幽閉された王子
「国とは、人と金の集まりである」
そう言い聞かせてくれたのは我が父、第六代クルヌニアス帝国皇帝、レディエイ・クルヌニアス帝であった。
「故に、民を愛せと私は其方に教えた。次期皇帝候補であるお前達に対して」
そうだ。貴方が教えてくれたのだ。
この狂おしい愛を。
我が魂を焦がす熱を。
「お前は、愛した。平民も、貴族も、王族も、果ては奴隷に至るまで」
当然だ。私は次期皇帝なのだから。私にとって民は宝。愛すべき愛し子。
「だから、お前を拘束する事にした」
何故だ。
何故なんだ父上よ。王よ。我が愛しき皇帝よ。
「お前の愛は毒なのだ。お前の愛は重しなのだ。お前の愛は、全てを飲み込む呪いなのだ」
「だから、済まない。私たちはお前を幽閉する」
あぁ、父上よ。そんなに悲しい顔をするな。
愛しい貴方にそんな顔をされては、全て許してしまう。
あぁ、悲しい。
だが、私は身を引くべきなのか。
我が愛が本当に呪いならば。私は死んで償わねばならぬ。
だが、我が愛には意味があるのでは無いか。この体に抑えきれぬほどの情熱を、神が与えた意味があるはずだ。
ずっとそう思えてならない。
だから、私は私の愛を止めるつもりも、制御するつもりもない。
幽閉されようと、我が愛は曇らず、燃え続けるだろう。
「…………残念だ。ネルヴァよ。お前の愛がもう少し小さければ、お前は偉大な皇帝になっていただろう…………連れて行け」
こうして、私ことネルヴァ・クルヌニアスは王宮の外れにある塔に幽閉された。
だが、後悔はない。反省もない。私は、愛に生きると決めていたのだから。
□ □ □
「くくく、ようやく産まれたか。ヤロ村のアンナとギリの子供が……ほう、ギリアと名付けられたのか。母親似の女の子なら、将来的にも美女に育つだろう……ほう、城下のノルンは魔法使い見習いとして学校に通えることとなったか…………努力が実ってよかったなぁ。ほうっ、こっちは冒険者になったイアンが…………」
三年後、私は国民の情報を可能な限り集め、毎日それを楽しみに生きていた。
ただ……
「おかしい。今回もなかった」
帝国の最西端。そしてその周辺地域からの報告がここ三ヶ月無かった。
勿論、広大な帝国の中で、私がかつて敷いた情報網は万全とは言えない。
だが、三ヶ月だ。各領地からは定期的にある情報が私に流れる様に細工してある。
別に大した情報ではない。それぞれの土地の天気の情報だ。
情報には重さがある。
重要な情報はひとの口を渡りにくく、どうでもいい情報は人から人へと渡り続ける。
だから、軽い情報だけなら、一ヶ月以内に私の元に必ず届く。
それが無いのなら、考えられる可能性は一つ。
「なぁメトローナお前が情報を止めているな」
「…………なぜ」
私は幽閉されていても、王族としてある程度の自由が許されている。
当然、食事を運ぶものがいれば、こうして私の望む情報を持ってくる物がいる。
メトローナは私に使えるメイドであり、幽閉後もこうして定期的に情報を渡してくれている。
「私に、嘘をついたな」
私を欺こうとした。私の国民であるメトローナが。つまり……
「浮気か」
「うわっ、きもっ……失礼。口が滑りました」
「よい……その正直なところはお前の美徳だ。そう言うところも愛おしい」
「…………」
「だからこそ解せん。なぜ、そんなお前が私を騙そうとする」
「…………申し上げられません」
「そうか。父上の命令か」
「!」
「お前の忠誠はよく知っている。王家のためならその心根ですら曲げるとは、天晴れだ。愛おしい」
「ともかく、私から申し上げることは何もありません」
「なぁ、最西端で何かあったか?」
「なにも」
「そうか、行っていいぞ。帰る時は足元に気を付けよ」
「…………はい」
メトローナが立ち去る足音がする。
そうか、最西端で何かあったのか。
メトローナは不器用な女だ。そこがイイ。
もし、私の言うことが的外れであったのなら、どう言うことか考える時間があったはずだ。
だが、彼女は即答した。おそらく父上がそう返事をしろと命令したのだ。
「仕方ない。出よう」
なにが起こっているのか分からない。だが、なにかが起こっているのは間違いない。
「あぁ愛しき国民よ。待っててくれ、我がすぐに会いに行こうぞ!」
こうして『狂愛王子』ネルヴァ・クルヌニアスの物語は始まった。
その目の闇は、国民を脅かすあらゆる存在を飲み込むこととなる。




