「雨女は縁起が悪い」と婚約破棄されましたので、日照りの辺境へ水をやりに行きます ~殿下の国では、今日も雨が降りません~
「雨女は縁起が悪い。式の日に降られては困る」
王宮の噴水前。前夕の雨が残る椅子に座ったヴェーゼの王太子が、濡れた裾を指先でつまみ、顔をしかめる。式の日取りを相談する朝の卓で、侍従の隣にいる司祭は、晴天を吉と告げたばかり。水やりに出た私は、まだじょうろを傾けてもいない。
「婚約は破棄だ」
「はい。では、雨が要るところへ水をやりに行きます」
「縁起が悪い!」
私はじょうろを地面に置く。取っ手の冷たさだけが、離した指にしばらく残る。
「縁起で畑は育ちません!」
「式が濡れる!」
「では、乾いた方と挙げてください」
殿下は返事をするより先に、乾いた椅子を探して腰を浮かせる。
「雨など、どこにでも勝手に降る!」
「いいえ、雨は水をやった人のところに降りますわ」
辺境行きにも「勝手にしろ」。お許しまで早い。隣国の辺境オルテが三年も日照りだと、この卓で司祭が嘆いていたのを、私は覚えている。
王宮の庭の水番として、五年、水をやってきた。私が水をやった日は、雨が降る。王都では、私は雨女と呼ばれている。
私、ミレアは二十四歳、男爵家の娘。十九歳から五年、じょうろを持つのが仕事だ。雨の戻った庭で評判になり、王家には豊穣の縁起物として迎えられた。縁起で結ばれて、縁起で切られる。私の返事など、どちらにも要らないらしい。じょうろを拾う手は、思ったより震えていない。持ち慣れた重さが、指に収まる。
雨が細っていた、水番一年目の初日のことだ。苔で滑る石に足を踏ん張ると、抱えた石の冷たさが服を通して胸に伝わり、足元では泥がずるりと動く。
庭の最奥で倒れ、苔むしていた女神像を、泥まみれの腕で抱え起こした。綺麗に拭くと、像の唇が動く。
「綺麗にしてくれて、ありがとう。あなたに、雨を降らせる力をあげましょう」
それきり、像は石の顔に戻った。拭いたばかりの頬には、もう何の動きもない。誰にも言わずに五年。雨は、私がじょうろを傾けた場所に降る。
破棄の朝に王都を発ち、午後には隣国の辺境に着く。乾いた道には細かな土埃が浮き、両側の麦は腰を折って並んでいる。葉のこすれる音まで、かさかさと軽い。畑を見回る辺境伯ネストルは三十二歳。日焼けした顔を、まず私ではなく、手元のじょうろへ向ける。
「使い込んでいるな」
「はい! 持ち手も底も、私の手にぴったりです。辺境伯様、底の傷も見てください。これだけ使っても、まだ水が漏れないんです!」
持ち手を握り直し、横からも見せる。そこを見てくれるなら、こちらも見てもらわなくては。
「ほら、傾けるときも持ち直さずに済むんです! 重くても、ここを握れば端まで水の落ち方が変わりません!」
「……持ち手は、よく分かった。いや、底の話だったか」
「底はこちらです! 傷は三つ、漏れはありません」
相槌が一つ前の話題で止まっている。まだ底の話があるのに、辺境伯様の頷きが追いつかない。私の口だけ、どうも調子がいい。
畑の端から、畑番の老婆が溜め池を指す。日に焼けた指の先に、水面が鈍く光っている。
「溜め池は山の湧き水で保ってる。半分汲んで、この麦からやりな」
「はい。端まで、この子で済ませます」
「この子、ときたか。じょうろに名でも付けてるのかい?」
「付けてません! 名は要りません、手が覚えていますから」
