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勇者は俺!魔王も俺!?-世界転生!底辺ぼっちからの離脱-  作者: 上井椎
第4章 もう一人の女剣士!? 犬猿の幼馴染
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第1話 騎士の街の少女

 緑深まる森の中、毒々しい赤色の巨体があった。姿は、まるでサソリのよう。しかしその全長は、二メートルはありそうだ。


 サソリ型の魔物は、尾の先にある毒針をティアナへと振り下ろす。ティアナは軽いステップでそれを避け、その固い身体に剣を突き刺す。

 サソリは暴れ、尾をメチャクチャに振るう。

 ティアナは剣をサソリの身体から抜き、舞うように毒針を避ける。


 大きなハサミが空中に現れた。耕平が幼い頃から慣れ親しんでいる、一般的な工作ハサミだ。

 ハサミはジャキンとサソリの尾を切り落とす。


「コーヘイ、ナイス!」


 ティアナは「待ってました」とばかりに態勢を立て直すと、サソリの頭を剣で切り落とした。サソリは頭がなくなってもしばらくジタバタしていたが、やがて動かなくなった。

 耕平は、息切れしながらもティアナへと駆け寄って行く。


「何も、逃げる魔物を追い駆けてまで倒さなくてもいいだろ……! しかも相手は毒を持ってるのに、一人で正面突撃して、刺されたらどうする気だよ……!」

「当たらなければ、どうと言う事はない!」


 ティアナは某大佐を彷彿とさせるような事を言って、得意げに胸を張る。事実、ざっと見たところティアナはどこにも傷を負ってないようだった。


「だって、エビよ、エビ! 美味しそうじゃない。リナ達を送るついでに家で休んでから、もう一週間もまともな食事をとってないのよ? 持って来たパンばかりで。そろそろ何か他のものが欲しいじゃない。お金だけあっても、町に着かなきゃお店もないし」

「いや……色はそうだけど、これ、エビじゃなくてサソリだと思うぞ……」

「えっ、ウソ!? サソリってどんな味?」

「さあ……食用もあるって、話になら聞いた事はあるけど……」


 正直、耕平は遠慮したい。


「勇者様、お怪我を……」


 耕平のさらに後から走って来ていたイリサが追いつき、耕平の手を取る。手の平の皮が擦れたように剥け、血がにじんでいた。


「あ、ああ、さっき転んだから……」

「ア・ドーウィン・トーィル・メー・ハーリン・ソーラス」


 イリサは耕平の手を両手で包み込み、唱える。青い光がぽうっと灯り、消える。イリサが手を放せば、耕平の傷も消えていた。


「ありがとう、イリサ」


 言いながら、耕平はサソリを避けるべく、イリサと共に街道の方へと戻る。

 ティアナも、口を尖らせながら、耕平とイリサの後へついてきた。


「せーっかく、パン以外のものが食べられると思ったのにーっ」

「わざわざあんな魔物を食べなくても、その望みはすぐ叶いそうだぞ」


 耕平は言って、道の先を指さした。

 前回の街とは違って、塀も低く立派な門もない。入口に、扉のない高いアーチがあるだけだ。アーチの向こうに見える通りには、小ぢんまりとした可愛らしい装飾の家々が立ち並んでいる。

 それは、次の町に他ならなかった。


「やったーっ! 私、シチュー食べたい!」


 ティアナは飛び跳ね、軽やかな足取りでアーチをくぐって行く。あれだけ走って戦って、よくもこんなに体力があるものだ。

 耕平とイリサもティアナの後を追うようにして、小さな町へと入って行った。


 広い通りを、両端に並ぶ店を物色しながら歩く。

 森の中にあるだけあって、旅人の立ち寄りも少なくないのだろう。剣や弓、薬にマントなど、旅をする者達に向けた商品を扱う店が多い。

 武器屋と思しき店のショーウィンドウに飾られた大剣に耕平は強く心を惹かれたが、何とか購入を踏みとどまった。耕平のメイン能力は魔法だ。立派な剣を持っても、宝の持ち腐れになってしまう可能性が高い。


「ティアナは、新しい剣とか欲しくないか? 剣って、使い続けていると錆とか刃こぼれとかあるんだろ?」

「大丈夫よ。この剣、そんなヤワじゃないから」


 そう言って、ティアナは腰に下げた細い剣を抜く。陽の光を浴びて白く輝く刀身には、確かに一片の錆も曇りも見られなかった。


「おおっ。お嬢さん、なかなか良い剣を持ってるね」


 下げ看板を手に店から出て来た店員が、ティアナの剣に目を留めて言った。


「お嬢さんは、もしかして騎士の街の人かな?」

「いえ、私は違います。これは、友達にもらった物で……」

「あれ、閉店するんですか?」


 店員の手にある下げ看板に「CLOSE」の文字があるのを見て、耕平は問う。


「いやあ、今日はもう誰も来ないと思っていたもんでね。剣士は皆、広場の大会を見に行ってしまって」

「大会?」


 店員はうなずく。


「教会の前にある広場で、剣技の大会をやっているんだよ。騎士の街から来た参加者が、見事な腕っぷしらしくてねぇ」


 道行く人々は、皆、どこか同じ場所へ向かっているようだった。彼らは、広場の方へと向かっていたようだ。


「剣の大会……ね、ね、私達も見に行こうよ」


 ティアナはわくわく顔で耕平とイリサを振り返る。


「いいけど、飯は?」

「パン以外のものが食べたかったってだけで、まだそんなにお腹空いてないし、大丈夫! あ、それとも二人、お腹空いた?」

「いや、別に平気だけど……」

「イリサも問題ありません」

「ちょっとしたイベントだからねえ。広場へ行けば、屋台やなんかも出ていると思うよ」


 店員が口をはさむ。

 なるほど、それなら昼食の心配もなさそうだ。三人は店員に道を聞き、教会前の広場へと向かった。




 広場は、大勢の観客でごった返していた。


「うーっ、見えないーっ」


 人垣の後ろで、ティアナはぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 わあっと歓声が上がる。現在行われていた勝負の決着がついたらしい。人垣が動き、ちらほらと帰る者が現れ始める。


