるのに金稼ぎにねぇ。

 この世界での暮らしは厳しそうだな……。


「それで、そういう意識が広まって、庶民もそれを生活の糧にするようになったために、貴族も今は一族のうち最低一人を参加させればいいという風潮になっている。昔は戦える者は皆、参加したそうだがな」

「へぇー、じゃあリヴィオの家はリヴィオが一番強いから代表で戦争に参加したってことか?」

「いや、我がアンバレイ家は、私一人しかいないのだ。必然的に私が出るしかない」


 そう言ってリヴィオが寂しそうに笑うので、俺は少しどきりとした。


「ただいまー」

「え? あれ、エステル、鎧は?」


 どこかに行っていたらしいエステルの、華奢な身体に似合わないゴテっとした鎧が無くなってる。


「あぁ、あれ、レンタルだから返したよー」


 レンタルがあるのか。

 数は多くないが、国が貸し出しているらしい。無料ではないそうだが。

 元は戦死者などの装備品だそうだ。


 鎧を着ていないエステルは緑色の軽装で、背中には弓と矢筒を背負っていて、いかにもエルフって感じだ。

 この世界のエルフも、前の世界の創作されたエルフの典型的なパターンである貧乳なのかな。胸が控えめな感じなのもエルフって感じする。

 個人的には、いいと思います。

 で、その胸の辺りまで伸びたストレートの金髪もまた、エルフって感じがする。

 蒼い瞳は自分のイメージとちょっと違う感じがするけど。


 その大きな宝石みたいな瞳を細め、部位の整った童顔の形を笑み崩すと、エステルは俺の両手を自身の両手で包み込んできた。


「ゴロー、改めてお礼を言わせて。ありがとね。ドラゴンから助けてくれて」

「う……お、おう」


 急にそんなことをされたもんだから、緊張して言葉が詰まってしまった。


「何か困ったことがあったら言ってね。お礼したいから」

「あ……お、おう」


 俺の受け答えが可笑しかったのか、エステルはふふっとまた笑み崩すと、俺たちに別れを告げて去っていった。


「私たちも行くか」


 リヴィオの屋敷へと向かう。

 都市部の丘の上方。壁に囲まれた、貴族たちの屋敷が多く立ち並ぶ区域へと。

 そして、俺たちが露店街の喧騒の中を歩いていた時、突然それは起こった。

 行き交う人々が、遠くを飛ぶ鳥が、馬車が、静止したのだ。


 リヴィオも静止している。動けるのは自分だけ……って、あれ、俺も意識はあるけど動けない!

 そこへ、眩い輝きとともにアイツが現れた。

 カルボだ。


「やぁ。どうしたかなーって思って、見に来たよ」


 空中に浮いたカルボナー……あれぇ?

 ナポリタンだ。ナポリタンになってる。

 そのナポリタンが、話しかけてきている。


「あ、これじゃ黒木場吾郎はしゃべれないか。これでどうかな?」

「え? あ、あー。しゃべれる。それに動ける」

「ホントは静止したままだから、幻覚だけどね」

「え、これ、幻覚なのか?」


 俺は周りを見回した。ホントは静止してるっていうけど後ろは見れるし、動いてるときと同じ感覚だった。


「この、動けない他の人たちは、さっきの俺みたいに意識はあるのか? 今の状況、把握してる?」

「いや、他の人たちは時間の流れがほぼ静止してる状態だから、把握するのは不可能だねぇ」

「そうなのか……。なぁ、ところで品目を変えられると名前、呼びづらくなるんだけど」

「へ? あぁ、今はナポリタンが好きでねー。複雑な味わいのものもある。奥が深い」


 そんなことはどうでもいいよ。もう食えないだろうし。


「まぁ、じゃあカルボナーラに変えようかな」


 ヤツがそういうと、何もないナポリタンの上からカルボナーラソースがどばどばかかっていく。

 

「うわぁ、それ、カルボナーラじゃない。混ざっちゃってるじゃん」

「そうだね。ナポリナーラかカルボタンってどうかな?」


 すごくどうでもいい。


「……カルボって呼ぶよ。初志貫徹だ」

「そっか。まぁ、なんでもいいか。キミに会うのは、これで最後かも知れないし」

「え? そうなのか?」

「うん。寿命がもう残り少ないんだ」

「えっ。カルボ、死んじまうのか?」

「そうだね、この4次元時空に存在する私の命は尽きてしまうね」

「えーっと……どういうことだ? この世界って3次元じゃないんだっけ?」

「空間はね。時間も含めて4次元時空だよ。空間だけで4次元っていう場合もあるけど、その場合は時間を含んでないから4次元時空じゃなくて4次元空間だね。ド○えもんのポケットとかね」