老婆は鼻を鳴らし、畝の向こうへ戻る。指された一畑目へ、じょうろの口を低くして水をやる。空になれば汲み足して、また麦の間を歩く。白い土に落ちた水は、乾いた音を立てて吸い込まれていく。畝の端が近づく頃には、腕より先に肩が重い。
辺境は三年、日照りだ。一日目、オルテへ着いた私が畑にじょうろを傾けたら、夕方に雨が降る。
「あら、降りましたね。ふふ」
乾いていた土の匂いが、雨粒にはじかれて立ち上がる。見届ける二人の袖にも、濃い染みが広がっていく。辺境伯様は空ではなく、濡れて色を変える畝を見ている。
「……三年ぶりだ」
「三年ぶりの匂いですね。明日は、隣の麦にもたっぷりやります!」
「それでいい。明日も来る」
雨は畑の縁でぴたりと止み、隣の畑は乾いたままだ。私は端まで水をやってから、ようやく空を見上げる。頬に当たる雨粒が、火照った肌に冷たい。担当の端を済ませると、館経由で侍従の手紙が届く。午前の応酬まで書いてある。朝の王都の空は、こちらの夕立をまだ知らない。
「殿下、王都は今日も晴れです」
「見ろ。あれがいなくても晴れだ」
「昨日までは、水やりのあとに雨が」
「偶然だ」
晴れを知らせ続けろとの命令まで添えてある。私は濡れた畑で便りを畳む。湿った紙は指に沿って柔らかく折れ、ほとんど音を立てない。
老婆は六十八歳のトゥーラさん。雨粒の付いた指で、次の麦を示す。
「あと三日」
「明日も、ここからですか?」
畑の端に置いたじょうろを持ち上げる。空になっても、肩はまだその重さを覚えている。
「隣からだよ。明日の空はどうだい?」
「夕方、降ります。それでは」
◇
二日目の朝、隣の二畑目の端には、土の付いたじょうろ。昨日の泥が底に残り、乾いたところから薄く剥がれている。夜のうちに、雨の返書を王都へ出してある。
「夕方、降ります。おはようございます」
「挨拶は後なのか?」
「天気が先です。畑の人は、そちらを先に聞きたがるので」
「……俺もだ」
辺境伯様は見回りの帰りだ。帰りのはずなのに、畝の向こうから動かない。私は水を汲み、麦の端から歩いていく。じょうろの水が減るたび、土の濡れた色が長く伸びる。夕方、隣の畑にも雨が来る。
「もう降っている」
「癖です」
彼は空を仰ぎ、私はじょうろの口を下げる。麦の葉を打つ雨音に、手元の水音が混じる。
「濡れるぞ。今日はもう帰ってはどうだ?」
「まだ端まで残っているんです! 今日の麦を残して帰ったら、明日もここが気になります」
「気になるのは、貴女の袖だ」
「袖は乾きます。麦は待ちません!」
言い切って、じょうろを傾け直す。袖口が手首に貼りつく。たしかに冷たいけれど、それを言うと帰されそうだ。
「……麦が羨ましいな」
「辺境伯様も、畝に立てば待ちませんよ」
まだ湿りきらない土を指すと、彼の目が私の手へ戻る。じょうろではなく、取っ手を握る指のあたりに。
「待っていてもいいか? 貴女が済ませるまで、ここで待とう」
「……はい。終わるところまで、見ていてください」
最後の土に水をやり、顔を上げても、彼はそこにいる。雨に濡れた肩を拭きもせず、畝の向こうに立っている。終わりました、と言える相手がいるだけで、空のじょうろの軽さまで違う。トゥーラさんはさらに隣を指す。
「あと三日」
「昨日も、そう仰いましたよ?」
「隣も頼まれたからね」
「ふふ、では、じょうろを満たしてきます」
溜め池へ向かう私の背に、しゃがれた声が飛んでくる。
「あんた、雨の中で笑うのかい?」
「雨の中が、いちばん笑えるんです!」
昨夜送った雨の返書は、朝に王都へ着いたという。夕方の返便に並ぶのは、侍従と殿下の応酬だ。