「……もしかして、今のが最後だったのかな」

「えーっ」


 表彰が行われるようだ。とりあえず勝者だけでも見ておこうと、耕平達は人がいなくなった隙間を縫って前へと進む。


「いやあ、たまたま立ち寄った町で、あんな試合が見られるなんてなあ」

「すごかったよな。あんなに小さいのに、自分より大きな相手を次々と負かして……」


 周囲の話し声に、ティアナは耳をふさぐ。


「何やってんだ?」

「だって、見られなかったの悔しくなるもん」

「では、優勝者にお手合わせを申し込んでみては?」

「なるほど、その手があったわね」

「え、マジで……?」


 耕平、ティアナ、イリサの三人は、前の方へとやって来て足を止める。

 試合は地面だったが、表彰は壇上で行われるようだ。ならば、この辺りでも十分に見える。


 優勝者が壇上へと上がる。金髪碧眼の、小柄な女の子だった。服装も黒いリボンがあしらわれた黄色いドレスで、とても戦う格好とは思えない。

 少女の釣り目が、ふとこちらに向けられた。そして彼女は、耕平の方を指さした。


「あ~っ!」


 一瞬どきりとしたが、彼女が指さしているのは耕平ではなかった。隣でも、同じように壇上を指さし大声を上げている少女がいた。


「ティアナ!?」

「ヴェロニカ!?」


 ティアナと金髪の少女は、互いの存在に驚いたように叫んだ。


「どうしてあなたがここにいますの!?」


 楯の受け取りもそっちのけで、ヴェロニカは檀上から飛び降りティアナの前へと駆けて来る。


「ティアナ、知り合いか?」


 耕平は、ティアナに耳打ちする。

 ティアナはこくんとうなずいた。


「ヴェロニカ……幼馴染なの」


 ヴェロニカはティアナの前まで来ると、乏しい胸をそらせ見下すような笑みを浮かべた。


「もしかして、大会に出ていましたの? 私と当たる事なく敗れてしまわれるなんて、ガッカリですわね」

「大会になんて出てないわよ。私達、さっきここへ来たところなんだもの」


 嘲るようなヴェロニカの物言いに、ティアナも刺々しく返す。どうやら、知り合いといえども仲良しと言う訳ではないらしい。


「あら、そうですの? でも、そうですわね。あのドンクサイ石頭だらけの村に、大会へ出場するなんて向上心があるとは思えませんものね」

「な、何よ、そんな言い方しなくたっていいでしょ!」

「本当の事を言っているまでですわ。皆して真っ黒な格好をして、まるでアリみたい……」

「く、黒以外の服だってあるわよ! 今私が着ているのだって、元々はあの村のドレスだし……! そんな事言ったら、ヴェロニカだって黄色に黒で、まるでぶんぶんバチみたいな格好じゃない!」

「ぶん……!?」

「ヴェロニカなんて、ぶんぶんでいいわ! このぶんぶんー!」

「へ、変なあだ名を付けないでくださいまし! ティアナだって……えっと……こ、この痩せすぎ! のっぽ! 童顔! 貧乳の敵!」

「あ、ありがとう……?」

「キーッ! スタイル良いと見せかけて、脱いだら腹筋割れてるくせにー!」

「あっ! それは言わないで!!」


 まるで子供のような言葉の応酬に、耕平とイリサは完全に蚊帳の外だ。どうやら、この二人は何だかんだで似た者同士らしい。


「まったく、まだあんな何の価値もない山奥の村に居座る気がしれませんわ……」


 ヴェロニカはこめかみを押さえ、これ見よがしにため息を吐く。

 ふっとティアナの表情から怒りが抜け落ちる。胸の前で握りしめていた拳が、ゆっくりと身体の横に下ろされる。


「……もう、あの村は出たわ」


 静かな声で、ティアナは言った。

 ヴェロニカは目を瞬く。


「村を、出た……?」

「うん。今は、この人達と旅をしてる。この町に寄ったのも、その途中でたまたま……」


 ティアナは、耕平とイリサを視線で示す。

 ティアナの隣に立つ耕平を、ヴェロニカはキッと睨んだ。剣を抜き、耕平へと突きつける。


「あなた、お名前は?」

「え。し、柴田耕平……」

「そう。シバタコーヘイ。あなたに剣の勝負を挑みますわ」

「え……」


 耕平の返答も待たず、ヴェロニカは檀上を振り返る。

 渡すはずの楯を持ったまま戸惑う男性に、ヴェロニカは朗々とした声で言い放った。


「その楯の授与、もう少し待ってくださる? チャンピオンへの、飛び入りの挑戦者ですわ」

「え……ま、待ってよ、俺はそんな事……」

「そうよ、卑怯だわ! 剣術でヴェロニカに勝てるはずないじゃない!」


 ム、と耕平はティアナを横目で見る。

 確かに耕平に、剣の腕はない。運動神経は決して良いとは言えない。でも、だからってそんな言い方はないんじゃないか?


「あら。ティアナのお連れ様は、そんな軟弱な男なんですの? 勇者のようなお姿は、見た目だけですのね」

「コーヘイは――」

「ティアナ」


 耕平は片手を挙げ、ティアナを制する。

 そして、ヴェロニカを正面から見据えた。


「いいよ、やろう。それで、君の気が済むなら」

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