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オトギ生活 〜オッサンだけど異世界《トンデモナイトコロ》に来てしまった。どうしよう〜  作者: 風炉の丘
雄斗次郎の長い一日 第1章 オンボロ屋敷と薄幸母娘
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1-7 合掌

■2016.3.17

そう言えば手を洗ってないじゃん! 病弱幼女が手を洗わずに食事とか、死に急いでるとしか思えん!! というわけで描写追加。これは脱線なんかじゃないんだからねっ

 最初にテーブルに並べられたのは、ホカホカと湯気の出る布巾だった。


「おかあさん、これなぁに?」

「おしぼりって言うのよ。オトジさんに教えていただいたの。これでお手々をキレイキレイにしてね」


 昨夜、管理人さんと食後の歓談を楽しんでいた時、何気なく飲食店で出されるおしぼりの話をしたところ、メッチャ食い付いてきた。おしぼりを温かくしたり、夏用に冷やしたりという発想に、とても感心していたようだった。それを早速実践してくるとは素晴らしい。

 ちなみに、日本におけるおしぼりの歴史は結構古くて、「古事記にも書いてある」かどうかは知らないが、それくらいの時代まで遡れるそうだ。


「リナのおてて、よごれてないけどな~」


 いや、めっちゃ汚れてるから! 私を起こす時にメッチャ顔を触りまくってたでしょ! 人の顔って結構雑菌とか付いてるものだから、そのままパンなんか食べようものなら、バイ菌が! オトジロー菌マンが暴れ回るからっ! ちゃんとバイバイ菌してちょーだいっ!


 私達が手を拭いている間に、テーブルには次々と料理が並べられてゆく。ブレッドバスケットに入れられた黒パンに、千切りキャベツのサラダ。それにヤギのミルクと、管理人さんが腕によりをかけた手作りスープだ。


 パインの木を薄くスライスして格子状に編み上げたブレッドバスケットには、好きなだけ取ってくれと言わんばかりに、黒パンが山積みになっていた。

 黒砂糖を入れても黒くなるが、これは小麦ではなくライ麦から作った本物の黒パン。おばあちゃんが堅くて食べづらいと嘆くことで有名なやつだ。え? 知らないって? まさか君! 子供の頃、ハイヂを観たことがないのか? だったら今からでも観るんだっ! 大人になって観ても面白いから!


 千切りキャベツのサラダには、半分にカットされたゆで卵とソーセージが添えられていた。独自の品種改良をしているので見た目は多少違うようだが、オトギワルドにも鶏や豚といった家畜は普通にいる。食品の加工方法も大体同じみたいだ。流石に生卵は食べられていないようだが。まああれは、世界的に見ても日本が特殊なんだろう。

 千切りキャベツは堅い所が取り除かれ、一筋一筋丁寧に切られていて、子供でも食べやすそうだ。良い仕事してますよ管理人さん!


 ヤギのミルクは臭みがあるものの、飲み慣れてしまえばどうって事は無い。むしろこの味が癖になってしまい、もう牛乳なんかには戻れない。


 そして取りを務める野菜スープは、主にトマトを使っていて、イタリア料理のミネストローネに似ている、もしくはそのものだと思われる。黒パンやソーセージ、ヤギのミルクなどは市場で買ってきたものだけど、これだけは管理人さんのお手製である。心して食さねば。


「お待たせしました。ゆっくり召し上がれ♪」

「いただきま〜す♪」


 合掌した私とリナリアちゃんは、舌鼓をうつのだった。


 余談だけど、ここでクイズだ!

 西洋風の建物、西洋風の朝食。そして金髪に青い瞳の美人親子。19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパや北アメリカを舞台にした児童文学を思い起こさせる食事シーンが、今まさに繰り広げられようとしている。だけど、何かが足りない。それは一体何だろう?

 答えは簡単。食事前のお祈りだ。お祈りの後の「アーメン」も無い。

 何故ならここにはキリスト教が広まっていないのだ。極めて酷似した宗教団体は存在するが、崇める神が全く違う。もし熱心な宣教師が布教に訪れたとしても、初日で泣きながら逃げ出すことだろう。なにしろ、オトギワルドには神々の存在を裏付ける証拠があちこちに転がっている。それが全て眉唾だったとしても、宗教団体には日常的に奇跡を起こせる超常者が溢れている。オトギワルドの人々が、奇跡すらろくに起こせないような宗教に、ハマる道理が無いのだ。


 合掌と言えば、本来は仏教によって日本に伝えられたインド古来の礼法なのだが、どうやら遙かな昔、次元のゲートを通して日本から野薔薇ノ王国へと伝えられたようだ。インドも日本も野薔薇ノ王国も、多神教国家と言う意味では共通している。だから文化的にも伝わりやすかったのだろう。


 オトギワルドは一見すると西洋風な異世界だ。なのに、どこか懐かしい。きっとそれは、思いがけない所に日本的価値観が根付いているからなのだと思う。

 オトギ生活を始めて一ヶ月。血湧き肉躍る荒事とは縁がないが、おかげさまで何気ない日常に興味が尽きず、興奮の毎日である。

 いや、ハァハァしてるって意味じゃないからな?

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