「は、はぁ……。えーと、つまり、別の時空では生きてるってことか?」

「そこは、生命の定義による」

「そ、そうか……」

「まぁ、消えてなくなったりはしないよ。もうこの4次元時空には干渉できないけどね」

「…………この世界はどうなるんだ?」

「どうにもならないよ。創ったのは私だけど、殆ど干渉もしなかったしね。私がいなくなったからって、消えてなくなったりもしない」

「そうなのか……。俺はてっきり、カルボが趣味でこんな世界にしたのかと思ったよ」

「いやぁ、私の趣味じゃないよ。この世界を創造する際に地球人類の願望を反映させたけどね」

「え……。じゃあこのファンタジーな世界って、地球人類の願望によるものなのか?」

「私のも多少は含まれてるけど、最初の幾人かの願望が強いね」


 そいつらはきっと、こういうファンタジー物が好きだったに違いない。


「あ、そうそう。キミが好きな変身ヒーロー物ってのも、見てみたよ。キミが見たがってた、夏の映画。なかなかおもしろいもんだねぇ」

「マジか……」


 あー、いいなー。俺、もう特撮、観れないんだよなー……。しょんぼり。

 と、肩を落としていたら、カルボが俺の頭の上に乗ってきた。


「おおぉっ!?」


 頭の中に夏の映画が流れ込んでくる。

 それは一瞬の出来事だったのに、不思議と映画一本観たときと同じような感覚だった。

 満足だ。俺は溜め息をついて、感慨に浸った。


「はぁ~」

「特別だよー」

「あ、あぁ。ありがとうな」

「ふふふ~。どういたしまして。ところで、キミの頭の中も覗かせてもらっていいかなぁ?どうしてたのか、見てみたいんだよね」

「……どぞ」


 前に覗かれちゃってるしいいや、と俺は頭をカルボに差し出した。


「あははは! へぇ~、凄い。おもしろいなぁ」

「そう?」

「うん。キミ、よくドラゴンを倒せたねぇ。あの炎の口の中に飛び込むなんて。でも、ああしなかったら死んでたと思うよ、キミ」


 マジですか。


「うん。一度でも掴まってたら、逃げれなかったんじゃない? それに、スライムも、あんな手で倒すなんてねぇ」

「なんか今になっておっかなくなってきたな……。あ、そうだ。スライムが記憶を奪うヤツ、あれって変身してても奪われるのか?」


 他の人より長く捕らわれてたけど、赤子化はしなかったんだよな。


「うん。ばぶばぶおぎゃーの刑にされるよ」


 マジですか。勝ててよかった。

 俺はぶるりと身震いをした。


「そういや、炎の剣の必殺技のブレイズフォースってどういう意味?」

「え、なんかカッコイイから付けたんだけど」

「…………意味ないの?」

「うん。でも必殺技っぽいでしょ? こういうの、好きでしょ?」

「ま、まぁ、否定はしないけど……」

「ふふーん、そうでしょう、そうでしょう。これ、シェイクスピアの悲劇、ジュリアス・シーザーの英文の一部を抜き取ったんだよね。blaze forthって必殺技の名前っぽいなー。キミが好きそうだなーって」


 う。そう言われると非難しづらいな。

 でも、やっぱり考えても名前に意味はなかったんだな。


「必殺技の名前ってカルボが付けてるのか?」

「私だけじゃないよ。キミや他の人の願望も入ってる」

「へぇ~……。しかし、できたら意味のあるカッコイイ名前付けてほしかったけどな」


 そう苦笑する俺に、カルボは「意味なんて後付けでいいじゃない。キミが意味を考えてみたら? そういうのも楽しいかもよ」と言ってきた。そうかもな。


「あ、それとさ。俺は、カルボがもしかしたら俺が活躍できる戦いの場を用意してくれてるのかも知れないって思ってたんだけど……」

「へ? えーっとね、この世界の戦場を選んでキミを復活させたのは私だよ。戦えそうなとこがいいと思ってね。だけどそれだけだよ。しかし今にして思うと変身ヒーローに人間同士の戦争の場ってのはそぐわなかったね、あはははは」

