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華琳さんの祭り箱  作者: 黒崎黒子
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次代の成長と歩み


ここは魏領の中に設けられた演習場である。


広大な平野であり、いつもは、兵士の調練のために解放されている場所だが、今日は熱気溢れる大観衆で埋め尽くされていた。


だが、それも、仕方の無いこと。


今日は大陸全土で大人気のアイドルユニット「数え役萬☆姉妹」(かぞえやくまん・しすたぁず)のサイン会が行われているのだ。


「相変わらずの大盛況ぶりね。彼らの執念は何処から来るのかしら・・・。見習いたいものだわ。」


「あはは・・・。やっぱり、大陸一のあいどるですから。なにより、この後の新曲発表は、みんな、大変に待ち望んでいたものでしょうしね。」


「うぅー・・・!どんな曲だろー!早く、聞きたいなぁ!」


長蛇の列に並ぶ華琳が、少し遠くに見える先頭を眺めながら少し引き気味で苦笑する。


華琳の隣には、此度も護衛として季衣と流琉が来ていた。

両手には武器と一緒に応援グッズも持参している。

傍から見れば、何をしにきた人か分からない状態だ。


今回は重役特権は使わず、ファンと同じ目線で見てみたいという華琳の希望でこの列に並んでいるのだが、華琳たちが到着したのは整列が始まってしばらく経っていたために、最後尾とは行かないまでも少し後方よりになってしまっている。


「華琳様、お身体は大丈夫ですか?まだ、時間がかかりそうですが。」


「えぇ。これくらい大丈夫よ。待つのは慣れているもの、昔から。」


と、イベントの案内係を見ながら微笑む。

何のことか分かっている二人も同意するように苦笑しながら頷いた。


「列は少しずつですが、進んでいるようですね。これなら、三刻程で三人の前に行けそうです。」


「辛くなったら言ってくださいね、華琳様!ボク、椅子を持ってきますから。」


「ふふ・・・。ありがとう。まぁ、三刻程度なら大丈夫でしょう。」


季衣と流琉は、華琳と周囲の様子を確認しながら、慎重に歩を進めていく。


「は~い!ここは、数え役満☆姉妹サイン会の列なの~!みんな、行儀よく並ぶの~!」


「列を乱さないように!そこ!はみ出しているぞ!早く列に戻らなければ、最後尾に並び直させるからな!」


「まぁまぁ、落ち着けや、凪ー。今日は三人の久々のイベントなんやから、無事に終わらせな、隊長に迷惑が・・・な!?お前らあぁー!!なに、どさくさ紛れて、ウチの尻触っとんねん!?」


遠くから、北郷隊の三羽烏の声が聞こえてくる。


「すごいよね、兄ちゃんの隊って。本当にどこにでもいるよね。」


「そうだね。街の警備は兄様の隊が実行してるしね。」


「・・・よくよく考えてみると、本当に一刀って、色々やってるわよね。」


三国の象徴、天の御使い、警備隊隊長。実際に街を警邏する姿も見た事はあるし、兵の調練も手伝っていると聞く。さらに、三国の御意見番として、軍師のように働いているし、街では民の人心掌握のために西から東へ走り回り、三国の皆への不平不満を漏らさず汲み取り、対処していく。そして、数え役満☆姉妹の顧問もやっており、此度のイベントの計画にも大きく携わっていた。


「あはは・・・。ダメだ。兄ちゃんが休んでるところが想像出来ないや。」


「兄様・・・。お身体は大丈夫でしょうか。あまりご無理をされると、倒れられるかもしれませんね・・・。」


「そうね。近々、大型の休暇を出しましょう。治安も落ちつているし、一刀が居なくても大丈夫だという環境も、作って置かないと後々大変になるものね。」


二人の言葉に頷くと、華琳は頭の予定表にしっかりと書き残しておく。


「ということは、いよいよ、あの計画が動き出すんですね!」


「えぇ。三国の未来のためには、これこそが最善策という結論に至ったわ。今は、三国で計画の調整中よ。だから一刀には、具体案が整うまでの間、もう少し踏ん張ってもらわないとね。」


「あー。なんか、寂しくなってきちゃったな・・・。」


季衣が珍しく、少ししんみりとした空気で、忙しなく動き回る北郷隊を見つめる。


「まぁ、まだ先の話よ。でも、そう遠くない未来でもあるわ。だからこそ、今のうちに、やれる事はやっておきなさい。張三姉妹のように、仕事を理由に一緒に過ごしてもいいわ。少しでも同じ時を過ごせるように、私たちから歩み寄ってあげないと。」