「殿下、王都は今日も晴れです」
「晴れは俺に味方している」
「辺境から、雨の知らせが」
「偶然だ」
鼻で笑われた、と結んである。その下、手紙の端に押し込むように、侍従の小さな字が続く。
「殿下、返書には泥の靴のことも」
「読むな!」
こちらの泥の靴まで、殿下に見せたい。磨いた床にはとても上がれないけれど、明日もこれで畑を歩ける。
◇
十四日目、麦の畑の端へじょうろを置く。底が土に触れる、くぐもった音がする。
あれからも、水をやる毎日だ。今日は、三日目に水をやったきりの三畑目へ、麦を見に行く。
曲がりのひどい古い麦に水をやり、しばらく置きな、と言われて十日余り。その間は、低い若い麦の一畑目と二畑目を交代で手入れする毎日で、ここの様子は誰にも聞いていない。だから午後、畝の間へ入る足が自然と速くなる。前に見た麦の姿を思い出すたび、早く、この目で確かめたくなる。
「傾けすぎだよ。麦にも、あんたにも、かかる」
「あっ、袖まで濡れました!」
慌ててじょうろの口を起こす。麦を見て笑う辺境伯様は、私と目が合うと口を結び、麦へ戻すとまた笑う。隠すなら、もう少しうまくしてほしい。こちらまで口元が緩んでしまう。
「立ったな」
「はい! 曲がっていた麦が、こんなに!」
しゃがんで並ぶと、穂が顔の上で揺れる。葉の青い匂いが濃く、頬のすぐそばを細い影が行き来する。王都では、降った雨だけが褒められて、じょうろを持つ手は誰にも見られなかった。ここでは、麦の変わった姿を、隣の人と同じ高さから見ている。
「嬉しそうだ」
「……水をやる私も、見てほしかったんです」
口にしてから、取っ手を握り直す。そんなことを言うつもりではなかったのに、もう引っ込められない。彼が私へ向き直る。麦のほうを見ていれば済んだ顔を、私もそっと上げる。
「見ている。今も」
「そんなに見られたら、手が止まります! でも……目を逸らしてとは言ってません!」
「では、逸らさない」
「……仕事が、増えました」
トゥーラさんの指す手が、ゆっくり下がる。その先で、起き上がった麦が揺れている。
「……ああ、立ったね」
「トゥーラさんも、今日は先に笑いましたね」
「笑ってないよ! 目に穂が入っただけさ」
頬が緩んだまま、夕方の雨を迎える。端まで済ませると、その指がまた遠くへ伸びる。
「あと三日」
「ここも、また見に来ます」
「評判を聞いて、向こうの麦も頼まれたよ」
「トゥーラさん、それ、本当に三日で終わりますか?」
「終わらせるのはあんただよ」
辺境伯様が、私の手元のじょうろへ手を伸ばす。
「俺も数に入れてくれ」
「伯様は、向こうの畑からだよ。今日は麦を見てな」
十四日目、王都の噴水が止まったそうだ。侍従の手紙には、続きがある。
噴水の溜め池は二週間もったが、今朝は底が見えたという。庭の植木も枯れ始める一方、井戸の水で暮らしは普段どおり。雨がないのは、王都とその周辺だけらしい。
「殿下、王都は今日も晴れです」
「噴水まで休む日か?」
「止まっております」
「偶然だ」
殿下は空の噴水を覗き込む。底に残った一杯ほどの水に、殿下の顔だけが映る。
「殿下、井戸の水は足りております」
「井戸の話はしていない!」
手紙の中の殿下は、返事のない噴水をまだ覗き込んでいる。私は畝の間で、その手紙を夕方の光に透かす。薄く明るんだ紙の向こうで、濡れた穂が揺れる。
◇
十七日目の朝、四畑目の端にじょうろが二つ並ぶ。見慣れた私のじょうろの隣に、もう片方の丸い影が落ちている。
