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第1話 水辺の少女

 甲高い鳴き声が、森の中に響き渡る。

 カラスにトサカを乗せたような、奇妙な姿。その大きさは、クジャクやダチョウほどもある。

 もがくように飛ぶ怪鳥の背中から剣を引き抜き、ティアナはひらりと地面へ飛び降りる。


 耕平はその横に静かに佇み、怪鳥を見つめていた。

 鮮明なるイメージ。それが、耕平の力の根源だ。まるで絵を描くように、目の前の空間に新たなる物を創造する。


 空中に現れたのは、一本の大きく太い串。

 木で作られたその串に貫かれ、怪鳥は地面に落ちて動かなくなった。


「うわあ……串刺し……」


 剣に着いた血を振り払いながら、ティアナが上ずった声を上げた。


「け、剣で刺すのも似たようなものだろ! 仕方ないじゃないか、焼き鳥食べたいなーとか思ったらこうなっちゃったんだから」

「ヤキトリ?」

「一口サイズにした鶏肉を串に刺して焼いた食べ物だよ。塩なり、タレなりを付けて食べるんだ」


 話をしながら、ティアナの表情がみるみる輝いていくのが分かった。


「私も食べたい! コーヘイ、作れる?」

「魔法も使えば、たぶん何とか……」

「やったー!」


 ティアナは両手を挙げて喜ぶ。


「やっきとりーっ、やっきとりーっ」


 息絶えた怪鳥を抱え、耕平は道の脇にある林へと入る。

 両腕をパタパタと上下に動かしながら、ティアナは耕平の後をついて来た。


 道からあまり離れない所で二人は木々の間に下草のない空間を見つけた。

 耕平は怪鳥を地面に置き、調理に取り掛かる。料理なんて滅多にせず、親がいなければいつもカップ麺や冷凍食品ばかりだが、耕平にはこの力があるのだ。思い描いたものをそのまま具現化する力が。

 この鳥が、鶏と同じ味かどうかの保証はないが……。


 宙に複数のナイフを出現させ、肉を切り刻む。魔法なしで解体しようとしたら、こうはいかないだろう。

 それでも羽やら骨やら筋やらが多く、何とか食べ物らしくするのに一苦労だった。ティアナは暇を持て余し、「ちょっと水を探してくる」と行って出かけて行った。


 火を起こし、一口大になった肉を串に刺して焼く。

 怪鳥の肉は厚く、脂も乗っている。生肉の見た目だけだと鶏肉というよりも、牛に近かった。


「よし、あとちょっとだな。――おーい、ティアナー!」


 大声で呼ぶが、返事はない。


「あいつ、どこまで行ったんだ?」


 念のためまだ全く焼けていない面を火の方へ向け、耕平は火元を離れてティアナを探し歩いた。


 この世界の森には、魔物が棲んでいる。

 多くの魔物は知性が低く、普通の動物を何種類か混ぜ合わせて少し攻撃的にした程度だ。魔法や剣を使える耕平やティアナの敵ではない。それともまさか、またヤマガミのような少し手強い敵が現れたのだろうか。


「ティアナー! どこに……うわっ!?」


 唐突に足元がなくなり、耕平は短い悲鳴を上げる。

 下草かと思われたそれは崖から伸びて絡まっただけのもので、その下に地面はなく崖になっていた。何かに捕まるような間もなく、急な斜面を転げ落ちる。


 激しい水音を立て、耕平は水の中に落ちた。

 幸い浅瀬で、立ち上がれば腰の辺りまでしか水はなかった。


「下が川で助かっ……」


 ぼやきながら辺りを見回し、耕平の言葉は途切れた。

 川に入っているのは、耕平一人ではなかった。


 珠のような白い肌。張りのある豊満な胸。首筋から胸の前へと流れ落ちるのは、濡れそばった栗色の髪。

 ハシバミ色の瞳は大きく見開かれている。

 滴る水が、柔らかそうな曲線を描く腕や腰を伝って行く。


 沈黙は長くは続かなかった。


「きゃああああ!! な、なんでコーヘイがここにいるの!?」


 胸を腕で隠し、水の中にしゃがみ込みながらティアナは叫ぶ。

 川の水は清く澄んでいて、遮蔽物の代わりにはなっていなかった。


「な、なんでって、戻って来ないから探して……! ティ、ティアナこそなんで裸なんだよ!?」

「だって、血を浴びたから食べる前に流そうと思って……! い、いいからもう、こっち見ないでぇ!」

「ご、ごめん」


 耕平は慌てて崖の方を向いた。

 バシャバシャと水音が遠ざかって行く。




 ふと、目の前にある崖の上に人影が現れた。

 二人、三人、四、五、六……木々の間からわらわらと現れた男達は、耕平を見つけるなり崖を飛び降りて来た。彼らの手元に握られたナイフが、陽の光を浴びてキラリと光る。


 耕平は息をのみ、振り返る。

 ティアナはまだ岸にたどり着いていなかった。崖の上からは張り出した木の枝で死角になっているが、川へと着水したらすぐにティアナの姿も目に入るだろう。


 一瞬の内に、ティアナは白いワンピースを着た姿になる。何の飾り気もない、濡れても透けない程度には厚手の真っ白なワンピース。


「えっ、やだ、まだこっち見ちゃ……!」


 慌てて振り返ったティアナの言葉が途切れる。


 抵抗する間もなく、耕平は取り押さえられる。

 降りて来た男達はティアナにも気付いた。水浴びをしていたのだから、もちろん武器は持っていない。


「やっ、何よあなた達! ちょっと、どこ触ってんのよ!? 放して!」

「ポーションとコインが少々……おい、こいつ、剣まで持ってるぜ!」


 羽交い締めにされた耕平の腰やポケットの中を改めていた男は、ピューっと短く口笛を吹く。


「おい、ネコババするなよ。全部まとめてお頭の所へ持って行くんだから」

「わかってるよ。ほら、歩け」


 耕平とティアナはなす術もなく、山賊達に引きずられて行った。

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