Episode 2.適正試験
午前9時──体育館には、大勢の生徒が集まっていた。これから入学式を行う為だ。
その入学式を行う体育館の壇上には、髭を生やした痩せ細ったお爺さんがマイクに向かって喋っている。
「入学生諸君、私が本学園の理事長兼学園長の江戸川 総一である。これから、本学園の入学式を始める・・・と言っても、本学園で行う入学式は、普通の学校で行う入学式とは違い、諸君の探偵としての知識を試す、言わば試験の様な物である。
さて、今私が立っている後ろに、一枚の大きなモニターがある・・・。これには、これから出題される問題が写る様になっている」
園長がそう言うと、そのモニターに一枚の写真が映し出された。
それは、ある部屋で男性が首を吊っており、現場は酷く荒らされている物であった。
「見ての通り、これは男が首を吊って亡くなっている現場を写した写真だ。この写真に、おかしな点が一つだけある。そのおかしな点を、諸君に見付けて答えて頂きたい。制限時間は10分。その間、周囲の方達と相談しても構わない。では、10分後に解答を聞く」
園長が言い終わると、奈々子は円らな瞳の少女に小声で囁いた。
「私は暫く考えるから入れ替わるぞ」
そう言うと、奈々子の体は数センチ縮み、つり目は円らな瞳へと変わった。
「って、勝手に変わらないでよ!」
円らな瞳の少女、奈々子が叫ぶと、周囲の人々が自分に注目した。
「皆が見てるぞ」
つり目の奈々子は、そう言って姿を消した。
「えっ!?」
円らな瞳の奈々子は、辺りを見回した。皆、自分を見つめている。
(何やってんだろ、私ったら・・・)
と、その時、一人の少年が奈々子に声を掛けて来た。
「君、あの爺さんの言う<おかしな点>って解った?」
その言葉に、奈々子は驚いた。
「あ、ゴメン、推理してたの?脅かすつもりは無かったんだ。ホントにゴメン」
この男、名を工藤 健一。後に、奈々子のパートナーとなる男である。
「いや、こっちこそ驚いてごめんなさい。おかしな点、まだ解らないわ」
それはそうだ。考えるのはつり目の奈々子であって、今の奈々子では無いのだから。
「そうか、じゃあ、俺と一緒に考えようよ」
「うーん・・・解った」
とは言うものの、あまり乗り気では無い。
「所で、俺は工藤 健一。君の名前は?」
「櫻井 奈々子です」
「奈々子ちゃんか、可愛い名前だね」
その言葉に、奈々子は顔を赤くした。
「どしたの?」
「いえ、名前誉められたの、初めてだったから・・・」
「そっか。それはそうと、おかしな点考えようよ」
「そだね」
そう言うと、奈々子の身長が突然伸び、円らな瞳はつり目に変わった。しかし、健一はその変貌振りに全く気付いていない。
「あっ、急に交代しないでよ!」
円らな瞳の奈々子はそう言うが、つり目の奈々子は無視した。
「工藤君、あの写真よく観て」
「えっ?」
健一は、壇上のモニターを観た。
「遺体の周りを見て何か気付くか?」
「いや、何も・・・」
「もっと注意深く見ろよ。あそこにはある筈の物が無えんだ」
「ある筈の物?」
健一は目を凝らし、注意深く写真を見つめた。
「あっ、椅子が無い!」
「そう、あの現場には台に使った椅子が無い。そして部屋の荒れ様・・・これはどう考えても自殺は有り得ない。つまり、他殺って事だよ、ワトソン君」
「へぇ〜」
この時、奈々子は思った。
(こいつ、ホントに探偵目指す気あるのか?)
「10分経った。今からモニターに3択の答えを表示する」
園長が言うと、モニターに番号が現れた。左から1、2、3の順番だ。
「1番、自殺。2番、他殺。3番、事故。この中から、自分がこれだと思う物を選び、後ろで番号の旗を持っている先生の前に立って頂きたい。失格者にはその場で帰宅して貰う」
「適正試験・・・って訳か」
奈々子は呟いた。
「工藤君、2番の旗の前に並ぶぜ!」
奈々子はそう言うと、健一と共に2番の旗の前に並んだ。他にも、数十人程がそこに並ぶ。そして、正解発表の時が来た。
「正解は・・・2番の他殺だ。他の旗の前に並んだ者は退場!」
すると、残念だったとか、やっぱそっちかとか、呟きながら2番以外は退場して行った。
「諸君、前を向いて頂きたい」
奈々子と健一は、壇上の方を向いた。そこには、四人の男女がいた。
左から手首に包帯を巻いた女性、足を骨折した男、頭に包帯をした男、杖を着いた老婆の順に並んでいる。
「最後の試験だ。この中に、先刻見せた写真の被害者を殺害した犯人がおる。これからその犯人を考え、犯人の後をつけて頂きたい。検討を祈る」
園長はそう言うと、壇上を降りて行った。
「さて工藤君、犯人は一体誰でしょう?」
奈々子はそう言って、不適に微笑んだ。
「うーん、老婆はじゃ無理だし、足を骨折してるのも無理。だとすると残るは、手首に包帯巻いた女性と頭に包帯巻いた男性だよなぁ・・・」
健一は暫く考えると、頭に包帯を巻いた男を選んだ。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、手首に包帯巻いてるって事は、捻挫をしている訳だ。そんな手で、男の首を絞めて吊るなんて難しいだろ」
「そう思うか?」
「えっ?」
「あんたの推理は甘いぜ。良いか、あの女性が何時怪我をしたのかを考えるんだ」
「何時って・・・まさか!?」
「そう、あの女性は男を吊る以前から怪我をしていたのでは無く、男を吊り上げた時に怪我をしたんだ。それともう一つ、頭に包帯を巻いた男だったら、逆に殺されて終わりだ。見て判る通り、あの現場は荒れている。どう見ても、争った形跡のあった証拠だ。それに、現場にはビール瓶が落ちている。あんな物で頭を殴られたら、頭を負傷しているんだ、即死するに決まっている。だから、犯人は手首に包帯を巻いたあの女性だ」
「成る程、そう言う事か」
「そう言う事だ、奴を追うぞ!」
健一は頷いた。そして、二人でその女性の後を追った。