「夕方、降ります。おはようございます」
「今日は、俺にも持たせてくれ」
「持ち手はここです。半分でも重いですよ?」
「貴女は毎日、これを……」
「毎日です。だから、半分なんです」
再訪のあとは昨日まで若い麦を交代で手入れし、今日は頼まれた畑へ。畝を挟んで、二人きりで歩く。水を含んだ土の色が、私の側と彼の側で少しずつ伸びていく。
「……女神様のことは、誰にも話していません」
「聞こう」
「王宮の庭の奥で、倒れていた女神様を起こしました。綺麗に拭いたら、雨を降らせる力をくださって。それだけです。だから王都では雨女で、殿下には縁起でした」
じょうろの口が、少し揺れる。水の筋を畝へ戻しながら、次の言葉を待つ。ここでも、雨さえあればいいと言われたら。指が取っ手に食い込み、うまく力を抜けない。
「雨の前から、貴女の手を見ていた」
「……手、ですか?」
「雨は空の仕事だ。手は、貴女の仕事だ」
隣のじょうろは、同じ速さで進む。土へ落ちる水音が重なって、どちらの音か分からなくなる。私が返す言葉を探している間も、彼の手は止まらない。
「雨が止んでも、畑にいらっしゃいますか?」
「来る。貴女の隣へ」
私の空けた場所へ、彼の靴が並ぶ。すぐ隣の土が、その重さで沈む。取っ手を握り締めていた指が、ようやく少し緩む。
「……嬉しいです。では、こちらをお願いします!」
「分かった。俺も、嬉しい」
顔を向けて笑うと、彼も口元を緩める。今度は、目が合ってもそのままだ。夕方の雨の中、トゥーラさんは彼にも次の畑を指す。
「あと三日」
「量はこれでいいか?」
「半分だよ。雨が降っても、端までしな。ひひ、伯様まで泥の足だ」
端を終える頃、司祭と八歳のルーネ様が着く。元の婚約の頃から私を姉上と呼ぶ、殿下の弟だ。小さなじょうろを胸に抱え、やんだ空へぐいと突き出す。
「見てて、ぼくも降らせる!」
「そこはもう濡れています。こちらへどうぞ」
「……減らない!」
「傾けなきゃ減るもんか」
トゥーラさんが、じょうろの口を土へ向けさせる。ルーネ様は空を見て、底を覗いて、また空。じょうろと空を見比べるたびに、顔まで忙しく動く。
「おばあちゃん、これで合ってる?」
「合ってるよ。あとは歩きな」
小さな靴が畝に沈み、縁まで泥に包まれる。そこで用件を思い出し、ルーネ様がぴんと胸を張る。
「雨だけ持って帰れって、兄上が」
「では、一緒に水をやりましょう!」
「ぼくの分も雨、降る?」
「私が隣で水をやれば、降ります」
ルーネ様がじょうろを抱き締める。その縁から覗く頬が持ち上がり、声が跳ねる。
「ぼくが、姉上といたかったんだよ」
私は屈み、目を合わせて大きく頷く。用件より先に、じょうろの持ち方を教える。小さな手でも握りやすいところを、指で示しながら。司祭が運んだ侍従の手紙を開くと、十五日目には自慢の薔薇が枯れ、十六日目の閲兵では殿下が砂埃で口を開けられない。今朝は広場の雨乞いに殿下も出たのに、空は青いままだという。
「殿下、王都は今日も晴れです」
「偶然だ」
袖の砂を払っての返事だそうだ。手紙は、そのまま出発前の応酬へ続く。
「雨乞いだ」
「殿下、司祭が辺境へ……」
「なぜだ!」
「雨が降るからです」
雨を持ち帰れ、二十一日目の夕に国境の自国側でルーネと雨を受け取る、との命令つきだ。司祭は濡れた畑を見渡し、顔をほころばせる。
「いやあ、雨のある所で祈りたいものでして」
「どうぞ、こちらへ。祈る前に、じょうろをお持ちください」
「祈りより先に、ですか?」
