1-1 新しい朝 【8/21挿絵追加しました】
■2016.03.09
誤字や名称、言い回しなど、細かい修正を加えていますが、内容は変わっていませんです。
「オトジくんあさだよ〜。お~き~て~」
誰かが私を揺り動かしている。誰だ。私の眠りを妨げるのは何者だ。
まぶたを開くと、ベッドに横たわる私の傍らに、天使が立っていた。
金色に輝く髪、澄んだ青い瞳、雪のように白い肌、
ネグリジェ姿にカーディガンを羽織った、可愛らしい8歳の幼女……
「おはよう…天使ちゃん…」
「ち〜が〜う〜! リナ、てんしじゃな〜い〜!」
激怒した天使ちゃんにポカポカと叩かれる。ああ……ポカポカするなぁ……
あれ? 何か違うような…
ちっとも痛くない殴打のラッシュのおかげで、少しずつ頭が覚醒してゆく。
そうだった。この国では禁句なのだ。女の子を決して天使と呼んではいけない。
「ごめんごめん。リナちゃんは女神さまだったね」
「も〜〜。こんどだけだからねっ」
そう言うと、小っちゃな可愛い女神ちゃんは機嫌を直してくれた。
この国…野薔薇ノ王国の人々は、女神の子孫だと言われている。
対して天使は、異端の神の使いっ走りでしかない。
女神と天使では月とスッポン以上の差があるのだから、
格下扱いされれば、そりゃあ怒るに決まってる。
気をつけなくちゃいけないな。反省反省。
じゃ、おやすみ……
「だからオトジくん! ねむっちゃダメだってばぁ〜!」
突然胸元が押しつけられ、息苦しさで意識が戻る。
何事かと思い目を開くと、小っちゃな可愛い女神ちゃんが馬乗りになっていた。
こっこれはっ…格闘技で言うところのマウントポジション!?
ヤメテッ! 顔だけはヤメテッ! アッチョンブリケはイヤァァ!!
しかし女神ちゃんは容赦ない。キャッキャと笑いながら、私を変顔にして弄んで喜んでいる。
観念した私は、女神ちゃんが転げ落ちないよう抱きかかえながら上半身を起こすのだった。
「オトジくんおはよっ。めはさめた?」
「どうかなぁ…まだ夢の中なのかも。リナちゃんみたいに可愛い子と友達になれるなんて、あっちの世界じゃあり得ないし」
「リナはげんじつだよ。オトジくんもげんじつ。だからオトジくん、おしごといくんでしょ?」
「あははははっ。お仕事かぁ。そりゃあ確かに逃れられない現実だなぁ」
小っちゃな可愛い女神ちゃんなリナリアも、私の笑顔につられて無邪気に微笑んだ。
そうだ。私はこの笑顔を護りたくて、この地に留まると決めたのだ。
彼女がお母さんと住む超オンボロアパートである、このボルゴ屋敷に。
おとぎ話の『眠り姫』を始祖に持つ、この野薔薇ノ王国に。
剣と魔法と古の神々が今なお存在し続ける、異世界オトギワルドに。
さあ! 今日も一日、オトギ生活を始めるとしよう。