表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オトギ生活 〜オッサンだけど異世界《トンデモナイトコロ》に来てしまった。どうしよう〜  作者: 風炉の丘
雄斗次郎の長い一日 第1章 オンボロ屋敷と薄幸母娘
9/126

1-8 管理人さんの食事が不味い

ああくそ! 土曜日うP、間に合わなかったぁぁぁ!!(><)

「すっ、すみませんっ! すみません!」


 突然、管理人さんが涙目で頭を下げる。おかしい。何故管理人さんは謝っているのだろう。

 スープを飲んだ私は、満面の笑顔で「美味しいです」って言ったはずだ。


「オトジくん、ヘンなかお〜」


 そう言うリナリアちゃんを見ると、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。なんてこったい。私も同じような顔をしていたのだ! バカバカバカッ このバカ正直者っ 私は優しい嘘すらつけないのかっ!

 ……考えてみたら、リナリアちゃんも一緒に食べていた。騙し仰せるわけがなかったのだ。むしろ嘘をついたことで、余計に傷つけてしまったかも……。


「じゃあ管理人さん。反省会……しましょうか……」


 格安の家賃が気に入って入居を決めたボルゴ屋敷だが、格安の理由は二つある。…いや違う。三つだったか。

 一つ目は超オンボロ屋敷で、大家が修理などを完全に放棄していること。

 二つ目はかつて国際的人身売買組織の拠点に使われ、犠牲者が出たという噂で敬遠されていること。

 三つ目は大家さんが管理人への給料を最小限に抑えたくて、雑用業務をオプション扱いにした事だ。


 私が元居た世界ガングワルドのように、利便性が追求されているならまだしも、オトギワルドで一人暮らしは容易いことではない。

 水道の蛇口なんて無いから、水が欲しければ水汲み場にまで汲みに行かねばならない。24時間営業の店なんて無いから、買い物したければ日が出ているうちに市場まで行くしかない。まともに毎日仕事をしている者なら、部屋の片付けや食事の用意をする暇なんて作れっこないのだ。

 一軒家を構えるくらい裕福なら、親兄弟と住むなり、身を固めて妻に家を守ってもらうなり、メイドを雇って身の回りの世話をお願いすれば良いだろう。それではボルゴ屋敷のようなアパートの下宿人の場合は? 管理人さんにお願いすることになる。つまりこれが雑務業務というわけだ。

 多くのアパートでは、雑務業務で発生する人件費は家賃に含まれている。管理人さんの給与もそれなりの額になるはずだ。ところがボルゴ屋敷には、下宿人が入居する見込みが全く無かった。そんな屋敷の管理をするだけで高い給料を払うなんてばかげている。そう考えた大家さんが、管理人さんに提示したのが、雑務業務のオプション化であった。


 大家さん曰く。「基本給は低いが、その代わり、オプション化した雑務業務で得られる収入は、全額貴方のもの」


 その言葉に乗せられた……というか、もとより選択肢の無かった管理人さんは、大家さんの提案を二つ返事で承諾。契約を交わし、辛い貧乏暮らしをリナリアちゃんと共に耐え続けてきた。


 私が何よりボルゴ屋敷を気に入ったのは、価格だった。全て自力で何とかする決意だったので、雑務業務を依頼する気など更々なかった。……のだが、その決意はあっさり揺らいでしまった。理由はもちろん、管理人さんとリナリアちゃんだ。

 私が雑務をお願いすることで、管理人さんの収入の足しになる。リナリアちゃんの食事が一品増えるのだ。そんなことを知ってしまったら、そりゃあお願いするしかないだろう。そんなわけで、入居して以来、管理人さんには部屋の掃除と食事の用意をお願いしている。地獄極楽オトギ生活の始まりだった。

 管理人さんの仕事は丁寧で、いつも一生懸命で、『美人』より『器量好し』という言葉が似合う。

 料理や洗濯、掃き掃除やモップがけをする姿につい見とれてしまう。ああ、働く女性は誠に美しい。

 だけど……心の中では、叫ばずにはいられない。


 管理人さんの料理が不味いんじゃぁぁぁぁぁっ!!!

 それはもう! あり得ないくらいにっ!


 いや、だけど、だけれども!

 管理人さんが一生懸命作ってくれた料理は! 断じて残せないんじゃぁぁぁっ!!!


 管理人さんの食事は断って、外食にでも切り替えれば、私の舌と胃袋は救済されるだろう。

 しかし!

 そんなことをしたら管理人さんの実入りが減ってしまうのだ。それだけは認められない。

 だから私は決めたのだ。


 この身が尽き果てようとも! 完食してみせるとっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