「祈るより、水のほうが早いので」
◇
畑の端のじょうろを取る。三週目の二十一日目、午後から国境近くの五畑目だ。
汲んだ水を麦へやり、夕方の雨を見届けて担当の端へ進む。雨は畑一つ分だけ、静かに降って止む。葉先に残る雫が光る中、トゥーラさんが明日からの畑を指す。
「あと三日」
「頼む。俺の分も、残してくれ」
「伯様は、仕事が増えると笑うのかい?」
「増えた分、隣に居られる」
「ひひ、口まで達者になったもんだ」
仕事が増えるほど、辺境伯様は笑顔になる。畑の土は雨を含んで黒く、歩くたび靴の裏に吸いつく。トゥーラさんは家へ戻り、ルーネ様もそこで帰り支度。司祭が手伝い、畑には二人だけが残る。
彼が濡れた畑の真ん中で足を止め、私もそこへ並ぶ。歩く音が途切れると、葉先から落ちる雫の音が、やけにはっきり耳に届く。
「この土地の雨は、貴女だ」
「雨が、ですか?」
彼はじょうろを置き、私へ向く。麦を見ていたときと同じ、まっすぐな目で。
「貴女がだ」
「……私を、選んでくださるんですか?」
彼は答えを急がず、私が目を上げるのを待っている。その静かな間に、自分の問いが胸へ戻ってくる。雨の行き先なら迷わないのに、自分の行き先を口にするのは、こんなに難しい。
「俺と結婚してほしい。これからも、貴女の隣で水をやりたい」
私もじょうろを置く。取っ手から指を離し、空を見ずに彼へ向き直る。今日の天気を、初めて言い忘れている。代わりに伝えたいことは、もう決まっている。
「はい。ネストル様と、一緒に暮らしたいです」
「……嬉しい。返事を待つのは、畑を歩くより難しいな」
「私も嬉しいです! 明日のことも、その先も、私からお話しします。雨の話だけでは済みませんよ」
私の空いた手を、彼がそっと取る。濡れた手と、乾いた手。重なったところから、じわりと温もりが伝わってくる。握られた指をどう返せばいいか、じょうろほどにはまだ分からない。
「聞こう。貴女の話なら、畑を終えてからも」
「では今夜から。まず、明日の天気からです」
「……やはり、天気が先なのか?」
「癖なので!」
彼が、握った手に少し力を込める。その温かさに、私はようやく指を預ける。
「その癖ごと、貰う」
「……はい。降っても、降らなくても」
帰りには、彼が私のじょうろも持つ。空いた手が、歩くたびに軽く揺れる。ルーネ様を迎え、司祭も加わって国境へ歩く。司祭は見送りのあと、畑に残るという。
殿下は国境の向こう、ヴェーゼ側で、侍従を従え、傘を開いて待っている。空には雲がない。張った傘の縁を、夕方の光だけが明るく照らす。
「殿下、王都は今日も晴れです」
殿下は傘を閉じかけ、空を見て手を止める。
「偶然だ」
「殿下、傘は……」
「持たせておけ!」
傘の陰から殿下が言い張る。その横で、侍従が文を差し出す。
王都から、正式の「水番の招聘状」が私に届く。
「戻ってこい、雨だけでいい」
「雨は、水をやった人のところに降ります」
「なら、水をやりに戻れ!」
「水は、こちらの畑に要ります」
殿下の傘が、風もないのに傾く。
「王都の薔薇が枯れるぞ!」
「井戸の水を、殿下がおやりください」
殿下は傘の柄を握り直す。ルーネ様が、その下から兄を見上げる。
「兄上は、雨より姉上が要るんだと思う」
私は屈んで、その頭をそっと撫でる。ルーネ様は兄の傘の下へ、自分で一歩踏み出す。手のひらに髪の柔らかさが残る。私は屈んだまま、いつもの天気を伝える調子で笑い、その背へ声をかける。
「殿下の国では、今日も雨が降りません」