「……おまえ、人の頭の中を読んだ割には、適当だよな。しかし、そっか。やっぱカルボが用意してたわけじゃなかったんだな」

「うん。ああ、だからキミ、あんなに勇敢だったの?」

「いや、それはまぁ、変身ヒーローになったからには戦う以外の選択肢が自分の中になかったから……」

「へ~。でもそんなんじゃ無謀な戦いに挑んだら死んじゃうじゃない」

「そうかも知れない……。まぁ無謀だとわかってる戦いならしないと思うけど」

「どうかな~、キミは、例えば誰かを逃がすためなら囮になって戦っちゃいそうだけど」

「……俺もそう思うよ」

「でも逃がした後なら全力で逃げるんでしょ?」

「よくわかってるじゃん」


 ふたりで笑い合う。

 まったく変な話だ。少し前までは地球で大学生をやってた俺が、今はこうして異世界で変身ヒーローになっているなんて。

 今だに、どこか夢のように思える。


「じゃあ、そろそろ行くよ」

「あっ、待った!」

「何かな?」

「その、なんだ……。か、家族にアフターケア、頼めるか?」

「何したらいいの?」

「親父と妹にさ……。もし、俺のことでまだ落ち込んでたら、でいいんだ。もう会えないけど元気でやってるから、って。あと……幸せを願ってる、って」

「それくらいなら構わないけど……。キミ、死ぬときはあっけらかんとしてたけど、そういうの気にしてたんだねぇ」

「あのときは、死ぬしかないならもう仕方がないって思ってたしな。でも、やっぱりちょっと心配でな」

「了解。確かに承ったよ。私からも最後にひとつ、餞別を上げよう。じゃあね」


 カルボは出てきたときとは違い、ふっと消えた。

 と同時に、静止していた世界が動き出した。

 静寂から喧騒へ――。

 突然のことに立ち尽くしていた俺に気付いたリヴィオが、踵を返して戻ってくる。


「どうした?」

「いや……」

「露店街は初めてだったか? 物珍しい物は沢山あるだろうが、後にしてくれるか? 案内してやるから。私も疲れた。早く家に帰ってゆっくりしたいんだ」

「あ、ああ……」


 戦争を終えて、くたびれた色を出すリヴィオの表情を見ながらそう応じ、歩き出した俺はジーンズの左ポケットに違和感を感じた。

 中に何かが入っている。

 取り出して見ると、俺の大好物の市販品のお菓子である、ミルクチョコレートが出てきた。


「餞別ってこれか……」


 パワーアップアイテムでも貰えるのかと思った。

 カルボが俺の頭の中を読み取って、コイツをくれたんだろう。有り難く受け取っておくか。


 のちに、カルボに伝言を頼んだことであんなことになるとは、この時の俺は思いもしなかったのだった――。





「さっきから突然ニヤニヤと、一体どうした?」


 リヴィオが俺の顔を見て、怪訝な顔を見せる。

 いやー、そりゃあね。観れないと思ってた映画が急に観れちゃったわけで。その余韻でね。

 でも、ちょっと気持ち悪く見えちゃうかな。


「気持ち悪い?」


 聞いてみた。

 

「……そうやって聞いてくるのも、気持ち悪いな」


 ありがとうございます! いや、違う。俺は辛辣な言葉で快楽を得る、変態的趣向は残念ながら持ち合わせてはいない。

 

「後で話すよ」


 リヴィオには、カルボのことも話してあった。

 この世界を創造したなんて言うヤツの存在を言っていいものかどうか迷ったが。

 だが今は、映画の余韻を楽しみたい。


 そうしている間に、貴族たちの家が多く立ち並ぶ区域に入るための門を通り抜け、リヴィオの屋敷の外塀にまで辿り着いた。

 リヴィオの屋敷は、同じ区画にある建物の中では小さなほうだった。

 その屋敷の門前で、大男と、細身で長身の男が馬車から降りてくるのが見える。

 

「気を付けろ、ロゴー」


 小声でリヴィオが俺に囁きかける。馬車から降りたふたりとも、腰から剣を下げ、どこかただならぬ雰囲気を纏っていた。


「我が屋敷に、何用か?」

「んん? 我が屋敷と言ったな。ならば、貴女がリヴィオ・アンバレイか?」

「如何にも、そうだ」

「ほう……。男勝りに育てられたと聞いていたので、色気のない小生意気なガキかとでも思ったが……」


 筋骨隆々の大男は短く揃えられた顎髭を擦りながら、リヴィオをじっとりと眺め、そう言った。


「……何者だ? そなたは」

「決めた。お前を俺の嫁にしてやるぞ。リヴィオ・アンバレイよ」

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