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0-0 マヨイビト、ガングビト

序章を思いついたので、始めての割り込み投稿。上手くいくかどきどきです。

■2016/5/4

大幅に加筆しました。

「ようこそ迷えるガングビト。野薔薇ノ王国は貴方を歓迎いたします」

「ガングビト? ガングビトとはなんですか? 私は日本人なのですが…」

「私達は貴方のいた世界をガングワルドと呼んでおります。貴方はガングワルドに住まう人。つまり日本国に住むガングビトというわけです」

「はあ。すると……あなたは?」

「この世界はオトギワルドと呼ばれています。私はオトギワルドに住まう人ですから、野薔薇ノ王国に住むオトギビトというわけですね」

「あの…、それってつまり、その……。私は夢を見ているのでしょうか?」

「ははははっ、現実逃避はやめましょう。端から見ても痛々しいですし、話が進みません」

「ははははっ、そうですよね。そう……なんですけどね」


 私に応対する青年は、この国の政府高官らしい。名前をアルビン。歳は二十歳くらいだろうか。

 私は曖昧な返事をしながら部屋を見渡した。アルビン氏の服飾や調度品の数々は、19世紀頃の西洋文化を思い起こさせる。やはりここは日本ではないらしい。

 窓から外を見ると、多くの建築物が並ぶ先に巨大な壁が見え、かなり大きな城郭都市だと分かる。これほど大きな城郭都市はヨーロッパにだって無いはず。

 天井を見上げた時、奇妙なことに気付いた。部屋は明るいのに、照明らしきものがどこにも見あたらないのだ。こんなこと、物理科学で可能なのか?

 それに気付いたアルビン氏が、パチンと指を鳴らす。すると部屋は暗くなり、窓から入る自然光だけになった。アルビン氏がもう一度指を鳴らすと、再び部屋が明るくなる。


「魔法科学の応用ですよ。空気の分子の一つ一つを輝かせることで、部屋の照明にしています。ガングワルドの便利な道具には到底及びませんが、魔道士達の研究によって魔法科学は今、飛躍的に発展しているところです」

「やっぱり夢を見ているんじゃ……」

「お望みでしたら、私が頬をつねってさし上げますよ♪」

「いやっ! 男はノーサンキューで!」

「女性がお好みでしたか。それは良かった♪ オハジキさん、来てください」


 すると隣の部屋に続くドアがガチャリと開く。現れたのは左の前髪をたらした黒衣の眼鏡美女だった。アルビン氏の秘書だろうか。


「オハジキさん。ガングビトのお客人は夢か現か確かめたいそうです。ほっぺたをつねってさし上げてください」

「かしこまりました」

「いや、別に確かめたいわけでは…ないの……です…が………えっと……あの……」


 綺麗な秘書さんが1歩1歩近寄って来る度に、私は目が離せなくなってゆく。ただ美人というだけなら、キラキラと眩しく輝くものが苦手な私だ。むしろ目を逸らしていただろう。彼女には私の心を魅了して離さない何かがあるのだ。


「それでは、失礼いたします」

「は、はい…」


 側まで来た秘書さんは、優しい笑顔をたたえながら、私の頬を指先で触れ、皮膚を挟んで軽くひねった。それは彼女にしてみれば、本当に軽くつねっただけなのだ。

 だけど私にとっては逆だった。天国から一気に地獄にたたき落とされたような強烈な激痛が、私の頬から体中に走ったのだ。


「オハジキさんは我が王国の特務エージェントでして。本日は私の護衛として隣部屋に控えておりました。手加減はしてくれていると思いますけど、いかがですか? 夢ではないと分かっていただけたでしょうか?」

「わかりまひたっ! わかりまひたからっ! もうかんべんひてくらさいっ!!」


 するとオハジキさんは、私を解放し、一礼すると再び部屋に戻った。

 嗚呼、なんてこったい。ヒリヒリするこの傷み、本物だ。

 だけど………


「アルビンさん! やっぱりこれって夢でしょ!」

「は? いやいや、何をおっしゃってるんですか? それでしたら頬の傷みはどう説明されるのです?」

「ほっぺたは今でもメッチャ痛いですよ! それこそ泣きそうなくらい痛いです! だけどですね! あり得ないんですよ! あんな美人にほっぺたをつねられるなんて!

 森を彷徨っていた私を捕まえた剣士の女の子、いたじゃないですか。粗暴で化粧っ気もないボーイッシュな子でしたけど、ちょっとお洒落すれば途端に魅力的なレディになるようなダイヤの原石でしたよ!

 馬車で護送されている時に車窓から見かけた街の女性達だってですよ? 老いも若きも揃いも揃って美人か美少女ばかりじゃないですかっ!!

 一体どうなっているんですか! これが現実だって? あり得ませんよ! 夢じゃないなら一体何です! 天国ですか!? もしかして私はとっくに死んでいて、天国に迷い込んでしまったんですか!?」


 私は、まくし立てるように思いの内をぶちまけて、我に返った。一体何を言ってるんだ。ワシ、ハズカシイ…

 呆気にとられていたアルビン氏だったが、突然笑い始める。まあ、笑われて当然だよなぁ


「貴方はとても面白い方ですね♪」

「……よく言われます」

「考えてみれば、この世界が夢か現かなんて、どうでも良いことかもしれません。重要なのは、貴方がこの世界にいるという事実です。その点はご理解していただけますよね?」

「ええ、それはまあ……」

「ここで貴方には、二つの選択肢ができました。一つは、元いた世界ガングワルドに戻るという選択。もう一つは、この世界オトギワルドに留まるという選択です」

「元の世界に戻れるんですか!?」

「今すぐというわけにはいきませんが、戻れますよ。ただし、二つの世界を結ぶ異次元の門は不安定で、どこに開くか分かりません。一ヶ月くらい待っていただくことに。その間の生活は我が王国で保証いたしますので、ご心配なく」