あの朴念仁は手強いわよ、と穏やかな笑みを浮べながら、華琳は二人の頭を撫でる。


「華琳様は、何だかんだで、一緒にいる時間が昔に比べて長くなりましたよね?」


「こ、こら、季衣!そんなこと言わないの!華琳様、すみません。」


「ふふ。いいのよ。確かに事実だもの。私も彼との時間を可能な限り増やしていきたいと思っている一人よ。だから、あなたたちとも、一刀の時間を奪い合う好敵手になるわね。この戦場では、王だろうと家臣だろうと関係ないわ。お互い遠慮はなしよ、いいかしら?」


「「はい!負けません!」」


「ふふ・・・結構。手強い好敵手の方が、勝った時には何倍も嬉しいものだもの。」


華琳はクスクスと微笑むと、二人の健闘を願いながら歩を進める。


「こらー!いい加減にするの!この○○○どもー!いい加減、列を乱すようなら、その粗末な□□を△して☆してやるの!」


「お前ら、この私に楯突くとはいい度胸だ!そこに、並べ!私が直々に、引導を渡してやろう!」


「おどれら!ちっとわ、ウチらの言うこと聞かんかい!引き摺り回すで、おどれ!あぁ!?ウチのカラクリ一刀くんの実験台にすんぞ!ゴルァ!」


遥か後方で、ゴロツキ紛いの警備隊が、叫びをあげている。

いよいよ、堪忍袋の緒が切れかけているようだ。


「うわぁ。すごいね、凪姉ちゃんたち。もう、限界近いんじゃない?」


「うん・・・。少し、手伝って来た方がいいかな?」


「ふふ。これは、祭りなのでしょう?なら、あれぐらい元気があった方が、活気があっていいじゃない。大丈夫よ。さすがに、命までは・・・。」


と、華琳がそこまで言って振り返った時だった。


“ドゴーーン!!!”


列から少し外れたところで轟音が響き渡る。


どうやら、凪の気弾か真桜の発明が、暴発したらしい。


「って、思いっきり取りかけてるじゃない!」


目を丸め、華琳は叫びをあげる。三人を注意しようと、踏み出したその時、華琳の前に出る者たちがいた。


「お任せ下さい、華琳様。私たちがここは収めて来ますから。」


「はい!華琳様の親衛隊として、バシッ!と決めて来ますから!」


華琳様直属の親衛隊。次代の夏候姉妹と名高い季衣と流琉だった。


「そうね・・・分かったわ。二人に命ずる!迅速にこの場を治めてきなさい!」


「「御意!」」


華琳様の号令で、二人は武器を手に駆け出した。


二人が介入してすぐ、暴動に発展しかけていた騒動は瞬く間に、鎮圧される。


驚くことに、武器を振るわれることは一切無かった。


「すーっ・・・静まれ!!我は魏王の親衛隊、許猪なり!」


「我は魏王の親衛隊、典韋なり!この会場は我らが王、曹孟徳様のご意向により、貸し与えられたものである。これ以上の狼藉は我らが王への反乱と見倣し、即刻、投獄されるであろう。」


「後に、暁を覚えたくば、速やかに、列を正し」


「「大人しく、その時を待ちなさい!」」


幼い見た目とは裏腹に、二人から発せられる威圧感だけで、その場は次第に沈静化の一途を辿っていったのだ。


「華琳様!終わりました!」


「意外と簡単で、良かったー!」


「ふふ・・・!二人とも、よくやったわ。お疲れ様。」


華琳は微笑みを浮べ、見事、騒動を沈静化した二人を出迎える。


「次代の夏候姉妹か・・・。たしかに、昔のふたりにそっくりね。ふふ・・・。」


昔を懐かしむように二人を見ると、華琳は目を細めてほくそ笑む。


「えー!ボクたち、春蘭様たちにそっくりだったんですか?じゃあ、あんな風に、ボクも恰好良くなれるかな?」


夏候姉妹の姉、夏候敦に憧れる季衣。


「私も秋蘭様のように、素敵な女性になれるでしょうか?」


夏候姉妹の妹、夏候淵に憧れる流琉。


二人の間に成長した姿を想像し、華琳はほくそ笑むと、未来に思いを馳せる。


「さぁ、どうでしょうね?それは、あなたたちの努力次第でしょう。それによっては、もっと、素敵な女性になるかもしれないわよ?」


きっとその頃には、このお腹の子もその場に立っているのだろう。


その時には、魏はどうなっているのだろう。

三国同盟は上手く機能しているのだろうか。

気掛かりはあるが同時に楽しみで仕方なかった。


昔話に花を咲かせながら、華琳様たちはいつまで続く列を歩んで行く・・・。

























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