 そう言われて、ホッと胸をなで下ろす。そうか。私は戻れるんだ。

 生まれ育った故郷に…。そして、何も成し遂げられなかったあの世界に……。

 私は、本当に帰りたいのかな………


 突然、ノックの音が聞こえると、隣部屋に控えていた美人秘書……じゃなくて、美人エージェントだったか。オハジキさんが再び現れ、アルビン氏に書類を届けると、そっと耳打ちする。

 そう言えば彼女は何をしているんだ? アルビン氏の護衛なら、常にアルビン氏の側にいないとまずいんじゃないのか? 隣の部屋で何かをしていたとしたら、それは一体何だろう?


「オトジローさん。……そうお呼びしてもかまいませんか?」

「は、はい。なんでしょうか、アルビンさん」

「調書によりますと、オトジローさんは読み書きが出来、肉体及び性癖の健全な男子であり、しかも独り身でいらっしゃる。間違いありませんか?」

「あの……アルビンさん、大体合ってますけど、健全な性癖とはどういう意味でしょう?」

「具体的に申しますとホモォであるか否か、と言うことです」

「健全です! チョ~健全ですっ!」

「それは良かった。もし不健全でしたら、私はこの部屋から全力疾走で逃げ出していましたよ。

 それはそれとしまして……私共が最も重視していますのは、最後のこの1点です。

 貴方はDV男ではない」


 そう言われて、私は少し苛立った。


「当たり前でしょう! 無抵抗の女性を殴るようなクズなんて、この世から全員消し去りたいくらいだ!

 ………すみません。口が過ぎました。とにかく、それくらいDV野郎が嫌いなんです」

「安心しましたよオトジローさん。心強い限りです。やはり貴方は我が王国に必要な人材だ。願わくは、このまま留まっていただきたい。そう切に望みます」

「はい?」


 私はアルビン氏が何を言っているのか分からなかった。多少過激だったけど、常識的な発言をしただけだよね?


「少し我が王国についてお話ししましょう。

 伝承によりますと、野薔薇ノ王国の民は女神の子孫なのだそうです。真相は定かではありませんが、確かに我が国には魅力的な女性が多い。その点はオトジローさんも把握していますね?

 そのおかげで、古の時代から我が国の民は奴隷商人に付け狙われ、幾度となく奴隷狩りの襲撃に遭ってきました。もちろん我が国は戦いました。撃退、反撃、逆襲、暗殺、そして救出。民を守るために、なりふり構わず何でもやりました。

 ですが、さらわれた娘を救出できても、大半の娘はDV被害で心を壊されていました。回復魔法は身体の傷は癒しますが、心の傷までは癒してくれませんからね…。結果的に、奴隷商人や奴隷狩りの撃滅は国是となりました。更にDV男に対して激しい憎悪と嫌悪感を抱くようになり、発見次第国外へ追放するようになりました。

 奴隷狩りとの戦いによる殉職者と、DV男の排除。更に我が王国の出生性比率は特殊で、女児100人に対し男児97人と、男児がやや少ない。

 様々な要素が合わさった結果、我が王国は慢性的な男不足に悩まされています。

 つまり、貴方がDV男ではないという事実が、それこそが我が王国にとり最も大事な事なのですよ」

「あの…アルビンさん。それってもしかして……この国の娘さんと結婚しろってことですか?」

「そうしていただけると、とても嬉しいのですが……縁や相性もありますからね。無理強いはいたしません。

 帰るのも留まるのも、妻をめとるのも独り身を貫くのも、オトジローさん次第です♪」


 結婚? 妻をめとる? 空気嫁ではなくリアル嫁を? 私のような甲斐性無しが? 

 これまで考えもしなかった可能性を突き付けられ、私は非常に混乱していた。

 そ、そうだ! 仕事はどうするんだ? ろくな稼ぎもないのに嫁が取れるのか?


「私はこの国で何をすればいいのですか?」

「犯罪以外でしたら何をされてもかまいませんが……。そうですね、せっかくですし……」


「ハーレム作り…なんていかがでしょう?」


 アルビン氏の思いがけない提案に、私は凍り付き、そしてテンパッた。


「な、な、な、何言ってらっしゃるですか! そんなこと倫理的に無理に決まってるじゃないですかっ!」

「実はですね、我が王国では合法なんですよ♪ 慢性的な男不足を解決する方法として、お墨付きを出しました。ですからオトジローさん、遠慮なく娘達を口説き落としちゃってください♪」

「いやいやいや! 確かに私、女の子は好きです! 大好きですけども! 同時に致命的な引き籠もり体質なんですよ! 見知らぬ女の子に声をかけるだけでも大変なのに、口説くとか絶対無理です! 無茶振りですってば!」

「はははっ。もちろん強制なんていたしません。いたしませんよ。いたしませんとも…」


 満面のほほえみを浮かべるアルビン氏とオハジキさん。しかしその目は……切実だった!

 ああああああ!! やめてください! すがるような目で私を見ないでください!

 私のお人好しメンタルを刺激しないでください!!

 人助けになるのなら力になりたいですけど、こればっかりは無理ですよ〜〜〜〜!!!


 私は、私はどうすればいいんだぁぁぁ!!

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